2024

■ガチなタイマンを御所望

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「やあ奏多。わざわざ来てもらって」
「どーしたんだよ佑人、急に呼び出して。ガチなタイマンでもやるってか?」
「うーん、当たらずも遠からずかな」

 珍しく佑人から連絡が来て、話しておきたいことがあるから一度サークルに来てくれと言われる。現状MMPとバドサーを掛け持っている俺は、MMPに軸足を置いて、バドミントンは気が向いたときにちょっとやるという頻度で楽しませてもらっている。
 そして俺がバドサーに行くときには俺から佑人に連絡するのが基本だ。行ったら大体佑人とゲーム形式でやり合うから、アイツがいるのかいないのかを確認する必要がある。本当にフラッと行ってスカした時にはちょっと虚しい思いをする事になるから、このちょっとした手間が大事。
 それが、佑人からの連絡ときた。よっぽど大事な話なんだろう。ガチなタイマンでもやるのかとちょっと茶化してみたけど、それが当たらずも遠からずと言われて逆にこちらが拍子抜けだ。俺のフランクなボケを潰してくるんじゃねーよってな。

「ちょっと縁があって、今度青丹エリアの大学さんと交流をすることになったんだよ」
「青丹ぃ!? 今度っていつだよ」
「10月の連休。奏多スケジュール的にそこ大丈夫そう?」
「今ならまだどうとでもなる」
「じゃ空けといて」
「了解。感謝しろよなァ、俺がいればちょっとは腕の立つヤツもいますよって見栄張れるもんな」
「うん、本当にそんなようなこと」
「いや、だからお前さっきから俺のボケにマジレスすんじゃねーよ」
「奏多のその手のボケって事実もある程度含まれてるから言うほどボケに捉えにくい。それはそうと、その青丹の大学さんがこっちに来てくれるんだって。合宿と言うか旅行と言うか」
「あー、そーゆー系ね」

 これがその大学さんのSNSなんだけど、とスマホを渡される。活動内容のポストや写真なんかを見ていると雰囲気自体はウチとそんなに変わらない、みんなで楽しくバドミントンやってますよ~的なサークルなんだろう。
 バドミントンやってる写真の他に、バーベキューやりましたとか、花火やりましたとか、そういういかにも楽しげな活動風景のポストが連なる。明るく健全な大学生って感じだねえ。こんな雰囲気ならみんなで合宿とか旅行に行っちゃうのも頷ける。

「それで、何でわざわざ奏多を呼び出してまでこの話をしたかっていう理由なんだけど」
「ああそうだよ。ガチなタイマンやんのかってのが当たらずも遠からずって」
「向こうから奏多にご指名が入っててね」
「はあ? ますます意味がわかんねーんだが」
「えっと、見て欲しいのはこのポストだね」

 お気に入りに入れてあったらしいポストを改めて見せられる。そこには、青丹エリアの大会で優勝したヤツの写真や何かが載っていた。見た感じそこまで大柄でもねーし、強いて言えば可愛らしい顔をしてんなっていう印象だ。
 戦績なんかも書かれてるけど、それはまあまあちゃんと相手を捻じ伏せてる感じだから、本当に強いんだろう。決勝までは危なげなく勝ってて、決勝になってやっと危ないシーンが出てきたみたいな感じか。まあ、ライブで見てないから何とも言えないが。映像とかねーのかな。

「この大会自体は青丹のアマチュアの大会なんだけど、まあまあの猛者が集うことには違いない大会で優勝してる人がいるんだよね」
「そりゃあ手合わせすんのが楽しみだ」
「奏多に指名を入れてきたのは優勝者の橘亮介、まさにその人なんだよね」
「いやいや、その橘亮介? が、何で俺に個別に指名を入れてきてんだよ。つかそもそも何で知られてんだって話で。大学バドミントン界隈で向島大学のバドサーにイケメンで腕の立つ奴がいるぜーっつー話にでもなってんのかよ」
「それも当たらずも遠からずだね」
「何でだよ! 外れろ! 人がボケてんだから!」
「何を隠そうこの橘亮介、今の学年は3年だけど、実年齢は俺たちの1コ上。それで、出身は緑風だってね」
「1コ上で緑風。あー……はあ。つか、コイツよく見たらサウスポーだな」

 1コ上で緑風っつーと、ここのバドサー的には前原さんが当てはまる。あの人の思い出話にちょくちょく出てきたのが、中学時代の宿命のライバル、サウスポーの橘君。まあ、緑風関係で俺に繋がる人なんかあの人くらいしか心当たりはないワケで。そーゆーコトね。

「前原さんが一枚噛んでんだな」
「宿命のライバルなのは本当だけど、今回の件に関しては違うらしい」
「それで違うことがあんのかよ」
「向島大学のバドサーで前原さんを倒そうとしてた生きのいい1年の存在自体は前々から知ってたらしいんだけど、それを思い出したきっかけは地元の悪友との会話だったそうだから。何かその人が奏多を知ってるらしくて」
「前原さん以外に緑風関係の知り合いなんざいねーんだが」
「まあ、何にせよご指名だからそのようにコンディション合わせといて。メインはサークル同士のライトな交流ではあるけど、奏多とはガチなタイマンをご所望だから」
「わーった、じゃあ来る頻度上げるわ」
「お待ちしてます。まあ、奏多が鈍ってたら鍛え直すと言ったのは俺だし、ラリーはいくらでも付き合います」
「頼むわー」

 前原さん相手に勝率1割を切る俺が、アマチュア大会とは言えエリアで優勝までしちまう宿命のライバルとやらにすんなり勝てるとは思えないが、どうせやるならやれるトコまでやらねーと。何てったってご指名だしな。何かバドサーの看板背負うみたいな空気にもされてるし。

「ちょっと、前原さんに橘亮介対策の情報ないか聞いてみるかな。現状奴のことを1番知ってるのはあの人だし」
「確か奏多対策のために地元で練習に付き合ってもらったとも言ってたもんね」
「あー、何かちょっと思い出したな。すっげー性格悪いことしてくるんだっけか」


end.


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奏多はMMPの人でもあるけど、やっぱりコンスタントにラケット振ってて欲しさがある。
やっぱり同じ4年生でもノサカは先輩で佑人は友達って感じの付き合い方をしてるのがよく見える。
奏多との関わりはそこまでだけど、緑風関係の知り合いは実はもう1人。前原さんの後輩でもあるノサカに聞いてみたらいいんじゃないかな。

(phase3)

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