2024
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カノンから松兄と一緒に呼び出されたのはサークル棟の3階ロビー。普段は人がいないから雨の日の発声練習とかに使ってる場所だけど、今は大学祭の前だからか人が出入りしてるなっていう雰囲気がちょっとある。そして開口一番、本当にすいませんでした、と。うち的には「ナニナニどーしたの」っていうのが最初の感想。松兄は表情ひとつ変えずに真顔でカノンを見てるのがちょっと怖い。
「今までめっちゃ自分勝手過ぎたっす。OBの先輩のMDの件で夏の頃から野坂先輩にも言われてたのに全部すっぽ抜けて、奏多にも甘え過ぎてたし。今度からはマジで! 言動を改めるんでよろしくお願いします!」
「――ですって。どーします、奈々さん」
「どうするって、うちはこれまで通り行くだけだからね」
「奈々先輩がマジで俺のことを諦めたんだとすればそれはそれでしょうがないとは思うんすけど、ホントのホントに反省しました! あ、いや、だからと言ってすぐに100パー完璧にやれるかっつったらそうもいかないと思うんすけど、改善する努力は絶対忘れないっす」
「うちもちょっと目先の仕事でいっぱいいっぱいになっちゃってて1人1人のことまで細かく見れてなかったし、その辺はおあいこだよ」
「いーや! 全然おあいこじゃないっす! 大体3年生1人で過去最大級にデカくなったサークル全部見るとかおかしーんすよ! だから鳥ちゃんとも奏多とも、奈々先輩を支えてかないとなって話してたんす。でもサークル歴一番長い俺がそれを忘れてたんすよ、重罪っす今から考えるとマジで。サークルがデカくなったことで舞い上がってたんすよ、春からずっと」
2年生の子たちがそういう風に話してくれてたんだなっていうのは初めて聞いたし、それは結構嬉しく思う。カノンの反省は、どうやってそれに気付いたのかはともかく、気付いたばかりだからとことん深く強く反省してるって感じ。浅く弱くでも、意識が長く続いてくれれば来期のサークルはしっかり回りそうだけど。どうかな。
サークルが大きくなったことでてんやわんやになっちゃってたのはうちもだし、その辺は上手くみんなの力を借りながらやるべきだったんだろうけど、どうにもこうにも細かい仕事は1人でやりがちだったところはある。だからカノン的には無いものになっちゃってたのかもしれない。知らないものはしょうがないもんね。
「それで、ガチでマジな反省をしたかっすーはこれからどーすんだ? そうだな、まずは大学祭に向けた動きについて聞こうか」
「2年生の企画番組は昨日のうちにテーマを鳥ちゃんといろはに渡してあって、今日のサークルの時間に機材的な動きを含めて話し合った上でトークについてはまた裏で3人で通話でも何でもしながら話し合おうと考えてる」
「配信は」
「緑大と星ヶ丘、あと桜貝は生配信出来るよって話で、時間はこんな感じ。青女青敬の学祭終わってる組だけど、青女さんはステージの映像があるって話だし、青敬はそもそもが映像作品のあるところだからそれを流すって感じ。星大さんは自分のところで出せる物は微妙なんで、大学祭ついでに学内を散歩する短めの映像で良ければ作れるって。ウチは番組を配信するも良し、流すも良しで他がどうなっても対応出来るようにスタンバる。オープンキャンパスの番組も結構相性いいかなとは思うんだよな」
「ふむ。ロボコンはどうする」
松兄が大学祭に向けて積み重なってる課題をひとつひとつカノンに確認しているのを聞く感じ、今までよりはちゃんと考えてるっていう印象を受けた。カノンもどうやって考えたことを実現するのかを自分で考えてはいたんだろうけど、地に足が着いてないっていう印象のことが多かった。それでもこれまではあまり大きくない規模の話だったから勢いだけでも何とかなっちゃってたんだと思う。
何となくで、ゆるい成功体験を重ねた結果、ラッキーでどうにでもなっちゃう感じになってたんだね。それが今回は通用しなかった。きっちりと地に足を着けて、きちんとした力で計画をして、動かなきゃいけなかった。カノンのアイディアは本当にうちには想像もつかないことだから、それを無くしちゃうのは惜しい。でも、今手元にある物で確実に、堅実にやっていくにはって考えるのもこれからは大事になってくるのかな。
「奏多が俺のいい加減さでインターフェイスとかロボコンの運営に迷惑かけないようにってしてくれてたって聞いて、マジでとんでもないことになりかけてたんだなってやっと理解した」
「そーかい、そりゃ良かった」
「でも、俺の何が悪いとか甘いとか、それは今の俺じゃ正直言ってくれないとわかんない! コイツダメだわっつって切るにしても、真正面から1回言ってくれないのは奏多も良くない! そんなことすら言えないで何がダチだよ」
「そうだな、そいつは俺も悪かった」
「俺はどうせやるなら事故を起こさないとか迷惑かけないみたいなネガティブな最低限のクリアじゃなくて、やってよかった、楽しかった、次はどうする? みたいなポジティブに進んでいくための力になるモンじゃないとダメだと思った。じゃないとやってる側も苦痛だからいいモンなんか出来ないし、そしたらおもしろくないモン見せられた側はもっとおもんないし。俺はやるなら全員を楽しませたい。でも俺だけじゃそれが出来ない。だからあと1週間、奏多の力を貸してください!」
松兄の方をチラリと窺うと、相変わらずの真顔。何考えてるのかさっぱりわかんない。うちはポジティブに進んでいきたいっていうカノンの考え方はいいなって思ったから、うちの力でよければ貸してあげたい。だけど、技術的なことはやっぱり松兄が一番突き抜けてるから松兄がいいよって言わなきゃダメだし、カノン的には松兄と一緒じゃないとダメなんだよね。
「よーしかっすー、俺らで面白いモンぶちかますぞ」
「奏多!」
「松兄」
「星大は散歩番組も捨て難いけど、時間がないっつーんなら既にあるサークル外で作った個人の作品を出してもらってもいいんじゃね? 千颯とか、個人でやってるヤツもいるだろ」
「あー! そうだそうだ!」
「学祭の配信とは関係ないけど、水彩画をどうやって描いてんのかっていう行程を映像で見てみたさはあるな」
「いつか作ってもらえばいんじゃね?」
「覚えてたらな。ロボット大戦は決勝で野坂さん対春風が実現したときは絶対生配信すべきだな。そうなったときに食品ブースに誰を残すかは考えとかねーとかなァ」
「俺は絶対現地で応援するからな!」
「わーってるよ。つか配信するんならかっすーは現地にいねーとだろ」
「あそっか」
「ま、殿かパロに頼むのが現実的だな」
急に笑顔でカノンと一緒にこれからのことを話し始めた松兄は、何を思ってたんだろう。でも、前に言ってたね。友達や仲間だとしたって志が違えば一緒に沈む義理はないって。逆に言えば、今は志が一緒になったから、笑顔でこれからのことを話してるのかなって。うちの推測だけど。
「カノン、松兄、何とかなりそう?」
「何とかします!」
「まあ見といてくださいよ、面白く見えるよう回すのが俺の腕なんで」
「でもロボット大戦は試合が面白くないと面白く見えないのかな?」
「ああいうのはロボットが戦うとか、機械の動きや音だけでも楽しめる層には余計なことをしなくても刺さるんだよ。だから画質と音質は妥協出来ねえ。戦いのストーリーを見せたいなら野坂さんや春風にインタビューしてドキュメント風に乗せるとか、やりようによってはいろんな方向性で出来るぜ」
「すげー! さすが奏多!」
「だろォ? っぱ俺なワケ。ねえ奈々さん」
「そうだねッ! 企画の方は頼りにしてるし、食品ブースの方は任せてッ!」
「いやいや、アンタにはDJブースの設営も監修してもらわなきゃいけないんすよ。アンタの経験は他の誰にもないモンなんすから」
「そうっすよ! DJブースを知ってるのは奈々先輩だけなんすから!」
「え。そう言われると急にプレッシャーなんだけど。どんな風に組んでたっけ」
「菜月サンが大量に撮ってる写真の中に学祭のとかもあったりしません?」
「そーだッ! 絶対あるッ! ああ~神~。菜月先輩は不変の神~。いつだって奈々を見守ってくれてるんですぅ~、きゃっきゃっ」
「はあ」
「ああーッ! 圭斗先輩がいないからいつもの件にならないーッ! 年取ったなあ」
「いいからサークル室行ってブースの資料探しましょ。あとアンタが年取ったとか言うと俺にも刺さるんすよ」
「ちなみにいつもの件ってどんなのっすか? 俺見たことあったっすか?」
end.
++++
カノンはまっすぐで熱いヤツという周りからの評価もあるけど、こういうときもまっすぐに正面から。
まだまだ失敗もするだろうけど、少しずつちゃんと成長していくんだろうな
思えば1年生の時から「自分1人では厳しい、だから周りの力をどう使うか」って考えてはいたね
(phase3)
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カノンから松兄と一緒に呼び出されたのはサークル棟の3階ロビー。普段は人がいないから雨の日の発声練習とかに使ってる場所だけど、今は大学祭の前だからか人が出入りしてるなっていう雰囲気がちょっとある。そして開口一番、本当にすいませんでした、と。うち的には「ナニナニどーしたの」っていうのが最初の感想。松兄は表情ひとつ変えずに真顔でカノンを見てるのがちょっと怖い。
「今までめっちゃ自分勝手過ぎたっす。OBの先輩のMDの件で夏の頃から野坂先輩にも言われてたのに全部すっぽ抜けて、奏多にも甘え過ぎてたし。今度からはマジで! 言動を改めるんでよろしくお願いします!」
「――ですって。どーします、奈々さん」
「どうするって、うちはこれまで通り行くだけだからね」
「奈々先輩がマジで俺のことを諦めたんだとすればそれはそれでしょうがないとは思うんすけど、ホントのホントに反省しました! あ、いや、だからと言ってすぐに100パー完璧にやれるかっつったらそうもいかないと思うんすけど、改善する努力は絶対忘れないっす」
「うちもちょっと目先の仕事でいっぱいいっぱいになっちゃってて1人1人のことまで細かく見れてなかったし、その辺はおあいこだよ」
「いーや! 全然おあいこじゃないっす! 大体3年生1人で過去最大級にデカくなったサークル全部見るとかおかしーんすよ! だから鳥ちゃんとも奏多とも、奈々先輩を支えてかないとなって話してたんす。でもサークル歴一番長い俺がそれを忘れてたんすよ、重罪っす今から考えるとマジで。サークルがデカくなったことで舞い上がってたんすよ、春からずっと」
2年生の子たちがそういう風に話してくれてたんだなっていうのは初めて聞いたし、それは結構嬉しく思う。カノンの反省は、どうやってそれに気付いたのかはともかく、気付いたばかりだからとことん深く強く反省してるって感じ。浅く弱くでも、意識が長く続いてくれれば来期のサークルはしっかり回りそうだけど。どうかな。
サークルが大きくなったことでてんやわんやになっちゃってたのはうちもだし、その辺は上手くみんなの力を借りながらやるべきだったんだろうけど、どうにもこうにも細かい仕事は1人でやりがちだったところはある。だからカノン的には無いものになっちゃってたのかもしれない。知らないものはしょうがないもんね。
「それで、ガチでマジな反省をしたかっすーはこれからどーすんだ? そうだな、まずは大学祭に向けた動きについて聞こうか」
「2年生の企画番組は昨日のうちにテーマを鳥ちゃんといろはに渡してあって、今日のサークルの時間に機材的な動きを含めて話し合った上でトークについてはまた裏で3人で通話でも何でもしながら話し合おうと考えてる」
「配信は」
「緑大と星ヶ丘、あと桜貝は生配信出来るよって話で、時間はこんな感じ。青女青敬の学祭終わってる組だけど、青女さんはステージの映像があるって話だし、青敬はそもそもが映像作品のあるところだからそれを流すって感じ。星大さんは自分のところで出せる物は微妙なんで、大学祭ついでに学内を散歩する短めの映像で良ければ作れるって。ウチは番組を配信するも良し、流すも良しで他がどうなっても対応出来るようにスタンバる。オープンキャンパスの番組も結構相性いいかなとは思うんだよな」
「ふむ。ロボコンはどうする」
松兄が大学祭に向けて積み重なってる課題をひとつひとつカノンに確認しているのを聞く感じ、今までよりはちゃんと考えてるっていう印象を受けた。カノンもどうやって考えたことを実現するのかを自分で考えてはいたんだろうけど、地に足が着いてないっていう印象のことが多かった。それでもこれまではあまり大きくない規模の話だったから勢いだけでも何とかなっちゃってたんだと思う。
何となくで、ゆるい成功体験を重ねた結果、ラッキーでどうにでもなっちゃう感じになってたんだね。それが今回は通用しなかった。きっちりと地に足を着けて、きちんとした力で計画をして、動かなきゃいけなかった。カノンのアイディアは本当にうちには想像もつかないことだから、それを無くしちゃうのは惜しい。でも、今手元にある物で確実に、堅実にやっていくにはって考えるのもこれからは大事になってくるのかな。
「奏多が俺のいい加減さでインターフェイスとかロボコンの運営に迷惑かけないようにってしてくれてたって聞いて、マジでとんでもないことになりかけてたんだなってやっと理解した」
「そーかい、そりゃ良かった」
「でも、俺の何が悪いとか甘いとか、それは今の俺じゃ正直言ってくれないとわかんない! コイツダメだわっつって切るにしても、真正面から1回言ってくれないのは奏多も良くない! そんなことすら言えないで何がダチだよ」
「そうだな、そいつは俺も悪かった」
「俺はどうせやるなら事故を起こさないとか迷惑かけないみたいなネガティブな最低限のクリアじゃなくて、やってよかった、楽しかった、次はどうする? みたいなポジティブに進んでいくための力になるモンじゃないとダメだと思った。じゃないとやってる側も苦痛だからいいモンなんか出来ないし、そしたらおもしろくないモン見せられた側はもっとおもんないし。俺はやるなら全員を楽しませたい。でも俺だけじゃそれが出来ない。だからあと1週間、奏多の力を貸してください!」
松兄の方をチラリと窺うと、相変わらずの真顔。何考えてるのかさっぱりわかんない。うちはポジティブに進んでいきたいっていうカノンの考え方はいいなって思ったから、うちの力でよければ貸してあげたい。だけど、技術的なことはやっぱり松兄が一番突き抜けてるから松兄がいいよって言わなきゃダメだし、カノン的には松兄と一緒じゃないとダメなんだよね。
「よーしかっすー、俺らで面白いモンぶちかますぞ」
「奏多!」
「松兄」
「星大は散歩番組も捨て難いけど、時間がないっつーんなら既にあるサークル外で作った個人の作品を出してもらってもいいんじゃね? 千颯とか、個人でやってるヤツもいるだろ」
「あー! そうだそうだ!」
「学祭の配信とは関係ないけど、水彩画をどうやって描いてんのかっていう行程を映像で見てみたさはあるな」
「いつか作ってもらえばいんじゃね?」
「覚えてたらな。ロボット大戦は決勝で野坂さん対春風が実現したときは絶対生配信すべきだな。そうなったときに食品ブースに誰を残すかは考えとかねーとかなァ」
「俺は絶対現地で応援するからな!」
「わーってるよ。つか配信するんならかっすーは現地にいねーとだろ」
「あそっか」
「ま、殿かパロに頼むのが現実的だな」
急に笑顔でカノンと一緒にこれからのことを話し始めた松兄は、何を思ってたんだろう。でも、前に言ってたね。友達や仲間だとしたって志が違えば一緒に沈む義理はないって。逆に言えば、今は志が一緒になったから、笑顔でこれからのことを話してるのかなって。うちの推測だけど。
「カノン、松兄、何とかなりそう?」
「何とかします!」
「まあ見といてくださいよ、面白く見えるよう回すのが俺の腕なんで」
「でもロボット大戦は試合が面白くないと面白く見えないのかな?」
「ああいうのはロボットが戦うとか、機械の動きや音だけでも楽しめる層には余計なことをしなくても刺さるんだよ。だから画質と音質は妥協出来ねえ。戦いのストーリーを見せたいなら野坂さんや春風にインタビューしてドキュメント風に乗せるとか、やりようによってはいろんな方向性で出来るぜ」
「すげー! さすが奏多!」
「だろォ? っぱ俺なワケ。ねえ奈々さん」
「そうだねッ! 企画の方は頼りにしてるし、食品ブースの方は任せてッ!」
「いやいや、アンタにはDJブースの設営も監修してもらわなきゃいけないんすよ。アンタの経験は他の誰にもないモンなんすから」
「そうっすよ! DJブースを知ってるのは奈々先輩だけなんすから!」
「え。そう言われると急にプレッシャーなんだけど。どんな風に組んでたっけ」
「菜月サンが大量に撮ってる写真の中に学祭のとかもあったりしません?」
「そーだッ! 絶対あるッ! ああ~神~。菜月先輩は不変の神~。いつだって奈々を見守ってくれてるんですぅ~、きゃっきゃっ」
「はあ」
「ああーッ! 圭斗先輩がいないからいつもの件にならないーッ! 年取ったなあ」
「いいからサークル室行ってブースの資料探しましょ。あとアンタが年取ったとか言うと俺にも刺さるんすよ」
「ちなみにいつもの件ってどんなのっすか? 俺見たことあったっすか?」
end.
++++
カノンはまっすぐで熱いヤツという周りからの評価もあるけど、こういうときもまっすぐに正面から。
まだまだ失敗もするだろうけど、少しずつちゃんと成長していくんだろうな
思えば1年生の時から「自分1人では厳しい、だから周りの力をどう使うか」って考えてはいたね
(phase3)
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