2024

■お食事中には気を付けて

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「そー言えばさ」
「ん?」
「アンタって卒業したらどーゆートコで働くの?」
「その話してなかったっけ」
「してないよ。アタシら地味に全然会ってないし立ち話すらしてないじゃん」
「それな」

 サークルを引退して、就活やら卒論やらに本腰を入れて、とかナントカカントカやっている間に流れた時は無情なり。サークル同期たちともよほど行事がなければ会わないので、就活が終わったのかどうなのかという話も全然していなかった。
 ゴティの近況みたいなことはゴティと仲のいい小田ちゃんやひらっちゃんからちょこちょこ聞いてはいたんだけど、アタシ自身積もる話というのは全然していない。向こうの話が伝わってるってコトはアタシの話もある程度は伝わってるんだろうけどね。
 で、学部の違うLの話なんかは全然聞こえてこなかったし、久々に同期で飲もうという話になって立ち入ったLの部屋がもう懐かしい。ムギツーってこんなんだったなって思ったもんね。無駄に綺麗好きなのは相変わらずっぽくて、掃除は徹底されてるみたいだった。

「俺さあ、ゴミ屋敷の片付けとかする会社に就職すんだよ」
「ゴミ屋敷の片付け!?」
「まあ、らしいっちゃらしいけど、ゴミ屋敷って、ゴミ屋敷か」
「ゴミ屋敷だな」
「また何で。いくら掃除が趣味でもちょっとやりすぎじゃない?」
「ゴミ屋敷掃除の様子を動画で見て興味を持ったんだけど、ただ家の中にある物を一律全部処分するんじゃなくて、資源は資源として分別するし、海外に送れる物とかオークションに出せる物とかって分けてたんだよ。ただ捨てるだけじゃないんだなーって思って」
「ゴミ屋敷ってさ、イメージ的にゴミしかなさそうだしなんか環境とかヤバそう」
「な。テレビでちょっと見るだけでもうわーってなるよな」
「使える物は次に生かしたり、お客さんにとって大事な物を掘り起こして保護したり、場合によっちゃ人生の再起にも繋がってくるんだなって思ってさ。もちろん合法的に大がかりな掃除が出来るっていうのも魅力ではあったんだけど」

 家をゴミ屋敷にはいろいろなパターンがあるそうだ。ただだらしない人がそうしたパターンもあるし、仕事で精神を病んで気付けばそうなっていた人、人知れず病気で体が不自由になってしまった人などなど……掃除を依頼した身内の人がもっと早く気付いていればと後悔している動画もあったらしい。
 部屋を綺麗にすることで次の人生に進んでいくきっかけとなればそれはいいことなんだろうなと思う。しかも、Lが言うように合法的にやれる掃除だからね。だけど動画で見える部分だけが事業の全てでもないはずで、裏側はどうなっているのか。まあ、Lの業界だけの話じゃないけど。

「つかお前綺麗好きじゃん」
「綺麗好きだな」
「俺の知ってるゴミ屋敷ってゴキだのカビだのがヤバそうな感じだけど、そんな空間にいれるのかよ」
「そうそう、ゴキのフンが壁一面ブワーッてなってたり、ネズミのフンとかもあるな。ゴミで埋もれたトイレが使えなくなってペットボトルを溲瓶代わりにしてその辺に立ててあるとか、ペットとして飼ってる動物の糞尿が放置されてるとか、冷蔵庫の中でウン年前の食品が腐ってドロドロになってたり」
「おえー」
「キツっ」
「お前絶対無理そうじゃん」
「――と思うだろ。俺はただの綺麗好きであって潔癖性ではないから汚い環境には居られるし、何ならその劣悪な環境を良くしていくことにやりがいを感じる性質だから、最初が汚ければ汚いほど燃えるんだよ」
「なるほど、エージとの違いはそこか」
「エージは絶対ムリだな」
「エージは本人と高木が潔癖性じゃないって言ってるけど、ありゃ十分潔癖性に片足突っ込んでると思う」
「タカちゃんと言えばさ、エージがいなかったらそれこそ部屋をゴミ屋敷にしてそうだなって思ったよね」
「そこは上手いこと絶妙にマッチしたっつー感じなんじゃん?」

 そう言えば、自分の部屋は定期的に掃除してるからそうそう酷いことにならなくって、手強い汚れと戦いたいっていう理由で高ピー先輩の部屋に押し掛けて水回りの掃除を買って出たってこともあったらしいね、先輩の在学中には。ゴミ屋敷の掃除も楽しみだけど、その後のハウスクリーニングがより楽しみなんだとか。

「でも、掃除の過程で出た要らない物を捨てるんじゃなくて、使える物は他に譲る、みたいなことが良いことだって前提が生まれたのはMBCCのサークル室の掃除からだったんだよな。ほら、あの機材の壁を崩して他の大学さんに分配したじゃん。欲しいのあったら持ってってくれって」
「あー、あったなーそんなの」
「あれでただ掃除をするだけじゃなくて、掃除をしたことによって誰かの役に立つかもしれないっていう考えが生まれたし、サークルあっての俺の進路とも言える」
「んな大袈裟な」
「サークルあっての進路ねえ。それは確かにわかんないでもないかも。アタシもイベント会社に進むけど、何が根っこにあるかって言ったら対策委員の活動だもん」
「はえー」

 好きなこととか興味のあることを仕事にしようと思ったときに、もちろんそのことが好きって気持ちはあるんだろうけど、今から思えばこれがきっかけって言えるかもしれない、みたいな事柄はあったんだろうなって。アタシなら対策委員だし、Lならサークル室の掃除だし。

「てかさL、ちょっと野暮なこと聞いていい?」
「まあ、良識の範囲内でなら」
「例えば、仕事ですンごい現場に行ったとするじゃない?」
「まあある話だな」
「でさ、仕事終わった後に直クンとデート~みたいなことになったらさ、いくらシャワーとかしても落としきれない塵とか臭いとか、気にならない?」
「ああ、自分自身の衛生面みたいなことか?」
「そう。だってゴキのフンとかがブワーッでしょ? いくら防護マスクとかしてても肺に積もりそう。アレルギーにもなりかねないっしょ?」
「あー、実際ゴキアレルギーとかもあるらしいもんな、アレルギー検査の項目とかで。つか肺に行く前に鼻毛よ鼻毛。ブロックしてるトコの衛生キープはマストよ」
「鼻うがいみたいなことか。あの、こうやって、片方から入れて片方から出すみたいなの」
「それそれ」
「目洗うヤツもやった方がいいよ、アイボン的な。目は剥き出しの臓器って言われてるらしいし」
「確かに、健康管理と衛生キープは大きな課題だよなあ。参考になった。サンキュ。でもよーっぽど酷いトコ行った後は会えないことも覚悟する必要があるか。変な物持ち帰るワケに行かないし」
「おーおー、幸せなこって。式には呼んでくれよなー」
「呼んでよねー」
「気が早いんだよお前らは」


end.


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リハビリ。久々に4年生たち。

(phase3)

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