2024
■豊かな食は勝ち得る物
++++
星ヶ丘大学ならではの行事として、オープンファームというのを紹介出来ると思う。オープンファームは農学部が主体でやってる収穫祭みたいなモンで、学術の中で育てた野菜やら肉やらを売ってる祭りだ。食材そのものも売ってるけど、加工品とか食べ歩きも充実してて、去年行った感じでは大学祭とは食のレベルが段違いだった。
今年もオープンファームに行こうとリクに声を掛けてみたら、リクがシノに声をかけたらしい。シノは2年になって一人暮らしを始めたらしく、自炊もするので何かお買い得な物があればいいなあという感じで参戦するようだ。まあ、俺もオープンファームにムードなんかは求めてないし、ダチ集めてわいわいやる方が楽しいだろう。ならサキ君とか雨竜にも声かけりゃよかったなって今になって思う。
「さすが星ヶ丘だな、こんな熱い行事やってるとか! 今からめっちゃ楽しみなんだけど!」
「去年も行ったけど、食材そのものを獲得しようと思ったらマジで戦争だからな。食べ歩きだけならそうでもないけど。シノ、お前走るの得意? 力はどうだ?」
「走るのは、人並み? ササ、どう思う?」
「人並みよりちょっと速いかな? くらい。平均的だと思う。力も平均よりちょっとある? くらいの平均の域じゃないかな」
「だそうです」
「そっか」
「えっ、それが何か関係すんの?」
「米とか畜産とか、人気のあるところで確実に買い物しようと思ったら開門ダッシュは必須だぞ。出遅れは死だ」
「えーっ!? 米欲しいんだけど! だって今米めっちゃ値段上がったじゃんな!」
「――ってみんな考えるから、相当な競争率だろうとは」
「マジかよ!」
それでなくても人気の米だ。今年は米の市場価格が跳ね上がってるので競争率もより高くなることが想定される。俺も米はちょっと狙いたいなって思ってたけど、普通に考えればかなり厳しいだろう。野菜は日野さんの(厳密にはみちるのおこぼれ)があるしそこまで困ってないから。
「彩人、何か攻略法とかねーのか! 星ヶ丘だろー!」
「無いことはない」
「教えてくれ!」
「シノの力と速さがどっちも平均の域なら……」
俺がパン、と叩くのはリクの肩だ。
「完璧超人を走らせるのが一番強い」
戦場では、取れる手段はどんどん取っていかないと生き延びることは出来ない。シノにはこれがあるのだから、使っていけということだ。
「えっと、彩人、それは俺が米を買いに行けってことか?」
「おっ、さすがリク、物分かりがいい。お前が走るのが一番確実だ。ちなみにこれは朝霞さんも採用してた作戦で、朝霞さんはプロも注目してた向島サッカー界の元スーパースターを走らせて、自分は混雑地帯を迂回して野菜を買いに行ってたな」
「さすが朝霞さん、走らせる人のレベルが高いな。と言うか俺はそこまでのアスリートじゃないんだけど」
「でも完璧超人だろ」
「ササ、頼む! 俺の家には米が必要なんだ! っつーかお前も食うだろ! 何割かは自分の食う飯だぞ!」
「確かに。俺が走らなきゃいけない気がしてきた」
リクはシノの家にもちょこちょこ遊びに行っていて、そこで飯もしっかり食わせてもらっている。だからシノの家の食糧事情はリクにも影響する。一人暮らしをしているダチの家に入り浸りたいっつーのは高木さん家に入り浸るエージさんを見て憧れを募らせたらしい。俺(パートナー)の部屋とはまた違うとはきっぱりと言われた。
お前も食ってるんだから走ってくれと、至極尤もな頼み方にコロッと納得したリクは走る気マンマンでアップを始めた。つか知ってるけど脚長っ。このストライドのトップスピードってどんなんなんだ。ちなみにリクは元陸上部だ。トラックじゃなくてフィールドらしいけど、トラックなら短距離よりは長距離派とのこと。
「彩人、米って一度にどれくらい買う物なんだ?」
「朝霞さんは10キロを2つ抱えさせてた」
「わかった。10キロを2つな」
「で、その足で畜産に走らせて肉も確保させてたな確か」
「肉!? 肉もあんのか! あんなら欲しいなー!」
「えっと、ちなみにだけど、シノはどう回るつもりだ?」
「野菜側から回ろうと思ってた。キャベツとか、ニンジンジャガイモタマネギの基本的な野菜はどんだけあってもいい」
「米から畜産って行く方が距離的にも強いんだ。リク、シノが安くいい物を確保出来れば出来ただけ、お前にもバックがある」
「わかった、米行って、畜産に走ります」
「うおーっ! 相棒ーっ!」
「その代わり、今度絶対! おにぎり作ってくれよ」
「作ります。握らせていただきます」
「よし、契約成立だ」
リクによれば、シノのおにぎりはそこらのおにぎり屋の物より段違いで美味いらしい。相棒補正もいくらかかかってるだろうとは思うけど、美味いのは本当なんだそうだ。緑ヶ丘にはお米同好会なるサークルがあるらしいけど、そのお米同好会の子も認めるおにぎりだとか。リクの主観だけじゃなくて箔までついてるならガチなんだろう。
俺はおにぎりを作ることはほとんどないから形作るにしても下手くそだし、手のひらに米くっつけてそれを食いながら丸める程度のモンしか出来ないと思う。リクが撮ったシノのおにぎりの写真を見せてもらったけど、写真なのに米の一粒一粒がちゃんと見えるので、握る技術がまず高いんだろう。俺も俄然興味が湧く。
「シノ、俺もシノのおにぎり食ってみたい」
「はあ? つか彩人、お前人が握ったおにぎりとか食える方なの?」
「食えるけど。あ、ラップとか使ってるなら全然食えるし、直は人によるって感じ? ああ、緑ヶ丘の人ってそういうの確認するの基本か、エージさんいるし」
「そーそー。あの人なー、人が直接握ったおにぎりとかダメな人なんだよ。俺は自分が食うことを前提にしてるから直握りなんだけど、ササは直握りの方がいいって言うんだよ。変なのーと思いながら毎回握ってんだけど。お前が良けりゃ直握りで作るし、ダメならラップでやるし」
「シノなら直で全然平気。バイトも飲食だしちゃんとしてそう。あ、一通り買うもの買ったら加工品の方にも行こうぜ。おにぎりの具になるようなモンも売ってるから」
「いいねー!」
「その前に開門ダッシュだけどな。主にリクが」
「頼むぜ相棒」
「任せてくれ。相棒の豊かな食生活のために走らせていただきます」
end.
++++
MBCC2年男子の運動能力はササが完璧超人、シノが中の上、すがやんが中の中、サキがダメ寄りのつもり。
フェーズ2でやまよを走らせてたPさんをヤバいって言ってたのに、その作戦を提案する彩人、立派にあの人の後輩である。
(phase3)
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星ヶ丘大学ならではの行事として、オープンファームというのを紹介出来ると思う。オープンファームは農学部が主体でやってる収穫祭みたいなモンで、学術の中で育てた野菜やら肉やらを売ってる祭りだ。食材そのものも売ってるけど、加工品とか食べ歩きも充実してて、去年行った感じでは大学祭とは食のレベルが段違いだった。
今年もオープンファームに行こうとリクに声を掛けてみたら、リクがシノに声をかけたらしい。シノは2年になって一人暮らしを始めたらしく、自炊もするので何かお買い得な物があればいいなあという感じで参戦するようだ。まあ、俺もオープンファームにムードなんかは求めてないし、ダチ集めてわいわいやる方が楽しいだろう。ならサキ君とか雨竜にも声かけりゃよかったなって今になって思う。
「さすが星ヶ丘だな、こんな熱い行事やってるとか! 今からめっちゃ楽しみなんだけど!」
「去年も行ったけど、食材そのものを獲得しようと思ったらマジで戦争だからな。食べ歩きだけならそうでもないけど。シノ、お前走るの得意? 力はどうだ?」
「走るのは、人並み? ササ、どう思う?」
「人並みよりちょっと速いかな? くらい。平均的だと思う。力も平均よりちょっとある? くらいの平均の域じゃないかな」
「だそうです」
「そっか」
「えっ、それが何か関係すんの?」
「米とか畜産とか、人気のあるところで確実に買い物しようと思ったら開門ダッシュは必須だぞ。出遅れは死だ」
「えーっ!? 米欲しいんだけど! だって今米めっちゃ値段上がったじゃんな!」
「――ってみんな考えるから、相当な競争率だろうとは」
「マジかよ!」
それでなくても人気の米だ。今年は米の市場価格が跳ね上がってるので競争率もより高くなることが想定される。俺も米はちょっと狙いたいなって思ってたけど、普通に考えればかなり厳しいだろう。野菜は日野さんの(厳密にはみちるのおこぼれ)があるしそこまで困ってないから。
「彩人、何か攻略法とかねーのか! 星ヶ丘だろー!」
「無いことはない」
「教えてくれ!」
「シノの力と速さがどっちも平均の域なら……」
俺がパン、と叩くのはリクの肩だ。
「完璧超人を走らせるのが一番強い」
戦場では、取れる手段はどんどん取っていかないと生き延びることは出来ない。シノにはこれがあるのだから、使っていけということだ。
「えっと、彩人、それは俺が米を買いに行けってことか?」
「おっ、さすがリク、物分かりがいい。お前が走るのが一番確実だ。ちなみにこれは朝霞さんも採用してた作戦で、朝霞さんはプロも注目してた向島サッカー界の元スーパースターを走らせて、自分は混雑地帯を迂回して野菜を買いに行ってたな」
「さすが朝霞さん、走らせる人のレベルが高いな。と言うか俺はそこまでのアスリートじゃないんだけど」
「でも完璧超人だろ」
「ササ、頼む! 俺の家には米が必要なんだ! っつーかお前も食うだろ! 何割かは自分の食う飯だぞ!」
「確かに。俺が走らなきゃいけない気がしてきた」
リクはシノの家にもちょこちょこ遊びに行っていて、そこで飯もしっかり食わせてもらっている。だからシノの家の食糧事情はリクにも影響する。一人暮らしをしているダチの家に入り浸りたいっつーのは高木さん家に入り浸るエージさんを見て憧れを募らせたらしい。俺(パートナー)の部屋とはまた違うとはきっぱりと言われた。
お前も食ってるんだから走ってくれと、至極尤もな頼み方にコロッと納得したリクは走る気マンマンでアップを始めた。つか知ってるけど脚長っ。このストライドのトップスピードってどんなんなんだ。ちなみにリクは元陸上部だ。トラックじゃなくてフィールドらしいけど、トラックなら短距離よりは長距離派とのこと。
「彩人、米って一度にどれくらい買う物なんだ?」
「朝霞さんは10キロを2つ抱えさせてた」
「わかった。10キロを2つな」
「で、その足で畜産に走らせて肉も確保させてたな確か」
「肉!? 肉もあんのか! あんなら欲しいなー!」
「えっと、ちなみにだけど、シノはどう回るつもりだ?」
「野菜側から回ろうと思ってた。キャベツとか、ニンジンジャガイモタマネギの基本的な野菜はどんだけあってもいい」
「米から畜産って行く方が距離的にも強いんだ。リク、シノが安くいい物を確保出来れば出来ただけ、お前にもバックがある」
「わかった、米行って、畜産に走ります」
「うおーっ! 相棒ーっ!」
「その代わり、今度絶対! おにぎり作ってくれよ」
「作ります。握らせていただきます」
「よし、契約成立だ」
リクによれば、シノのおにぎりはそこらのおにぎり屋の物より段違いで美味いらしい。相棒補正もいくらかかかってるだろうとは思うけど、美味いのは本当なんだそうだ。緑ヶ丘にはお米同好会なるサークルがあるらしいけど、そのお米同好会の子も認めるおにぎりだとか。リクの主観だけじゃなくて箔までついてるならガチなんだろう。
俺はおにぎりを作ることはほとんどないから形作るにしても下手くそだし、手のひらに米くっつけてそれを食いながら丸める程度のモンしか出来ないと思う。リクが撮ったシノのおにぎりの写真を見せてもらったけど、写真なのに米の一粒一粒がちゃんと見えるので、握る技術がまず高いんだろう。俺も俄然興味が湧く。
「シノ、俺もシノのおにぎり食ってみたい」
「はあ? つか彩人、お前人が握ったおにぎりとか食える方なの?」
「食えるけど。あ、ラップとか使ってるなら全然食えるし、直は人によるって感じ? ああ、緑ヶ丘の人ってそういうの確認するの基本か、エージさんいるし」
「そーそー。あの人なー、人が直接握ったおにぎりとかダメな人なんだよ。俺は自分が食うことを前提にしてるから直握りなんだけど、ササは直握りの方がいいって言うんだよ。変なのーと思いながら毎回握ってんだけど。お前が良けりゃ直握りで作るし、ダメならラップでやるし」
「シノなら直で全然平気。バイトも飲食だしちゃんとしてそう。あ、一通り買うもの買ったら加工品の方にも行こうぜ。おにぎりの具になるようなモンも売ってるから」
「いいねー!」
「その前に開門ダッシュだけどな。主にリクが」
「頼むぜ相棒」
「任せてくれ。相棒の豊かな食生活のために走らせていただきます」
end.
++++
MBCC2年男子の運動能力はササが完璧超人、シノが中の上、すがやんが中の中、サキがダメ寄りのつもり。
フェーズ2でやまよを走らせてたPさんをヤバいって言ってたのに、その作戦を提案する彩人、立派にあの人の後輩である。
(phase3)
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