2024
■Authenticity of Legend
++++
「やあやあ野坂さん、精が出ますね」
「奏多か。課題か何かか?」
「課題やりつつ、午後にあるインターフェイスの夏合宿に向けた練習の為の前乗りってヤツっす」
「ああ、そういう時期か」
俺は卒研とロボット大戦の作業をやるために大学に来てたんだけど、学食で昼飯にしてたところで奏多に声をかけられる。話によれば、近頃は夏合宿などの行事前にはインターフェイスと機材環境の近い向島大学で練習をするのがトレンドらしい。
「ロボコンも大変そうっすよねー。春風がひーこら言ってんのをよく見ます」
「まあ、春風は対策委員の活動もあるし、それが終わるまではあまりロボコンに本腰は入れられないだろうな。それが終わってもMMP的にはオープンキャンパスもあるし、何だかんだ夏休みと言っても活動はやってんだよな」
「へえ、オープンキャンパスでも何かやってんすか」
「詳しくは奈々かカノンから話があるだろうけど、毎年学食の一角……あの辺を借りて、DJブースをやってんだ。2時間くらいかな」
「へー、そうなんすね」
「聞いたことないか? 謎にヒロの番組に感銘を受けてカノンが向島大学への進学とMMPへの憧れを募らせたみたいな話」
「あー、何かそんなようなコトを言ってたかもしれませんね。かっすーがまだバドサーにいた時に聞いた覚えがあります。確かそれを思い出して、サークル見学したいんだけどどうしようって悩んでたんすよ」
「あ、悩んでたのか」
「そーなんすよ。結局は前原さんに背中を押されて、MMPの見学に行くわーっつって。その流れであの人に話を付けてもらってたんすよね」
「ああ、そうだそうだ。前原先輩が菜月先輩にこういう子がいるからって引率を頼んだんだった」
「あーそうだ野坂さん!」
「どうした?」
「ちょっと菜月サンの伝説についての真偽を確認したいんすけど、いいです? 菜月サンの話だったらアンタに聞けば大体のことはわかりそうですからね」
他愛もない話の中から、突如として奏多から出てきた菜月先輩という単語に反応しない俺じゃない。確かに菜月先輩と言えばMMPの誇る伝説的先輩であることには違いない。俺の誇張などではなく、そもそもがアナウンサーの双璧とだって呼ばれてたんだ、それは間違いないだろう。
昨年度の終わり頃にサークルに入ってきた春風と奏多はこの間卒業された先輩方とは卒業式後の飲み会で顔を合わせたくらいだ。俺たち4年の現役時代のことも知らないし、難なら留学生だったすがやんの方が俺たちや先輩方とはいろいろやっていたしラブ&ピースも浴びていた。
「で、その伝説とは?」
「あー何か、菜月サンがサークル室に入ってきたデカい長いヤバい毒ヘビを掴んで振り回して肩からかけてたとか」
「ああ……」
「野坂さんのそのリアクションからするとウソすか?」
「いや、事実と虚構が半々になってる」
「や、事実の要素があんのかよ!」
「てか、誰から聞いた?」
「彩人っすね。向舞祭の練習の時に、向島にはこーゆーヤバい先輩がいたんだろーっつって」
菜月先輩がサークル室に入ってきたヘビを掴んで追い出したというのは本当だ。デカい長い、……は、どうだったかな、俺は動転してたし正直覚えていないけど、あの時見せつけられた物の記憶によれば、短くはなかったと思う。
で、毒ヘビかどうかの判別に関しては、付かないので何とも。ただ、そんなに危ないヘビならいくら森の妖精の菜月先輩でも、と言うか森の妖精だからこそ危険かどうかはわかっていらっしゃると思うんだ。なので毒はなかったと思う、という判定を。
「そのヘビを掴んで俺と圭斗先輩の目の前に見せつけて煽ってきたのは本当だけど、振り回して肩からかけたっていうのは盛られてる」
「なるほど、確かに事実と虚構が半々っすね。完全な虚伝ってワケでもない、と。つかあの人あの顔とあの実績でンなコトやる人なのかよ……」
多分奏多は菜月先輩のお顔や立ち振る舞いから凛としていらして、クールで格好良くて……的なイメージを持っているのかもしれない。それはそれで間違いはないのだけど、菜月先輩はムライズムとラブ&ピースの申し子だ。ヘビを振り回そうと思えば十分振り回せただろう。
「菜月先輩を甘く見るなよ。俺らの常識の斜め上にも下にもぶっ飛んだお方だぞ」
「下にもぶっ飛んでんのかよ。ちょっと、下の話はイメージ壊したくないんで聞かないでおきます」
「その方がいい。奏多に話したとバレでもしたら俺の命も無い」
「ちなみに上の方のライトな話は何かあります?」
「一度も出席しなかった授業のレポートを、シラバスに載ってた題目だけで求められてる内容を予測して適当に4000字積んだらS評価を取ったとか」
「上と下が混ざってんじゃねーかよ」
「それが菜月先輩だぞ」
「アンタがドヤるコトかよ」
ちなみに同じことを律もやっているので書くことに関してはマジで二大巨頭なんだよなあ。地頭がいいのかもしれないけど、授業に出ずに十何字の題目だけでやるかね。
「そもそも彩人はどこから菜月先輩の話を聞いたんだろう。星ヶ丘の1年とはさすがに関わりがないはずだけど」
「何か彩人の班でヘビの話になったそうなんすけど、パロがいるんでウチの先輩が~みたいな感じになったんじゃないです? で、ヘビが苦手な奴と口の上手い奴に話が盛られてオーバーになったモンが俺のところに伝わってきたっぽいっすね」
「ああ、そういう」
「で、彩人の班の練習ン時に、ケイトくんいるじゃないすか」
「ケイトくんというと、あのケイトくん。圭斗先輩でなく」
「圭斗サンでなく。倒れたら魂が憑依するっつー設定のある方っす。何代か前の定例会議長として向舞祭の手伝いを短期バイト制にした神だっつって彩人と雨竜がケイトくんを拝んでたらしいっす」
「それは正しい行いなので何も言うことはないのだが。他校の後輩たちにも圭斗先輩という素晴らしい議長がいらっしゃったということを伝えてもらってだな」
「アンタ圭斗サン絡むと途端にめんどくなるのどーにかなりません?」
「そう言われてもだな」
「何せ、彩人の班じゃ今年卒業した向島の先輩は神揃いだの何だの言われてるんで、そのうちインターフェイス書紀、的な感じで神話になってもおかしくないっすよ」
「俺の中ではすでに神話なんだよなあ」
菜月先輩と圭斗先輩は卒業されてもなおインターフェイスにその存在感と名前が轟き続ける神々だぜマジで! ただ、強いて言うなら菜月先輩に関してはヘビがどうこうじゃなくてアナウンサーの双璧としての輝かしい実績の方で知れ渡って欲しいよなあ。
end.
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奏多がヘビの話の真偽を確認したいというだけの話。
(phase3)
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「やあやあ野坂さん、精が出ますね」
「奏多か。課題か何かか?」
「課題やりつつ、午後にあるインターフェイスの夏合宿に向けた練習の為の前乗りってヤツっす」
「ああ、そういう時期か」
俺は卒研とロボット大戦の作業をやるために大学に来てたんだけど、学食で昼飯にしてたところで奏多に声をかけられる。話によれば、近頃は夏合宿などの行事前にはインターフェイスと機材環境の近い向島大学で練習をするのがトレンドらしい。
「ロボコンも大変そうっすよねー。春風がひーこら言ってんのをよく見ます」
「まあ、春風は対策委員の活動もあるし、それが終わるまではあまりロボコンに本腰は入れられないだろうな。それが終わってもMMP的にはオープンキャンパスもあるし、何だかんだ夏休みと言っても活動はやってんだよな」
「へえ、オープンキャンパスでも何かやってんすか」
「詳しくは奈々かカノンから話があるだろうけど、毎年学食の一角……あの辺を借りて、DJブースをやってんだ。2時間くらいかな」
「へー、そうなんすね」
「聞いたことないか? 謎にヒロの番組に感銘を受けてカノンが向島大学への進学とMMPへの憧れを募らせたみたいな話」
「あー、何かそんなようなコトを言ってたかもしれませんね。かっすーがまだバドサーにいた時に聞いた覚えがあります。確かそれを思い出して、サークル見学したいんだけどどうしようって悩んでたんすよ」
「あ、悩んでたのか」
「そーなんすよ。結局は前原さんに背中を押されて、MMPの見学に行くわーっつって。その流れであの人に話を付けてもらってたんすよね」
「ああ、そうだそうだ。前原先輩が菜月先輩にこういう子がいるからって引率を頼んだんだった」
「あーそうだ野坂さん!」
「どうした?」
「ちょっと菜月サンの伝説についての真偽を確認したいんすけど、いいです? 菜月サンの話だったらアンタに聞けば大体のことはわかりそうですからね」
他愛もない話の中から、突如として奏多から出てきた菜月先輩という単語に反応しない俺じゃない。確かに菜月先輩と言えばMMPの誇る伝説的先輩であることには違いない。俺の誇張などではなく、そもそもがアナウンサーの双璧とだって呼ばれてたんだ、それは間違いないだろう。
昨年度の終わり頃にサークルに入ってきた春風と奏多はこの間卒業された先輩方とは卒業式後の飲み会で顔を合わせたくらいだ。俺たち4年の現役時代のことも知らないし、難なら留学生だったすがやんの方が俺たちや先輩方とはいろいろやっていたしラブ&ピースも浴びていた。
「で、その伝説とは?」
「あー何か、菜月サンがサークル室に入ってきたデカい長いヤバい毒ヘビを掴んで振り回して肩からかけてたとか」
「ああ……」
「野坂さんのそのリアクションからするとウソすか?」
「いや、事実と虚構が半々になってる」
「や、事実の要素があんのかよ!」
「てか、誰から聞いた?」
「彩人っすね。向舞祭の練習の時に、向島にはこーゆーヤバい先輩がいたんだろーっつって」
菜月先輩がサークル室に入ってきたヘビを掴んで追い出したというのは本当だ。デカい長い、……は、どうだったかな、俺は動転してたし正直覚えていないけど、あの時見せつけられた物の記憶によれば、短くはなかったと思う。
で、毒ヘビかどうかの判別に関しては、付かないので何とも。ただ、そんなに危ないヘビならいくら森の妖精の菜月先輩でも、と言うか森の妖精だからこそ危険かどうかはわかっていらっしゃると思うんだ。なので毒はなかったと思う、という判定を。
「そのヘビを掴んで俺と圭斗先輩の目の前に見せつけて煽ってきたのは本当だけど、振り回して肩からかけたっていうのは盛られてる」
「なるほど、確かに事実と虚構が半々っすね。完全な虚伝ってワケでもない、と。つかあの人あの顔とあの実績でンなコトやる人なのかよ……」
多分奏多は菜月先輩のお顔や立ち振る舞いから凛としていらして、クールで格好良くて……的なイメージを持っているのかもしれない。それはそれで間違いはないのだけど、菜月先輩はムライズムとラブ&ピースの申し子だ。ヘビを振り回そうと思えば十分振り回せただろう。
「菜月先輩を甘く見るなよ。俺らの常識の斜め上にも下にもぶっ飛んだお方だぞ」
「下にもぶっ飛んでんのかよ。ちょっと、下の話はイメージ壊したくないんで聞かないでおきます」
「その方がいい。奏多に話したとバレでもしたら俺の命も無い」
「ちなみに上の方のライトな話は何かあります?」
「一度も出席しなかった授業のレポートを、シラバスに載ってた題目だけで求められてる内容を予測して適当に4000字積んだらS評価を取ったとか」
「上と下が混ざってんじゃねーかよ」
「それが菜月先輩だぞ」
「アンタがドヤるコトかよ」
ちなみに同じことを律もやっているので書くことに関してはマジで二大巨頭なんだよなあ。地頭がいいのかもしれないけど、授業に出ずに十何字の題目だけでやるかね。
「そもそも彩人はどこから菜月先輩の話を聞いたんだろう。星ヶ丘の1年とはさすがに関わりがないはずだけど」
「何か彩人の班でヘビの話になったそうなんすけど、パロがいるんでウチの先輩が~みたいな感じになったんじゃないです? で、ヘビが苦手な奴と口の上手い奴に話が盛られてオーバーになったモンが俺のところに伝わってきたっぽいっすね」
「ああ、そういう」
「で、彩人の班の練習ン時に、ケイトくんいるじゃないすか」
「ケイトくんというと、あのケイトくん。圭斗先輩でなく」
「圭斗サンでなく。倒れたら魂が憑依するっつー設定のある方っす。何代か前の定例会議長として向舞祭の手伝いを短期バイト制にした神だっつって彩人と雨竜がケイトくんを拝んでたらしいっす」
「それは正しい行いなので何も言うことはないのだが。他校の後輩たちにも圭斗先輩という素晴らしい議長がいらっしゃったということを伝えてもらってだな」
「アンタ圭斗サン絡むと途端にめんどくなるのどーにかなりません?」
「そう言われてもだな」
「何せ、彩人の班じゃ今年卒業した向島の先輩は神揃いだの何だの言われてるんで、そのうちインターフェイス書紀、的な感じで神話になってもおかしくないっすよ」
「俺の中ではすでに神話なんだよなあ」
菜月先輩と圭斗先輩は卒業されてもなおインターフェイスにその存在感と名前が轟き続ける神々だぜマジで! ただ、強いて言うなら菜月先輩に関してはヘビがどうこうじゃなくてアナウンサーの双璧としての輝かしい実績の方で知れ渡って欲しいよなあ。
end.
++++
奏多がヘビの話の真偽を確認したいというだけの話。
(phase3)
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