2024
■健康という才能
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兄さんから奏多の様子を見て来いと言われて、彼の家へ。この間自分が外で立ち話をしながらお酒を飲むのに付き合わせた後、奏多が風邪をひいてしまったのを気にしたのでしょう。昨日の感じではまだ本調子ではなさそうでしたが、それなりには快方に向かっているようだったし、様子まで見に行かなくても、と思いつつの訪問です。
「奏多、調子はどう?」
「あ? ああ、春風か」
「またそんな暗い部屋で作業をして。目が悪くなるわよ」
「視力ならもう悪い」
「そういうことを言っているんじゃないの。必要以上に疲れたりするでしょう」
毎回ではないけれど、奏多の部屋に行くと結構な割合で部屋の電気は付いておらず、暗い部屋で複数のパソコンを開いて作業をしています。彼は外にも出ますしそれなりに活動的ではありますが、そうでないときは大体部屋に籠もって勉強やプログラミングをしているのです。常に新しい技術や手法を勉強しているのは素直に尊敬出来るところではあります。
「眩しっ」
「私がいるのだから電気はつけさせてもらうわよ」
「つか何しに来たんだよ」
「私の本意ではないけれど、兄さんが奏多の様子を見に行けと。行かなければ煩いから。あなたが風邪をひいてしまったのを気にしてるんでしょう。様子くらい自分で見に行けばいいのに」
「ホントだよな。変なところでビビりなんだよアイツは。まあ、ご覧の通りピンピンしてるんで、真宙君によろしく伝えといてくれ」
「わかった」
兄さんは悪い人ではないのだけれど、時折とても面倒に感じてしまうのは何なのでしょうか。ただ、変なところでビビりという奏多の兄さん評にはある程度納得出来るので、そういう部分なのでしょう。それと根の真面目さが合わさると、端から聞くと呆れ返るような発言が出てしまうのかと思いました。
「つか、俺には才能があんだよ」
「才能?」
「そ。お前は知ってるだろ? 俺が昔から怪我でも病気でも治りが早いっつーのは。前の入院の時もそうだったし。健康っていう才能よ」
「そうかもしれないけれど、あなたも年齢を重ねているのよ。肉体的な衰えがいつガクッと来てもおかしくないのだから、あまり自らを過信して驕らないことね」
「へーへー。でも実際今回の喉だって3日でケロッと治っちまってんだ。飯食ってちゃんと寝りゃどうってこたねーんだ」
「確かに、昔から風邪という風邪をひいているのはあまり見たことがないし、何故か喉や鼻の違和感程度で治まって、1日2日もすれば元通りなのよね。そういう意味では今回は症状も出ているし、とても時間がかかったのだからやっぱり衰えていると言えるわよ。才能ばかりに頼らないことね」
病気をしにくいというのは免疫力と関係があるのでしょうか。怪我の治りについての奏多の持論は、人体の構造について頭に入れた上で自分の体がどうなっているのかを的確に把握すれば、怪我を治すために自分がすべき行動が見える、とのこと(私にはよくわかりません……)。
免疫については、栄養をバランス良く取り、お風呂によく浸かり、睡眠時間をしっかり確保するなど生活習慣にも大きく関わってくることだとは何となくわかっています。ですが、栄養とお風呂はともかく睡眠時間に関しては、天体観測が趣味だと少々厳しいところがあります。星を見ることでストレスを減らすという方向で行きましょう。体は冷やさないように。
「ところで奏多、今は何を書いているの?」
「ああ、インターフェイスのヤツ。例によってサキちーが噛みついて来たんで、捻じ伏せる準備中」
「サキさんはどう噛みついてきたの? また変なことを言ったんじゃないでしょうね」
「ちげーよ。何でもかんでも俺が何かしたって解釈するな。動き方のイメージをとりあえず見せるために仮組みしたモンを出したら、「コードがごちゃごちゃし過ぎ。自分以外の人に優しくない」って言われたんで、うるせー仮組みだっつってんだろっつって、スマートに書き換えてんだ。ったく、イメージを見せるためのモンだっつーの」
「ああ……なるほど。ちなみに、私にも見せてもらっていい?」
「お好きにどーぞ」
「ああ、確かにこれは突貫で作りました感が出てるわね」
「だから動き方のイメージを表面的に見せるためだけのモンで、中身は後からちゃんとする予定だったんだっつの」
「そのイメージをはっきりするのは確かに大事だけれどね」
引き続きインターフェイスの音声ファイル管理システムの開発を担当することになった奏多とサキさんは、ケンカ混じりながらもきちんと作業を進めているようです。奏多は基本的に一人で何でもやってしまう人なので、チームでの作業が成り立つのか正直少し心配していたけど、この分なら大丈夫そうですね。
「ところで、大学祭の時に使っていたシフト管理アプリのことだけど」
「ああ、あれがどうかしたか?」
「あれ、あの1回のためだけにわざわざ作ったの?」
「まあ、後から使う機会があれば使ってもいいし。基本的にはその時の効率を上げるために作るかっつって思い立っただけだな」
「勿体ない。あれだけちゃんとした物だったらきちんと組み直してアプリストアでリリースしたらいいのに」
「バカ言うな。似たようなモンは既にいくらでもあんだよ」
「でも、少なくとも奏多は似たような物で納得出来なかったから一からアプリを作ったのよね」
「バチコン需要にハマるモンなんかそうそうねーからな。探す時間も無駄だし無ければ作る、それが基本だろ」
「そう言えるのがあなたの強みよね」
「大半は既に作ったモンをどう組み合わせりゃいいかってだけの話で、一から作らなきゃいけないパーツなんかそこまで多くないからな」
「なるほど。応用するということね。んーっ、この分野で奏多と話すと本当に学ぶことしかないわね」
「お前、この程度で体バキバキなのかよ。ちょっとは腰据えてコーディングする訓練でもした方がいいんじゃねーのか」
「あら、あなたこそ随分と長い時間作業をしていたようだし、体を動かしに外に出た方がいいわよ」
「病み上がりなんだが?」
「自己申告では、もう治っているのでしょう。表に出なさい。走りに行くわよ」
少し伸びをした程度でそんなことを言われてしまえば腹も立つわよ。心身の健康を保つためには適度な運動だって必要なはずなのだから、走りに行くことだっていいことのはず。走るだけ走ってお腹が空いたら、ご飯を美味しくいただくのです。
「走って今日の俺に何のメリットがあんだよ」
「適度な運動をすることで衰えた自然治癒力が戻るかもしれないわよ」
「衰えてねーっつってんだろ」
end.
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休みの日の春風と奏多。奏多の部屋は機材類多そうなイメージ。
(phase3)
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兄さんから奏多の様子を見て来いと言われて、彼の家へ。この間自分が外で立ち話をしながらお酒を飲むのに付き合わせた後、奏多が風邪をひいてしまったのを気にしたのでしょう。昨日の感じではまだ本調子ではなさそうでしたが、それなりには快方に向かっているようだったし、様子まで見に行かなくても、と思いつつの訪問です。
「奏多、調子はどう?」
「あ? ああ、春風か」
「またそんな暗い部屋で作業をして。目が悪くなるわよ」
「視力ならもう悪い」
「そういうことを言っているんじゃないの。必要以上に疲れたりするでしょう」
毎回ではないけれど、奏多の部屋に行くと結構な割合で部屋の電気は付いておらず、暗い部屋で複数のパソコンを開いて作業をしています。彼は外にも出ますしそれなりに活動的ではありますが、そうでないときは大体部屋に籠もって勉強やプログラミングをしているのです。常に新しい技術や手法を勉強しているのは素直に尊敬出来るところではあります。
「眩しっ」
「私がいるのだから電気はつけさせてもらうわよ」
「つか何しに来たんだよ」
「私の本意ではないけれど、兄さんが奏多の様子を見に行けと。行かなければ煩いから。あなたが風邪をひいてしまったのを気にしてるんでしょう。様子くらい自分で見に行けばいいのに」
「ホントだよな。変なところでビビりなんだよアイツは。まあ、ご覧の通りピンピンしてるんで、真宙君によろしく伝えといてくれ」
「わかった」
兄さんは悪い人ではないのだけれど、時折とても面倒に感じてしまうのは何なのでしょうか。ただ、変なところでビビりという奏多の兄さん評にはある程度納得出来るので、そういう部分なのでしょう。それと根の真面目さが合わさると、端から聞くと呆れ返るような発言が出てしまうのかと思いました。
「つか、俺には才能があんだよ」
「才能?」
「そ。お前は知ってるだろ? 俺が昔から怪我でも病気でも治りが早いっつーのは。前の入院の時もそうだったし。健康っていう才能よ」
「そうかもしれないけれど、あなたも年齢を重ねているのよ。肉体的な衰えがいつガクッと来てもおかしくないのだから、あまり自らを過信して驕らないことね」
「へーへー。でも実際今回の喉だって3日でケロッと治っちまってんだ。飯食ってちゃんと寝りゃどうってこたねーんだ」
「確かに、昔から風邪という風邪をひいているのはあまり見たことがないし、何故か喉や鼻の違和感程度で治まって、1日2日もすれば元通りなのよね。そういう意味では今回は症状も出ているし、とても時間がかかったのだからやっぱり衰えていると言えるわよ。才能ばかりに頼らないことね」
病気をしにくいというのは免疫力と関係があるのでしょうか。怪我の治りについての奏多の持論は、人体の構造について頭に入れた上で自分の体がどうなっているのかを的確に把握すれば、怪我を治すために自分がすべき行動が見える、とのこと(私にはよくわかりません……)。
免疫については、栄養をバランス良く取り、お風呂によく浸かり、睡眠時間をしっかり確保するなど生活習慣にも大きく関わってくることだとは何となくわかっています。ですが、栄養とお風呂はともかく睡眠時間に関しては、天体観測が趣味だと少々厳しいところがあります。星を見ることでストレスを減らすという方向で行きましょう。体は冷やさないように。
「ところで奏多、今は何を書いているの?」
「ああ、インターフェイスのヤツ。例によってサキちーが噛みついて来たんで、捻じ伏せる準備中」
「サキさんはどう噛みついてきたの? また変なことを言ったんじゃないでしょうね」
「ちげーよ。何でもかんでも俺が何かしたって解釈するな。動き方のイメージをとりあえず見せるために仮組みしたモンを出したら、「コードがごちゃごちゃし過ぎ。自分以外の人に優しくない」って言われたんで、うるせー仮組みだっつってんだろっつって、スマートに書き換えてんだ。ったく、イメージを見せるためのモンだっつーの」
「ああ……なるほど。ちなみに、私にも見せてもらっていい?」
「お好きにどーぞ」
「ああ、確かにこれは突貫で作りました感が出てるわね」
「だから動き方のイメージを表面的に見せるためだけのモンで、中身は後からちゃんとする予定だったんだっつの」
「そのイメージをはっきりするのは確かに大事だけれどね」
引き続きインターフェイスの音声ファイル管理システムの開発を担当することになった奏多とサキさんは、ケンカ混じりながらもきちんと作業を進めているようです。奏多は基本的に一人で何でもやってしまう人なので、チームでの作業が成り立つのか正直少し心配していたけど、この分なら大丈夫そうですね。
「ところで、大学祭の時に使っていたシフト管理アプリのことだけど」
「ああ、あれがどうかしたか?」
「あれ、あの1回のためだけにわざわざ作ったの?」
「まあ、後から使う機会があれば使ってもいいし。基本的にはその時の効率を上げるために作るかっつって思い立っただけだな」
「勿体ない。あれだけちゃんとした物だったらきちんと組み直してアプリストアでリリースしたらいいのに」
「バカ言うな。似たようなモンは既にいくらでもあんだよ」
「でも、少なくとも奏多は似たような物で納得出来なかったから一からアプリを作ったのよね」
「バチコン需要にハマるモンなんかそうそうねーからな。探す時間も無駄だし無ければ作る、それが基本だろ」
「そう言えるのがあなたの強みよね」
「大半は既に作ったモンをどう組み合わせりゃいいかってだけの話で、一から作らなきゃいけないパーツなんかそこまで多くないからな」
「なるほど。応用するということね。んーっ、この分野で奏多と話すと本当に学ぶことしかないわね」
「お前、この程度で体バキバキなのかよ。ちょっとは腰据えてコーディングする訓練でもした方がいいんじゃねーのか」
「あら、あなたこそ随分と長い時間作業をしていたようだし、体を動かしに外に出た方がいいわよ」
「病み上がりなんだが?」
「自己申告では、もう治っているのでしょう。表に出なさい。走りに行くわよ」
少し伸びをした程度でそんなことを言われてしまえば腹も立つわよ。心身の健康を保つためには適度な運動だって必要なはずなのだから、走りに行くことだっていいことのはず。走るだけ走ってお腹が空いたら、ご飯を美味しくいただくのです。
「走って今日の俺に何のメリットがあんだよ」
「適度な運動をすることで衰えた自然治癒力が戻るかもしれないわよ」
「衰えてねーっつってんだろ」
end.
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休みの日の春風と奏多。奏多の部屋は機材類多そうなイメージ。
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