2024
■まみまみもちもち
++++
「本当は有馬くんが1年生の時に聞くべきだったんだろうけど、有馬くんて北辰の子でしょ?」
「そうですね」
「いももちって自分で作ったりするの?」
「いももちですか? ああ……こっちに来たばかりの頃は作るという発想がなかったんですけど、少し前に作ってみようと思って、作るようになりましたね」
「へー、そうなんだねー」
受付の仕事中、ふと思い出して北辰出身の有馬くんにいももちのことを聞いてみる。俺が1年だった頃、事務所を襲った山のようなジャガイモの箱。その芋を使って春山さんが作ってくれたいももちが本当に美味しかったなーと思って。
北辰は旅行でも人気だし、俺も実際に自分の目で見てみたい建物がたくさんあるから調べてみたりもしている。建物だけじゃなくてグルメの方でも気になることはいっぱい。その中でいももちが紹介されてたなーって。行ったんなら食べておくべきだよって書かれてて。
「川北さん、いももちのことをご存じなんですか?」
「あのね、俺が1年の時のバイトリーダーさんの話はたまにしてるでしょ? 北辰出身の」
「あの、エキセントリックな方ですよね」
「そうそう。あの人が大量のいももちを作って事務所に持ってきてくれたことがあったんだよ。料理上手な人だからね」
「そうだったんですね。確かにいももちは家庭の味という説もありますからね。家によって作り方が違うとも言われていますよ」
「へー、そうなんだ。確かに、揚げて焼くのとただ焼いただけっていうのがあるって言ってたなあ」
「そうなんですよ、いろいろあるんですよ」
「本当に美味しかったなあ。林原さんなんておっきなタッパーいっぱいに入ってたのを半分以上食べちゃってね」
「それは凄いですね」
春山さんのいももちのことを思い出したら、あー…! 無性にいももちが食べたくなってきたぁー! ただ、俺は一般的な量で大丈夫なので、芋自体はスーパーでちょっと買うか、まだ残ってるセンターの芋を拝借すればいい。作り方を調べれば俺でも作れそうな感じだと嬉しいんだけど。
「おはざいまーす」
「おはよう真桜」
「何か楽しい話の気配がして!」
「あはは、相変わらず面白い話に敏感だね。今は北辰のいももちの話をしてたんだよ」
「何すかそれ」
「北辰のソウルフードなんですけど、ジャガイモをゆでて、潰して、片栗粉と混ぜて焼いて食べる……えっと、こんな感じの物なんですけど」
そう言って有馬くんが真桜に見せているスマホの画像を見ればやっぱり俺の食べたことのあるいももちそのものって感じだったので、やっぱり食欲がそそられるな~。
「お~。何か美味しそうなたれもかかってんね」
「これは多分みたらし味じゃないかと思います。美味しいんですよ」
「そりゃあ美味かろうよ! で? 北辰のソウルフードっつーからにはレン、用意してんのか!?」
「あ、すみません、今は用意できませんね……」
「何だよー! 期待させんなってーのー」
「えっと、さすがに今すぐは無理ですけど、真桜さんさえ良ければ今度作ってきますよ」
「マジで!? 言ってみるもんだ! 楽しみだなー」
ちなみに、有馬くんは2年生以上のスタッフに対する人見知りは少しずつ解けていったっていう感じ。特にファッションの話が出来るカナコさんや真桜とは打ち解けるのも早かったように思う。2年生の同期同士が仲良くなって、バイトリーダーとしては嬉しいよね。
「有馬くんがいももちを作ろうと思ったのって、やっぱり地元の味が恋しくなったから?」
「それもありますけど、友達が食べてみたいって言っていたので、食べてもらいたいと思ったんです」
「レンは友達思いだなあ」
「いえ、僕などそんな」
「こんないい奴なのに恋愛は奥手なんだもんなあ」
「ここでその話はいいじゃないですか」
「えっ、真桜と有馬くんて恋バナするの?」
「主に自分がレンの話を聞く専っすけどねー」
「えーっ!? きょ、興味が…!」
「えっと、川北さんのお話ほど充実感はないと思いますので……」
「ドリミさんの甘ったるいラブラブよりかはレンの話は酸味や苦みがあってオイシイけどなあ」
「え、俺の話って甘ったるいの…?」
「甘ったるいっすよ。自分がどんだけ普段からノロケてると思ってるんすか! 自覚がないとかこれだから」
「上手く行っているのはいいことだと思いますよ」
「有馬くんに呆れられているような気がする!」
思いがけず話が俺を突き刺してくるけど、そうか……俺って普段から惚気てるように思われてたんだ。他の人に言われるならともかく有馬くんの反応がすべてを物語ってるような気がする。あんまり浮かれすぎてんなよって言われないようにこれからは気を引き締めよう。
「でも、有馬くんて好きな子いるんだねえ。何か先輩にこにこしちゃうな」
「ドリミさんこんな時ばっか先輩ぶってー」
「まあ、僕は自分がどうと言うより、相手が幸せであればそれでいいので……。友人としての付き合いを続けることが出来れば」
「レンの恋愛観は自分も面白いなーって思うんすけど、相手がパートナーとの話をして幸せそうにしてるのを見るのが好きって結構拗れてると思うんすよ」
「ああ、相手がいる人なんだ。え、自分がその人と付き合いたいとか、そういう風には思わないの?」
「思わないですね。付き合えるとも思っていませんし」
「でも、好きなんだよね」
「そうですね。一緒にいたり、話を聞いていると、心が満ち足ります。それで十分です」
「確かにあんまり聞いたことのない恋愛観だね。でも、相手の幸せが一番って、有馬くんらしいよね、優しさみたいなところが?」
「優しいんでしょうか」
「ぽんぽこアベニューは恋の路~」
「まみまみ狸ヶ原~商店街~、ですね。川北さん、狸ヶ原商店街の歌も知ってるんですか?」
「前述のバイトリーダーさんがたまに歌ってました」
「何だよその歌」
「狸ヶ原商店街の歌ですよ」
「動画サイトでも聞けるよ。でも聞いたら耳に残ってしばらく居座り続けるから覚悟してね」
end.
++++
突如として発生したphase1の話をここに引きずる。
エキセントリック情報センターの名残として密かに用意していたレンの設定を少し表に出したい頃合い。
本当は上げるべきタイミングじゃないんだけど弾切れのためぶっぱする
(phase3)
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「本当は有馬くんが1年生の時に聞くべきだったんだろうけど、有馬くんて北辰の子でしょ?」
「そうですね」
「いももちって自分で作ったりするの?」
「いももちですか? ああ……こっちに来たばかりの頃は作るという発想がなかったんですけど、少し前に作ってみようと思って、作るようになりましたね」
「へー、そうなんだねー」
受付の仕事中、ふと思い出して北辰出身の有馬くんにいももちのことを聞いてみる。俺が1年だった頃、事務所を襲った山のようなジャガイモの箱。その芋を使って春山さんが作ってくれたいももちが本当に美味しかったなーと思って。
北辰は旅行でも人気だし、俺も実際に自分の目で見てみたい建物がたくさんあるから調べてみたりもしている。建物だけじゃなくてグルメの方でも気になることはいっぱい。その中でいももちが紹介されてたなーって。行ったんなら食べておくべきだよって書かれてて。
「川北さん、いももちのことをご存じなんですか?」
「あのね、俺が1年の時のバイトリーダーさんの話はたまにしてるでしょ? 北辰出身の」
「あの、エキセントリックな方ですよね」
「そうそう。あの人が大量のいももちを作って事務所に持ってきてくれたことがあったんだよ。料理上手な人だからね」
「そうだったんですね。確かにいももちは家庭の味という説もありますからね。家によって作り方が違うとも言われていますよ」
「へー、そうなんだ。確かに、揚げて焼くのとただ焼いただけっていうのがあるって言ってたなあ」
「そうなんですよ、いろいろあるんですよ」
「本当に美味しかったなあ。林原さんなんておっきなタッパーいっぱいに入ってたのを半分以上食べちゃってね」
「それは凄いですね」
春山さんのいももちのことを思い出したら、あー…! 無性にいももちが食べたくなってきたぁー! ただ、俺は一般的な量で大丈夫なので、芋自体はスーパーでちょっと買うか、まだ残ってるセンターの芋を拝借すればいい。作り方を調べれば俺でも作れそうな感じだと嬉しいんだけど。
「おはざいまーす」
「おはよう真桜」
「何か楽しい話の気配がして!」
「あはは、相変わらず面白い話に敏感だね。今は北辰のいももちの話をしてたんだよ」
「何すかそれ」
「北辰のソウルフードなんですけど、ジャガイモをゆでて、潰して、片栗粉と混ぜて焼いて食べる……えっと、こんな感じの物なんですけど」
そう言って有馬くんが真桜に見せているスマホの画像を見ればやっぱり俺の食べたことのあるいももちそのものって感じだったので、やっぱり食欲がそそられるな~。
「お~。何か美味しそうなたれもかかってんね」
「これは多分みたらし味じゃないかと思います。美味しいんですよ」
「そりゃあ美味かろうよ! で? 北辰のソウルフードっつーからにはレン、用意してんのか!?」
「あ、すみません、今は用意できませんね……」
「何だよー! 期待させんなってーのー」
「えっと、さすがに今すぐは無理ですけど、真桜さんさえ良ければ今度作ってきますよ」
「マジで!? 言ってみるもんだ! 楽しみだなー」
ちなみに、有馬くんは2年生以上のスタッフに対する人見知りは少しずつ解けていったっていう感じ。特にファッションの話が出来るカナコさんや真桜とは打ち解けるのも早かったように思う。2年生の同期同士が仲良くなって、バイトリーダーとしては嬉しいよね。
「有馬くんがいももちを作ろうと思ったのって、やっぱり地元の味が恋しくなったから?」
「それもありますけど、友達が食べてみたいって言っていたので、食べてもらいたいと思ったんです」
「レンは友達思いだなあ」
「いえ、僕などそんな」
「こんないい奴なのに恋愛は奥手なんだもんなあ」
「ここでその話はいいじゃないですか」
「えっ、真桜と有馬くんて恋バナするの?」
「主に自分がレンの話を聞く専っすけどねー」
「えーっ!? きょ、興味が…!」
「えっと、川北さんのお話ほど充実感はないと思いますので……」
「ドリミさんの甘ったるいラブラブよりかはレンの話は酸味や苦みがあってオイシイけどなあ」
「え、俺の話って甘ったるいの…?」
「甘ったるいっすよ。自分がどんだけ普段からノロケてると思ってるんすか! 自覚がないとかこれだから」
「上手く行っているのはいいことだと思いますよ」
「有馬くんに呆れられているような気がする!」
思いがけず話が俺を突き刺してくるけど、そうか……俺って普段から惚気てるように思われてたんだ。他の人に言われるならともかく有馬くんの反応がすべてを物語ってるような気がする。あんまり浮かれすぎてんなよって言われないようにこれからは気を引き締めよう。
「でも、有馬くんて好きな子いるんだねえ。何か先輩にこにこしちゃうな」
「ドリミさんこんな時ばっか先輩ぶってー」
「まあ、僕は自分がどうと言うより、相手が幸せであればそれでいいので……。友人としての付き合いを続けることが出来れば」
「レンの恋愛観は自分も面白いなーって思うんすけど、相手がパートナーとの話をして幸せそうにしてるのを見るのが好きって結構拗れてると思うんすよ」
「ああ、相手がいる人なんだ。え、自分がその人と付き合いたいとか、そういう風には思わないの?」
「思わないですね。付き合えるとも思っていませんし」
「でも、好きなんだよね」
「そうですね。一緒にいたり、話を聞いていると、心が満ち足ります。それで十分です」
「確かにあんまり聞いたことのない恋愛観だね。でも、相手の幸せが一番って、有馬くんらしいよね、優しさみたいなところが?」
「優しいんでしょうか」
「ぽんぽこアベニューは恋の路~」
「まみまみ狸ヶ原~商店街~、ですね。川北さん、狸ヶ原商店街の歌も知ってるんですか?」
「前述のバイトリーダーさんがたまに歌ってました」
「何だよその歌」
「狸ヶ原商店街の歌ですよ」
「動画サイトでも聞けるよ。でも聞いたら耳に残ってしばらく居座り続けるから覚悟してね」
end.
++++
突如として発生したphase1の話をここに引きずる。
エキセントリック情報センターの名残として密かに用意していたレンの設定を少し表に出したい頃合い。
本当は上げるべきタイミングじゃないんだけど弾切れのためぶっぱする
(phase3)
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