2024
■繁忙期の覚悟
++++
8月末の棚卸が終わり、これでやっと繁忙期の4分の1くらいが過ぎたという感じらしい。先週の金曜日、土曜日と棚卸だったんだけど、そこまでに鬼のような出荷を全部片付けなければならなかったのがめちゃくちゃしんどかった。
1回の出荷量が通常の3日分くらいになって、次の日になっても前の日の午前の仕事をしているということもあった。もちろん残業にもなるし、これホントに終わんのかっていう絶望感。この仕事自体は去年のインターン風バイトでやってたけど、あんなモンじゃなかった。
とは言え何とか巻きに巻きに巻いて、木曜日の夕方くらいには追いつくことが出来て、それからは週末ラクするぞーっつって倉庫中の品物を数え始めて。特にB棟2階なんかはクソ暑い日中よりは、案外夜の方が作業しやすいってんでそういう展開になってた。
「越野おはよー」
「ういーす。お前はあんだけ働いても元気だな」
「そう? この時期はこんな物だからね」
「いや、こんなモンっつーけど、棚卸の後に休みが1日っつーのは鬼だろ」
「こればっかりはカレンダーの巡り合わせだからねー」
棚卸を終えると、その翌日にお上の監査というものが入ることになっている。だからその監査の日は一般の社員は大体休みになるんだけど、今年はその監査日が日曜日ということで普通に月曜日から出勤っていうな。みんなで日曜休んで月曜監査じゃダメだったんですかね。
宮本主任の席近くに置いてあるプリンターからは、今日も元気に出荷伝票が吐き出されている。ゴールデンウィークの時は連休過ぎたらもうおしまいって感じだったけど、今回は普通に結構な束で、まだまだしんどいぞというのがわかる。
「越野君、ずいぶん恨めしそうな目で見てるね」
「や、どんだけ出んのかなーと思って。まーた明日の朝までかかるくらいの量かなって」
「さすがに明日まではかからないね。かかっても昼の……2時前には終わると思うけど」
「今日も残業かー」
「しばらく残業だと思っておいた方が、定時で帰れた時の喜びが大きくなると思うよ」
主任がそう言うので本当にしばらく残業になるんだろう。仕事自体は現状嫌じゃないけど、残業が続くのはさすがにちょっとしんどいものがある。今は基本8時終わりくらいになってるけど、少し前までは日付を跨ぐことがあったってどう考えてもおかしいよな。
「大石、9月ってどう忙しいんだ?」
「9月はねー、決算で出荷量が単純に増えるのと、ダウンが動き始めるから、それで忙しいって感じ。ダウンが動き始めると横持ちから出荷に人がなかなか流れられなくて、単純に人手不足感が出ると言うか」
「はー、ダウンって横持ちか」
「そうなんだよ。ケースでボンボンボンって出せるときはラクなんだけどね。とにかく、ダウンの仕事が始まると、いろんなところでいろんな人がダウンの仕事をやっててね」
「なるほどな」
「だから越野は多分パソコンの上と新倉庫でダウン関係の仕事をするんじゃないのかな? 俺はB棟2階の仕事があるからそういつもいつもは参加出来なくなると思うんだけど」
何せ、9月は決算とダウンということらしい。で、10月がダウン出荷の最盛期で、毎日毎日ドカドカと出て行くそうだ。10月になると通常の出荷はそこまででもないから、ダウン関係の人間がひーこら言ってる、という感じになるとか。
「おはざいまーす」
「おはようございまーす」
「千景、お前昨日プール行ってたか? 市民プールの前通りかかったらお前の車あったの見た」
「あっ、そうなんですよー」
「は!? 大石お前1日しかない休みをプールに費やしたのか!?」
「いやいや、そうは言うけど越野、まだまだ残暑だなんて言えないレベルの猛暑でしょ? この暑いのにプールに行けないなんて拷問だよ。残業続きでプールの開館時間に全然間に合わないし」
「まあ、暑いからプールっていうのはわかるけど、お前ってプールに行ったらめちゃくちゃ泳ぐだろ?」
「泳ぐね。と言うか泳ぐから肩こりとか腰痛みたいな体のトラブルとは現状無縁なんだと思ってるよ」
「休み方っつーのも人それぞれだよな。とことん引きこもって何もしねえ奴もいるし、積極的に動くことが休みになる奴もいるし」
「塩見さんはどういう過ごし方をしてたんですか?」
「たまりにたまった家事を片付けて、車をメンテに出して、卵茹でて」
「ああ……一人暮らしだとそうなりますよね。ちょっと兄さんに甘えすぎてたかも。今月はちゃんとしよう」
そうなんだよな。俺は実家住まいだから遅くなったときに自分で洗濯物を回すくらいでいいんだけど、一人暮らしだと自分の家のことは自分でやんなきゃいけないんだもんな。で、塩見さんは当たり前のように夜遅くまで残業してるから、家事が溜まる一方で。
大石も基本的に自分の家のことは自分でやってるそうだけど、残業が続くとなかなか手が回らなくなってくるそうだ。それでも弁当だけはちゃんと自分で作って持ってきてるのがすげーなとは思う。たまには買い弁でもよくねーかって言ったら、買うとお金がかかるからって。確かに。
「さ、次の連休は娑婆の3連休の日月だな。9月にはありがてえ2連休だ」
「2連休もあったら何が出来ますかねー」
「いや、状況次第では連休だとすら思わない方がいいかもしれねえ。休出になる可能性も視野に入れといた方がいいまである」
「休出なら休出で休出手当とお弁当代が出るので俺的にはオイシイですけど」
「大石お前、いくら経験があるっつってもその発言はヤベーぞ」
「越野、これまでウチの会社でそういう状況時に地味に毎回出社してんのは圭佑だぞ」
「……っていうことは」
「今の内に覚悟しとくのは、悪いことじゃねえぞ」
「ですよねえ!」
そもそも繁忙期に定時で帰ろうとか土日は休もうとかいう発想になるのがおかしいのかもしれないな! いや、他の会社とか業界ではどうなのか知らねーけど! ったくさー、ヒマなときはヒマすぎんだから、何かこう、上手くバランスってとれねーの?
end.
++++
向西倉庫が繁忙期に入ったのでこっしーがブツクサ言い始めました。
ちーちゃんにとってプールに行けないのは拷問。ちーちゃんはお金は大事だけど仕事だけで生きているワケではないので
鳥居自動車整備工場は日曜日もやってるのか、真宙さんに塩見さんの神通力を通したのか。後者かな?w
(phase3)
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8月末の棚卸が終わり、これでやっと繁忙期の4分の1くらいが過ぎたという感じらしい。先週の金曜日、土曜日と棚卸だったんだけど、そこまでに鬼のような出荷を全部片付けなければならなかったのがめちゃくちゃしんどかった。
1回の出荷量が通常の3日分くらいになって、次の日になっても前の日の午前の仕事をしているということもあった。もちろん残業にもなるし、これホントに終わんのかっていう絶望感。この仕事自体は去年のインターン風バイトでやってたけど、あんなモンじゃなかった。
とは言え何とか巻きに巻きに巻いて、木曜日の夕方くらいには追いつくことが出来て、それからは週末ラクするぞーっつって倉庫中の品物を数え始めて。特にB棟2階なんかはクソ暑い日中よりは、案外夜の方が作業しやすいってんでそういう展開になってた。
「越野おはよー」
「ういーす。お前はあんだけ働いても元気だな」
「そう? この時期はこんな物だからね」
「いや、こんなモンっつーけど、棚卸の後に休みが1日っつーのは鬼だろ」
「こればっかりはカレンダーの巡り合わせだからねー」
棚卸を終えると、その翌日にお上の監査というものが入ることになっている。だからその監査の日は一般の社員は大体休みになるんだけど、今年はその監査日が日曜日ということで普通に月曜日から出勤っていうな。みんなで日曜休んで月曜監査じゃダメだったんですかね。
宮本主任の席近くに置いてあるプリンターからは、今日も元気に出荷伝票が吐き出されている。ゴールデンウィークの時は連休過ぎたらもうおしまいって感じだったけど、今回は普通に結構な束で、まだまだしんどいぞというのがわかる。
「越野君、ずいぶん恨めしそうな目で見てるね」
「や、どんだけ出んのかなーと思って。まーた明日の朝までかかるくらいの量かなって」
「さすがに明日まではかからないね。かかっても昼の……2時前には終わると思うけど」
「今日も残業かー」
「しばらく残業だと思っておいた方が、定時で帰れた時の喜びが大きくなると思うよ」
主任がそう言うので本当にしばらく残業になるんだろう。仕事自体は現状嫌じゃないけど、残業が続くのはさすがにちょっとしんどいものがある。今は基本8時終わりくらいになってるけど、少し前までは日付を跨ぐことがあったってどう考えてもおかしいよな。
「大石、9月ってどう忙しいんだ?」
「9月はねー、決算で出荷量が単純に増えるのと、ダウンが動き始めるから、それで忙しいって感じ。ダウンが動き始めると横持ちから出荷に人がなかなか流れられなくて、単純に人手不足感が出ると言うか」
「はー、ダウンって横持ちか」
「そうなんだよ。ケースでボンボンボンって出せるときはラクなんだけどね。とにかく、ダウンの仕事が始まると、いろんなところでいろんな人がダウンの仕事をやっててね」
「なるほどな」
「だから越野は多分パソコンの上と新倉庫でダウン関係の仕事をするんじゃないのかな? 俺はB棟2階の仕事があるからそういつもいつもは参加出来なくなると思うんだけど」
何せ、9月は決算とダウンということらしい。で、10月がダウン出荷の最盛期で、毎日毎日ドカドカと出て行くそうだ。10月になると通常の出荷はそこまででもないから、ダウン関係の人間がひーこら言ってる、という感じになるとか。
「おはざいまーす」
「おはようございまーす」
「千景、お前昨日プール行ってたか? 市民プールの前通りかかったらお前の車あったの見た」
「あっ、そうなんですよー」
「は!? 大石お前1日しかない休みをプールに費やしたのか!?」
「いやいや、そうは言うけど越野、まだまだ残暑だなんて言えないレベルの猛暑でしょ? この暑いのにプールに行けないなんて拷問だよ。残業続きでプールの開館時間に全然間に合わないし」
「まあ、暑いからプールっていうのはわかるけど、お前ってプールに行ったらめちゃくちゃ泳ぐだろ?」
「泳ぐね。と言うか泳ぐから肩こりとか腰痛みたいな体のトラブルとは現状無縁なんだと思ってるよ」
「休み方っつーのも人それぞれだよな。とことん引きこもって何もしねえ奴もいるし、積極的に動くことが休みになる奴もいるし」
「塩見さんはどういう過ごし方をしてたんですか?」
「たまりにたまった家事を片付けて、車をメンテに出して、卵茹でて」
「ああ……一人暮らしだとそうなりますよね。ちょっと兄さんに甘えすぎてたかも。今月はちゃんとしよう」
そうなんだよな。俺は実家住まいだから遅くなったときに自分で洗濯物を回すくらいでいいんだけど、一人暮らしだと自分の家のことは自分でやんなきゃいけないんだもんな。で、塩見さんは当たり前のように夜遅くまで残業してるから、家事が溜まる一方で。
大石も基本的に自分の家のことは自分でやってるそうだけど、残業が続くとなかなか手が回らなくなってくるそうだ。それでも弁当だけはちゃんと自分で作って持ってきてるのがすげーなとは思う。たまには買い弁でもよくねーかって言ったら、買うとお金がかかるからって。確かに。
「さ、次の連休は娑婆の3連休の日月だな。9月にはありがてえ2連休だ」
「2連休もあったら何が出来ますかねー」
「いや、状況次第では連休だとすら思わない方がいいかもしれねえ。休出になる可能性も視野に入れといた方がいいまである」
「休出なら休出で休出手当とお弁当代が出るので俺的にはオイシイですけど」
「大石お前、いくら経験があるっつってもその発言はヤベーぞ」
「越野、これまでウチの会社でそういう状況時に地味に毎回出社してんのは圭佑だぞ」
「……っていうことは」
「今の内に覚悟しとくのは、悪いことじゃねえぞ」
「ですよねえ!」
そもそも繁忙期に定時で帰ろうとか土日は休もうとかいう発想になるのがおかしいのかもしれないな! いや、他の会社とか業界ではどうなのか知らねーけど! ったくさー、ヒマなときはヒマすぎんだから、何かこう、上手くバランスってとれねーの?
end.
++++
向西倉庫が繁忙期に入ったのでこっしーがブツクサ言い始めました。
ちーちゃんにとってプールに行けないのは拷問。ちーちゃんはお金は大事だけど仕事だけで生きているワケではないので
鳥居自動車整備工場は日曜日もやってるのか、真宙さんに塩見さんの神通力を通したのか。後者かな?w
(phase3)
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