2024
■It was a hell of a mess.
++++
「お手合わせありがとうございました」
「こちらこそ」
「マシンの動き自体は滑らかだし、制御は現状上手く行っているのに勝てないというのはやはり戦術面の甘さになるのでしょうか」
「まあ、戦術はいくつか用意しておくのがいいかなとは。相手に応じて臨機応変に対応出来る方が」
「そうですよね」
来たるロボット大戦に向けて、日々調整が続いていた。ロボットを動かすコードを組み、マシンその物の改造や調整もしつつ。野島ゼミは純粋な機械工学系のゼミやロボット研究会以外ではやや珍しく、ロボット大戦に出る人がまあまあ出る。だから対戦環境や過去のデータなどもそれなりに揃っているのが強みと言える。
春風と打ち合いをやりつつ、細かな調整点を見つけて修正、また打ち合い。この繰り返しだ。現状受けている感じだと、春風は自分で戦った方が強い。たまにマシンの動きにシンクロするように自分の拳もシュッと出しているのだけど、その鋭さがヤバい。確か空手の経験があるという話だ。自分の拳の速さをマシンに要求しているのだとすればマシンスペック的に厳しいのでは。
「はあ……難しいですね」
「大分難しく考え込んでる感じ?」
「あ、いえ。ロボット大戦の他にもやるべきことが山積していて」
「そうだよな、学祭前だし普通に忙しいよな。そう言えばサークルはどんな感じ?」
「食品ブースは至極順調で、ポテトに使うジャガイモは例によって星大さんから譲っていただいているのですが、今年は塩にも力を入れているのですよ」
「ほう。塩か。確か去年は普通の塩を使ってたけど、それとは違うんだ」
「パロが自宅で眠らせてしまっていた岩塩を使ってしまいたいということだったので、それを使うことになりまして」
「岩塩。MMPの食品ブースでそんな単語が飛び出て来るとは思わなかった。意味がわからない」
「私も最初に聞いた時は「料理上手な人はそんな物を普通に使っているの?」と思わず奏多に確認をしてしまいました」
試食をした感じでは、普通の塩をまぶしたポテトよりも岩塩をまぶした物の方が尖った感じが少なく美味しかったそうなので、パロの岩塩をありがたく使ってしまうことにしたそうだ。調理班としては去年から見ると律と圭斗先輩がいなくなったけど、奏多・殿・パロの3人が新たに戦力として加入したので総合的には強くなったらしい。ヤバい。
「食品は順調そうじゃん。DJブースは? 今年はやるんだろ?」
「それなのですが……不確定要素もまあまあ多くてですね」
「不確定要素?」
「かくかくしかじかで……」
人数も増えたしサークルの設備も強くなったから今年はいろいろやれるぞ、と張り切ったカノンがいろいろな企画を打ち出しているようなのだけど、その進捗がどうなっているのか代表の奈々を含めたサークル員には全く伝わっていないそうだ。動画サイトの配信機能を使って同日開催されている他の大学の大学祭の様子を覗き見しようということらしいのだが。
定例会有志で決まった話ということにはなっているらしいが厳密には一部メンバーの単なる雑談で、公的な話として動いているという風にはその雑談の現場にいたすがやんも思っていなかったそうだ。カノンと仲の良いすがやんですらそうだから、他の大学さんはもっとカノン何言ってんだみたいな状況になっていることだろう。
「希くんはそちらの計画に奔走しているので、学年ごとの企画番組も大枠の本当に枠の部分を組んだだけで話し合いがストップしてしまっていますし、その上ロボット大戦の私の試合を中継するとも言い出しました」
「学祭のブースに中継するつもりか」
「私は細かいことを聞いていないのでどうするつもりなのかは。ただ、大学祭とロボット大戦は運営が違うとは奈々先輩も仰っていましたし、手続きなどもより煩雑になるかと」
「そうだよな。確かに運営は違ったはずだし、ロボット大戦の公式も配信か録画かは忘れたけど撮影はするみたいな話だったからそれとの兼ね合いも出てきそうだよな」
「私も夏合宿が終わってからはオープンキャンパスや作品出展の作品制作で手一杯で、それが終わってからもロボット大戦にかかりっきりなのでサークルのことをあまりお手伝い出来ていないのが心苦しく思うのです。奈々先輩に何か出来ることはありませんかと訊ねても、食品ブースは1年生がいるし大丈夫だよと言われてしまいました」
「まあ、6人いるし車もあるもんなあ。DJブースにある春風の仕事は主に番組をやることだし、タイムテーブルを組んだり配信云々っていうのはノータッチになりそうだよな」
「奈々先輩によれば、希くんの暴走は問題だとは思っているのですが、何の話も通されていない自分では止められそうにないので奏多に任せっきりになってしまっているのが申し訳ないと」
確かにカノンのアイディアややる気は目を見張るものがあるんだけど、奈々が暴走と言うならそれはもう暴走なんだ。カノンが企画するだけして詰められていない部分であるとか、他校や他行事の運営との話し合い、そしてその企画を実現するに当たって足りない技術を奏多が補って何とかやっているという状況だとか。
「学年ごとの企画番組にしても、こういう構成でやるのだと希くんが書いた物を奏多に投げっ放しになっているような状態で」
「そこまでされてて奏多はよくブチ切れてないな。俺だったらヒロにそういうことをされたらまずブチ切れてるけど」
「内心はどうあれ、今はインターフェイスやロボット大戦の運営に対する粗相や事故を起こさないようにということを重視しているようですね。ただ、奈々先輩は、もし希くんの言動が泥船だと思えば奈々先輩も希くんを切り捨てる覚悟はしておいてくださいと言われたようです」
「奈々も。……奈々も、か」
カノンは、目の前の面白そうなことに夢中で自分がどれだけギリギリのところに陥っているのかが全く見えてなさそうだ。そもそもが自分のやろうとしていることの話を奈々に通してないって話だし、OBのMDの件で言ったことが完全にすっぽ抜けてるじゃないか。人があってのラジオ、放送、人があってこそのサークルだぞ。
「春風、今更4年がしゃしゃり出ていいか? このままほっといたら来期のサークルが終わる」
「野坂先輩、どうされるのですか?」
「カノンをシメる」
end.
++++
大学祭前にしていよいよちょっと始まって来たMMP。
春風はノサカ共々ロボット大戦に向けた調整にも励んでいる様子。天体観測もしつつ。
一部メンバーの雑談の様子もいつかやってみたい。メンバーの熱量の差とかがありそう。
(phase3)
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++++
「お手合わせありがとうございました」
「こちらこそ」
「マシンの動き自体は滑らかだし、制御は現状上手く行っているのに勝てないというのはやはり戦術面の甘さになるのでしょうか」
「まあ、戦術はいくつか用意しておくのがいいかなとは。相手に応じて臨機応変に対応出来る方が」
「そうですよね」
来たるロボット大戦に向けて、日々調整が続いていた。ロボットを動かすコードを組み、マシンその物の改造や調整もしつつ。野島ゼミは純粋な機械工学系のゼミやロボット研究会以外ではやや珍しく、ロボット大戦に出る人がまあまあ出る。だから対戦環境や過去のデータなどもそれなりに揃っているのが強みと言える。
春風と打ち合いをやりつつ、細かな調整点を見つけて修正、また打ち合い。この繰り返しだ。現状受けている感じだと、春風は自分で戦った方が強い。たまにマシンの動きにシンクロするように自分の拳もシュッと出しているのだけど、その鋭さがヤバい。確か空手の経験があるという話だ。自分の拳の速さをマシンに要求しているのだとすればマシンスペック的に厳しいのでは。
「はあ……難しいですね」
「大分難しく考え込んでる感じ?」
「あ、いえ。ロボット大戦の他にもやるべきことが山積していて」
「そうだよな、学祭前だし普通に忙しいよな。そう言えばサークルはどんな感じ?」
「食品ブースは至極順調で、ポテトに使うジャガイモは例によって星大さんから譲っていただいているのですが、今年は塩にも力を入れているのですよ」
「ほう。塩か。確か去年は普通の塩を使ってたけど、それとは違うんだ」
「パロが自宅で眠らせてしまっていた岩塩を使ってしまいたいということだったので、それを使うことになりまして」
「岩塩。MMPの食品ブースでそんな単語が飛び出て来るとは思わなかった。意味がわからない」
「私も最初に聞いた時は「料理上手な人はそんな物を普通に使っているの?」と思わず奏多に確認をしてしまいました」
試食をした感じでは、普通の塩をまぶしたポテトよりも岩塩をまぶした物の方が尖った感じが少なく美味しかったそうなので、パロの岩塩をありがたく使ってしまうことにしたそうだ。調理班としては去年から見ると律と圭斗先輩がいなくなったけど、奏多・殿・パロの3人が新たに戦力として加入したので総合的には強くなったらしい。ヤバい。
「食品は順調そうじゃん。DJブースは? 今年はやるんだろ?」
「それなのですが……不確定要素もまあまあ多くてですね」
「不確定要素?」
「かくかくしかじかで……」
人数も増えたしサークルの設備も強くなったから今年はいろいろやれるぞ、と張り切ったカノンがいろいろな企画を打ち出しているようなのだけど、その進捗がどうなっているのか代表の奈々を含めたサークル員には全く伝わっていないそうだ。動画サイトの配信機能を使って同日開催されている他の大学の大学祭の様子を覗き見しようということらしいのだが。
定例会有志で決まった話ということにはなっているらしいが厳密には一部メンバーの単なる雑談で、公的な話として動いているという風にはその雑談の現場にいたすがやんも思っていなかったそうだ。カノンと仲の良いすがやんですらそうだから、他の大学さんはもっとカノン何言ってんだみたいな状況になっていることだろう。
「希くんはそちらの計画に奔走しているので、学年ごとの企画番組も大枠の本当に枠の部分を組んだだけで話し合いがストップしてしまっていますし、その上ロボット大戦の私の試合を中継するとも言い出しました」
「学祭のブースに中継するつもりか」
「私は細かいことを聞いていないのでどうするつもりなのかは。ただ、大学祭とロボット大戦は運営が違うとは奈々先輩も仰っていましたし、手続きなどもより煩雑になるかと」
「そうだよな。確かに運営は違ったはずだし、ロボット大戦の公式も配信か録画かは忘れたけど撮影はするみたいな話だったからそれとの兼ね合いも出てきそうだよな」
「私も夏合宿が終わってからはオープンキャンパスや作品出展の作品制作で手一杯で、それが終わってからもロボット大戦にかかりっきりなのでサークルのことをあまりお手伝い出来ていないのが心苦しく思うのです。奈々先輩に何か出来ることはありませんかと訊ねても、食品ブースは1年生がいるし大丈夫だよと言われてしまいました」
「まあ、6人いるし車もあるもんなあ。DJブースにある春風の仕事は主に番組をやることだし、タイムテーブルを組んだり配信云々っていうのはノータッチになりそうだよな」
「奈々先輩によれば、希くんの暴走は問題だとは思っているのですが、何の話も通されていない自分では止められそうにないので奏多に任せっきりになってしまっているのが申し訳ないと」
確かにカノンのアイディアややる気は目を見張るものがあるんだけど、奈々が暴走と言うならそれはもう暴走なんだ。カノンが企画するだけして詰められていない部分であるとか、他校や他行事の運営との話し合い、そしてその企画を実現するに当たって足りない技術を奏多が補って何とかやっているという状況だとか。
「学年ごとの企画番組にしても、こういう構成でやるのだと希くんが書いた物を奏多に投げっ放しになっているような状態で」
「そこまでされてて奏多はよくブチ切れてないな。俺だったらヒロにそういうことをされたらまずブチ切れてるけど」
「内心はどうあれ、今はインターフェイスやロボット大戦の運営に対する粗相や事故を起こさないようにということを重視しているようですね。ただ、奈々先輩は、もし希くんの言動が泥船だと思えば奈々先輩も希くんを切り捨てる覚悟はしておいてくださいと言われたようです」
「奈々も。……奈々も、か」
カノンは、目の前の面白そうなことに夢中で自分がどれだけギリギリのところに陥っているのかが全く見えてなさそうだ。そもそもが自分のやろうとしていることの話を奈々に通してないって話だし、OBのMDの件で言ったことが完全にすっぽ抜けてるじゃないか。人があってのラジオ、放送、人があってこそのサークルだぞ。
「春風、今更4年がしゃしゃり出ていいか? このままほっといたら来期のサークルが終わる」
「野坂先輩、どうされるのですか?」
「カノンをシメる」
end.
++++
大学祭前にしていよいよちょっと始まって来たMMP。
春風はノサカ共々ロボット大戦に向けた調整にも励んでいる様子。天体観測もしつつ。
一部メンバーの雑談の様子もいつかやってみたい。メンバーの熱量の差とかがありそう。
(phase3)
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