2024
■思い切る力を使って
++++
「えーっ!?」
「そういうことなんで、よろしくお願いします」
10月。秋学期に入って早々、情報センターにサークルの後輩であるがっくんが訪ねて来た。がっくんは理工学部の芸術工学科だったはずだから、普通に大学生活を送る上では情報センターに来ることはほとんどないはず。履修登録も理工学部の会場は情報センターじゃなくなったもんね。俺的にはセンターにいる時間も長いからこっちから登録したいんだけど。で、がっくんが訪ねて来た要件だよ!
「えっと、情報センターでバイトをしたいってこと?」
「はい、そうです。一般のお店みたいに面接とか、あるんですよね」
「一応面接はやることになってるね。基本的にバイトリーダーが話を聞いて合否を決めるから、俺がいろいろ聞くことになるけど」
「えー、だったらあんまり緊張しなくていいですねー。ミドリ先輩よろしくお願いしまーす」
そう、なんとなんとがっくんは情報センターにバイトの応募をしに来たんだよね。まあ、理工学部の1年生だからそこまで平日に空きコマはないだろうけど、放課とか土曜日とかがメインになってくるのかな。学内にいながらちょっとした時間に働けるっていうのは情報センターバイトのいいところではあるんだけど。
「今時間大丈夫? がっくんが大丈夫なら今ここで面接に入っちゃうけど」
「あっ、大丈夫です。お願いします」
「――とは言っても理工学部だったらパソコンの扱いは人並みには出来るよねえ」
「普通に使う分には問題ないと思うんですけど」
「芸術工学科ってことは、Adobeのソフトとかも」
「使えますね」
「だよねえ」
「えっ、情報センターってAdobeのソフト入ってるんですか?」
「一応ね。今年入ったばっかりなんだけど。だからある程度扱いがわかる人がスタッフにいてくれるとこっちとしてもちょっと安心だなって。ちなみに2年生にも芸工の子はいるんだけど」
「へー、そうなんですねー」
「ちなみにだけどがっくんって人見知りではないよね」
「ないですね」
そうなんだよねえ。これまでサークルで見て来た感じだと特段人見知りではなさそうだし、今聞いた感じではパソコン関係の能力も文句なしだから採用ベースで話を進めちゃいたい。入れるコマ数が少なくてもいざという時に動ける人は多い方がいいっていうのは1年の頃に痛いほど思い知らされてる。
「それじゃあ採用ベースで話を進めるね」
「ありがとうございます」
「ここからは諸注意を。時給は張り紙にあった通り1100円です。だけど1日当たりの日給の上限が6600円までっていう決まりがあって。6時間以上働いてもそれ以上日給には加算されません。大丈夫?」
「はーい」
「あと、仕事中はスタッフジャンパーを着てもらうことになるんだけど、がっくんは身長的にサイズはLになるのかな。有馬くんのジャンパー借りよう。ちょっと羽織ってみてくれる?」
「こんな感じですかー?」
「うん、ちょうどだね。じゃあLサイズで注文しておくね。それで、シフトだけど」
「えっと、ダブルワークなんですけど大丈夫ですか? 一応大丈夫だっていう風に聞いて来てるんですけど」
「うん、ダブルワークも大丈夫。シフトは言ってくれれば調整出来るし。あっ、シフトの調整と言えばがっくんて1人暮らしだよね? 帰省とかで長くシフトに入れないっていう場合は、なるべく早めに言ってくれれば調整するし、相談してもらって」
「はーい」
「あとはマグカップとか飲みたいお茶とかを持ち込んでもらえるのと、何だろう、仕事の細かいことについてはちゃんとシフトに入ってから教えるから、こんな感じかな?」
ダブルワークに関して言えば俺の中では林原さんとかアオのイメージが強い。情報センターだけで生計を立てようと思うとなかなか厳しくなることもあるかもしれないけど、すき間バイトを2つやってるっていう感覚だとまあまあやりやすいのかもしれないね。結局俺はセンターでしか働いてないけど。バイトがあるから起きて学校に来れてる感はちょっとある。
「ちなみにだけど、がっくんてどうして情報センターでバイトしようと思ったの? 先にどこかでバイトしてるんだよね?」
「そうですね。最近自分の車を持ったんで、駐車場付きのマンションがいいなーって思って西海に引っ越したんですよ」
「えっ、そうなの!? 思い切ったね!」
「車があれば大学の近くに住んでなきゃいけない理由もないかなって思って」
「まあ、大学近くには大学近くなりの利点はあるけど、ちゃんと起きて大学に来られるタイプの人だったら確かに全然いいと思う」
「この間ミドリ先輩に教えてもらった西海の洋食屋さんあるじゃないですか」
「うんうん、行ってみた?」
「はい。雰囲気もすっごい良かったんで、そこでバイトを始めたんですよー」
「えー! そうなんだ!」
「そこでピアノ弾いてる人と一緒にまかない食べてたときに、面白い人と関わりを持ちたいなら情報センターに行けばいくらでもいるって言ってて、じゃあ行ってみようって思って」
ん?
「えーっと……がっくん、その洋食屋さんでピアノ弾いてる人って、髪をひとつに結んでる男の人? 鋭い目つきでメガネをかけた」
「あっ、そうです」
「ええー……林原さんじゃん……」
確かにこの間がっくんにバレーナ・ビアンカのことは教えたんだけど、星港からだと車が無いと行くのは結構大変だし、大学在学中にチャンスがあれば行ってみればいいよくらいのニュアンスでオススメしたのに。車を買って、駐車場が必要になったからって西海に引っ越しちゃうってなかなかぶっ飛んでる。うん、ある意味で情報センターには向いてるかも。いやいやいや、そうじゃなくて林原さんだよ!
「がっくん、その人が俺の前のバイトリーダーだよ、情報センターの」
「えーっ! そうなんですかー」
「まあ、バイトリーダーがダブルワークをやってたくらいだから安心して働いてもらって」
「あっ、そうですよね。あの、それはそうとしてひとつ聞いていいですか?」
「うん、なに?」
「事務所に入ったときから気になってたんですけど、部屋を埋め尽くさんばかりのこの箱は……」
「よくぞ聞いてくれました!」
情報センター的にはいつもの季節がやってきていて、ジャガイモに押し潰されて困っているところ! 春山さんはもうとっくにいなくなっちゃってるのに、気配だけがこうやって半期に1回くらいずつ襲って来るんだよね! どうせ襲って来るならバターサンドがいいのに。唯一の救いは向島さんからの大量予約が入ってることだね。あっ。
「かくかくしかじかな理由でジャガイモが押し寄せて来るようになっちゃったんだけど、ちなみにがっくんの車って普通車? 軽四?」
「普通車です」
「がっく~ん、それじゃあ、初日は大事な大事な仕事をしようか~」
「え、ミドリ先輩何か急に圧つよっ、えっ」
「よかったー、俺と有馬くんの車は軽だから運搬力と山越えの力がちょっとねー。よかったよかった。あっ、その仕事の詳細はシフト初日に。みんなに挨拶をしたらもうやっちゃう感じで行きましょう」
「えっと、よくわかんないけどわかりました」
がっくんには悪いけど、バイトリーダーたるもの、どんな手段を使っても早く事務所を広くしないといけないので! よーしジャガイモを運んじゃうぞー!
end.
++++
時勢が時勢なので、情報センターの時給もサイト開始時よりちょっと上がりました。
がくぴが暴れることによって情報センターも動くしまだ見ぬ奇人変人の1年生も生えて来るかも。
(phase3)
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「えーっ!?」
「そういうことなんで、よろしくお願いします」
10月。秋学期に入って早々、情報センターにサークルの後輩であるがっくんが訪ねて来た。がっくんは理工学部の芸術工学科だったはずだから、普通に大学生活を送る上では情報センターに来ることはほとんどないはず。履修登録も理工学部の会場は情報センターじゃなくなったもんね。俺的にはセンターにいる時間も長いからこっちから登録したいんだけど。で、がっくんが訪ねて来た要件だよ!
「えっと、情報センターでバイトをしたいってこと?」
「はい、そうです。一般のお店みたいに面接とか、あるんですよね」
「一応面接はやることになってるね。基本的にバイトリーダーが話を聞いて合否を決めるから、俺がいろいろ聞くことになるけど」
「えー、だったらあんまり緊張しなくていいですねー。ミドリ先輩よろしくお願いしまーす」
そう、なんとなんとがっくんは情報センターにバイトの応募をしに来たんだよね。まあ、理工学部の1年生だからそこまで平日に空きコマはないだろうけど、放課とか土曜日とかがメインになってくるのかな。学内にいながらちょっとした時間に働けるっていうのは情報センターバイトのいいところではあるんだけど。
「今時間大丈夫? がっくんが大丈夫なら今ここで面接に入っちゃうけど」
「あっ、大丈夫です。お願いします」
「――とは言っても理工学部だったらパソコンの扱いは人並みには出来るよねえ」
「普通に使う分には問題ないと思うんですけど」
「芸術工学科ってことは、Adobeのソフトとかも」
「使えますね」
「だよねえ」
「えっ、情報センターってAdobeのソフト入ってるんですか?」
「一応ね。今年入ったばっかりなんだけど。だからある程度扱いがわかる人がスタッフにいてくれるとこっちとしてもちょっと安心だなって。ちなみに2年生にも芸工の子はいるんだけど」
「へー、そうなんですねー」
「ちなみにだけどがっくんって人見知りではないよね」
「ないですね」
そうなんだよねえ。これまでサークルで見て来た感じだと特段人見知りではなさそうだし、今聞いた感じではパソコン関係の能力も文句なしだから採用ベースで話を進めちゃいたい。入れるコマ数が少なくてもいざという時に動ける人は多い方がいいっていうのは1年の頃に痛いほど思い知らされてる。
「それじゃあ採用ベースで話を進めるね」
「ありがとうございます」
「ここからは諸注意を。時給は張り紙にあった通り1100円です。だけど1日当たりの日給の上限が6600円までっていう決まりがあって。6時間以上働いてもそれ以上日給には加算されません。大丈夫?」
「はーい」
「あと、仕事中はスタッフジャンパーを着てもらうことになるんだけど、がっくんは身長的にサイズはLになるのかな。有馬くんのジャンパー借りよう。ちょっと羽織ってみてくれる?」
「こんな感じですかー?」
「うん、ちょうどだね。じゃあLサイズで注文しておくね。それで、シフトだけど」
「えっと、ダブルワークなんですけど大丈夫ですか? 一応大丈夫だっていう風に聞いて来てるんですけど」
「うん、ダブルワークも大丈夫。シフトは言ってくれれば調整出来るし。あっ、シフトの調整と言えばがっくんて1人暮らしだよね? 帰省とかで長くシフトに入れないっていう場合は、なるべく早めに言ってくれれば調整するし、相談してもらって」
「はーい」
「あとはマグカップとか飲みたいお茶とかを持ち込んでもらえるのと、何だろう、仕事の細かいことについてはちゃんとシフトに入ってから教えるから、こんな感じかな?」
ダブルワークに関して言えば俺の中では林原さんとかアオのイメージが強い。情報センターだけで生計を立てようと思うとなかなか厳しくなることもあるかもしれないけど、すき間バイトを2つやってるっていう感覚だとまあまあやりやすいのかもしれないね。結局俺はセンターでしか働いてないけど。バイトがあるから起きて学校に来れてる感はちょっとある。
「ちなみにだけど、がっくんてどうして情報センターでバイトしようと思ったの? 先にどこかでバイトしてるんだよね?」
「そうですね。最近自分の車を持ったんで、駐車場付きのマンションがいいなーって思って西海に引っ越したんですよ」
「えっ、そうなの!? 思い切ったね!」
「車があれば大学の近くに住んでなきゃいけない理由もないかなって思って」
「まあ、大学近くには大学近くなりの利点はあるけど、ちゃんと起きて大学に来られるタイプの人だったら確かに全然いいと思う」
「この間ミドリ先輩に教えてもらった西海の洋食屋さんあるじゃないですか」
「うんうん、行ってみた?」
「はい。雰囲気もすっごい良かったんで、そこでバイトを始めたんですよー」
「えー! そうなんだ!」
「そこでピアノ弾いてる人と一緒にまかない食べてたときに、面白い人と関わりを持ちたいなら情報センターに行けばいくらでもいるって言ってて、じゃあ行ってみようって思って」
ん?
「えーっと……がっくん、その洋食屋さんでピアノ弾いてる人って、髪をひとつに結んでる男の人? 鋭い目つきでメガネをかけた」
「あっ、そうです」
「ええー……林原さんじゃん……」
確かにこの間がっくんにバレーナ・ビアンカのことは教えたんだけど、星港からだと車が無いと行くのは結構大変だし、大学在学中にチャンスがあれば行ってみればいいよくらいのニュアンスでオススメしたのに。車を買って、駐車場が必要になったからって西海に引っ越しちゃうってなかなかぶっ飛んでる。うん、ある意味で情報センターには向いてるかも。いやいやいや、そうじゃなくて林原さんだよ!
「がっくん、その人が俺の前のバイトリーダーだよ、情報センターの」
「えーっ! そうなんですかー」
「まあ、バイトリーダーがダブルワークをやってたくらいだから安心して働いてもらって」
「あっ、そうですよね。あの、それはそうとしてひとつ聞いていいですか?」
「うん、なに?」
「事務所に入ったときから気になってたんですけど、部屋を埋め尽くさんばかりのこの箱は……」
「よくぞ聞いてくれました!」
情報センター的にはいつもの季節がやってきていて、ジャガイモに押し潰されて困っているところ! 春山さんはもうとっくにいなくなっちゃってるのに、気配だけがこうやって半期に1回くらいずつ襲って来るんだよね! どうせ襲って来るならバターサンドがいいのに。唯一の救いは向島さんからの大量予約が入ってることだね。あっ。
「かくかくしかじかな理由でジャガイモが押し寄せて来るようになっちゃったんだけど、ちなみにがっくんの車って普通車? 軽四?」
「普通車です」
「がっく~ん、それじゃあ、初日は大事な大事な仕事をしようか~」
「え、ミドリ先輩何か急に圧つよっ、えっ」
「よかったー、俺と有馬くんの車は軽だから運搬力と山越えの力がちょっとねー。よかったよかった。あっ、その仕事の詳細はシフト初日に。みんなに挨拶をしたらもうやっちゃう感じで行きましょう」
「えっと、よくわかんないけどわかりました」
がっくんには悪いけど、バイトリーダーたるもの、どんな手段を使っても早く事務所を広くしないといけないので! よーしジャガイモを運んじゃうぞー!
end.
++++
時勢が時勢なので、情報センターの時給もサイト開始時よりちょっと上がりました。
がくぴが暴れることによって情報センターも動くしまだ見ぬ奇人変人の1年生も生えて来るかも。
(phase3)
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