2024

■息抜きのつもりが

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「わかってはいたけれど、やることが多いです……」
「どれも手は抜けないんだろうけど、あんま根詰めるなよー?」
「ありがとう。息抜きに付き合ってくれて徹平くんには感謝しかありません」

 この夏はこれまでに比べてやることがとても多かったように思います。インターフェイス夏合宿のために対策委員として走り回ったり、班長としての打ち合わせもありました。その裏では来るロボット対戦のための準備も同時並行で。
 夏合宿が終わってさあ一息……という暇もなく、今度は向島大学のオープンキャンパスに出すDJブースと作品出展のための作品制作が始まりました。特に作品出展は私がやりたいと希くんに強くお願いしてやらせてもらうことになったので、よりきちんとしなくてはなりません。
 もちろんそれ以外にも天文イベントの観測であったりゲームであったり、もちろんアルバイトもありますから、やることと予定が続々やってきます。息つく暇もないとはこのことでしょうか。嫌な疲れ方ではないのですが、さすがにたまには休みたく思います。

「ちなみに今の優先順位が高いのはどれ?」
「オープンキャンパス……いえ、作品出展でしょうか。ジュンは1枚の絵を描くにも物凄い勉強量なので、それに負けない内容にしなければなりませんし」
「何だっけ、挿し絵のあるラジオ、だっけ」
「イメージとしてはそうですね」

 MMPでもパソコンを導入したのをきっかけに、新たな形態の番組を作ってみてもいいのではないかという話になりました。映像系大学さんの動きが活発なこともありますし、ラジオ系大学でも動画サイトの活用を視野に入れてみようと。
 そこでこの度の作品出展では、音声だけのラジオ番組ではなく簡単な挿し絵などを用いた映像作品を作ろうということになりました。そして、そのような形態の番組であれば、星や宇宙のことを取っつきやすく話すことが出来るのではないかと思ったのです。
 あまり専門的な話ではなく、天文学に興味のない人にも宇宙をより身近に感じてもらえるような内容、というのが案外難しく。これは去年天文部の先輩方にも指摘されていた私の“固さ”の部分なのだと思います。出来るだけ柔らかく柔らかくしようとは頑張っています。

「ジュンは学習意欲が旺盛なので、1だけ教えようとしても3とか4とかを突っ込んで来るのですよ」
「あー……想像は出来るかな」
「それだと今回の作品の意図するところの“触り”以上の範囲になってしまうので、殿にストッパーになってもらってるんです」
「ストッパーって、どういう?」
「敢えて殿には番組の内容について深く教えることはせず、私とジュンの話が行き過ぎていると感じたら、難しいと言ってくださいと頼んであるのです。ほら、徹平くんは知っていると思うけど、私って好きなことの話を始めたら、ああじゃない?」
「あー……“ああ”だね」
「徹平くんはそれを聞いてくれるけど、普通の人はそうじゃないでしょう?」
「奏多がよく言うヤツな」

 お前らはたまたま彼氏彼女が自分の趣味のすげーマニアックで専門的な話を楽しそうに聞ける相手だったから満足出来てるだけで、一般的にはなかなかそういう相手と巡り会うことなんかねーんだから相手には常日頃から感謝しろよ。あと絶対逃がすなよ。
 奏多はそのようなことをよく私に言って来ます。それはその通りだし、私の話を嫌な顔ひとつせずに聞いてくれる徹平くんには本当に感謝しかありません。この話からするに、奏多は徹平くんにも同じ事を言っているようです。奏多って徹平くんの考古学の話を振られたことあったっけ?

「専門的な話は普通の人にはあまり理解してもらえないなっていうことはわかるんですよ? でも、ちょっとでも脈を感じたら、その人には突っ込んでいきたくなってしまうんですよ」
「あーうん、わかるよ。すげーわかる」
「私の友人に晶という人がいるのですが、星空を見上げる趣味があるでもなく、天文学をかじっているわけでもないのに私の趣味の話を聞いてくれるのですよ。挙げ句たまに会ったときには「この間流星群出てたんでしょ」って挨拶をしてくれるのです」
「へえ。始めて聞く名前の友達だけど、そういう子もいるんだね」
「学校も違いますし空手の大会で顔を合わせていたという程度の繋がりなのですが、会場で顔を合わせると少し話をしていたのです。今は専門学校に通っていると聞きました」
「へー、専門かー。じゃあ将来やりたいことのビジョンが結構はっきり見えてるんだね。将来なー」

 徹平くんは一応学芸員の資格も取れるような履修の仕方をしているようですが、将来のことはまだはっきりとは考えられていないようです。話によれば、遺跡調査などの仕事は大学のような研究機関だけでなく、一般企業でも行われているとのこと。
 私は「プラネタリウムに携わる仕事がしたい」という風に前々から言っているのですが、具体的にどう関わるのかというのはブレたままです。星港市科学館が憧れの場所ではあるのですが(野坂先輩のお母さんの勤め先だという話を聞いて、何故か「さすがだな」と思ってしまいました)。

「そう言えば、晶にもまだ徹平くんのことを紹介していませんでした。彼氏が出来ましたという話だけはしてたんですけど」
「えーと、一応聞くけど真宙さんに会うときばりの試験めいたアレってある?」
「ないとは言い切れませんが、兄さんほど理不尽なことはないですよ」
「ないことはないのか」
「いえ、大丈夫ですよ。徹平くんは専攻でないとは言え天文学の知識は一般の人よりありますから」
「春風と付き合うときの基準ってやっぱ天文学の知識の有無なんだな」
「それは他の人が言っているだけで、私はそう思いませんよ。徹平くんは徹平くんだからいいのです」
「……あーうん、ありがとう」
「……もしかして、私、今結構恥ずかしいことを言いましたね?」
「人目がないところだったら即抱き締めるレベルではある。つーかマジで抱き締めたくてこの辺が悶々としてる。もー好き。マジで好き」

 たまにこうしてスイッチの入った徹平くんはなかなか鎮まらなくて大変なこともあるのですが、ストレートに好意をぶつけられるのは悪い気はしません。彼は普段人の様子や空気を窺いながら言動を決める節があるので、己の欲求のみに従う様というのにギャップを感じてドキドキしてしまうのです。

「……いや、春風の息抜きって体なのに困らせてどーすんだ俺」
「問題ないですよ。困ってなんかないから。と言うか、そこまで言ったのであれば、してくれないと逆に肩透かしと言うか」
「いいんですか」
「さっ、さすがに今ここでは! 人目のない場所でなら、いいですよ」
「ちょっと、落ち着こ。水、水」


end.


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真面目な話だったはずなのにどうしてこうなった
すがやんに入るスイッチはエロスイッチでも何でもなく単に春風が好き好きってだけのヤツ。どこぞのいち氏とはちゃうんや

(phase3)

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