2024

■Who's behind all this?

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「やあやあ野坂さん、精が出ますねえ」
「デジャヴだな。そういう自分はどうなんだ。何か、青丹の大学のバドミントンサークルから果たし状を叩きつけられたって話じゃないか」
「どこから聞いたんすか」
「春風から聞いた。奏多がジョギングの頻度を上げてるって。言ってくれれば自分も付き合うのにって言ってたぞ」
「まだまだ全然夏っすけど暦の上では食欲の秋っすもんね。春風も運動の必要がありますか」

 野坂さんは相変わらずロボコンに向けて仕上げて来てるって感じなんだろう。春風はやっとサークル関係の仕事が一段落して、ロボコンに集中出来るようになってきたといったところだろうか。ロボコンの方が忙しそうだからジョギングやその他家で出来るトレーニングは1人でやってたけど、今度は声かけてみるか。

「まあねえ、手合わせしたいと思われてるうちが華っすよマジで」
「それはそうだ」
「でも、MMPと掛け持っててバドやる頻度も下がってたところにこの話っしょ? もー上げてくのに必死っすよ俺も」
「去年は前原先輩を倒すって言って練習してたんだろ?」
「っつっても前原さん云々は結構長い期間かけてやってたっすからね。今はひと月でコンディション持ってかなきゃいけないんで」

 俺だってどうせゲームをやるなら強い奴とやりたいし、前原さんの宿命のライバルだっていう橘亮介が俺とやりたいって言ってくれてんならそれは受けて立ちたい。問題は今の俺がそう言われるだけのレベルを保てているのかという話で。血の滲むような努力っつーのを人前に出さなきゃいけなくなってるほどには危機感がある。
 ちなみにMMPの方は大学祭に向けて動き始めたところで、食品ブースに関してはかっすーが星大から謎のジャガイモを仕入れてくれるという話で、フライドポテトを出そうということになった。今年はDJブースもやることになってるから番組のことについても考えなきゃいけない。で、かっすーが打ち出してる計画の裏に積み重なる課題も潰す必要がある。地味に忙しい。

「前原先輩がバドミントンではすこぶる真面目で結構な強者だと聞いて俺はまあまあ疑ってたんだけど、あの人って本当に強いんだな」
「あの人は普通に強いっすよ。で、俺に果たし状出してきた奴はその前原さんの緑風時代の宿命のライバルってヤツらしいっす。なんでフツーに強いし、前原さんと実力が五分なら俺が勝てる見込みはまあ低いっす」
「奏多がそれだけ言うならガチなんだな」
「ただね、やるからにはちょっとでも食らいつきたいっしょ」
「何か、MMPでは飄々とした兄貴分って感じだけど、バドミントンの話になると真っ直ぐなバドミントン少年だから人の印象ってわかんないな」
「少年て。忘れてるかもっすけど俺今年22っすよ、アンタとタメ」
「いや、もちろんわかってるけど、その上でな」
「つか、何で橘亮介が俺のことを知ってんのかっていうのが謎のままなんだよな。ま、俺程のイケメンにもなればワンチャン盗撮されてSNSでバズる可能性もあるけど」
「春風がいたら怒られてるぞ今の発言。奏多がイケメンなのは同意するけどだな。素直に行けば前原先輩経由とか?」
「それが、今回の果たし状に至った経緯は違うらしいんすよ」
「ほう」
「何か、地元の悪友って人が俺の事を知ってたとかで。っつっても緑風関係の知り合いなんか前原さん以外に心当たりなんかねーし、マジで俺の知らねートコでバズった? 的な」
「知らないところで自分の話をされてたらぞわぞわするよな」

 割と真面目にそれだけがずっと引っかかっている。マジでどっかで盗撮でもされてネットに上げられでもしてたらロクでもない話だし。もしそうだとすれば然るべき対処をしなきゃいけなくなるんだが、それはそれで手間っつーか。

「それで、相手の情報なんかは仕入れてたりするのか?」
「一応前原さんから聞きましたよ。俺と比べると15センチほど小さくて、すげー厭らしいことしてくるサウスポーって情報はもらってます」
「前原先輩が厭らしいって言うとか、相当性格が捻じ曲がってないかその相手」
「そっすよね。俺から見りゃ前原さんもまあまあ嫌なコトやってくる人なんすよ。その前原さんが言うとかどんだけだよって話っすよ」
「そうは言っても前原先輩って誰にでも性格が悪いって言うよな。菜月先輩のことも性格悪いって、菜月先輩は性格が悪いんじゃなくてラブ&ピースの申し子であるというだけでだな!」
「MMPで言う「ラブ&ピース」って“抹殺”の言い換えっすよね、奈々さんが言ってましたけど」
「だな」

 話によれば菜月サンは毒舌がキレッキレだったり、叩ける財布を叩いて人に金を出させるのが上手いって話だ。うんまあ、お世辞にも性格のいい人間がやることではねーよなって思っちまうが。ただ、野坂さんの前で菜月サンと圭斗サンをディスると絶対めんどくせーことになるのでここでは敢えて黙っておく。

「つか前原さんて菜月サンと知り合いなんすか?」
「って言うか奏多が言ってなかったか? MMPに見学に来るカノンを引率するときに連絡があーだこーだって」
「あー、そーだそーだ、忘れてたわ。そこ繋がってたっすね! そーだそーだ、真希ちゃんのダチだわ菜月サンて確か!」
「菜月先輩が言ってたことによれば、冬休みに地元でストレス発散に悪友とバドミントンでもやるかーって話になったときに、その悪友の人の宿命のライバルっていう前原先輩にも声がかかってウンタラカンタラ的な」
「あー!? 菜月サンの地元の悪友!? ってもしかして橘亮介っすか!?」
「や、そこまでは知らないけど」
「いやー、こ~れは繋がった! 前原さん以外に緑風関係の知り合いなんかいねーよって思ったけど、菜月サンて緑風の人なんすね!」
「ああ。菜月先輩は緑風のご出身でいらっしゃるな」
「あースッキリした! これで心置きなく練習に集中出来ます」
「それはよかった」
「あ、向こうの都合もあるんでマストじゃないんすけど、アンタさえ良ければ菜月サン突っついて橘亮介に俺の事話したかどうかって聞いてもらえます?」
「まあ、それこそ菜月先輩のご都合もあるだろうから返事には期待しないでもらいたいんだけど、聞くだけ聞いてみるよ」
「お手数おかけします」

 俺の周りの世間はまあまあ狭い。ということがわかった。と言うか、今に至るまでの時間の中に情報は散らばっていて、それを必要なときに思い出して繋ぐことが出来るかどうか、という話だったな。そういや真希ちゃんもたまに菜月サンの名前出してたし、菜月サンは悪友にバドミントンの基礎を教わったって話も聞いたことがあった。だからか結構厭らしいことしてくるんだと。

「うん、やっぱりバドミントンのときの奏多は真っ直ぐだよなあ」
「だから前原さんの小賢しさに遊ばれるんだって真希ちゃんに言われてたっす」
「真っ直ぐ向かって来る相手を軽くいなしたい気持ちはちょっとわかるんだ。今やってるロボット大戦の調整がまさにそうだから。もしかしたら俺も性格が悪いのかもしれない」
「なるほど、現状春風はアンタにボコボコにされてるんすね」


end.


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緑風関係の知り合い回答編。

(phase3)

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