2024
■突き詰めると何になる?
++++
「ねえすがやん、髭のミルクレープ食べた!? 限定のヤツ!」
「もちろん! 発売日に食べたぜ」
「さぁっすが髭の店員だね!」
すがやんとくるみがミルクレープの話で盛り上がっている。くるみはスイーツの断面フェチで、趣味でスイーツの断面動画を撮影している。あらゆるスイーツを包丁でぶった切って、割る。その行程を映像に残して、スイーツの味などもブログで細かく紹介してるんだ。
すがやんは考古学が専攻だけど地質学や地球史みたいなことも好きな地層フェチで、断層なんかはずーっと眺めていられるらしい。それに似ているからか、ミルクレープのような層状のお菓子が好きとのこと。ミルクレープを重ねる時間のロマン、とは彼の迷言だ。
そんな2人がミルクレープ談義を始めてしまうとまあ長い長い。まず見た目の話に始まり、味や香り、触感(食感の話もしてるだろうけど、フォークで切るときに~というのは手の受ける感覚の話だろう)に至るまで、あらゆる五感を用いて得た感想を語り合う。
「ササ、わかる?」
「まあ、その辺りの感じ方は人それぞれだから」
「わかんねーんだな。俺だけじゃなくてよかった」
「くるみはスイーツに特化してるけど、すがやんて多分あらゆることにそういう感じ方をしてる人だと思うんだよ」
「っていうのは?」
「この間、古本屋で絶版になってるいい本を見つけて衝動買いしたって話をすがやんにしてたんだけど、すがやんは「古い本特有の匂いとか、紙の質感ってあるよなー。どんな風に保存してくれてたんだろー」って言ってて」
「ほーん? わかんね」
「とは思った」
「多分すがやんは洋服でもそういう反応をすると思うし、今のササの話は“古本”っていう物にときめいてるだけだと思うよ。すがやんは時間にロマンを感じる人だから」
「サキ」
サキが言うんならそうなんだろうな、と俺とシノは納得した。ミルクレープの話も確かに「ミルクレープを重ねる時間のロマン」という迷言があるくらいだ。ちなみにこの迷言はくるみにとってはちゃんと名言なので、あまり茶化すと怒られる。
「なーすがやん、俺的にはさ、ケーキは食えればいーやって感じでじーっと眺めんのがまずあんま理解出来ねーんだけど、何が楽しいの? さっさと食いたくね?」
「見てるのが楽しいんだよ」
「だからそれの何が楽しいんだって話だって」
「ミルクレープの場合は1枚1枚層を重ねる行程のことを想像して、どういう技術が詰まってるのかなとか、味付けはどう、焼き方はどうとかいろいろ考えるのが楽しい。もちろん層を見てるのも飽きないし。今は大衆的なお菓子でも、昔は地方の伝統菓子だったかもだから、どういう歴史があるのかなーって考えたり。その上で味わうのがより美味しいって感じかな」
「ふーん?」
「あっシノ、わかんないって顔だな」
「うん。マジでわっかんねー。あっ、今サキが言ってたけど、すがやんて古い物の方にロマンを感じるみたいなトコあんだろ?」
「まあ、どちらかと言えば」
「ヴィンテージカーとかも好きってことか!?」
「ゴメン、それはあんま考えたことないかな」
「ないんかい!」
せっかくシノが自分の領域ですがやんの好きそうな物を見つけたのになあ。残念ながら空振りか。
「あっ、でもそういうことじゃね? 俺は車とかのことはよくわかんないし走ればいいやって考えだけど、シノは車のエンジンとか、そういうの好きだろ?」
「好き」
「音を聞いたり、振動を感じたり」
「好き好き。あのニオイもいいんだよなー、めっちゃわくわくする」
「それと同じ。俺が断層を見る好きと、シノが車に感じる好きは、きっと近いものがある」
「なるほどなー、ちょっとだけわかったぜ! 誰しも好きなものはあるもんな!」
「そういうこと」
「それを突き詰めると変態とか学者になるんだよ」
「今ナチュラルにすがやんととりぃの顔が浮かんだわ」
「えー? そうなるのかー?」
サキがぼそっと言ったことに関しては、俺もシノと同じ事を思ったのでこの2人はやはりお似合いのカップルだなと思う。夏には泊まりで旅行に行っておきながら星空の楽しめる遺跡を満喫しただけで全く以て健全だったっていう話だし(野暮なことを聞いて怒られたのは言うまでもない)。
結局、人それぞれの好きがあるんだねという話で落ち着いた。すがやんとくるみはミルクレープの話であればお互いにカバー出来るからここで盛り上がっている。そう言えば、わからない人に自分の好きな物の話を無理強いするメンバーは思い浮かばないなと気付く。強いて言えば玲那が興奮すると怪しいくらいか。
「すがやんさ、今は俺にもわかりやすく話してくれたけど、なんでわかんねーんだよ! みたいな? 好きな物の話を譲れねー! みたいにはなんねーの?」
「なるなる」
「えっ、なるんだ! 意外ー!」
「ああ、ちょっと前の?」
「それなー」
「サキは知ってんの?」
「まあサキだし知ってるだろ」
「そっか、サキだもんな」
「なになに何の話?」
「恥ずかしい話なんだけど、ちょっと前に春風とケンカしてて」
「えっ!? そんな風に見えなかったよ!? ってか絶対ケンカなんかしなさそうな2人なのに! どーして!?」
「俺も気になる!」
「それこそお互いの好きなことの話をしてるときに白熱しちまって、『謎がより多いのは地面の下か空の上か』みたいなことで少しケンカを」
「……ひっとつもわかんねー」
「うん、あたしもわかんない」
「宇宙は無限に広がり続けてるけどいずれ科学的に解明出来るだろうし、範囲がちょっと狭いとは言え地面に埋もれた人の営みには死んでしまった人の思いや考えのあることだから正解はそうそうわからないだろ。みたいな感じでさ」
「なるほど、すがやんは謎の範囲に“人”を含めることで科学的な正解だけじゃない部分を見ようとしたんだな」
「そうそうそう! さすがササ! いつの時代も一番わからないのは人なんだよ! 歴史は勝者に都合のいいように綴られてるし、宇宙や惑星なんて科学でどうにでもなるんだから地面の下の方が謎だらけじゃん」
「サキ、わかる?」
「定例会でその話をしたときに、俺と奏多は深海でいいじゃんって結論を出したね」
「第三勢力出た」
結局そのケンカはすがやんのお母さんが「科学館で深海展やってるから一緒に見てこい」と半ば無理矢理ねじ伏せ、深海展で多くを得た2人は仲直り、生き生きと自分の領域に帰っていきましたとさ。うん、突き詰めると変態か学者、すがやんととりぃで間違いないな。
「すがやんととりぃってホントお似合いだよねー」
「ありがとうございます」
「とりぃと言えば、ちょっと前に彗星来てたって話だろ?」
「忙しそうにしてた。ロボコンの調整の合間に外出て観測して~って」
「でしょうね」
「すがやんも今度東都にはにわ展見に行くんでしょ」
「行く行く」
「何それ、はにわ展?」
「絶対人気だからじっくりとは見れないと思うけど、それでも行くことに意義があるんだよ。超楽しみでさあ。そのためにバイトをしてたと言っても過言じゃなくて」
「楽しそうで何より」
「無理矢理閉めたな、シノ」
「だってはにわの良さはわかんねーもん」
「すがやん、お金渡すから東都のスイーツたくさん買ってきて!」
end.
++++
ミルキーミルクレープが美味い。ミルクレープを重ねる時間のロマンと言えばこの人。
すがやんのフォロワー・サキに、わからんけどわかった!的ムーブのシノ、ササはピンポイントにすがやんの理解者。
(phase3)
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「ねえすがやん、髭のミルクレープ食べた!? 限定のヤツ!」
「もちろん! 発売日に食べたぜ」
「さぁっすが髭の店員だね!」
すがやんとくるみがミルクレープの話で盛り上がっている。くるみはスイーツの断面フェチで、趣味でスイーツの断面動画を撮影している。あらゆるスイーツを包丁でぶった切って、割る。その行程を映像に残して、スイーツの味などもブログで細かく紹介してるんだ。
すがやんは考古学が専攻だけど地質学や地球史みたいなことも好きな地層フェチで、断層なんかはずーっと眺めていられるらしい。それに似ているからか、ミルクレープのような層状のお菓子が好きとのこと。ミルクレープを重ねる時間のロマン、とは彼の迷言だ。
そんな2人がミルクレープ談義を始めてしまうとまあ長い長い。まず見た目の話に始まり、味や香り、触感(食感の話もしてるだろうけど、フォークで切るときに~というのは手の受ける感覚の話だろう)に至るまで、あらゆる五感を用いて得た感想を語り合う。
「ササ、わかる?」
「まあ、その辺りの感じ方は人それぞれだから」
「わかんねーんだな。俺だけじゃなくてよかった」
「くるみはスイーツに特化してるけど、すがやんて多分あらゆることにそういう感じ方をしてる人だと思うんだよ」
「っていうのは?」
「この間、古本屋で絶版になってるいい本を見つけて衝動買いしたって話をすがやんにしてたんだけど、すがやんは「古い本特有の匂いとか、紙の質感ってあるよなー。どんな風に保存してくれてたんだろー」って言ってて」
「ほーん? わかんね」
「とは思った」
「多分すがやんは洋服でもそういう反応をすると思うし、今のササの話は“古本”っていう物にときめいてるだけだと思うよ。すがやんは時間にロマンを感じる人だから」
「サキ」
サキが言うんならそうなんだろうな、と俺とシノは納得した。ミルクレープの話も確かに「ミルクレープを重ねる時間のロマン」という迷言があるくらいだ。ちなみにこの迷言はくるみにとってはちゃんと名言なので、あまり茶化すと怒られる。
「なーすがやん、俺的にはさ、ケーキは食えればいーやって感じでじーっと眺めんのがまずあんま理解出来ねーんだけど、何が楽しいの? さっさと食いたくね?」
「見てるのが楽しいんだよ」
「だからそれの何が楽しいんだって話だって」
「ミルクレープの場合は1枚1枚層を重ねる行程のことを想像して、どういう技術が詰まってるのかなとか、味付けはどう、焼き方はどうとかいろいろ考えるのが楽しい。もちろん層を見てるのも飽きないし。今は大衆的なお菓子でも、昔は地方の伝統菓子だったかもだから、どういう歴史があるのかなーって考えたり。その上で味わうのがより美味しいって感じかな」
「ふーん?」
「あっシノ、わかんないって顔だな」
「うん。マジでわっかんねー。あっ、今サキが言ってたけど、すがやんて古い物の方にロマンを感じるみたいなトコあんだろ?」
「まあ、どちらかと言えば」
「ヴィンテージカーとかも好きってことか!?」
「ゴメン、それはあんま考えたことないかな」
「ないんかい!」
せっかくシノが自分の領域ですがやんの好きそうな物を見つけたのになあ。残念ながら空振りか。
「あっ、でもそういうことじゃね? 俺は車とかのことはよくわかんないし走ればいいやって考えだけど、シノは車のエンジンとか、そういうの好きだろ?」
「好き」
「音を聞いたり、振動を感じたり」
「好き好き。あのニオイもいいんだよなー、めっちゃわくわくする」
「それと同じ。俺が断層を見る好きと、シノが車に感じる好きは、きっと近いものがある」
「なるほどなー、ちょっとだけわかったぜ! 誰しも好きなものはあるもんな!」
「そういうこと」
「それを突き詰めると変態とか学者になるんだよ」
「今ナチュラルにすがやんととりぃの顔が浮かんだわ」
「えー? そうなるのかー?」
サキがぼそっと言ったことに関しては、俺もシノと同じ事を思ったのでこの2人はやはりお似合いのカップルだなと思う。夏には泊まりで旅行に行っておきながら星空の楽しめる遺跡を満喫しただけで全く以て健全だったっていう話だし(野暮なことを聞いて怒られたのは言うまでもない)。
結局、人それぞれの好きがあるんだねという話で落ち着いた。すがやんとくるみはミルクレープの話であればお互いにカバー出来るからここで盛り上がっている。そう言えば、わからない人に自分の好きな物の話を無理強いするメンバーは思い浮かばないなと気付く。強いて言えば玲那が興奮すると怪しいくらいか。
「すがやんさ、今は俺にもわかりやすく話してくれたけど、なんでわかんねーんだよ! みたいな? 好きな物の話を譲れねー! みたいにはなんねーの?」
「なるなる」
「えっ、なるんだ! 意外ー!」
「ああ、ちょっと前の?」
「それなー」
「サキは知ってんの?」
「まあサキだし知ってるだろ」
「そっか、サキだもんな」
「なになに何の話?」
「恥ずかしい話なんだけど、ちょっと前に春風とケンカしてて」
「えっ!? そんな風に見えなかったよ!? ってか絶対ケンカなんかしなさそうな2人なのに! どーして!?」
「俺も気になる!」
「それこそお互いの好きなことの話をしてるときに白熱しちまって、『謎がより多いのは地面の下か空の上か』みたいなことで少しケンカを」
「……ひっとつもわかんねー」
「うん、あたしもわかんない」
「宇宙は無限に広がり続けてるけどいずれ科学的に解明出来るだろうし、範囲がちょっと狭いとは言え地面に埋もれた人の営みには死んでしまった人の思いや考えのあることだから正解はそうそうわからないだろ。みたいな感じでさ」
「なるほど、すがやんは謎の範囲に“人”を含めることで科学的な正解だけじゃない部分を見ようとしたんだな」
「そうそうそう! さすがササ! いつの時代も一番わからないのは人なんだよ! 歴史は勝者に都合のいいように綴られてるし、宇宙や惑星なんて科学でどうにでもなるんだから地面の下の方が謎だらけじゃん」
「サキ、わかる?」
「定例会でその話をしたときに、俺と奏多は深海でいいじゃんって結論を出したね」
「第三勢力出た」
結局そのケンカはすがやんのお母さんが「科学館で深海展やってるから一緒に見てこい」と半ば無理矢理ねじ伏せ、深海展で多くを得た2人は仲直り、生き生きと自分の領域に帰っていきましたとさ。うん、突き詰めると変態か学者、すがやんととりぃで間違いないな。
「すがやんととりぃってホントお似合いだよねー」
「ありがとうございます」
「とりぃと言えば、ちょっと前に彗星来てたって話だろ?」
「忙しそうにしてた。ロボコンの調整の合間に外出て観測して~って」
「でしょうね」
「すがやんも今度東都にはにわ展見に行くんでしょ」
「行く行く」
「何それ、はにわ展?」
「絶対人気だからじっくりとは見れないと思うけど、それでも行くことに意義があるんだよ。超楽しみでさあ。そのためにバイトをしてたと言っても過言じゃなくて」
「楽しそうで何より」
「無理矢理閉めたな、シノ」
「だってはにわの良さはわかんねーもん」
「すがやん、お金渡すから東都のスイーツたくさん買ってきて!」
end.
++++
ミルキーミルクレープが美味い。ミルクレープを重ねる時間のロマンと言えばこの人。
すがやんのフォロワー・サキに、わからんけどわかった!的ムーブのシノ、ササはピンポイントにすがやんの理解者。
(phase3)
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