2024
■秘密のレベル
++++
昨日から、少し気になることがあって休み時間になる度にそのことを考えている。調べられる範囲で調べて正でも誤でも、確証を持てるように。中途半端にしておくのが何事も一番良くないとは思うんだけど、相手のあることだから表立って訊ねることも出来ないでいる。答えが正でも誤でも、聞き方を誤るととんでもないことにはなるだろうから。
で、自分の中で至った結論は多分“正”なので、どうにかこうにか相手と1対1になる機会が欲しいなと思いつつ、タイミングを窺う。現在はインターフェイス夏合宿の2日目。モニター会が始まるまでに何回かある自由時間の間に攻め込みに行きたいのだけど、班が同じというわけでも大学が同じというわけでもない相手に話しかけに行くきっかけをどう作った物か。
「彩人」
「レナ。どーした? リクだったら全然見てないけど」
「ううん、用事があるのは陸じゃなくて、彩人の班にいる荒島君て子」
「ガクに? ガクだったらそこにいるけど。呼ぶ?」
「出来れば人払いをしたいんだよね」
「何する気だよ。ムカつく後輩にヤキ入れたりするとかじゃないよな」
「そんなことしないよ。ちょっと聞いてみたいことがあって。心配しなくても悪いようにはしない。……多分」
「うーん……。まあ、レナだから信用するけど。ちょっと呼んで来る」
「ありがとう」
夏合宿参加者の名簿を見た時からもしかしてと思ってたんだけど、まさかそんなところにいるはずがないと思っていた。だけど、MBCCでやったインフォメーションやリク番練習の時に中から見せてもらった写真でかなり濃いめの疑念に変わって、今この場所で本人を見て確証になりつつある。だからどうしても聞いてみたい。答えてもらえないならそれでもいい。
「レナ。呼んで来た」
「ありがとう」
「星大の荒島です」
「私は緑ヶ丘の栗山玲那。レナって呼んで」
「レナさん。えっと、俺はがっくんて呼ばれてます」
「がっくん。よろしくね」
「よろしくお願いします」
夏合宿の現場は自己紹介が簡単でいい。みんなお手製の名札を付けているから、自分が何者であるのかを示しやすい。首から提げた名札を翳して、自分がレナであると名乗る。私も、がっくんと書かれた名札を見て、かわいい筆跡をしてるなという感想を抱く。
「何か、こうして名指しで呼び出されると緊張しますね」
「急に呼び出してごめんね。どうしてもがっくんと話したいことがあって」
「レナ、俺はどうする? 席外した方がいい?」
「うーん、そうだなあ」
「いてください!」
「え、いいのか? 話の内容はわかんねーけど都合悪いことかもしんねーのに」
「都合悪いことだったとしても彩人さんだったらいいですよ。俺も彩人さんの弱点たくさん聞きましたし」
「いや、雷とヘビがダメとかいうしょんないレベルの話じゃねーかもしんねーのに」
「いーから! レナさんとサシとか緊張し過ぎてどんなボロ出すかわかんないじゃないですか~!」
「ああ……確かにそれはわかんないでもない」
「私ってそんなに圧があるかな」
「いや、レナの人間性じゃなくて、レナのビジュアルに圧があるというか」
「美人過ぎて緊張するので彩人さんにもいてもらって」
この顔で育ってしまったので今はどうしようも出来ないし、彩人にならどんな話だって聞かれても大丈夫だよとのことなので(彩人が築いてきた信頼関係がほっこりするなあ)、少し人の少ないところで話を進めさせてもらうことにした。道中、レナとリクが一緒にいるとビジュアルの圧が何倍にもなると彩人が言うのだけど、彩人自身とんでもない美形なのに、とは言わないでおいた。
「この辺りでどうですか」
「いいと思います」
どうも緊張されているようなので、話の切り出し方が重くなり過ぎないように、どうしたものかと考える。私のビジュアルに圧があるということならば、それを打ち消すテンションで行けばどうだろうかと弾き出す。すう、と息を吸って。
「ソウル・バッヂ! ナイトチェンジ!」
「「蒼き咆哮の槍、レオブルー!」」
ポーズも揃う。彩人は呆気に取られてるみたいだ。
「……レナ? ガク?」
「レナさんの名札に「Like:ロボット、特撮」って書いてあったので、まあこういうことかなとは思いました」
「ここまでやっといて難だけど、本物?」
「はい」
「ちょいちょいちょい、俺だけ話が見えてないんだけど」
「彩人、こちら、現在芸能活動休止中だけど、俳優の荒島岳君です」
「えー!? えっ、ガチモンの芸能人!?」
「ああ、まあ、芸歴自体は8年ですけど売れてるかどうかと言えば微妙なラインで、それこそコアな人だけ知ってる、くらいですかね。レナさん、よくわかりましたね」
「厳密にはお母さんががっくんのファンで、ユニットで出したCDとかもうちに全部あるんだよ」
「えー、そうなんですか、嬉しいなー」
「私は炎騎士戦隊エンブレジャーのストーリーが好きで繰り返し見てて、陸にも布教して。あの場面でカイちゃんが覚醒してレオブルーに変身するところがもう胸熱で!」
「カイは出来ない子扱いでしたもんね。そういう子が秘めてる力が実は凄く強いっていうのはあるあるではありますけど」
「名簿で名前を見て「ん?」って思って、中からサングラスの写真見せてもらって「おや?」って思って、ここでがっくんを見て「本人じゃん!」ってなった」
「あのサングラスお揃いの写真良くなかったですか?」
「良かった。仲良い感じ出てて」
「ですよねー」
「えっと、芸能活動をやってることは公にはしてないんだよね」
「そうですね。簡単にダンスをやってた、くらいのことしか」
「ああー、ユニットでやってるダンスもキレッキレだもんね。じゃあそういうことで。彩人、そういうことだからこれまで通りでお願いね」
「……いや、雷とヘビがダメとかいうしょーもない話より秘密のレベルが高すぎね!?」
大学進学を機に学業に専念するため芸能活動休止、ということになっているがっくんは、学業に専念したいのも本当だけど、普通に仕事のスケジュールとかを気にしないで好き勝手な青春をやりたいという衝動に駆られたというのが活動休止の本当の理由らしい。小学生の頃から仕事がどうした、みたいなことをやってたら、兼業じゃなくて専業で学生をやりたくなるのかもしれない。
それから、ドラマを見て戦隊ヒーローになりたいと思って飛び込んだ世界だったので、エンブレジャーに出てひとつの目標を達成したこともあり、一旦区切りを付けてもいいかもなあとも思ったそうだ。若手俳優数人で組んだユニットもあるし、歌もダンスも嫌いじゃないけど業界の外での生活と経験を重ねたいという気持ちの方が断然強かった。
「あれっ、すずってがっくんのファンだよね。仕事のこと知ってるの?」
「知らないはずですね。顔ファンって話です」
「ああ、なるほど」
「でも、ガクは人前で話すこととかに慣れてそうだなって印象は受けたんだよな、ペア組んでて。そういうことだったか。顔もキレーだもんなー。俳優かー、すげーなー」
「彩人が顔のことは言えないと思うけど」
「うん、彩人さんは正直モデルって言っても通る顔ですよ。ペア打ち合わせの時とかうわー美形だーって、肌キレーとか、まつ毛長ーってめっちゃ凝視しちゃいましたもん」
「彩人、星ヶ丘でステージやってて外での活動が長い割に焼けてないし確かに肌は綺麗なんだよね。何やってるの? 美容に気を遣ってる?」
「あっ、俺も気になります」
「いや、単純に日焼け止め塗って帽子被ってって。とにかく強い日差しを避けて体力が削られないようにしろ、帰って来たらちゃんと日焼け止めを落として化粧水でケアして肌から疲労を回復しろっていうのはプロデューサー修行のときに朝霞さんから教えてもらって。あとメシ食って寝ろって。肌質のことなんか全然気にしてなかったけど、結果としていい感じになってんのかな?」
「勉強になります」
「勉強になります先生」
「先生言うな。内緒話が終わったんなら人多いトコ戻ろうぜ」
「そうだね。あっがっくん、これ、去年青敬さんが作った彩人がピアノ弾いてるMV」
「えーすごい! 後でじっくり見ますね!」
「ってちょっと待てレナそれ今教えることじゃなくね!?」
「あっレナさん後でまた特撮の話とか一緒にしましょう、エンブレジャー以外も好きですか?」
「もちろん。がっくんも?」
「はい! 趣味の友達になってください!」
「大歓迎だよ!」
「えっと、連絡先の交換なんかは――」
end.
++++
……ということはPさんも美肌なのか? いや、奴は睡眠時間が短いからプラマイゼロかも。
俳優としてのがくぴはわかる人にはわかるという程度の知名度だけど、多分ノサカ(イケメン好き、特撮もカバー)は知ってそうな雰囲気。
(phase3)
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昨日から、少し気になることがあって休み時間になる度にそのことを考えている。調べられる範囲で調べて正でも誤でも、確証を持てるように。中途半端にしておくのが何事も一番良くないとは思うんだけど、相手のあることだから表立って訊ねることも出来ないでいる。答えが正でも誤でも、聞き方を誤るととんでもないことにはなるだろうから。
で、自分の中で至った結論は多分“正”なので、どうにかこうにか相手と1対1になる機会が欲しいなと思いつつ、タイミングを窺う。現在はインターフェイス夏合宿の2日目。モニター会が始まるまでに何回かある自由時間の間に攻め込みに行きたいのだけど、班が同じというわけでも大学が同じというわけでもない相手に話しかけに行くきっかけをどう作った物か。
「彩人」
「レナ。どーした? リクだったら全然見てないけど」
「ううん、用事があるのは陸じゃなくて、彩人の班にいる荒島君て子」
「ガクに? ガクだったらそこにいるけど。呼ぶ?」
「出来れば人払いをしたいんだよね」
「何する気だよ。ムカつく後輩にヤキ入れたりするとかじゃないよな」
「そんなことしないよ。ちょっと聞いてみたいことがあって。心配しなくても悪いようにはしない。……多分」
「うーん……。まあ、レナだから信用するけど。ちょっと呼んで来る」
「ありがとう」
夏合宿参加者の名簿を見た時からもしかしてと思ってたんだけど、まさかそんなところにいるはずがないと思っていた。だけど、MBCCでやったインフォメーションやリク番練習の時に中から見せてもらった写真でかなり濃いめの疑念に変わって、今この場所で本人を見て確証になりつつある。だからどうしても聞いてみたい。答えてもらえないならそれでもいい。
「レナ。呼んで来た」
「ありがとう」
「星大の荒島です」
「私は緑ヶ丘の栗山玲那。レナって呼んで」
「レナさん。えっと、俺はがっくんて呼ばれてます」
「がっくん。よろしくね」
「よろしくお願いします」
夏合宿の現場は自己紹介が簡単でいい。みんなお手製の名札を付けているから、自分が何者であるのかを示しやすい。首から提げた名札を翳して、自分がレナであると名乗る。私も、がっくんと書かれた名札を見て、かわいい筆跡をしてるなという感想を抱く。
「何か、こうして名指しで呼び出されると緊張しますね」
「急に呼び出してごめんね。どうしてもがっくんと話したいことがあって」
「レナ、俺はどうする? 席外した方がいい?」
「うーん、そうだなあ」
「いてください!」
「え、いいのか? 話の内容はわかんねーけど都合悪いことかもしんねーのに」
「都合悪いことだったとしても彩人さんだったらいいですよ。俺も彩人さんの弱点たくさん聞きましたし」
「いや、雷とヘビがダメとかいうしょんないレベルの話じゃねーかもしんねーのに」
「いーから! レナさんとサシとか緊張し過ぎてどんなボロ出すかわかんないじゃないですか~!」
「ああ……確かにそれはわかんないでもない」
「私ってそんなに圧があるかな」
「いや、レナの人間性じゃなくて、レナのビジュアルに圧があるというか」
「美人過ぎて緊張するので彩人さんにもいてもらって」
この顔で育ってしまったので今はどうしようも出来ないし、彩人にならどんな話だって聞かれても大丈夫だよとのことなので(彩人が築いてきた信頼関係がほっこりするなあ)、少し人の少ないところで話を進めさせてもらうことにした。道中、レナとリクが一緒にいるとビジュアルの圧が何倍にもなると彩人が言うのだけど、彩人自身とんでもない美形なのに、とは言わないでおいた。
「この辺りでどうですか」
「いいと思います」
どうも緊張されているようなので、話の切り出し方が重くなり過ぎないように、どうしたものかと考える。私のビジュアルに圧があるということならば、それを打ち消すテンションで行けばどうだろうかと弾き出す。すう、と息を吸って。
「ソウル・バッヂ! ナイトチェンジ!」
「「蒼き咆哮の槍、レオブルー!」」
ポーズも揃う。彩人は呆気に取られてるみたいだ。
「……レナ? ガク?」
「レナさんの名札に「Like:ロボット、特撮」って書いてあったので、まあこういうことかなとは思いました」
「ここまでやっといて難だけど、本物?」
「はい」
「ちょいちょいちょい、俺だけ話が見えてないんだけど」
「彩人、こちら、現在芸能活動休止中だけど、俳優の荒島岳君です」
「えー!? えっ、ガチモンの芸能人!?」
「ああ、まあ、芸歴自体は8年ですけど売れてるかどうかと言えば微妙なラインで、それこそコアな人だけ知ってる、くらいですかね。レナさん、よくわかりましたね」
「厳密にはお母さんががっくんのファンで、ユニットで出したCDとかもうちに全部あるんだよ」
「えー、そうなんですか、嬉しいなー」
「私は炎騎士戦隊エンブレジャーのストーリーが好きで繰り返し見てて、陸にも布教して。あの場面でカイちゃんが覚醒してレオブルーに変身するところがもう胸熱で!」
「カイは出来ない子扱いでしたもんね。そういう子が秘めてる力が実は凄く強いっていうのはあるあるではありますけど」
「名簿で名前を見て「ん?」って思って、中からサングラスの写真見せてもらって「おや?」って思って、ここでがっくんを見て「本人じゃん!」ってなった」
「あのサングラスお揃いの写真良くなかったですか?」
「良かった。仲良い感じ出てて」
「ですよねー」
「えっと、芸能活動をやってることは公にはしてないんだよね」
「そうですね。簡単にダンスをやってた、くらいのことしか」
「ああー、ユニットでやってるダンスもキレッキレだもんね。じゃあそういうことで。彩人、そういうことだからこれまで通りでお願いね」
「……いや、雷とヘビがダメとかいうしょーもない話より秘密のレベルが高すぎね!?」
大学進学を機に学業に専念するため芸能活動休止、ということになっているがっくんは、学業に専念したいのも本当だけど、普通に仕事のスケジュールとかを気にしないで好き勝手な青春をやりたいという衝動に駆られたというのが活動休止の本当の理由らしい。小学生の頃から仕事がどうした、みたいなことをやってたら、兼業じゃなくて専業で学生をやりたくなるのかもしれない。
それから、ドラマを見て戦隊ヒーローになりたいと思って飛び込んだ世界だったので、エンブレジャーに出てひとつの目標を達成したこともあり、一旦区切りを付けてもいいかもなあとも思ったそうだ。若手俳優数人で組んだユニットもあるし、歌もダンスも嫌いじゃないけど業界の外での生活と経験を重ねたいという気持ちの方が断然強かった。
「あれっ、すずってがっくんのファンだよね。仕事のこと知ってるの?」
「知らないはずですね。顔ファンって話です」
「ああ、なるほど」
「でも、ガクは人前で話すこととかに慣れてそうだなって印象は受けたんだよな、ペア組んでて。そういうことだったか。顔もキレーだもんなー。俳優かー、すげーなー」
「彩人が顔のことは言えないと思うけど」
「うん、彩人さんは正直モデルって言っても通る顔ですよ。ペア打ち合わせの時とかうわー美形だーって、肌キレーとか、まつ毛長ーってめっちゃ凝視しちゃいましたもん」
「彩人、星ヶ丘でステージやってて外での活動が長い割に焼けてないし確かに肌は綺麗なんだよね。何やってるの? 美容に気を遣ってる?」
「あっ、俺も気になります」
「いや、単純に日焼け止め塗って帽子被ってって。とにかく強い日差しを避けて体力が削られないようにしろ、帰って来たらちゃんと日焼け止めを落として化粧水でケアして肌から疲労を回復しろっていうのはプロデューサー修行のときに朝霞さんから教えてもらって。あとメシ食って寝ろって。肌質のことなんか全然気にしてなかったけど、結果としていい感じになってんのかな?」
「勉強になります」
「勉強になります先生」
「先生言うな。内緒話が終わったんなら人多いトコ戻ろうぜ」
「そうだね。あっがっくん、これ、去年青敬さんが作った彩人がピアノ弾いてるMV」
「えーすごい! 後でじっくり見ますね!」
「ってちょっと待てレナそれ今教えることじゃなくね!?」
「あっレナさん後でまた特撮の話とか一緒にしましょう、エンブレジャー以外も好きですか?」
「もちろん。がっくんも?」
「はい! 趣味の友達になってください!」
「大歓迎だよ!」
「えっと、連絡先の交換なんかは――」
end.
++++
……ということはPさんも美肌なのか? いや、奴は睡眠時間が短いからプラマイゼロかも。
俳優としてのがくぴはわかる人にはわかるという程度の知名度だけど、多分ノサカ(イケメン好き、特撮もカバー)は知ってそうな雰囲気。
(phase3)
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