2024
■旅は道連れ、世は情け
++++
次の実況シリーズはコンこと菅野 との共同プレイにしようか。そういう話になっていたので、菅野と通話を繋ぐ。USDXというグループには3人の大学院生がいるけど、大学院生がどういう生活をしているのかは人や学校によってまちまちであるということがわかってきた。
京川さんは院生何年目なのか自分でも忘れたそうだ。大学にいられるだけ居続けるつもりらしく、この人の話は何の参考にもならないから聞くだけ無駄だと塩見さんが吐き捨てていた。
リン君は研究研究でかなり忙しくしているようで、実況への参加率も下がり気味。たまに会うくらいの時間は取れるけど、ある程度の撮れ高を必要とする収録となると厳しいそうだ。
一方で、菅野はかなり規則正しい生活を送っているらしい。リン君みたく缶詰めになったりしないのかと訊ねると、自分はそういうことは特にないと返って来た。バイトをしたり、普通に家に帰ってから趣味に充てる時間も作れる程度には安定していると聞いて、本当に人それぞれなんだなあと感心した。
『お前の配信もアーカイブで見たりしてるけど、移動中の新幹線の中から仕事して、移動先で配信関係の活動をして、また空き時間に仕事してって、本当によくやるなって。新幹線で仕事なんか出来るのか』
「平日の新幹線はワーク&スタディ車両ってのがあって、移動時間を仕事に宛ててくれっていう感じで用意されてんだ」
『へえ、そうなんだ』
「まあ、ウチの会社の性質が性質だから、環境を変えていいアイディアが出るならその方がいいみたいだし」
『業種にもよるか』
「そうそう。ああそうだ菅野」
『ん?』
「なっちから「星羅さんによろしく」ってメールが来たんだけど、とりあえずお前に伝えておけばいいか? なっちが須賀に何の用事なのかはわからないけど」
実況の話もそうだけど、なっちから届いたメールについて菅野に伝えるというのも今日の本題のひとつだった。USDXが音楽拠点にしているのが須賀の家で、その向かいのマンションになっちが住んでいた。ボーカリスト・Nayuとして半ば無理矢理活動に巻き込まれる中で、なっちも須賀姉妹と交流をしていたそうだが。
『朝霞、そのメールっていつ来た?』
「えっと、ちょっと待ってな? あー、と、日曜日の夜。10時前くらいかな」
『ああ、そういうことか。わかった、星羅に伝えておくよ。ありがとう』
「え、それだけで何の用事かわかったのかお前」
『ああ。完全に理解したよ』
「すげーな。ちなみにそれって俺が聞いても差し支えない内容?」
『全然大丈夫』
「よかったら聞かせてもらっても?」
『多分、菜月さんは星羅に「アスタズ優勝おめでとう」みたいなことを伝えたんだと思う』
「アスタズ」
『野球の光洋アスタズ。この間までファイナルシリーズやってただろ』
「それは見てなかったな。野球は世界大会の後でほんのちょっと教えてもらった程度だから。昔越谷さんにバッセン連れてってもらって、打ってるの眺めてたくらいで全然だし」
『越谷さんて野球やる人なんだな。間違ってたら申し訳ないけどあの人って光洋出身って話だろ。地元、今すごい盛り上がってるんじゃないか?』
「越谷さんは確かに光洋の人だな。そうか、野球で優勝するとセールみたいなことがあったりするのか」
『星羅も優勝パレードを見に行きたいって言ってて、スケジュール調整してるところなんだ』
「へえ。ちょっと興味あるな」
菅野によれば、須賀は光洋アスタズのファンで、チェアーズファンのなっちと野球談議に花を咲かせていたそうだ。野球談議が盛り上がり過ぎてなかなかレコーディングに入れなかったので菅野 がきゃんきゃん怒っていたとか。それは映像で想像が出来る。
『そうだ。朝霞、ひとつ企画のアイディアを思いついたんだけど』
「いいね。聞かせてくれ」
『カンとリン君誘ってバッティングセンターに行こう。実況程の時間が無くてもバッセンならリン君も参加しやすいだろうし』
「実写動画ってことか?」
『だな。編集は俺が責任持ってやるし。バッセン動画の裏側をショートとかレイの個チャンで公開してもいいと思う』
「案自体は悪くないと思うけど、正直気が進まない」
『何で?』
「いや、俺、実はスポーツ全般苦手だからさ」
『あー……確かにアクションゲームの様子を見てて何となく察してたけど』
俺はスポーツ全般苦手だし、身体能力が高いワケでもないからバッティングセンターでの様子を撮影されようモンならへっぽこを覆せなくなる。菅野 とリン君はスポーツも一通り出来るらしいので、菅野 がこっち寄りであることを祈るしかないけど、アイツもIFサッカー部だったらしいし望み薄か?
「撮影前に光洋行って越谷さんにコーチングしてもらおうかなあ」
『お前のフットワークの軽さが尋常じゃない』
「まあ、片道1時間20分くらいだったらなあ。作業してたらすぐだし」
『あ、星港から光洋ってそれくらいの時間で行けるのか』
「そうだよ。速いのだとそれくらいで、ホントにすぐ。2時間以上かかるのもあるから列車選びは気を付けなきゃいけないけど」
『光洋行きがちょっと現実味を帯びて来たな』
「お前が?」
『いや、星羅が』
「ああ、優勝パレードか」
『そうそう』
「でも、ああいうのって、尋常じゃないほど人が集まるだろ。現に、須賀も集まろうとしてるし」
『そうだな』
「須賀ってああいう群衆に押し潰されそうな印象だけど、大丈夫なのか。背も高くないし何も見えないんじゃないか?」
『その懸念はちょっとあって。誠司さんからは壁役として付いて行けって言われてるんだ』
「壁役頑張れ」
誠司さんというのは須賀の父親で、ジャズサックス奏者の須賀誠司氏。つまりは彼女の親父さんだ。一般的には彼女の親父さんて彼氏に一番厳しいイメージがあるけど、菅野は音楽をやっているという理由で良くしてもらっていて、須賀邸に個人の部屋までもらっているという話だから聞けば聞くほどよくわからない。
『朝霞、お前も優勝パレードっていう非日常を肌身で味わおう』
「普段ならはい喜んでーってついてくけど、さすがに空気は読めるぞ。お前らのデートっつーか旅行的なことだろ? 割り込んだら各方面からボコボコにされそうだ」
『えっ、お前って空気読むのか』
「俺を何だと思ってるんだ」
『正直空気より知的好奇心を優先する人間だと思ってた』
「それは否定しない」
『否定しないんじゃないか。と言うか、俺が付いて来てくれって頼んでるんだ、来てくれないか。1人じゃ壁になる自信がないし、旅慣れしてる人間がいてくれると心強い』
「いや、俺は全然旅なんかしたことないから」
『普段から新幹線に乗ってどこでも行ってるだろ』
「それは旅じゃなくてただの移動だ」
『これで確信した。お前は確実に頼りになる。来よう朝霞。現地での食事はごちそうさせてもらうし』
「うーん……じゃあ菅野、光洋でこれっていう飯があるんだ。朝めっちゃ早いから前乗りとかになると思うけど、それでもいいんであれば行ってもいい」
『実際落ち着いて体を慣らす時間も必要だし、前乗り上等です。その「これっていう飯」を食べに行こうか。星羅にも話しとくし』
「じゃ、そういうことで。これっていう飯の店の情報は後で送ります」
『了解です。じゃ、本題に入るか』
end.
++++
思いがけずスガセラとPさんが一緒にお出掛けする流れに…?
USDXバッセン編はぜひ見たいし、慧梨夏が感想を伝える話もぜひやりたい。
これっていう飯の話は⇒朝の光
菜月さんと星羅の野球の話は⇒てっぺんの一番星
(phase3)
.
++++
次の実況シリーズはコンこと
京川さんは院生何年目なのか自分でも忘れたそうだ。大学にいられるだけ居続けるつもりらしく、この人の話は何の参考にもならないから聞くだけ無駄だと塩見さんが吐き捨てていた。
リン君は研究研究でかなり忙しくしているようで、実況への参加率も下がり気味。たまに会うくらいの時間は取れるけど、ある程度の撮れ高を必要とする収録となると厳しいそうだ。
一方で、菅野はかなり規則正しい生活を送っているらしい。リン君みたく缶詰めになったりしないのかと訊ねると、自分はそういうことは特にないと返って来た。バイトをしたり、普通に家に帰ってから趣味に充てる時間も作れる程度には安定していると聞いて、本当に人それぞれなんだなあと感心した。
『お前の配信もアーカイブで見たりしてるけど、移動中の新幹線の中から仕事して、移動先で配信関係の活動をして、また空き時間に仕事してって、本当によくやるなって。新幹線で仕事なんか出来るのか』
「平日の新幹線はワーク&スタディ車両ってのがあって、移動時間を仕事に宛ててくれっていう感じで用意されてんだ」
『へえ、そうなんだ』
「まあ、ウチの会社の性質が性質だから、環境を変えていいアイディアが出るならその方がいいみたいだし」
『業種にもよるか』
「そうそう。ああそうだ菅野」
『ん?』
「なっちから「星羅さんによろしく」ってメールが来たんだけど、とりあえずお前に伝えておけばいいか? なっちが須賀に何の用事なのかはわからないけど」
実況の話もそうだけど、なっちから届いたメールについて菅野に伝えるというのも今日の本題のひとつだった。USDXが音楽拠点にしているのが須賀の家で、その向かいのマンションになっちが住んでいた。ボーカリスト・Nayuとして半ば無理矢理活動に巻き込まれる中で、なっちも須賀姉妹と交流をしていたそうだが。
『朝霞、そのメールっていつ来た?』
「えっと、ちょっと待ってな? あー、と、日曜日の夜。10時前くらいかな」
『ああ、そういうことか。わかった、星羅に伝えておくよ。ありがとう』
「え、それだけで何の用事かわかったのかお前」
『ああ。完全に理解したよ』
「すげーな。ちなみにそれって俺が聞いても差し支えない内容?」
『全然大丈夫』
「よかったら聞かせてもらっても?」
『多分、菜月さんは星羅に「アスタズ優勝おめでとう」みたいなことを伝えたんだと思う』
「アスタズ」
『野球の光洋アスタズ。この間までファイナルシリーズやってただろ』
「それは見てなかったな。野球は世界大会の後でほんのちょっと教えてもらった程度だから。昔越谷さんにバッセン連れてってもらって、打ってるの眺めてたくらいで全然だし」
『越谷さんて野球やる人なんだな。間違ってたら申し訳ないけどあの人って光洋出身って話だろ。地元、今すごい盛り上がってるんじゃないか?』
「越谷さんは確かに光洋の人だな。そうか、野球で優勝するとセールみたいなことがあったりするのか」
『星羅も優勝パレードを見に行きたいって言ってて、スケジュール調整してるところなんだ』
「へえ。ちょっと興味あるな」
菅野によれば、須賀は光洋アスタズのファンで、チェアーズファンのなっちと野球談議に花を咲かせていたそうだ。野球談議が盛り上がり過ぎてなかなかレコーディングに入れなかったので
『そうだ。朝霞、ひとつ企画のアイディアを思いついたんだけど』
「いいね。聞かせてくれ」
『カンとリン君誘ってバッティングセンターに行こう。実況程の時間が無くてもバッセンならリン君も参加しやすいだろうし』
「実写動画ってことか?」
『だな。編集は俺が責任持ってやるし。バッセン動画の裏側をショートとかレイの個チャンで公開してもいいと思う』
「案自体は悪くないと思うけど、正直気が進まない」
『何で?』
「いや、俺、実はスポーツ全般苦手だからさ」
『あー……確かにアクションゲームの様子を見てて何となく察してたけど』
俺はスポーツ全般苦手だし、身体能力が高いワケでもないからバッティングセンターでの様子を撮影されようモンならへっぽこを覆せなくなる。
「撮影前に光洋行って越谷さんにコーチングしてもらおうかなあ」
『お前のフットワークの軽さが尋常じゃない』
「まあ、片道1時間20分くらいだったらなあ。作業してたらすぐだし」
『あ、星港から光洋ってそれくらいの時間で行けるのか』
「そうだよ。速いのだとそれくらいで、ホントにすぐ。2時間以上かかるのもあるから列車選びは気を付けなきゃいけないけど」
『光洋行きがちょっと現実味を帯びて来たな』
「お前が?」
『いや、星羅が』
「ああ、優勝パレードか」
『そうそう』
「でも、ああいうのって、尋常じゃないほど人が集まるだろ。現に、須賀も集まろうとしてるし」
『そうだな』
「須賀ってああいう群衆に押し潰されそうな印象だけど、大丈夫なのか。背も高くないし何も見えないんじゃないか?」
『その懸念はちょっとあって。誠司さんからは壁役として付いて行けって言われてるんだ』
「壁役頑張れ」
誠司さんというのは須賀の父親で、ジャズサックス奏者の須賀誠司氏。つまりは彼女の親父さんだ。一般的には彼女の親父さんて彼氏に一番厳しいイメージがあるけど、菅野は音楽をやっているという理由で良くしてもらっていて、須賀邸に個人の部屋までもらっているという話だから聞けば聞くほどよくわからない。
『朝霞、お前も優勝パレードっていう非日常を肌身で味わおう』
「普段ならはい喜んでーってついてくけど、さすがに空気は読めるぞ。お前らのデートっつーか旅行的なことだろ? 割り込んだら各方面からボコボコにされそうだ」
『えっ、お前って空気読むのか』
「俺を何だと思ってるんだ」
『正直空気より知的好奇心を優先する人間だと思ってた』
「それは否定しない」
『否定しないんじゃないか。と言うか、俺が付いて来てくれって頼んでるんだ、来てくれないか。1人じゃ壁になる自信がないし、旅慣れしてる人間がいてくれると心強い』
「いや、俺は全然旅なんかしたことないから」
『普段から新幹線に乗ってどこでも行ってるだろ』
「それは旅じゃなくてただの移動だ」
『これで確信した。お前は確実に頼りになる。来よう朝霞。現地での食事はごちそうさせてもらうし』
「うーん……じゃあ菅野、光洋でこれっていう飯があるんだ。朝めっちゃ早いから前乗りとかになると思うけど、それでもいいんであれば行ってもいい」
『実際落ち着いて体を慣らす時間も必要だし、前乗り上等です。その「これっていう飯」を食べに行こうか。星羅にも話しとくし』
「じゃ、そういうことで。これっていう飯の店の情報は後で送ります」
『了解です。じゃ、本題に入るか』
end.
++++
思いがけずスガセラとPさんが一緒にお出掛けする流れに…?
USDXバッセン編はぜひ見たいし、慧梨夏が感想を伝える話もぜひやりたい。
これっていう飯の話は⇒朝の光
菜月さんと星羅の野球の話は⇒てっぺんの一番星
(phase3)
.