2024

■なかよぴっぴのサングラス

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「あつい~」
「まあ、夏なんかどこ行ったってこんなモンよなァ」

 インターフェイス夏合宿に向けて、とりあえず1年3人で練習しようぜってノリになってコソ練しに来た。それというのも、班打ち合わせで実質的班長の彩人さんが「2年はラジオ的戦力で見たらレベルがちょっと低めだし、どうしても1年生に頼るところが多くなるのが申し訳ない」って言ってたんだ。
 確かに星ヶ丘の彩人さんや青敬の雨竜さんに比べたら、緑ヶ丘の俺や向島のパロの方が1年だったとしてもラジオの活動は多くやってるだろう。星大の岳だってウチや向島とはスタイルが違うとしても、ラジオやってるからそれなりに力はあるはずだ。
 ……とは言え、大学の名前だけで期待されて「思ったより出来ねーぞコイツら」って思われることを恐れた俺たちは、練習……しとくかあ……みたいな雰囲気に自然となってたよな。いくら普段から男子中高生のノリでやってようが、やることをやってないとおふざけに説得力が生まれない。

「緑ヶ丘は山の中だから涼しいと思ってた」
「星港の街のど真ん中よりかは涼しくね? ビルのせいで日陰ですら直射日光来るじゃんか」
「まあね」
「あとヘビ出るの嫌だっつってお前が向島に行くの嫌がったんだから文句は言うな」
「それは反省してる。って言うか緑ヶ丘が思ったより学園都市って言うか要塞みたいになってて引いてる」
「学園都市はともかく要塞って」
「だって大学建てるために山ひとつ切り開いたんでしょ?」
「っていう話だわなァ」
「向島大学は山の上に建てたんだよね」
「多分そうだね」
「ある山を受け入れて建てた、じゃなくてある山を平らにするって発想が怖いよ」

 インターフェイスの機材環境に1番近いのは向島大学だとされている。他の大学は何となく機材の近代化が進んでいるが、財政状況だの何だので古いまま取り残されているインターフェイスの機材と向島の機材の型が近いんだそうだ。
 そんな事情があって、最近では多少交通が不便だろうがバス停からサークル棟までの徒歩がしんどかろうが向島大学まで出向いて練習をするというのがトレンドらしい。だけど、ヘビが出るらしいサークル棟に行くのを岳が嫌がったんだ。それで緑ヶ丘大学で妥協したっつーワケだ。

「緑ヶ丘大学はタイル張りされてるから地面の照り返しが強いね。あと、ビルも建ってるから街の中と変わんないかも」
「ああ……俺と中はサングラスしてるから多少マシだろうけど、パロは裸眼だもんね。眩しそう。目は守った方がいいよ」
「日傘とかサングラスとか、あるといいんだろうね」
「じゃあそこの店で見てくか?」
「えっ、あるの?」
「そこにスポーツ用品店があるぜェ。熱中症とか暑さ対策グッズも普通に売ってるから、日傘とかサングラスも並んでた」
「大学の中にスポーツ用品店があるって」
「でも、お金あるかなあ」
「そこにATMもあるから下ろすなら下ろす、チャージすんならチャージも出来るぜ」
「わあ、僕の退路がないや」

 とりあえずスポーツ用品店に入る。外と比べると薄暗い店内だ。ここは主に体育会系の部活の奴とか、体育学部の連中がよく使う物が売られているらしいが、体育会系じゃない奴が利用してはいけないということもなく、大学オリジナルグッズなんかも売っている。
 今あると便利だろうなというのはサングラスと日傘という話だった。日傘もオシャレじゃなくてちゃんとした性能の物が並んでいるのでまあまあいい値段がする。ただ、緑大は敷地が広い分徒歩での移動距離がどうしても長くなりがちなので、あるのとないのとでは全然違ってくる。

「俺、日傘買おうかな」
「パロの買い物なのに付き添いがガッツリ買い物してんじゃんよ」
「え、僕本当に買い物することになってる?」
「向島だってサークル棟まで徒歩なんだろ? あるに越したこたねーって」
「でも僕ってサングラスってキャラでもなくない? 中とがっくんは似合ってるけどさ」
「キャラとかキャラじゃないとかじゃなくて、防具だろォがよ」
「まあねえ。それもわかるけど」
「中ってそれホントのサングラス? それともメガネにカラーレンズ入れてる感じ?」
「調光レンズ。あの、太陽光だけじゃなくて普通の光でも色暗くしてくれるヤツ。LINSでちょっと金積んだら出来る」
「へー、俺も見に行ってみようかなあ」
「見るだけ見るの、おすすめだぜ」

 最近では結構カジュアルにメガネを作れるので、季節が変わる度にどんなフレームがあるかを見に行っている。結局一番かけているのは赤系カラーレンズの胡散臭さが強くなるメガネなんだけども、作るだけ作って気分で掛け替える、的なことはよくやっている。

「で、パロ、どれにするのサングラス。あっ、これとか良くない? パロ顔小さいし、大きいフレームでさらに小顔に見えてかわいいよ。ほら試着してみてよ」
「え。こ、こうかな。こんな感じ?」
「いいね~! いいよね中!」
「あーうん、いんじゃね? でもレンズの色が悩みどころだなァ。パロはブラウンじゃねえ。岳、何色ある?」
「これがブラウンでしょ、あとはグレー、グリーン、ブルーかな」
「俺が赤系で、岳が黒系だからパロは青系が良くね?」
「あーいいね! パロ、ブルーかけてみよっか!」
「ええ~……」
「いいー! かわいい! 夏っぽさが増すね!」
「おー、いいじゃんいいじゃん。買っちまえよ」
「俺もグレーかけてみようかな。どう、どう?」
「似合うねェ岳~」
「うん、カッコいい」
「え~、じゃあ買っちゃお~」
「僭越ながらワタクシ百崎中、ブラウン行かせていただきます。どうだ?」
「いいじゃん中! 占い師としてはいつものヤツの方が胡散臭くてそれっぽいけど、これはねえ、ただただイケメン」
「うん、カッコいいという他に言うことがないよ」
「誉められて悪い気はしないねえ。普段用に買おうかな俺も」

 結局、3人で色違いのサングラスを買い揃える結果になった。あと、岳は本当に日傘も買った。後から思い返して何やってんだって後悔するかもしれないけど、これもひと夏の思い出ということにしておこう。

「あ、サングラスかけるだけで目が楽になったかも」
「だろ? 似合う似合わないじゃなくて必要なんだよ」
「ちゃんと似合うの見つかって良かったね、パロ」
「うん。買える値段であって良かったよ」
「あっ、そうだ! 3人で今買ったサングラスかけて写真撮ろ。はい、詰めて詰めて」

 岳に言われるまま、サングラスをかけて画角に収まろうと身を寄せる。このクソ暑いのに。救いはパロが俺と岳に比べると1段階小さいから、前列に置いとけることだろう。岳がかけ声をかけると、カシャカシャと何枚か写真が撮られる。せっかくなので顔も作る。野郎3人で何やってるんだか。夏の勢いって怖い。

「いいねー! この写真良くない? これ、顔の横でフレームを両手で持ってるの小顔技? パロあざとかわいいー、上目遣いだしー」
「狙ってないからね! 一応言っとくけど」
「わかってるって大丈夫大丈夫!」
「岳ちゃんがノリノリ過ぎんだよ」
「だって楽しくない? あっ今の写真2人にも送るねー」
「どーもー」
「ありがとう」
「ビルの照り返しも~、傘ガード! パロ、サングラスかけてても日焼けはするし頭のてっぺんは守れてないからね、暑かったら中の陰に入りなよ」
「いやお前人を日除けに勧めてんじゃねーよお前が日傘に入れてやりゃいーだけのことだろ」
「まあそれはそうだね」
「ったく。練習行くぞ」
「あ、そうだったね」
「中、緑ヶ丘大学って私立の大きな大学だし、サークル室に冷房があったりは」
「残念ながらしないんだ、これが」
「え~!」
「じゃあ何のために山を切り開いたの! ただの環境破壊じゃない!」


end.


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環境破壊は気持ちがいいZOY
これからお話を増やしていきたい大学ちゃんぽんの新トリオ、中パロがくぴ。
星大の中じゃ大人しいけど男子たくさんになったらきゃっきゃするがくぴ。大学でも口数増えて欲しい。

(phase3)

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