2024

■しょんない話が止まんない

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「――っていうことがあって、雷って怖いよねーって話になって」
「ってちょっと待てよガク! お前何さらっと俺の恥垂れ流してんだよ!」
「雷が怖いのは別に恥ずかしいことじゃないんですよね、俺の感覚だと」
「お前はよくても俺はよくねーんだよ! あーも~…! そんなの知れ渡ったらインターフェイス歩けねー…!」
「だーっはっは! いーじゃん別に! なあがっくん!」
「ですよねえ」
「何で俺の気持ちは無視されてんだよ!」

 夏合宿の班打ち合わせが始まるやいなや、公開される俺の恥だ。この間、ペアを組んでいる星大のガクとペア打ち合わせをしていた。今年も男子ばっかの班で助かる~とか思ってたんだけど(海月に聞いたら班決めの時点で俺の女性恐怖のことなんかすっかり忘れてたらしい。マジかコイツ)、今年は合宿の参加人数がかなり多いので多少の破綻はしょうがないの精神でやってたそうだ。
 打ち合わせ自体は割とスムーズに行って、ガクは人前で話すことに慣れてそうな雰囲気があるなとかそんなようなことを思いながらミキサーとして何とか番組構成を考えていた。さーて帰るぞと思ったら急に空が暗くなって、遠くの方でゴロゴロって縁起でもねー音が聞こえて来るじゃん。って思ってるうちにもうアスファルトはまっくろ。めっちゃ雨降るじゃん。

「や、でもピカッ、バシャン! ドーン! って来られたらめちゃこえーじゃんよ」
「結局がっくんは彩人の面倒みたったん?」
「大きな雨雲が行くまで一緒にいましたよ」
「ひゅ~、かっくい~」
「いよっ! 岳は紳士だね~」
「うんうん。がっくんがいてくれれば安心感が違うよ」
「ほら、中とパロもこう言ってる」
「がっくんは雷平気なの?」
「俺は平気だね。彩人さんにも話してたんだけど、雷が光ってから音が鳴るまでの時差を数えるんだ。それで大体の距離を測って、落ち着く。みたいな」
「数える余裕なんかねーっつーの!」
「うーん。人それぞれだなあ。僕もわかんないかな、その感覚」
「あ、パロにはあんまり響いてない? えっと、そしたらぁ……太古のロマンに想いを馳せるとか! ほら、落雷によって火が起こるじゃない。そういう火を見た太古の人ってどういう反応をしたのかなとか。火っていう圧倒的なエネルギーを前にして人類は」
「岳、そーゆー話が好きならいい先輩紹介するぜー」
「あ。確かに。すがやん先輩ならそういう話、広がりそうだよね」

 俺と雨竜にも今の話ですがやんの顔が浮かんでいたので、すがやんイコール考古学ガチ勢というのがインターフェイスの共通認識になってるというのがわかった。そういうイメージをひとつ持ってるっていうのはキャラ立ちっていう点では強いよなあと思ったりもする。あの北星が春風を初回で「星の子のとりぃ」で覚えたっていうくらいだし。つかあのカップルは正直特殊すぎる。普通に見ても、ある意味でもお似合いだ。

「おい、ちょっと待て。俺だけ怖い物バラされるのは不公平だ! ガク、お前も怖いモン吐けよ」
「え、怖い物ですか? えーと、そうだなあ……」
「彩人それ先輩の圧じゃん」
「言い方変えたらパワハラっすね~ィ」
「パワハラ言うな」
「あっ、ヘビとか」
「うわっ、ヘビ俺もムリ」
「弱点だだ漏れじゃんよダッセ」
「うっせ」
「中、ヘビ大丈夫?」
「ヘビは結構神秘的な生き物だと思ってんだよ。神の使いにも悪魔の使いにもなれるみたいな」
「占い師ならではの観点。パロは?」
「僕は結構山の中を歩くから平気かな。あっ、そう言えばウチのサークル室にヘビが入って来たことがあるらしくってー」
「ええっ!? 向島って部屋の中にまでヘビ入ってくんの!? ムリ! そーゆーのどーすんの!?」
「僕が入学して来てからはまだ入って来てないんだけど、前に入って来た時には今年卒業した女の先輩がヘビの首を掴んで外に置いて来てくれてたんだって」
「その女子の先輩強すぎね?」
「今年卒業した人ならウチの5年生の先輩が知ってるかも」
「え、5年とか留年?」
「病気で休学して卒業が半年遅れたんだって」
「あー、そういうのがあんのかー」
「ただ5年になるだけなら学部によってはなるトコもあるぜ、医学部とか薬学部とかだったら全然なるだろ」
「あーな」
「でもヘビの首根っこ掴んで振り回すとかヤベーよなァ」
「そこまではやってないと思うよさすがに」
「すっごいデケー太いヘビ肩に掛けてる映像とかテレビで見たことあるけどあれマジで気持ち悪い」
「わかります。俺もムリです」
「映像の上でのインパクトはめっちゃ強いけど、自分で撮ろうとは思わん」
「でも虫とか動物がダメでも爬虫類は大丈夫って人もいるしヘビもそーゆーアレとか」
「いや、ヘビは両生類だろ」
「爬虫類飼おうと思ったらエサの虫とか触らなきゃダメだよ」
「そういや昆虫って食べたことある? 乾燥してるタランチュラとか食べてみたいんだよね」
「キモっ」
「クモって昆虫だっけ?」
「足の数違くね」

 如何せん男子ばっかりの班なので、雑談のノリがアホ臭い。いつまで男子中高生のノリでやってんだって、見られた人によっては怒られかねない打ち合わせの現場だ。で、班長はこれを止めないのかって言えば、七海の存在感がどっかに飛んでいっちまってる。基本的に静かに俺らの話を聞いてるって感じなんだよな。
 班打ち合わせの進行を気付けば俺が奪ってて申し訳ないなって海月に相談してみた。そしたら「七海は人の上に立って進行出来るタイプじゃないからメンツ的に彩人がやらないと進まない」って言い切ったもんな。班決めの時も同じ学校の子がいると気が楽と言って岳がウチの班に組み込まれたんだけど、大学での可愛らしい大人しい様子と班でのお喋りな様子がめちゃくちゃ違ったので困惑しているとか。

「――ってお前ら! 本題は班打ち合わせだ!」
「そうだぞ。このままだと彩人の弱点全部公開されて終わっちまう」
「だからうっせっつの」
「彩人さん打ち合わせ終わったら一緒にご飯行きませんか? この間雨宿りの時にいい夜カフェの店見つけてたんですよ」
「おっ、いいじゃん。そしたら行くか?」
「やったあ。約束ですからねー」
「えー、じゃあ彩人さん今度バイト先のコーヒー奢って下さいよォー」
「あっ、オシャレなコーヒースタンドなんですよね。僕も興味はあるなあ」
「いやいやいや、何ナチュラルに集ろうとしてんだよお前ら! 中はともかくパロはそーゆーコトしなさそうなのに」
「僕は興味があると言っただけで奢れとは一言も。あ、ごちそうしてもらえるなら嬉しいですけど」
「しない! だぁーから班・打ち・合わ・せ!」


end.


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ところどころに懐かしいあの人たちの話が散りばめられている新しいお話。
がくぴ周りでぎゃいぎゃいさせたかったのだけど、MMPのオリジン2年生4人の会話ペースに似ている。
ところで地味に彩雨がいいコンビな件。定例会じゃ多分サキの次に仲良いんだろうね

(phase3)

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