2024
■酷暑の働き方
++++
「わ~、事務所涼しい~……」
「わっ、大石お前大丈夫か、茹で蛸みたいになってるぞ」
「さすがにぶっ通しでB棟2階にはいられませんでした~……」
「大変ちーちゃん、涼んできな。お茶飲む? アクエリがいい?」
「アクエリアスでお願いします」
向島エリアではもう何日猛暑日が続いているのかわからないくらいのレベルになっている。猛暑日っつっても日中35度ならマシっていうレベルに思っちまう。39度が当たり前だもんなあ。俺も現場に行きたくない気持ちが日に日に強くなってる。
この会社で一番熱が籠もりやすいB棟2階を担当する大石は、来る棚卸やダウンの入庫に向けて庫内整理をやっているところだ。だけど、ここの気温がガチでヤバい。話によれば、今年はマジでここの気温が45度を超えるらしい。床の鉄板で目玉焼きが焼けそう、と大石は言う。
で、事務所などで涼むと戻りたくなくなるという理由で極力B棟2階に居続ける大石が、ちょこちょこ事務所に戻ってくるという異常事態が起こっている。事務所メンバーや他の社員さんもあそこのヤバさは知っているから、積極的に休めと事務所に来た大石を囲う。
「大石さんアクエリ入りました。あと保冷材です。血管太いトコに当ててください」
「わー、内山さんありがとー。いただきます」
「ホント大石さんには感謝ですよ。すみません通販在庫電話で聞いてばっかりで」
「出なくて大丈夫なんだったら事務所からは出ない方がいいよ。俺はある程度慣れてるから大丈夫だけど」
「でも顔本当に真っ赤ですよ。B棟何度ですか今」
「えっと、最後に見たときは46.2度だったかな。湿度は50%」
「46!?」
「山田さん、さっき長岡はA棟は40度だって言ってたっすよね」
「そうだね。A棟2階は風が通るからまだマシなんだよ。B棟はホントにダメ。ちーちゃんホントにちょこちょこ休みなね、誰も怒んないから。倒れる方が良くない」
倒れる方が良くないというのは本当にそうで、熱中症というのはれっきとした労災の事案になるそうだ。それを抜きにしても脳がやられちまうしいいことはひとつもない。暑いときには外出を避けろとは言われるけど、それが出来ない場合は休み休み働くしかない。
事務所のメンバーも、あまりの暑さに普通なら出歩いて自分で調べるような事柄でも電話で現場の人に聞きがちだ。マジで申し訳ないとは思ってるんだけど、外に出たくないというのが勝ってしまう。俺みたいなどっちつかずの人間は現場の仕事もあるし、適応しなきゃなんだけど。
「ただいまぁー。あっ、大石君いるね。お疲れさん」
「宮本主任、外の用事は終わりですか?」
「うん。今日はおしまい。でも、ロジはいいねえ。倉庫の中も冷房完備。働きやすいことこの上ない」
「でも、冷房なんて急には付きませんしねえ」
「そうなんだよねえ。でも本当に顔真っ赤だよ。もっと涼んできなね」
「ありがとうございます」
倉庫の中も冷房完備という夢の響きだ。宮本主任によれば、向かいの会社では製品の吊り札付けなどをしている派遣の人たちがフロアの寒さに長袖のカーディガンなどを羽織って仕事をしているそうだ。その話を聞いた大石が「朝霞だ」と呟いたのは聞き逃さなかった(アイツのカーディガンは大学の食堂が寒いという理由で用意した羽織が定着した形らしい)。
「ああ千景、いた。ちゃんと休んでんな」
「あっ、塩見さん」
「つか顔赤いな、大丈夫か」
「休ませてもらってるんで大丈夫です」
「B棟2階相当ヤバいんじゃねえか」
「46度ですね」
「ああ、結構行ってんな」
新倉庫で仕事をしている塩見さんもちょこちょこ事務所に涼みにやってくる。35度くらいの時は外の蛇口で手首や手のひらを冷やして対処してたらしいけど、39度にもなるとさすがに。とのこと。新倉庫も風が通らないし、とにかく蒸すんだ。気温のB棟、湿度の新倉庫、的な。
「塩見さんも新倉庫、相当蒸すんじゃないですか?」
「熱気が纏わりついてくるな。でもまあB棟2階ほどじゃねえ。あそこは体が慣れるまで息が出来ねえしな。庫内整理の調子はどうだ」
「平場は何とか形になってるんですけど、奥ですね。棚の方が苦しいです」
「まあそうだろうな。環境的にもだし、物がお前の苦手なモンばっかだし」
「さっき間違えて棚の直射日光が当たってるところに触っちゃって、ここ、首の後ろがヒリヒリしちゃって」
「お前それ赤くなってるけど冷やしたのか」
「首の後ろなんて冷やせるところでもないですしそのままです」
「今からでも冷やしとけ。やらぬ善よりやる偽善だ。来い」
「えっ、はい」
――と、塩見さんに連れられて大石は事務所の外に出て行ってしまった。窓から見るに、新倉庫の方に向かったようだけど。そして俺もその動きを追って外に出てみる。野次馬上等だ。すると大石は上裸の状態になって屈んでいて、塩見さんがホースで後頭部に水をぶっかけている。
「あー……冷たい~、気持ちいい~」
「冷やすって、随分何かアレっすね。大胆と言うか」
「越野か。事務所で休むのもいいけど、俺ら的にはこれが一番だ。なあ千景」
「ですねー。あっ、塩見さんもやります?」
「ああ。頼む」
「はーい、じゃあ行きますよー」
で、塩見さんも脱ぐんだもんなあ。如何せんこういう会社なので脱ぐことに抵抗ない人は脱ぎがちなんだけども。なんなら洗濯機も普通にあって脱いだ人たちは普通に回して干してるし。夏ならそれで余裕で乾いちまうもんなあ。しかし筋肉バキバキなんだ2人とも。いいなあ。
ただ、実際水浴びの効果というのは結構高いらしく、水で物理的に体を冷やせるというのもそうだけど、汗を流すことも出来るし気分もリフレッシュ出来るので切り替えが出来るんだそうだ。それと、大石に限っては水に触れることによるバフが大きそうだ。
「新倉庫は今日の分は粗方片付けたし、B棟の庫内整理、俺も行くか」
「えっ、いいんですか」
「奥の物はちゃんと整理しとかないと棚卸で地獄を見る」
「ですよねえ。夏の棚卸はいかに早く平場に出るかが勝負ですもんね」
「越野、事務所が落ち着いてんならお前も来るか」
「え」
「嫌そうだな」
「いえいえそんな、滅相もない! 喜んで行かせていただきます!」
そして塩見さんは自販機にお金を入れて、落ちてきたアクエリのペットボトルをこっちに投げよこす。うん、そういうことですよね!
「よし、俺らは着替えてから行くし。B棟2階集合で」
「はい~」
end.
++++
塩見さんのアクエリの圧!
そして塩見さんも何気に水属性らしい。まあちーちゃんと血縁なのでそれは納得
ちーあさも割と仲良し度高め。良くも悪くもふとした時に顔が思い浮かぶくらいには。
(phase3)
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「わ~、事務所涼しい~……」
「わっ、大石お前大丈夫か、茹で蛸みたいになってるぞ」
「さすがにぶっ通しでB棟2階にはいられませんでした~……」
「大変ちーちゃん、涼んできな。お茶飲む? アクエリがいい?」
「アクエリアスでお願いします」
向島エリアではもう何日猛暑日が続いているのかわからないくらいのレベルになっている。猛暑日っつっても日中35度ならマシっていうレベルに思っちまう。39度が当たり前だもんなあ。俺も現場に行きたくない気持ちが日に日に強くなってる。
この会社で一番熱が籠もりやすいB棟2階を担当する大石は、来る棚卸やダウンの入庫に向けて庫内整理をやっているところだ。だけど、ここの気温がガチでヤバい。話によれば、今年はマジでここの気温が45度を超えるらしい。床の鉄板で目玉焼きが焼けそう、と大石は言う。
で、事務所などで涼むと戻りたくなくなるという理由で極力B棟2階に居続ける大石が、ちょこちょこ事務所に戻ってくるという異常事態が起こっている。事務所メンバーや他の社員さんもあそこのヤバさは知っているから、積極的に休めと事務所に来た大石を囲う。
「大石さんアクエリ入りました。あと保冷材です。血管太いトコに当ててください」
「わー、内山さんありがとー。いただきます」
「ホント大石さんには感謝ですよ。すみません通販在庫電話で聞いてばっかりで」
「出なくて大丈夫なんだったら事務所からは出ない方がいいよ。俺はある程度慣れてるから大丈夫だけど」
「でも顔本当に真っ赤ですよ。B棟何度ですか今」
「えっと、最後に見たときは46.2度だったかな。湿度は50%」
「46!?」
「山田さん、さっき長岡はA棟は40度だって言ってたっすよね」
「そうだね。A棟2階は風が通るからまだマシなんだよ。B棟はホントにダメ。ちーちゃんホントにちょこちょこ休みなね、誰も怒んないから。倒れる方が良くない」
倒れる方が良くないというのは本当にそうで、熱中症というのはれっきとした労災の事案になるそうだ。それを抜きにしても脳がやられちまうしいいことはひとつもない。暑いときには外出を避けろとは言われるけど、それが出来ない場合は休み休み働くしかない。
事務所のメンバーも、あまりの暑さに普通なら出歩いて自分で調べるような事柄でも電話で現場の人に聞きがちだ。マジで申し訳ないとは思ってるんだけど、外に出たくないというのが勝ってしまう。俺みたいなどっちつかずの人間は現場の仕事もあるし、適応しなきゃなんだけど。
「ただいまぁー。あっ、大石君いるね。お疲れさん」
「宮本主任、外の用事は終わりですか?」
「うん。今日はおしまい。でも、ロジはいいねえ。倉庫の中も冷房完備。働きやすいことこの上ない」
「でも、冷房なんて急には付きませんしねえ」
「そうなんだよねえ。でも本当に顔真っ赤だよ。もっと涼んできなね」
「ありがとうございます」
倉庫の中も冷房完備という夢の響きだ。宮本主任によれば、向かいの会社では製品の吊り札付けなどをしている派遣の人たちがフロアの寒さに長袖のカーディガンなどを羽織って仕事をしているそうだ。その話を聞いた大石が「朝霞だ」と呟いたのは聞き逃さなかった(アイツのカーディガンは大学の食堂が寒いという理由で用意した羽織が定着した形らしい)。
「ああ千景、いた。ちゃんと休んでんな」
「あっ、塩見さん」
「つか顔赤いな、大丈夫か」
「休ませてもらってるんで大丈夫です」
「B棟2階相当ヤバいんじゃねえか」
「46度ですね」
「ああ、結構行ってんな」
新倉庫で仕事をしている塩見さんもちょこちょこ事務所に涼みにやってくる。35度くらいの時は外の蛇口で手首や手のひらを冷やして対処してたらしいけど、39度にもなるとさすがに。とのこと。新倉庫も風が通らないし、とにかく蒸すんだ。気温のB棟、湿度の新倉庫、的な。
「塩見さんも新倉庫、相当蒸すんじゃないですか?」
「熱気が纏わりついてくるな。でもまあB棟2階ほどじゃねえ。あそこは体が慣れるまで息が出来ねえしな。庫内整理の調子はどうだ」
「平場は何とか形になってるんですけど、奥ですね。棚の方が苦しいです」
「まあそうだろうな。環境的にもだし、物がお前の苦手なモンばっかだし」
「さっき間違えて棚の直射日光が当たってるところに触っちゃって、ここ、首の後ろがヒリヒリしちゃって」
「お前それ赤くなってるけど冷やしたのか」
「首の後ろなんて冷やせるところでもないですしそのままです」
「今からでも冷やしとけ。やらぬ善よりやる偽善だ。来い」
「えっ、はい」
――と、塩見さんに連れられて大石は事務所の外に出て行ってしまった。窓から見るに、新倉庫の方に向かったようだけど。そして俺もその動きを追って外に出てみる。野次馬上等だ。すると大石は上裸の状態になって屈んでいて、塩見さんがホースで後頭部に水をぶっかけている。
「あー……冷たい~、気持ちいい~」
「冷やすって、随分何かアレっすね。大胆と言うか」
「越野か。事務所で休むのもいいけど、俺ら的にはこれが一番だ。なあ千景」
「ですねー。あっ、塩見さんもやります?」
「ああ。頼む」
「はーい、じゃあ行きますよー」
で、塩見さんも脱ぐんだもんなあ。如何せんこういう会社なので脱ぐことに抵抗ない人は脱ぎがちなんだけども。なんなら洗濯機も普通にあって脱いだ人たちは普通に回して干してるし。夏ならそれで余裕で乾いちまうもんなあ。しかし筋肉バキバキなんだ2人とも。いいなあ。
ただ、実際水浴びの効果というのは結構高いらしく、水で物理的に体を冷やせるというのもそうだけど、汗を流すことも出来るし気分もリフレッシュ出来るので切り替えが出来るんだそうだ。それと、大石に限っては水に触れることによるバフが大きそうだ。
「新倉庫は今日の分は粗方片付けたし、B棟の庫内整理、俺も行くか」
「えっ、いいんですか」
「奥の物はちゃんと整理しとかないと棚卸で地獄を見る」
「ですよねえ。夏の棚卸はいかに早く平場に出るかが勝負ですもんね」
「越野、事務所が落ち着いてんならお前も来るか」
「え」
「嫌そうだな」
「いえいえそんな、滅相もない! 喜んで行かせていただきます!」
そして塩見さんは自販機にお金を入れて、落ちてきたアクエリのペットボトルをこっちに投げよこす。うん、そういうことですよね!
「よし、俺らは着替えてから行くし。B棟2階集合で」
「はい~」
end.
++++
塩見さんのアクエリの圧!
そして塩見さんも何気に水属性らしい。まあちーちゃんと血縁なのでそれは納得
ちーあさも割と仲良し度高め。良くも悪くもふとした時に顔が思い浮かぶくらいには。
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