2024
■Fall in!
++++
「菜月サン!」
「ん?」
「よかったぁ~、まだいてくれた」
「お前が待ってろって言ったんじゃないか」
「まあ、それはそーなんすけどね?」
大学祭2日目。今日は大学祭と同日開催となる2年に一度のロボット大戦の日。この大会を無事に終え、MMPとしても1年からOBの4年(ヒロ以外)がわちゃわちゃといつものようにサークルのブース近くで過ごしているという状況。
何となんと、今年の大学祭にはこの春卒業された菜月先輩と圭斗先輩が遊びに来てくださっていて、ロボット大戦も観戦されていたのだ。春風も参戦していたし、MMP的には関心度の高い回であったことは否定出来ないだろう。
で、奏多が菜月先輩の顔を見るなり「ちょっと待ってて」と言ってどこかへと走り去った。あれは何なんだと俺に訊ねられても、何なのでしょうかと答えることしか出来ず。強いて言えば青丹の大学からの果たし状云々の件で何かあったのかもしれない。
「菜月サン、ちょっと撃ち合いしてもらっていーすか!」
「ラケット? バドミントンのか」
「逆に俺が他に何の撃ち合いをするって言うんすか」
「逆にとか言われてもうちは奏多のことを全然知らないんだから、前提となる情報なんか持ってるワケないだろ」
「でも俺がバドミントンをやってることくらいは知ってますよね? 前原さんを倒そうと躍起になってた1年だとか、こないだ橘亮介から果たし状を出された奴の存在は聞いてるはずっすから」
「そこまで言うならちょっとだけ付き合うけど、本気ではやるなよ。うちはヒールのド素人なんだ」
「どーもです。球筋を見たいだけなんで。野坂さんアンタネット役やってください。ここがセンターのラインっすよ」
どうやら奏多はバドミントンのラケットを取りに走っていたらしい。バドミントンに関わるとまっすぐな少年だよなあと改めて思う。はいどーぞと渡されたラケットを受け取り、菜月先輩は久し振りだなと軽く素振りする。そうだそうだ、菜月先輩はラケットを左腕で扱われるんだ。
「おお~。噂通りレフティなんすね」
「噂ねえ。アイツらが何か吹き込んだか?」
「真希ちゃんも言ってたっす」
「お、懐かしい。真希と連絡取ってる?」
「明日学祭チラ見しに来るっつってましたよ」
「マジか、すれ違ったな。もし会ったらよろしく言っといて」
「自分でLINEでも何でもすりゃいーんじゃないんすか」
「よろしく言っといてくれ」
「はいはい、わかりましたよ。いやー、アンタの撃ち方、やっぱある程度やってる人っぽいっすね。ホントにド素人すか?」
「ちょっと亮介と真希から基礎を教え込まれただけのド素人だ」
「ふーん。じゃ、ちょっと左右に振りますよ」
緩やかなラリーを続けながらの会話だと思っていたら、奏多がシャトルを左右に振り始めた。もちろん少し振られただけで反応出来なくなる菜月先輩ではないので、割と楽々拾っている。シャトルを目で追いながら顔を右に左に振っている俺の姿はさぞ滑稽だろう。
「拾いますねー」
「一応体育会系だからな。何を試そうとしてるんだ。そろそろ種明かしをしたらどうだ」
「橘亮介から、アンタの守備範囲が普通の人より腕1本分くらい広いって話を聞いて、どーゆー意味かなと思って」
「ああ、その話か」
「どーゆー意味なんです? アンタこそ種明かししてくださいよ」
「もうちょっと羽の振り幅を広くすれば自然に出るぞ」
「お、じゃあ広げますよ」
――と言った奏多のシャトルの振り方がエグい! けどそれを物ともしない菜月先輩はさすがだぜ! 反応速度が速いしそもそもの守備範囲が広~い! いや、俺はバドミントンのことはさっぱりわからないけどな! でも奏多が驚きや納得を見せないってことはきっと違うんだな!
「あーもう、ツラっ、ひっ」
「――っ!? 今の落ちねーのかよ! 落ちろっ!」
「お生、憎さま!」
「ヤーッベぇ、佑人張りに拾いやがりますねアンタ」
「スポーツは、ディフェンスから! って、言うだろ!」
「一理あります」
「つかれた、やめてい?」
「ダメでーす」
「後で殴る!」
「顔は止してくださいね、このイケてる顔に傷が残りでもしたら大変なんで」
「腹立つ!」
と言うか、菜月先輩の球筋を見るだけって話だったのに、どっちかが落とすまで続けるっていう流れになってきてる。何だよ、ネットがあるワケでもないお遊びラリーじゃなかったのか? お互いガチでマジになってんじゃん。
「あっヤベ浮いた」
「もらいっ!」
「そっちか!」
「はーっ……やっと落ちたー……」
「ちょっと待てよ、何だよ今の」
「何だよって、スマッシュ的な何かだろ」
「てっきりクロスファイヤーが来ると思ってそっち読みだったのに。つか、アンタの守備範囲の秘密、わかりましたよ」
「そうか」
「アンタ、プレーの中でラケットを右手と左手でスイッチしてんすね。バックハンドで取れないと思ったらスイッチして拾う。だから腕一本分守備範囲が広い。それと同時に攻撃のバリエーションも多くて厭らしい。純粋なレフティではないと」
「そういうことだ」
プレーの中でラケットをスイッチするというのもなかなか器用なことだなと、見ていて思った。今のラリーの最後も、左手でスマッシュを打ってくると奏多は予測したけど、実際には右でのスマッシュ。シャトルの軌道も左手一本の時よりは読みにくい。
「うちは状況に応じて利き手が違うクロスドミナンスってヤツらしい」
「へえ、そのような名称があるのですね」
「知り合いが言ってた」
「そう言えば菜月先輩はボウリングも左手で投げられますもんね」
「だな。力で押したいときは右、コントロール重視の時は左だ。野球は右投げ左打ち」
「おっ、野球やるんすか?」
「……野球の話をするともうしばらくは奈々が荒れるんじゃないか?」
「あー……そーすね、なかったことに」
「とか言っといて難だけど、奏多は野球見てるのか?」
「ちょっとだけっす」
「ちなみに、贔屓チームなんかはあるのか? でも向島の人ならやっぱり」
「俺は強いて言えばチェアーズっす。奈々さんの勧めで世界大会を見て、1人2人気になる選手見つけて追ってたらいつの間にかって感じで」
「同士よ! さっき殴るって言ったの撤回する、これからは仲良くしようじゃないか」
「どーもよろしくお願いします先輩」
ナ、ナンダッテー!? 菜月先輩と奏多の間で固い握手が交わされている!
「やあやあノサカ君、何だかんだ今年もチェアーズの方が順位が良かったねえ」
「ぐっ…! 俺の味方がいない! 律ー! 律ー! 助けてくれー!」
「野坂さん、ここは敢えて奈々さん呼んで荒らしてもらうってのはどーです?」
「いっそそれでもいい! 奈々ー!?」
「アスタズと言えば星羅さん元気かな、カレー食べたいなー」
end.
++++
星羅はきっと元気に5年生をやってるんだ! あとクロスドミナンスの名称を教えてくれたのはスガPなんだ!
準備期間がちょっと不穏だったのに開けてしまえばこんなモン。菜月さんが欲しかったんだもん
(phase3)
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「菜月サン!」
「ん?」
「よかったぁ~、まだいてくれた」
「お前が待ってろって言ったんじゃないか」
「まあ、それはそーなんすけどね?」
大学祭2日目。今日は大学祭と同日開催となる2年に一度のロボット大戦の日。この大会を無事に終え、MMPとしても1年からOBの4年(ヒロ以外)がわちゃわちゃといつものようにサークルのブース近くで過ごしているという状況。
何となんと、今年の大学祭にはこの春卒業された菜月先輩と圭斗先輩が遊びに来てくださっていて、ロボット大戦も観戦されていたのだ。春風も参戦していたし、MMP的には関心度の高い回であったことは否定出来ないだろう。
で、奏多が菜月先輩の顔を見るなり「ちょっと待ってて」と言ってどこかへと走り去った。あれは何なんだと俺に訊ねられても、何なのでしょうかと答えることしか出来ず。強いて言えば青丹の大学からの果たし状云々の件で何かあったのかもしれない。
「菜月サン、ちょっと撃ち合いしてもらっていーすか!」
「ラケット? バドミントンのか」
「逆に俺が他に何の撃ち合いをするって言うんすか」
「逆にとか言われてもうちは奏多のことを全然知らないんだから、前提となる情報なんか持ってるワケないだろ」
「でも俺がバドミントンをやってることくらいは知ってますよね? 前原さんを倒そうと躍起になってた1年だとか、こないだ橘亮介から果たし状を出された奴の存在は聞いてるはずっすから」
「そこまで言うならちょっとだけ付き合うけど、本気ではやるなよ。うちはヒールのド素人なんだ」
「どーもです。球筋を見たいだけなんで。野坂さんアンタネット役やってください。ここがセンターのラインっすよ」
どうやら奏多はバドミントンのラケットを取りに走っていたらしい。バドミントンに関わるとまっすぐな少年だよなあと改めて思う。はいどーぞと渡されたラケットを受け取り、菜月先輩は久し振りだなと軽く素振りする。そうだそうだ、菜月先輩はラケットを左腕で扱われるんだ。
「おお~。噂通りレフティなんすね」
「噂ねえ。アイツらが何か吹き込んだか?」
「真希ちゃんも言ってたっす」
「お、懐かしい。真希と連絡取ってる?」
「明日学祭チラ見しに来るっつってましたよ」
「マジか、すれ違ったな。もし会ったらよろしく言っといて」
「自分でLINEでも何でもすりゃいーんじゃないんすか」
「よろしく言っといてくれ」
「はいはい、わかりましたよ。いやー、アンタの撃ち方、やっぱある程度やってる人っぽいっすね。ホントにド素人すか?」
「ちょっと亮介と真希から基礎を教え込まれただけのド素人だ」
「ふーん。じゃ、ちょっと左右に振りますよ」
緩やかなラリーを続けながらの会話だと思っていたら、奏多がシャトルを左右に振り始めた。もちろん少し振られただけで反応出来なくなる菜月先輩ではないので、割と楽々拾っている。シャトルを目で追いながら顔を右に左に振っている俺の姿はさぞ滑稽だろう。
「拾いますねー」
「一応体育会系だからな。何を試そうとしてるんだ。そろそろ種明かしをしたらどうだ」
「橘亮介から、アンタの守備範囲が普通の人より腕1本分くらい広いって話を聞いて、どーゆー意味かなと思って」
「ああ、その話か」
「どーゆー意味なんです? アンタこそ種明かししてくださいよ」
「もうちょっと羽の振り幅を広くすれば自然に出るぞ」
「お、じゃあ広げますよ」
――と言った奏多のシャトルの振り方がエグい! けどそれを物ともしない菜月先輩はさすがだぜ! 反応速度が速いしそもそもの守備範囲が広~い! いや、俺はバドミントンのことはさっぱりわからないけどな! でも奏多が驚きや納得を見せないってことはきっと違うんだな!
「あーもう、ツラっ、ひっ」
「――っ!? 今の落ちねーのかよ! 落ちろっ!」
「お生、憎さま!」
「ヤーッベぇ、佑人張りに拾いやがりますねアンタ」
「スポーツは、ディフェンスから! って、言うだろ!」
「一理あります」
「つかれた、やめてい?」
「ダメでーす」
「後で殴る!」
「顔は止してくださいね、このイケてる顔に傷が残りでもしたら大変なんで」
「腹立つ!」
と言うか、菜月先輩の球筋を見るだけって話だったのに、どっちかが落とすまで続けるっていう流れになってきてる。何だよ、ネットがあるワケでもないお遊びラリーじゃなかったのか? お互いガチでマジになってんじゃん。
「あっヤベ浮いた」
「もらいっ!」
「そっちか!」
「はーっ……やっと落ちたー……」
「ちょっと待てよ、何だよ今の」
「何だよって、スマッシュ的な何かだろ」
「てっきりクロスファイヤーが来ると思ってそっち読みだったのに。つか、アンタの守備範囲の秘密、わかりましたよ」
「そうか」
「アンタ、プレーの中でラケットを右手と左手でスイッチしてんすね。バックハンドで取れないと思ったらスイッチして拾う。だから腕一本分守備範囲が広い。それと同時に攻撃のバリエーションも多くて厭らしい。純粋なレフティではないと」
「そういうことだ」
プレーの中でラケットをスイッチするというのもなかなか器用なことだなと、見ていて思った。今のラリーの最後も、左手でスマッシュを打ってくると奏多は予測したけど、実際には右でのスマッシュ。シャトルの軌道も左手一本の時よりは読みにくい。
「うちは状況に応じて利き手が違うクロスドミナンスってヤツらしい」
「へえ、そのような名称があるのですね」
「知り合いが言ってた」
「そう言えば菜月先輩はボウリングも左手で投げられますもんね」
「だな。力で押したいときは右、コントロール重視の時は左だ。野球は右投げ左打ち」
「おっ、野球やるんすか?」
「……野球の話をするともうしばらくは奈々が荒れるんじゃないか?」
「あー……そーすね、なかったことに」
「とか言っといて難だけど、奏多は野球見てるのか?」
「ちょっとだけっす」
「ちなみに、贔屓チームなんかはあるのか? でも向島の人ならやっぱり」
「俺は強いて言えばチェアーズっす。奈々さんの勧めで世界大会を見て、1人2人気になる選手見つけて追ってたらいつの間にかって感じで」
「同士よ! さっき殴るって言ったの撤回する、これからは仲良くしようじゃないか」
「どーもよろしくお願いします先輩」
ナ、ナンダッテー!? 菜月先輩と奏多の間で固い握手が交わされている!
「やあやあノサカ君、何だかんだ今年もチェアーズの方が順位が良かったねえ」
「ぐっ…! 俺の味方がいない! 律ー! 律ー! 助けてくれー!」
「野坂さん、ここは敢えて奈々さん呼んで荒らしてもらうってのはどーです?」
「いっそそれでもいい! 奈々ー!?」
「アスタズと言えば星羅さん元気かな、カレー食べたいなー」
end.
++++
星羅はきっと元気に5年生をやってるんだ! あとクロスドミナンスの名称を教えてくれたのはスガPなんだ!
準備期間がちょっと不穏だったのに開けてしまえばこんなモン。菜月さんが欲しかったんだもん
(phase3)
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