2024
■どうせラジオをやるなら
++++
正直、ちょっと気が重い。だけどこれは必要な事だと思っているし、それが出来るのも俺しかいないと思っている。俺がこの話を受けたことをバレないようにはしてもらえるということだからそれを信じるしかなく、もしバレてしまったときのことを思うと恐怖しかない。
『高木先輩、今日はよろしくお願いします』
「いえいえ。サキもセッティングお疲れさまです」
サキから、佐藤ゼミでやっているラジオの実状について、実際に番組を持っているゼミ生の話をFMにしうみの編成局長が聞きたがっているという話を持ちかけられた。昨年度末くらいから、コミュニティラジオ局のFMにしうみでは学生番組の枠を作ろうという話が持ち上がっている。
そういう経緯に至ったのは、去年高崎先輩がやっていた番組が好評だったからだそうだ。それで、学生主動のフレッシュな番組の枠があってもいいのかもしれないね、という空気になったとか。じゃあ誰かやりますか、と話を持ちかけられたのがインターフェイスと佐藤ゼミだ。
インターフェイス側の実状についてはバイトをしているサキがいるし、この間の夏合宿でも局側の人がモニター会を見に来たとかで、結構リアルに伝わっている。だけど、佐藤ゼミの実状は先生の話とインターネットに上がっている番組のアーカイブでしかわからない。
先生は基本的に見栄っ張りで、とにかく自分が一番という感じの人だから、ラジオのことについても話を大きくしてるんだろうというのは想像に難くない。そして、局側の人が学生と独自に接触しようとすればきっといい顔をしない。だからオンライン形式で内密に行われる対談だ。
『それでは時間になりましたので始めさせてもらいます。高木先輩、簡単に自己紹介をお願いします』
「はい。緑ヶ丘大学3年の高木隆志です。放送サークルMBCCの機材部長で、佐藤ゼミでも主にミキサーを扱っています」
『それじゃあ本当の佐崎君の先輩なんだね』
『そうですね』
『僕はFMにしうみの編成部長、東野です。今日は時間を取ってもらってありがとうございます。それで、僕が聞きたいと思っているのは、佐藤ゼミのラジオは西海市のコミュニティラジオで流すに値するのか。それから、ゼミ生のみんなのラジオに対する取り組み方だね。主にその2点です』
「僕は佐藤ゼミのラジオを公共の電波に乗せるべきでないと考えています」
『おっ。……失礼。理由はある?』
「ゼミでやっている番組をそのままFMにしうみに持って行く前提であるとすれば、聴取対象がニッチ過ぎる上に西海市のラジオ局でやる必要性は皆無ですね」
『なるほど』
「それでいて、佐藤ゼミのラジオはあまりリスナーの方を向いてなくて、自分の言いたいことだけを主張する場になってしまっている感じがします」
これは本当に前々から思っていることで、佐藤ゼミのラジオはそもそもにおいてMCが多くの人が聞いていることを前提にしていない感じがしている。言いたいことを勢いだけで喋っていると言うか。難ならトークだって番組直前まで考えずに来てる人もいるし。
自分が勝手に配信してるインターネット放送ならともかく、大学のまあまあ広い範囲で聞けてしまう番組なんだからもうちょっと人がいることに配慮すべきだ。さらに、いい加減で、おざなり。だったらもうちょっと準備や打ち合わせからちゃんとやってくれそうな人に枠をあげて欲しい。
『高木君は、そういう現状をどうにかしようと思ったことは』
「一応、酷いと思った時には担当MCに改善点を伝えるようにはしていますが、ただ与えられた枠を消化するだけでラジオと向き合う気のない人はそんなの聞いてくれませんね」
『高木先輩、前々から疑問だったんですけど、あのラジオをやる選考基準みたいな物ってあるんですか? 果林先輩がレギュラーじゃない時点で実力じゃないっていうのはわかるんですけど』
「先生に気に入られてるかどうかじゃない? 果林先輩は先生に媚びるくらいならあのラジオはやんなくていいって言ってたし」
『先生の贔屓みたいな力が働いてるのかな』
「おそらく。学生の体感的にも思います」
『佐藤先生は、FMにしうみの番組にはウチの精鋭を送り込むって言ってたけど、高木君的にやれそうな人はいる?』
「えー……と、……いや、いません」
先生の言う精鋭っていうのは本当のお気に入りの人なんだけど、だとすれば西海市のラジオ局での番組には不向きだろう。じゃあ、果林先輩みたく本当に実力のある人と考えた場合には、家の場所であったり、先生との相性的な意味で固辞かなあと思うワケで。
「僕からも質問させてもらっていいですか?」
『どうぞ』
「東野さんは、佐藤ゼミの番組を聞いたことがありますか? ネットに一応アーカイブがあるんですけど」
『一応今年の番組を曜日ごとに3本ずつ聞いたよ』
「正直、どう思いました? 先生はゼミでラジオをやるにあたって機材を扱うミキサーを重視している風ですが、僕は番組をやるならMC、アナウンサーを重視するべきだと思っています。機材的な音の調整ももちろん重要ではありますが、番組を面白くするのは人の話だと思うんです。僕は、ですが。佐藤ゼミのラジオがそれを出来ているとは思えなくて」
『正直、言いたいことは少しわかるよ。だからこそ、これをやっている学生さんがどう思ってるのかを聞きたかったんだ。ゼミのラジオに関しては、いい人もたまにいる、っていう感じかな。そうだね、具体的に言えばスポーツ番組やってる子、あの子はしっかり考えてやってるなっていうのがわかるよね。ゲストの話の引き出し方も上手いし』
「あっ、彼は本当にちゃんとやってくれてます。実質的専属ミキサーみたいな感じで一緒にやってるんですけど」
『高木君もどうせラジオやるなら同じ方向を向いて一緒に番組を作ってくれる人とやりたいよねえ』
東野さんの今の言葉に、自分が何を言いたいのかがわかった。と言うか代弁してもらった。どうせラジオをやるなら同じ方向を向いて一緒に番組を作ってくれる人とやりたい。だからMBCCやインターフェイスの番組は前向きにやれるし、ゼミでも鵠さんや果林先輩とは上手くいく。
俺は自分が番組の内容には関与しないタイプのミキサーだ。アナウンサーさんのモチベーションが番組の出来に直結するのはしょうがないにしても、自分の技術だけでは番組を面白くすることが出来ないし、だからと言ってアドバイスをしても響かなければ投げやりにもなっちゃうよって。
「自分が楽しくなければ聞いてる人も楽しく出来ません。少なくとも俺は、その辺割り切ることが出来ないので」
『佐藤先生からこのレベルでやれますって渡されたオープンキャンパスの自由番組? 昼休みの。あの番組はすごく楽しかったから緑ヶ丘大学さんは面白いなって思ったんだけど』
「あれは僕と、MBCCのアナウンサーの先輩でやってた番組ですね。昼休みで大きなインフォメーションがないので遊びに遊んでアドリブ合戦って感じで」
『へえ、あれをアドリブでやってるんだ。すごいねえ』
「一応キューシートは書くんですけど、変わる物だと思ってるのでいつでも、何にでも対応出来るようにはしてました」
『人がいるところだとそういう臨機応変さも必要になってくるよねえ』
『果林先輩と高木先輩が組んでる番組を佐藤ゼミの番組ですって渡すのは卑怯だと僕は思います。東野さん、それは佐藤ゼミの番組にカウントしないでください』
『おおっ。佐崎君、怒ってるのが声だけで伝わってるよ』
『俺も一応緑ヶ丘大学の学生なので昼の番組は聞いてますし、レベルだって知ってます。だから佐藤ゼミがどうこうって聞いた時も高木先輩やササやシノしか通用しそうな人はいないって思ったのに』
サキが怒ってるなっていうのは俺にもちょっとわかった。と言うか怒ってくれるんだなって。インターフェイスと佐藤ゼミで学生番組の枠を取り合うって感じになったときには、俺にだって負ける気はないって言ってたそうなのに。シノとサキはミキサーとしての向上心と闘志がバチバチなのがいいよね。その方が俺も熱いけど。
『うん。現状、FMにしうみと同じ方向を向いてるのは佐崎君たち、インターフェイスの学生さんたちかな。佐藤先生には改めてお断りの連絡をさせてもらうよ』
「あの、本当に、俺が話したという事実とその内容は先生には内密にしていただけると……今後のゼミでの立場とか、最悪単位取得や卒業にも関わってくるので……」
『あっはは! 大丈夫、心配しないで。秘密にすることはちゃんと出来る大人だから』
「ありがとうございます」
『その上で、佐崎君はこれから福井さんのお眼鏡に適うかどうかの試験だね』
『高木先輩、秋学期もご指導お願いします』
「もちろん。俺もまだまだ練習しないとなー」
end.
++++
TKGとFMにしうみの内通現場。結構ボロクソに言うのがTKGパイセン。
大人の人相手の大事な話は基本的に僕って言う2人だけど、たまにポロッと俺になる。マジでガチだから。
(phase3)
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正直、ちょっと気が重い。だけどこれは必要な事だと思っているし、それが出来るのも俺しかいないと思っている。俺がこの話を受けたことをバレないようにはしてもらえるということだからそれを信じるしかなく、もしバレてしまったときのことを思うと恐怖しかない。
『高木先輩、今日はよろしくお願いします』
「いえいえ。サキもセッティングお疲れさまです」
サキから、佐藤ゼミでやっているラジオの実状について、実際に番組を持っているゼミ生の話をFMにしうみの編成局長が聞きたがっているという話を持ちかけられた。昨年度末くらいから、コミュニティラジオ局のFMにしうみでは学生番組の枠を作ろうという話が持ち上がっている。
そういう経緯に至ったのは、去年高崎先輩がやっていた番組が好評だったからだそうだ。それで、学生主動のフレッシュな番組の枠があってもいいのかもしれないね、という空気になったとか。じゃあ誰かやりますか、と話を持ちかけられたのがインターフェイスと佐藤ゼミだ。
インターフェイス側の実状についてはバイトをしているサキがいるし、この間の夏合宿でも局側の人がモニター会を見に来たとかで、結構リアルに伝わっている。だけど、佐藤ゼミの実状は先生の話とインターネットに上がっている番組のアーカイブでしかわからない。
先生は基本的に見栄っ張りで、とにかく自分が一番という感じの人だから、ラジオのことについても話を大きくしてるんだろうというのは想像に難くない。そして、局側の人が学生と独自に接触しようとすればきっといい顔をしない。だからオンライン形式で内密に行われる対談だ。
『それでは時間になりましたので始めさせてもらいます。高木先輩、簡単に自己紹介をお願いします』
「はい。緑ヶ丘大学3年の高木隆志です。放送サークルMBCCの機材部長で、佐藤ゼミでも主にミキサーを扱っています」
『それじゃあ本当の佐崎君の先輩なんだね』
『そうですね』
『僕はFMにしうみの編成部長、東野です。今日は時間を取ってもらってありがとうございます。それで、僕が聞きたいと思っているのは、佐藤ゼミのラジオは西海市のコミュニティラジオで流すに値するのか。それから、ゼミ生のみんなのラジオに対する取り組み方だね。主にその2点です』
「僕は佐藤ゼミのラジオを公共の電波に乗せるべきでないと考えています」
『おっ。……失礼。理由はある?』
「ゼミでやっている番組をそのままFMにしうみに持って行く前提であるとすれば、聴取対象がニッチ過ぎる上に西海市のラジオ局でやる必要性は皆無ですね」
『なるほど』
「それでいて、佐藤ゼミのラジオはあまりリスナーの方を向いてなくて、自分の言いたいことだけを主張する場になってしまっている感じがします」
これは本当に前々から思っていることで、佐藤ゼミのラジオはそもそもにおいてMCが多くの人が聞いていることを前提にしていない感じがしている。言いたいことを勢いだけで喋っていると言うか。難ならトークだって番組直前まで考えずに来てる人もいるし。
自分が勝手に配信してるインターネット放送ならともかく、大学のまあまあ広い範囲で聞けてしまう番組なんだからもうちょっと人がいることに配慮すべきだ。さらに、いい加減で、おざなり。だったらもうちょっと準備や打ち合わせからちゃんとやってくれそうな人に枠をあげて欲しい。
『高木君は、そういう現状をどうにかしようと思ったことは』
「一応、酷いと思った時には担当MCに改善点を伝えるようにはしていますが、ただ与えられた枠を消化するだけでラジオと向き合う気のない人はそんなの聞いてくれませんね」
『高木先輩、前々から疑問だったんですけど、あのラジオをやる選考基準みたいな物ってあるんですか? 果林先輩がレギュラーじゃない時点で実力じゃないっていうのはわかるんですけど』
「先生に気に入られてるかどうかじゃない? 果林先輩は先生に媚びるくらいならあのラジオはやんなくていいって言ってたし」
『先生の贔屓みたいな力が働いてるのかな』
「おそらく。学生の体感的にも思います」
『佐藤先生は、FMにしうみの番組にはウチの精鋭を送り込むって言ってたけど、高木君的にやれそうな人はいる?』
「えー……と、……いや、いません」
先生の言う精鋭っていうのは本当のお気に入りの人なんだけど、だとすれば西海市のラジオ局での番組には不向きだろう。じゃあ、果林先輩みたく本当に実力のある人と考えた場合には、家の場所であったり、先生との相性的な意味で固辞かなあと思うワケで。
「僕からも質問させてもらっていいですか?」
『どうぞ』
「東野さんは、佐藤ゼミの番組を聞いたことがありますか? ネットに一応アーカイブがあるんですけど」
『一応今年の番組を曜日ごとに3本ずつ聞いたよ』
「正直、どう思いました? 先生はゼミでラジオをやるにあたって機材を扱うミキサーを重視している風ですが、僕は番組をやるならMC、アナウンサーを重視するべきだと思っています。機材的な音の調整ももちろん重要ではありますが、番組を面白くするのは人の話だと思うんです。僕は、ですが。佐藤ゼミのラジオがそれを出来ているとは思えなくて」
『正直、言いたいことは少しわかるよ。だからこそ、これをやっている学生さんがどう思ってるのかを聞きたかったんだ。ゼミのラジオに関しては、いい人もたまにいる、っていう感じかな。そうだね、具体的に言えばスポーツ番組やってる子、あの子はしっかり考えてやってるなっていうのがわかるよね。ゲストの話の引き出し方も上手いし』
「あっ、彼は本当にちゃんとやってくれてます。実質的専属ミキサーみたいな感じで一緒にやってるんですけど」
『高木君もどうせラジオやるなら同じ方向を向いて一緒に番組を作ってくれる人とやりたいよねえ』
東野さんの今の言葉に、自分が何を言いたいのかがわかった。と言うか代弁してもらった。どうせラジオをやるなら同じ方向を向いて一緒に番組を作ってくれる人とやりたい。だからMBCCやインターフェイスの番組は前向きにやれるし、ゼミでも鵠さんや果林先輩とは上手くいく。
俺は自分が番組の内容には関与しないタイプのミキサーだ。アナウンサーさんのモチベーションが番組の出来に直結するのはしょうがないにしても、自分の技術だけでは番組を面白くすることが出来ないし、だからと言ってアドバイスをしても響かなければ投げやりにもなっちゃうよって。
「自分が楽しくなければ聞いてる人も楽しく出来ません。少なくとも俺は、その辺割り切ることが出来ないので」
『佐藤先生からこのレベルでやれますって渡されたオープンキャンパスの自由番組? 昼休みの。あの番組はすごく楽しかったから緑ヶ丘大学さんは面白いなって思ったんだけど』
「あれは僕と、MBCCのアナウンサーの先輩でやってた番組ですね。昼休みで大きなインフォメーションがないので遊びに遊んでアドリブ合戦って感じで」
『へえ、あれをアドリブでやってるんだ。すごいねえ』
「一応キューシートは書くんですけど、変わる物だと思ってるのでいつでも、何にでも対応出来るようにはしてました」
『人がいるところだとそういう臨機応変さも必要になってくるよねえ』
『果林先輩と高木先輩が組んでる番組を佐藤ゼミの番組ですって渡すのは卑怯だと僕は思います。東野さん、それは佐藤ゼミの番組にカウントしないでください』
『おおっ。佐崎君、怒ってるのが声だけで伝わってるよ』
『俺も一応緑ヶ丘大学の学生なので昼の番組は聞いてますし、レベルだって知ってます。だから佐藤ゼミがどうこうって聞いた時も高木先輩やササやシノしか通用しそうな人はいないって思ったのに』
サキが怒ってるなっていうのは俺にもちょっとわかった。と言うか怒ってくれるんだなって。インターフェイスと佐藤ゼミで学生番組の枠を取り合うって感じになったときには、俺にだって負ける気はないって言ってたそうなのに。シノとサキはミキサーとしての向上心と闘志がバチバチなのがいいよね。その方が俺も熱いけど。
『うん。現状、FMにしうみと同じ方向を向いてるのは佐崎君たち、インターフェイスの学生さんたちかな。佐藤先生には改めてお断りの連絡をさせてもらうよ』
「あの、本当に、俺が話したという事実とその内容は先生には内密にしていただけると……今後のゼミでの立場とか、最悪単位取得や卒業にも関わってくるので……」
『あっはは! 大丈夫、心配しないで。秘密にすることはちゃんと出来る大人だから』
「ありがとうございます」
『その上で、佐崎君はこれから福井さんのお眼鏡に適うかどうかの試験だね』
『高木先輩、秋学期もご指導お願いします』
「もちろん。俺もまだまだ練習しないとなー」
end.
++++
TKGとFMにしうみの内通現場。結構ボロクソに言うのがTKGパイセン。
大人の人相手の大事な話は基本的に僕って言う2人だけど、たまにポロッと俺になる。マジでガチだから。
(phase3)
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