2024
■よくわからんヤツしんどい
++++
いよいよインターフェイス夏合宿に来たんだな、とは青年自然の家の最寄り駅に着いて改めて実感する。最寄り駅からは貸し切りのタクシーに乗って行くんだけど、対策委員の会計が運賃の1000円を握らせてくるんだよな。ちなみに今年の会計は海月だ。
「やあやあ彩人さん、おはようございます」
「よう中。つか他のメンバーもいるのか」
「おはようございます」
「見た感じ他の班の連中、ここに班長がいなくてまとまりを欠いてるっぽいっすけど、良くも悪くもウチの班の場合は班長が現場にいなくてもどーにかなっちまいますからね、何故か」
「中、七海現象については言ってやるな」
七海現象というのは、対策委員で最近言われ始めているヒドい話だ。この間シノがインフルエンザで対策委員の会議に穴を開けた。そうしたら、会議を仕切るのは委員長の七海だろうと頑張ったものの、プレッシャーに耐えきれず当麻にすぐタッチしたらしい。
そして今。夏合宿の班でも本来班長は七海だけど、気付けば班長としての実権みたいなモンは俺に移っていた。七海は対策委員関係の連絡こそしてくれるけど、班打ち合わせの日程をとりまとめたり、番組のことを主として考えていたのは俺だ。
委員長であるとか班長であるとか、役職を持っていたとしても気付けば実質的に役職を替わった人間がそれとなく仕事をこなしてしまうので七海自身の存在感がやや薄くなってしまう。……というのを対策委員では七海現象と呼び始めている。
「つか、1年3人ともサングラスしてんのな」
「おっ、いートコに気付きましたね!」
「この間、緑ヶ丘大学のスポーツ用品店でお揃いで買ったんですよ。かわいくないですか?」
「みんな色も似合ってんじゃん」
「ま、俺は屋内に入ればいつものメガネに戻しますけどねェ」
1年生3人も仲がいいようで良かった。夏合宿と言えばどうしても去年のみちるのアレが思い起こされるし。今年はああいうことが起こらなければとは願わずにはいられない。北星がシバかれる程度であればまああるかなとは思うけど、デカいのは起こるな、マジで。
「がーくぴぃー! きゃわー!」
「うわっ、びっくりした。すず、おはよう」
「おはー! えっ、てかがくぴサングラスかけててもきゃわきゃわですぅ~」
突如ユニコーンかペガサスみたいなグラデーションの髪色をしたちっこい女子が、ガクに飛びついてきた。何か、ノリが、定例会で奏多と初めて会った時を思い出してちょっと引いてしまう。つか、派手だし、軽いし、大丈夫だと思いたいけど俺に興味を持たないで頼む!
「岳~、さっそくモテてんなァ」
「うん、さすががっくん」
「あっ、こちら、同じ星大の野々市すずさんです」
「すずでーす、よろぴっぴー」
「いいじゃん、いかにもバカそうに見えて実は星大ですっていうギャップ。おもしれー。ナニ勉強してんの?」
「すずは科学的に“カワイイ”を理論づけて人間の遺伝子レベルからカワイイを刻み込むのです」
「うん、よくわかんねーけど良いことをやろうとしてんのはわかった。かわいいってのは少なからずポジティブな意味合いだもんな」
「そーそー、君もいーじゃん、君は誰? 何クン?」
「えっと、こちら、緑ヶ丘の中。占い師の見習いなんだって」
「えー! 占い!? すごー、ヤバー! タロット占いとか?」
「俺がやってんのは占星術。科学的に計算された星の動きから運勢を読み解いて、計算され尽くした話術で人をその気にさせる言葉を売る。それが俺の占い道ってね」
「いーじゃんいーじゃん! あっでもすずのことは沈めないでね」
「いや、どっちかってーと外した時に吊られんのは俺なんよ」
「そーだよねー!」
あはははは、と多分2人にしかわからない共通のネタがあるんだろう。パロも一応にこにことはしているけどこれはわかってない顔だな。つかわかってないで欲しい。俺だけ置いてかないで!
「てかこの班きゃわな子多いね、がくぴは殿堂入りとして、そっちの子もきゃわだし。小さくてふわふわってあざといとか狙ってるって言われない?」
「え、僕のこと?」
「一人称僕ー! 解釈一致なんですけど!」
「えっと、こちら、向島のパロ」
「パロ! 癒し系だからみたいなこと? 向島のセラピー担当?」
「何でそれとセラピーが繋がんの?」
「たるちん知らない? 介護の現場とかで使われてるアザラシロボット。あれの名前がパロ」
「へー。つかたるちんて何よ」
「中ちゃん、あたるちん、たるちん。お菓子みたくてきゃわっしょ?」
「元ネタデパ地下でめちゃ並ぶヤツな」
「それそれ! 缶がきゃわなんだよ」
「えっと、僕のパロはロボットじゃなくて、僕が育ててるサボテンの品種がパロディアっていうんだけど、そこからパロってとられたんだよ」
「へー、サボテン育ててんだ。じゃあ本人はかわいく見えてトゲがある的な?」
介護の現場で使われてるアザラシロボットについては俺もよく知らないので、覚えていれば今度レナに聞いてみよう。つかこのユニコーン女子、どこの班のヤツだ? 場合によっては簀巻きにして送りつけてやらなきゃいけなくなりかねない。
「すず!」
「あっ、レナ先輩。もうタクシー来ました?」
「もうすぐ。あっ、ごめん彩人。大丈夫だった?」
「いや、ギリ大丈夫」
「ならよかった。すずはがっくんのファンらしくて、見かけたら絡みに行きたいっぽい」
「多分迷惑にはなってないし、これも夏合宿ということで」
「えー、そっちの先輩? ともヘアカラーとかケアについて話したかったのにー。緑メッシュきゃわだしー」
「確かにカラーとかケアの話ってこんな色してると誰とでもは出来ないのはわかる」
「また時間があればね。すず、ホントにもうすぐタクシー来るから」
「じゃー後で話しましょーねぇー! 約束ですよぉー」
半ばレナに引きずられていく形でユニコーン女子は去っていった。てかまだ合宿が始まってもないのにめっちゃ疲れた。ただテンションが高いだけの女子ならきぬで慣れたと思ってたし、よくわかんない陽キャは奏多で慣れたと思ったのに! インターフェイス、変人の万国博覧会じゃん。
「彩人、向舞祭の後よりしんどそうだぞ」
「雨竜~、よくわかんねー陽キャしんどい~…!」
「ホント、よくわからんけどお前の弱点だよなあ、それ。ワンチャン定例会2年で一番の人見知り説あるぞ」
「俺の反対はすがやん、これはガチ」
「まーそれはガチな。おっ、レナが乗ってった。俺らはもーちょい?」
「もーちょい。タクシー1台で回してるらしいから」
「陰の者の彩人さん、日傘どーぞ」
「あざまーす」
end.
++++
男子校のノリでわいがやさせるつもりが彩人が陽キャしんどいってなってるだけの話になった
彩人→奏多は別に嫌いではないけどよくわからんし陽キャ怖いしドン引き、っていう印象? サキ君も困ってるっぽいし。
(phase3)
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いよいよインターフェイス夏合宿に来たんだな、とは青年自然の家の最寄り駅に着いて改めて実感する。最寄り駅からは貸し切りのタクシーに乗って行くんだけど、対策委員の会計が運賃の1000円を握らせてくるんだよな。ちなみに今年の会計は海月だ。
「やあやあ彩人さん、おはようございます」
「よう中。つか他のメンバーもいるのか」
「おはようございます」
「見た感じ他の班の連中、ここに班長がいなくてまとまりを欠いてるっぽいっすけど、良くも悪くもウチの班の場合は班長が現場にいなくてもどーにかなっちまいますからね、何故か」
「中、七海現象については言ってやるな」
七海現象というのは、対策委員で最近言われ始めているヒドい話だ。この間シノがインフルエンザで対策委員の会議に穴を開けた。そうしたら、会議を仕切るのは委員長の七海だろうと頑張ったものの、プレッシャーに耐えきれず当麻にすぐタッチしたらしい。
そして今。夏合宿の班でも本来班長は七海だけど、気付けば班長としての実権みたいなモンは俺に移っていた。七海は対策委員関係の連絡こそしてくれるけど、班打ち合わせの日程をとりまとめたり、番組のことを主として考えていたのは俺だ。
委員長であるとか班長であるとか、役職を持っていたとしても気付けば実質的に役職を替わった人間がそれとなく仕事をこなしてしまうので七海自身の存在感がやや薄くなってしまう。……というのを対策委員では七海現象と呼び始めている。
「つか、1年3人ともサングラスしてんのな」
「おっ、いートコに気付きましたね!」
「この間、緑ヶ丘大学のスポーツ用品店でお揃いで買ったんですよ。かわいくないですか?」
「みんな色も似合ってんじゃん」
「ま、俺は屋内に入ればいつものメガネに戻しますけどねェ」
1年生3人も仲がいいようで良かった。夏合宿と言えばどうしても去年のみちるのアレが思い起こされるし。今年はああいうことが起こらなければとは願わずにはいられない。北星がシバかれる程度であればまああるかなとは思うけど、デカいのは起こるな、マジで。
「がーくぴぃー! きゃわー!」
「うわっ、びっくりした。すず、おはよう」
「おはー! えっ、てかがくぴサングラスかけててもきゃわきゃわですぅ~」
突如ユニコーンかペガサスみたいなグラデーションの髪色をしたちっこい女子が、ガクに飛びついてきた。何か、ノリが、定例会で奏多と初めて会った時を思い出してちょっと引いてしまう。つか、派手だし、軽いし、大丈夫だと思いたいけど俺に興味を持たないで頼む!
「岳~、さっそくモテてんなァ」
「うん、さすががっくん」
「あっ、こちら、同じ星大の野々市すずさんです」
「すずでーす、よろぴっぴー」
「いいじゃん、いかにもバカそうに見えて実は星大ですっていうギャップ。おもしれー。ナニ勉強してんの?」
「すずは科学的に“カワイイ”を理論づけて人間の遺伝子レベルからカワイイを刻み込むのです」
「うん、よくわかんねーけど良いことをやろうとしてんのはわかった。かわいいってのは少なからずポジティブな意味合いだもんな」
「そーそー、君もいーじゃん、君は誰? 何クン?」
「えっと、こちら、緑ヶ丘の中。占い師の見習いなんだって」
「えー! 占い!? すごー、ヤバー! タロット占いとか?」
「俺がやってんのは占星術。科学的に計算された星の動きから運勢を読み解いて、計算され尽くした話術で人をその気にさせる言葉を売る。それが俺の占い道ってね」
「いーじゃんいーじゃん! あっでもすずのことは沈めないでね」
「いや、どっちかってーと外した時に吊られんのは俺なんよ」
「そーだよねー!」
あはははは、と多分2人にしかわからない共通のネタがあるんだろう。パロも一応にこにことはしているけどこれはわかってない顔だな。つかわかってないで欲しい。俺だけ置いてかないで!
「てかこの班きゃわな子多いね、がくぴは殿堂入りとして、そっちの子もきゃわだし。小さくてふわふわってあざといとか狙ってるって言われない?」
「え、僕のこと?」
「一人称僕ー! 解釈一致なんですけど!」
「えっと、こちら、向島のパロ」
「パロ! 癒し系だからみたいなこと? 向島のセラピー担当?」
「何でそれとセラピーが繋がんの?」
「たるちん知らない? 介護の現場とかで使われてるアザラシロボット。あれの名前がパロ」
「へー。つかたるちんて何よ」
「中ちゃん、あたるちん、たるちん。お菓子みたくてきゃわっしょ?」
「元ネタデパ地下でめちゃ並ぶヤツな」
「それそれ! 缶がきゃわなんだよ」
「えっと、僕のパロはロボットじゃなくて、僕が育ててるサボテンの品種がパロディアっていうんだけど、そこからパロってとられたんだよ」
「へー、サボテン育ててんだ。じゃあ本人はかわいく見えてトゲがある的な?」
介護の現場で使われてるアザラシロボットについては俺もよく知らないので、覚えていれば今度レナに聞いてみよう。つかこのユニコーン女子、どこの班のヤツだ? 場合によっては簀巻きにして送りつけてやらなきゃいけなくなりかねない。
「すず!」
「あっ、レナ先輩。もうタクシー来ました?」
「もうすぐ。あっ、ごめん彩人。大丈夫だった?」
「いや、ギリ大丈夫」
「ならよかった。すずはがっくんのファンらしくて、見かけたら絡みに行きたいっぽい」
「多分迷惑にはなってないし、これも夏合宿ということで」
「えー、そっちの先輩? ともヘアカラーとかケアについて話したかったのにー。緑メッシュきゃわだしー」
「確かにカラーとかケアの話ってこんな色してると誰とでもは出来ないのはわかる」
「また時間があればね。すず、ホントにもうすぐタクシー来るから」
「じゃー後で話しましょーねぇー! 約束ですよぉー」
半ばレナに引きずられていく形でユニコーン女子は去っていった。てかまだ合宿が始まってもないのにめっちゃ疲れた。ただテンションが高いだけの女子ならきぬで慣れたと思ってたし、よくわかんない陽キャは奏多で慣れたと思ったのに! インターフェイス、変人の万国博覧会じゃん。
「彩人、向舞祭の後よりしんどそうだぞ」
「雨竜~、よくわかんねー陽キャしんどい~…!」
「ホント、よくわからんけどお前の弱点だよなあ、それ。ワンチャン定例会2年で一番の人見知り説あるぞ」
「俺の反対はすがやん、これはガチ」
「まーそれはガチな。おっ、レナが乗ってった。俺らはもーちょい?」
「もーちょい。タクシー1台で回してるらしいから」
「陰の者の彩人さん、日傘どーぞ」
「あざまーす」
end.
++++
男子校のノリでわいがやさせるつもりが彩人が陽キャしんどいってなってるだけの話になった
彩人→奏多は別に嫌いではないけどよくわからんし陽キャ怖いしドン引き、っていう印象? サキ君も困ってるっぽいし。
(phase3)
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