2024

■ちょっとこっち見て見て

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 向島大学のオープンキャンパス当日を迎え、学食にDJブースを構えさせてもらうことになっている私たちMMPは、準備のためにサークル室に集合します。普段から学食で昼放送をやらせてもらってはいるのですが、今回は公開生放送。いつもとは放送形式が異なるので機材をサークル室から下ろしてこないといけないのです。
 機材一式をジャックの車に積み、奈々先輩やミキサー数人を乗せ30分駐車場へ向かいます。私はジャック隊と原付のあるうっしー以外のメンバーを乗せて行きます。30分駐車場でみんなを降ろし、私は車を普通の駐車場に改めて停めに行きます。
 サークル室から食堂までは徒歩20分ほどかかるので、やはり車の有無は大きな要素となります。私はこの夏に車を持ったのですが、サークル室に行く労力が段違いであると既に感じています。歩くのも嫌いではないですが、やはりこの酷暑の中、山道を登るのはしんどいものがあります。

「奈々先輩、もう運ぶものはありませんか?」
「あっとりぃ。もうみーんな運んじゃったよ。人手ってやっぱり強いねッ!」
「もう終わってしまったのですか。すみません、お手伝い出来ずに」
「いーのいーのッ! とりぃはドライバーなんだから」

 車を置いて食堂に向かうと、機材搬入はとっくに終わって設営の段階に入っていました。とは言え奈々先輩の言うように人手があるので早い早い。奏多が監督をする中1年生が機材を組み立て、その机の前では配線目隠し用の垂れ幕風装飾を描いてくれたジュンがレイアウトのバランスを見ています。

「そうそうこれこれ」
「希くんは去年もオープンキャンパスで番組をやっているんですよね」
「うん、やってるよ。去年は俺とヒロ先輩しかアナがいなかったから、1人1時間で回してた」
「1時間…! それは凄いですね」
「まあでも曲もそれなりに流すし、オープンキャンパスのトークって大学生活の雰囲気がどれだけ伝わるかみたいなテーマで固定されてるからそこまでトーク内容を考えるのにも苦労しなかったかなー」
「それはそれで凄いですよ。さすが希くんです」

 オープンキャンパスのトーク内容は、大学を見に来た高校生が大学生活のイメージが付くようなテーマにしようという話になっています。例えば勉強のことであったり、サークル、アルバイト、一人暮らしというテーマが挙げられました。
 今回のオープンキャンパスで番組をやるアナウンサーは希くん、私、ジャック、うっしー、いろはの5人ですが、私といろはは部活・サークルというテーマの枠でダブルトークをやることになっています。2年生はみんなサークルを掛け持ち、または移動してきたのでいろいろな経験をしているだろうと。
 そもそも一人暮らしの話はジャックにしか出来ませんし、勉強の話はうっしーがぜひ自分にやらせてくれと立候補しました。うっしーと勉強というのは正直イメージとしては遠いですが、社会人から大学生への転身の裏側には専門性の高い勉強をしたいという動機もあったようで。

「鳥ちゃん、いろはとのダブルトークはどんな感じ? 内容もそうだけど、相性みたいなものとか」
「トーク内容の打ち合わせ自体はすごくためになりましたよ」
「ためになる?」
「俳句の季語の中にも星を表す言葉があるのですが、それが具体的に何という星なのかを私は知っているので互いの知識を交換することによりさらに深い理解が」
「あーはいはいはいそーゆーね」

 私の天文学の趣味といろはの俳句の趣味は重ならないかと思いきや、絶妙に重なる部分もあるのでそういったところで話が盛り上がりました。私も、自分の知っている星が俳句の世界ではこういう呼び方をされているのだと学べましたし、言葉の響きや漢字で表される様に感心しました。
 部活やサークルのつながりでそういう交わりが生まれるのはとても素晴らしいことですよね、という結論に着地するトークにするつもりでいます。ダブルトークについては私がタテとして、いろはの話を邪魔しない程度に広げられればと。イメージは普段の徹平くんです。

「何か、普段の様子を見てたらいろはってダブルトークとかでコントロール利くのかなって思っちまう」
「それを利かせるのが相方の腕の見せ所です」
「おっ、鳥ちゃん腹括ってんね」
「今回、結構無理を言って作品出展の番組を作らせてもらっているじゃないですか。ですから、オープンキャンパスでもしっかり貢献しないといけないなという風には感じているのです」
「いや、鳥ちゃんに無理を言ったのは俺の方だよ。ホントにありがとうございます。でもさ、俺はこのオープンキャンパスのDJブースでも、向島大学だったりラジオだったり、MMPっていいなって思ってここに来る人間がいることを知ってるから、やっぱ気合い入れてきたいなって」

 希くんが向島大学に進学したきっかけが、それこそオープンキャンパスで見たMMPのDJブースだったのです。そこで聞いたヒロ先輩のトークに大学生の純朴なリアルを見て、この大学に入れるように頑張ろうと思ったそうです。そんな希くんだからこそこのDJブースには特別な思い入れがあって、しっかりやりたいのだという気持ちが強いのでしょう。

「現代人って何するときでもスマホ見てるから、ちょっとでも、チラッとだけでも何かやってんなって思ってもらえりゃ勝ちでいい」
「現代人という括りはさすがに大きすぎませんか? みんないつもスマホを見てしまうというのは否定しませんが」
「それを逆手に取ってMMPでもポッドキャストでの配信も視野に入れた方がいいのかなー、あるいはネットでの生配信っていうのも出来はするんだよなー」
「あの、希くん。飛躍しすぎですよ」
「あ、ゴメンゴメン。そうだ、今聞く事じゃないかもだけど、作品出展ってどうなってる?」
「音声自体は収録済みで、現在はジュンが編集作業をしてくれている最中です。次の定例会までには出来ると言っていました」
「よーし、新生MMPを高校生にもインターフェイスにも見せてくぞー!」


end.


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オープンキャンパスと言えばカノン。しっかり頑張って欲しい。
番組をやるとかやらないとか、ダブルトークで行くとかの選択肢があるのも人手の強み

(phase3)

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