2024
■Who is the most powerful?
++++
「ちょっと誰か助けてーッ」
「奈々先輩、どうしたんですか?」
「ゼミでレジュメの発表終わったからご褒美だーッて購買で冷凍ケーキの瓶を買ったんだけど、蓋が開かないんだよ。誰か開けてくれない? ツッツ、ちょっとやってみて」
「わかりました。はい、どうぞ」
「すごいねーッ! うちがどんだけやっても開かなかったのにッ!」
蓋を開けた瓶をツッツから受け取ると、奈々先輩はやっとご褒美にありつけるよ~と長いスプーンを袋から取り出しデザートタイム。って言うか購買に冷凍ケーキの瓶なんて売ってたんだな。
「なあなあ」
「またうっしーが良からぬことを考えてるんじゃないのか」
「ちゃうわ、純粋な疑問や」
「じゃあ言ってみて、聞いてやるから」
「MMPで一番力あるんは誰やと思う? 戦い方は握力でも腕相撲でも何でもええわ」
「まあ、順当に行けば殿だと思うけど。本命殿、対抗奏多先輩」
「体の大きさは影響しそうだね」
「――と思うやろ? 今ツッツが瓶の蓋開けたん見て思ったんやけど、ツッツも地味に隠れパワータイプやん? 見てみいよ、こんな家具作るくらいや」
「確かにそうかも」
「ええ……部材1つ1つはそうでもないよ……」
「それに、普段発声練習前のストレッチで涼しい顔して殿を持ち上げるお前だって十分隠れパワータイプやん」
「……確かに、それを思うとジュンも力は強そうだね」
「1回MMP杯争奪腕相撲大会なんかやったらおもろそうやないか?」
「え……痛そう……」
「だよな。腕は痛めたくないんだけど」
うっしーは急に何を言い出したのかと思うけど、奈々先輩はいいねいいねと楽しそうにしている。話によれば、奈々先輩が1年生の頃なんかはそういう話のノリからしょうもない、だけど楽しいイベントがよく開催されていたそうだ。
腕相撲大会なんかが開かれれば男所帯のMMPでは大いに盛り上がることだろう。だけど俺とツッツは趣味に使う右腕を痛めたくないなという気持ちが思わず出てしまう。……とは思っていても実際やると熱くなってしまうんだろうなあ。だから乗らないようにしないと。
「って言うかお花屋さんて結構力もいるみたいだし、うちは大穴にパロを推そうかなッ」
「ああー……でも確かにパロは足腰も結構強靱なんですよね」
「そう言えば……こないだ、山の斜面をキノコ探して駆け上ってたね……」
「どうするうっしー、最悪ジャックとの一騎打ちになるぞ」
「最弱決定戦みたいな言い方すんなや!」
「でも、現状うっしーとジャックが強そうな要素が見当たらない。ジャックは細身だし」
「確かにお前よかガリガリよな」
「……正直、春風先輩の方が強い、すらあるかも……」
「ああ、それはわかる」
「格闘技経験者と並べんなや! か弱いお喋り袋やぞ! そんなん腕折れるわ!」
「自分が弱い部類だとは思ってたんだな」
「そもそもパロ以外にはガタイでも勝てんからな。ジャックはワンチャンあるかもしれんけど。ほら、柔道かボクシングか知らんけど、体重で階級決まる競技とかで、2階級違えば小さい方はもう勝てんみたいに言うやろ? そーゆーアレよ」
「階級な。確かに、パロやツッツに強そうな要素があっても殿には捻られそうだ」
「ジュンや、奏多先輩が俺の戦えるギリギリのラインかもね……」
最重量級の殿とまともに戦えるのは俺か奏多先輩くらいだろうと結論づけられたけど、俺は体重で言えば十分階級が違うんだよなあ。身長が高いだけで。でも発声練習のストレッチで殿を背中で持ち上げて支えているのは本当だし、日常だから慣れっこではある。力と言うか、体幹は鍛えられていそうだ。
「ツッツ、松兄が来たらちょっと1回戦ってみてよッ」
「えっ…!? ほ、本当にやるんですか…!?」
「1回だけッ、お願いッ」
――とか言ってたら本当に都合良く奏多先輩が来るんだもんなあ。
「来た兄貴!」
「お? 何だ何だ」
「兄貴、ツッツが兄貴にケンカ売ってますよ、捻ったってください!」
「何だツッツ、やろうってか?」
「あ、いや……、その……」
「奈々さん、どういう話で?」
「MMPで腕相撲大会をやったら面白そうだねって話だねッ」
「でも、体の大きさの問題で、ツッツが戦えるギリギリのラインが俺と奏多先輩くらいかな、という話でした」
「ああ、なるほど。確かにツッツが殿と真正面からやるには不利だわな。まあ、どうしてもっつーならやってもいいけど、俺左利きだから大半のヤツとはまともに組めねーぜ? その辺どーすんだよ」
「ああー、利き腕問題…!」
その辺り、腕相撲大会などではどうなのかを簡単に調べてみると、実際のアームレスリング大会では右腕部門と左腕部門で種目が分かれているらしい。そして、極端に体格の違う相手と対戦をすることもないとも書かれていたのでちゃんとしたスポーツなんだなと思った。
「お前ら、兄貴を誰やと思とるんや、兄貴やぞ! 右腕やろうと左腕やろうとお前らくらいちょんちょんちょーんっつって捻ったるわ!」
「おいおい、勝手なこと言うなうっしー」
「ゆーて兄貴体育会系やし、バランス良く鍛えてあったりしません?」
「まあ、文化系よかは鍛えてあるとは思うけどよ、ツッツは普段からゴムハンマー振り回してんだぜ? 常に500グラムから1キロの負荷を加えてトレーニングしてるようなモンだ。コイツ相手に右で戦うのはまあまあリスキーだぞ」
「ツッツ、奏多先輩がお前を脅威だと思ってるぞ」
「きょ、恐縮です……」
「逆に兄貴、右腕でも楽勝やなって奴はおります?」
「お前とジャック、あといろはじゃねーかな。その辺にはさすがに勝てる」
「ちなみにですけど、左腕やったら殿にも勝てますかね?」
「勝算はあるだろ。いくら殿がデカくても俺の方が有利だろうし」
「つか、俺ってそんな弱そうっすかね?」
「まあ、メンツを見たら相対的には弱そうだろ。小さい方だし。普通に春風の方が強いまである」
「ジュンー! お前はー! ふふん、みたいな顔すんなや!」
「してないしてない」
「わろとるやろー!」
結局、奏多先輩の利き腕問題があるので腕相撲で最強を決めるのはあまり現実味がないねという結論に落ち着き、まあ順当に行けば殿だろという意見も総意としてブレることがなかったので、デカさは正義だなと思いました。ツッツとパロの意外性で盛り上がるためのトークテーマだったな。あと大穴の春風先輩。
end.
++++
ツッツとパロが意外と強そうだよねと喋りたいがための話。
奏多の利き腕問題で腕相撲大会がまともに回らないことは書いていて思い出す。
(phase3)
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「ちょっと誰か助けてーッ」
「奈々先輩、どうしたんですか?」
「ゼミでレジュメの発表終わったからご褒美だーッて購買で冷凍ケーキの瓶を買ったんだけど、蓋が開かないんだよ。誰か開けてくれない? ツッツ、ちょっとやってみて」
「わかりました。はい、どうぞ」
「すごいねーッ! うちがどんだけやっても開かなかったのにッ!」
蓋を開けた瓶をツッツから受け取ると、奈々先輩はやっとご褒美にありつけるよ~と長いスプーンを袋から取り出しデザートタイム。って言うか購買に冷凍ケーキの瓶なんて売ってたんだな。
「なあなあ」
「またうっしーが良からぬことを考えてるんじゃないのか」
「ちゃうわ、純粋な疑問や」
「じゃあ言ってみて、聞いてやるから」
「MMPで一番力あるんは誰やと思う? 戦い方は握力でも腕相撲でも何でもええわ」
「まあ、順当に行けば殿だと思うけど。本命殿、対抗奏多先輩」
「体の大きさは影響しそうだね」
「――と思うやろ? 今ツッツが瓶の蓋開けたん見て思ったんやけど、ツッツも地味に隠れパワータイプやん? 見てみいよ、こんな家具作るくらいや」
「確かにそうかも」
「ええ……部材1つ1つはそうでもないよ……」
「それに、普段発声練習前のストレッチで涼しい顔して殿を持ち上げるお前だって十分隠れパワータイプやん」
「……確かに、それを思うとジュンも力は強そうだね」
「1回MMP杯争奪腕相撲大会なんかやったらおもろそうやないか?」
「え……痛そう……」
「だよな。腕は痛めたくないんだけど」
うっしーは急に何を言い出したのかと思うけど、奈々先輩はいいねいいねと楽しそうにしている。話によれば、奈々先輩が1年生の頃なんかはそういう話のノリからしょうもない、だけど楽しいイベントがよく開催されていたそうだ。
腕相撲大会なんかが開かれれば男所帯のMMPでは大いに盛り上がることだろう。だけど俺とツッツは趣味に使う右腕を痛めたくないなという気持ちが思わず出てしまう。……とは思っていても実際やると熱くなってしまうんだろうなあ。だから乗らないようにしないと。
「って言うかお花屋さんて結構力もいるみたいだし、うちは大穴にパロを推そうかなッ」
「ああー……でも確かにパロは足腰も結構強靱なんですよね」
「そう言えば……こないだ、山の斜面をキノコ探して駆け上ってたね……」
「どうするうっしー、最悪ジャックとの一騎打ちになるぞ」
「最弱決定戦みたいな言い方すんなや!」
「でも、現状うっしーとジャックが強そうな要素が見当たらない。ジャックは細身だし」
「確かにお前よかガリガリよな」
「……正直、春風先輩の方が強い、すらあるかも……」
「ああ、それはわかる」
「格闘技経験者と並べんなや! か弱いお喋り袋やぞ! そんなん腕折れるわ!」
「自分が弱い部類だとは思ってたんだな」
「そもそもパロ以外にはガタイでも勝てんからな。ジャックはワンチャンあるかもしれんけど。ほら、柔道かボクシングか知らんけど、体重で階級決まる競技とかで、2階級違えば小さい方はもう勝てんみたいに言うやろ? そーゆーアレよ」
「階級な。確かに、パロやツッツに強そうな要素があっても殿には捻られそうだ」
「ジュンや、奏多先輩が俺の戦えるギリギリのラインかもね……」
最重量級の殿とまともに戦えるのは俺か奏多先輩くらいだろうと結論づけられたけど、俺は体重で言えば十分階級が違うんだよなあ。身長が高いだけで。でも発声練習のストレッチで殿を背中で持ち上げて支えているのは本当だし、日常だから慣れっこではある。力と言うか、体幹は鍛えられていそうだ。
「ツッツ、松兄が来たらちょっと1回戦ってみてよッ」
「えっ…!? ほ、本当にやるんですか…!?」
「1回だけッ、お願いッ」
――とか言ってたら本当に都合良く奏多先輩が来るんだもんなあ。
「来た兄貴!」
「お? 何だ何だ」
「兄貴、ツッツが兄貴にケンカ売ってますよ、捻ったってください!」
「何だツッツ、やろうってか?」
「あ、いや……、その……」
「奈々さん、どういう話で?」
「MMPで腕相撲大会をやったら面白そうだねって話だねッ」
「でも、体の大きさの問題で、ツッツが戦えるギリギリのラインが俺と奏多先輩くらいかな、という話でした」
「ああ、なるほど。確かにツッツが殿と真正面からやるには不利だわな。まあ、どうしてもっつーならやってもいいけど、俺左利きだから大半のヤツとはまともに組めねーぜ? その辺どーすんだよ」
「ああー、利き腕問題…!」
その辺り、腕相撲大会などではどうなのかを簡単に調べてみると、実際のアームレスリング大会では右腕部門と左腕部門で種目が分かれているらしい。そして、極端に体格の違う相手と対戦をすることもないとも書かれていたのでちゃんとしたスポーツなんだなと思った。
「お前ら、兄貴を誰やと思とるんや、兄貴やぞ! 右腕やろうと左腕やろうとお前らくらいちょんちょんちょーんっつって捻ったるわ!」
「おいおい、勝手なこと言うなうっしー」
「ゆーて兄貴体育会系やし、バランス良く鍛えてあったりしません?」
「まあ、文化系よかは鍛えてあるとは思うけどよ、ツッツは普段からゴムハンマー振り回してんだぜ? 常に500グラムから1キロの負荷を加えてトレーニングしてるようなモンだ。コイツ相手に右で戦うのはまあまあリスキーだぞ」
「ツッツ、奏多先輩がお前を脅威だと思ってるぞ」
「きょ、恐縮です……」
「逆に兄貴、右腕でも楽勝やなって奴はおります?」
「お前とジャック、あといろはじゃねーかな。その辺にはさすがに勝てる」
「ちなみにですけど、左腕やったら殿にも勝てますかね?」
「勝算はあるだろ。いくら殿がデカくても俺の方が有利だろうし」
「つか、俺ってそんな弱そうっすかね?」
「まあ、メンツを見たら相対的には弱そうだろ。小さい方だし。普通に春風の方が強いまである」
「ジュンー! お前はー! ふふん、みたいな顔すんなや!」
「してないしてない」
「わろとるやろー!」
結局、奏多先輩の利き腕問題があるので腕相撲で最強を決めるのはあまり現実味がないねという結論に落ち着き、まあ順当に行けば殿だろという意見も総意としてブレることがなかったので、デカさは正義だなと思いました。ツッツとパロの意外性で盛り上がるためのトークテーマだったな。あと大穴の春風先輩。
end.
++++
ツッツとパロが意外と強そうだよねと喋りたいがための話。
奏多の利き腕問題で腕相撲大会がまともに回らないことは書いていて思い出す。
(phase3)
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