2024
■根拠とイメージ
++++
「アナウンサー連中はよくやるなー」
「これに関しては、異議なし」
インターフェイスの定例会メンバーは、盆時期に星港の街を中心に行われる向舞祭という祭りに学生スタッフとして参加することになっている。アナウンサーはプロのMCのアシスタントとして、ミキサーは音響、PAスタッフとして働くことになっている。
これが完全ボランティアならやる気も失せているところだが、数年前から短期アルバイト扱いになったのでしっかりと給料の発生する仕事になったらしい。これに関しては数代前の定例会議長としてお上と交渉してくれた圭斗サンにマジ感謝です。ケイトくんが金運と仕事運の神になるだけあるな。
さて、現在の定例会メンバーは、3年も2年もミキサーの方が人数が少ない。3年はウチの奈々さんと青敬のあやめさんだけだし、2年も俺とサキちーのみ。ああいや、あと彩人がいたか(アイツのことは何故か忘れがちだ)。その他はみーんなアナウンサーで、炎天下の中ひたすら練習練習打ち合わせなんだから、マジで死人が出るぞ。
「俺は体育会系だからともかく、サキちー文化系だし外に出るイメージも体動かすイメージもないからしんどいだろ」
「まあしんどいね。でも仕事だから」
「おーおー、ご立派なことで」
「でも外に出るイメージがない、は誤りだね」
「え、出てんのか。典型的インドア派陰キャ君のサキちーが」
「FMにしうみの仕事で外に出るようになったから、日傘を買った」
「おっ、どーだ? 変わる?」
「変わる」
「やっぱチャチなヤツよか多少値が張ってもいいのを買うべきなんだよな、こーゆーのって」
「そうだね。だから俺はアウトドアブランドの5000円のヤツを買った」
「逆に言えばそれっくらいじゃないと違いはわかんねーんだろーな」
「安物買いの銭失いとも言うからね。日傘も毎日使ってると劣化するって言うし、2年くらいで買い換えた方がいいらしい」
ところで現在ミキサー連中の休憩中だ。先輩と彩人はよりしんどいだろうアナウンサー陣への差し入れを買いに出かけている。そういうのを率先してやるのが奈々さんだな~って感じがする。俺とサキちーは荷物番という体の留守番だ。
「つーか奈々さんとあやめさんの中に彩人って何話すんだ? 全然イメージ湧かねーけど」
「確かにイメージはないけど、奏多と一緒にいるよりいいと思ったんでしょ」
「ひっでーなあ! サキちーそーゆーの良くないと思うぜー」
「いや、俺とか彩人みたいな人にとって奏多って極力関わりたくない人種なんだよ。こっちが引いてるのにお構いなしで詰めてくるし。自信過剰、おまけに自意識も過剰だし。発言に根拠もないしいい加減。チャラくて無駄に陽気なパーティーピーポー、的な」
「言ってくれるねェ」
「イメージね」
「生憎その手のことは言われ慣れてるんでね」
「うん、俺の思うことを伝えてるだけだから、それを奏多がどう受け取るかみたいなことは考慮してないね。付き合いにくいからこっちに合わせろと言うつもりは毛頭ないし」
「そうそう。付き合わねーだけだからな」
「わかってるじゃない」
春風からは本来真面目なのにどうして外ではああなんだと説教カマされ続けてるが、この方が世渡りがラクだからとしか答えようがない。言っちまえば彩人だって見た目や仲いい奴相手のキャラに反して実際引っ込み思案の陰キャ君だからまあまあな詐欺だろ。
言っちまえばタメの中に放り込んでもまあまあ優秀な俺だ。2コ下連中が主な社会で生き抜こうとした時に、ガチガチに真面目な奴をやっちまうと重過ぎるんだよな。近寄り難過ぎる。俺は社会に味方が欲しい。いい加減で取っつきやすい松兄をやる方が目的の達成が早い。
もちろんサキちーや彩人みたいにこういう俺が合わないって奴は出てくる。でも、そういう奴にこそ俺の能力、それから仕事による成果を見せることで築かれた壁を崩していく。その点で言えばサキちーの方がチョロい。サキちーも定例会で成果を出さなければならないし、その達成のためにはより出来る俺に教えを乞うのが早いから話さざるを得ないんだ。
サキちーは負けん気も強いそうだけど、前に「サキちー悔しいねえ、大嫌いな俺にコードめっためたに直されて」と煽ったら「人の好き嫌いじゃなくてレビューは必要な作業だし、奏多の方が長く勉強してて専門性高いんだからやって当然でしょ」と返されて(コイツは~…!)って唸ったよな。で、その次にはちゃんと勉強したのかツッコミどころが少なくなってんだもんな。
「ま、彩人はサキちーが俺に高評価出したら「えっ、サキ君が言うならそうなんだな」って言って手の平クルックルするだろうし、俺が攻略すべきはサキちーだな」
「……彩人のそれ、ホントどうにかなんないかなあ」
「でも、サキちーが言うならそうなんだろうな、的なヤツってすがやんとかも言うだろ」
「すがやんの俺上げに関してはもう諦めた」
「かっすーの「すがやんは半分MMP」ばりにはいはい出た出たってレベルだもんな」
「うん」
「あと、春風も「サキさんが言うのであれば~」的な感じで盲目的にサキちーのこと信用してるぜ?」
「何なんだろうね。俺、そんなに出来た人間じゃないし、正しいことばかりを言ってるわけでもないのに」
「サキちーの発言には根拠のない真実味が乗っちまうんだよな。声のトーンや表情の変化が少ない分ガチっぽくなりすぎる。同じことを俺とサキちーが言ったとする。俺の言ったことはウソっぽいし、サキちーの言ったことは本当っぽく聞こえる。受け止める側の持つイメージで変わる、所詮そんなモンなんだよ」
「うん。それはそうだと思う」
「俺はサキちーが冗談めいた軽口叩く奴だって知ってるし、アイツらほど盲目的にサキちーの言葉を信じない。それにサキちーが間違えて、意図しない受け止められ方をするだろう言葉でも、俺は傷つかない」
「……それは、助かる」
「だろォ? 2コ上の余裕ってヤツぅ~」
「それさえなければもうちょっと普通に頼ろうと思うのに」
「おーっと、仕事はサキちーもやるんだぜ? 俺が優秀だからって頼りっぱになんのは良くねェ」
「はーっ……俺に春風の腕っ節と技があれば、一発ぶん殴るのに」
「発言が物騒ですわよサキさま!」
「何でエマ風に言うの」
「1回言ってみたくね?」
「全然」
……とか何とかやってたら、買い出し組が帰ってきた。彩人は荷物持ちかと思えば荷物は何故か奈々さんのが一番重そうだ。相変わらずムチャすんなあ、平坦な道とは言っても十分重いだろ。
「ただいま~ッ」
「奈々さん、アンタまたムチャしたっしょ。ほら、休め休め」
「あづ~ッ……松兄ごめんね~」
「彩人、お前そこはスッと荷物受け取って男の株上げるトコだぜ?」
「それはマジで申し訳ない。奈々さんすみません」
「いーのいーのッ、うちが放さなかったんだし」
「まあ、2年で荷物持ちとしても一番優秀なのは俺だし? 俺がついてくべきだったな~。いーすか奈々さん、アンタはいい加減人を頼ることを覚えてくださいよ。どーせアナウンサーは人数も多いし差し入れなんかあり過ぎて困らないからあれもこれもって当初の予定より買いまくったんでしょ」
「すっご松兄。奈々の行動パターン分かり切ってる」
「可愛い可愛い先輩なんでね、見守らせてもらってますわ。1コ上の余裕ってヤツっす」
「ホント、松兄のそういう優しいトコに甘えっぱなんだよサークル代表なのに」
「どんだけでも甘えろよ。俺の味方はアンタだけっすマジで。奈々さんマジ女神。他の連中を見てくださいよ、こんなに優秀でイケてる俺を捕まえてボロクソに言いたい放題」
「はーっ……よく言う」
「それが俺の商売スタイルなんでね。サキちーも何とぞご贔屓に」
end.
++++
後悔も反省もしていないシリーズ。
(phase3)
.
++++
「アナウンサー連中はよくやるなー」
「これに関しては、異議なし」
インターフェイスの定例会メンバーは、盆時期に星港の街を中心に行われる向舞祭という祭りに学生スタッフとして参加することになっている。アナウンサーはプロのMCのアシスタントとして、ミキサーは音響、PAスタッフとして働くことになっている。
これが完全ボランティアならやる気も失せているところだが、数年前から短期アルバイト扱いになったのでしっかりと給料の発生する仕事になったらしい。これに関しては数代前の定例会議長としてお上と交渉してくれた圭斗サンにマジ感謝です。ケイトくんが金運と仕事運の神になるだけあるな。
さて、現在の定例会メンバーは、3年も2年もミキサーの方が人数が少ない。3年はウチの奈々さんと青敬のあやめさんだけだし、2年も俺とサキちーのみ。ああいや、あと彩人がいたか(アイツのことは何故か忘れがちだ)。その他はみーんなアナウンサーで、炎天下の中ひたすら練習練習打ち合わせなんだから、マジで死人が出るぞ。
「俺は体育会系だからともかく、サキちー文化系だし外に出るイメージも体動かすイメージもないからしんどいだろ」
「まあしんどいね。でも仕事だから」
「おーおー、ご立派なことで」
「でも外に出るイメージがない、は誤りだね」
「え、出てんのか。典型的インドア派陰キャ君のサキちーが」
「FMにしうみの仕事で外に出るようになったから、日傘を買った」
「おっ、どーだ? 変わる?」
「変わる」
「やっぱチャチなヤツよか多少値が張ってもいいのを買うべきなんだよな、こーゆーのって」
「そうだね。だから俺はアウトドアブランドの5000円のヤツを買った」
「逆に言えばそれっくらいじゃないと違いはわかんねーんだろーな」
「安物買いの銭失いとも言うからね。日傘も毎日使ってると劣化するって言うし、2年くらいで買い換えた方がいいらしい」
ところで現在ミキサー連中の休憩中だ。先輩と彩人はよりしんどいだろうアナウンサー陣への差し入れを買いに出かけている。そういうのを率先してやるのが奈々さんだな~って感じがする。俺とサキちーは荷物番という体の留守番だ。
「つーか奈々さんとあやめさんの中に彩人って何話すんだ? 全然イメージ湧かねーけど」
「確かにイメージはないけど、奏多と一緒にいるよりいいと思ったんでしょ」
「ひっでーなあ! サキちーそーゆーの良くないと思うぜー」
「いや、俺とか彩人みたいな人にとって奏多って極力関わりたくない人種なんだよ。こっちが引いてるのにお構いなしで詰めてくるし。自信過剰、おまけに自意識も過剰だし。発言に根拠もないしいい加減。チャラくて無駄に陽気なパーティーピーポー、的な」
「言ってくれるねェ」
「イメージね」
「生憎その手のことは言われ慣れてるんでね」
「うん、俺の思うことを伝えてるだけだから、それを奏多がどう受け取るかみたいなことは考慮してないね。付き合いにくいからこっちに合わせろと言うつもりは毛頭ないし」
「そうそう。付き合わねーだけだからな」
「わかってるじゃない」
春風からは本来真面目なのにどうして外ではああなんだと説教カマされ続けてるが、この方が世渡りがラクだからとしか答えようがない。言っちまえば彩人だって見た目や仲いい奴相手のキャラに反して実際引っ込み思案の陰キャ君だからまあまあな詐欺だろ。
言っちまえばタメの中に放り込んでもまあまあ優秀な俺だ。2コ下連中が主な社会で生き抜こうとした時に、ガチガチに真面目な奴をやっちまうと重過ぎるんだよな。近寄り難過ぎる。俺は社会に味方が欲しい。いい加減で取っつきやすい松兄をやる方が目的の達成が早い。
もちろんサキちーや彩人みたいにこういう俺が合わないって奴は出てくる。でも、そういう奴にこそ俺の能力、それから仕事による成果を見せることで築かれた壁を崩していく。その点で言えばサキちーの方がチョロい。サキちーも定例会で成果を出さなければならないし、その達成のためにはより出来る俺に教えを乞うのが早いから話さざるを得ないんだ。
サキちーは負けん気も強いそうだけど、前に「サキちー悔しいねえ、大嫌いな俺にコードめっためたに直されて」と煽ったら「人の好き嫌いじゃなくてレビューは必要な作業だし、奏多の方が長く勉強してて専門性高いんだからやって当然でしょ」と返されて(コイツは~…!)って唸ったよな。で、その次にはちゃんと勉強したのかツッコミどころが少なくなってんだもんな。
「ま、彩人はサキちーが俺に高評価出したら「えっ、サキ君が言うならそうなんだな」って言って手の平クルックルするだろうし、俺が攻略すべきはサキちーだな」
「……彩人のそれ、ホントどうにかなんないかなあ」
「でも、サキちーが言うならそうなんだろうな、的なヤツってすがやんとかも言うだろ」
「すがやんの俺上げに関してはもう諦めた」
「かっすーの「すがやんは半分MMP」ばりにはいはい出た出たってレベルだもんな」
「うん」
「あと、春風も「サキさんが言うのであれば~」的な感じで盲目的にサキちーのこと信用してるぜ?」
「何なんだろうね。俺、そんなに出来た人間じゃないし、正しいことばかりを言ってるわけでもないのに」
「サキちーの発言には根拠のない真実味が乗っちまうんだよな。声のトーンや表情の変化が少ない分ガチっぽくなりすぎる。同じことを俺とサキちーが言ったとする。俺の言ったことはウソっぽいし、サキちーの言ったことは本当っぽく聞こえる。受け止める側の持つイメージで変わる、所詮そんなモンなんだよ」
「うん。それはそうだと思う」
「俺はサキちーが冗談めいた軽口叩く奴だって知ってるし、アイツらほど盲目的にサキちーの言葉を信じない。それにサキちーが間違えて、意図しない受け止められ方をするだろう言葉でも、俺は傷つかない」
「……それは、助かる」
「だろォ? 2コ上の余裕ってヤツぅ~」
「それさえなければもうちょっと普通に頼ろうと思うのに」
「おーっと、仕事はサキちーもやるんだぜ? 俺が優秀だからって頼りっぱになんのは良くねェ」
「はーっ……俺に春風の腕っ節と技があれば、一発ぶん殴るのに」
「発言が物騒ですわよサキさま!」
「何でエマ風に言うの」
「1回言ってみたくね?」
「全然」
……とか何とかやってたら、買い出し組が帰ってきた。彩人は荷物持ちかと思えば荷物は何故か奈々さんのが一番重そうだ。相変わらずムチャすんなあ、平坦な道とは言っても十分重いだろ。
「ただいま~ッ」
「奈々さん、アンタまたムチャしたっしょ。ほら、休め休め」
「あづ~ッ……松兄ごめんね~」
「彩人、お前そこはスッと荷物受け取って男の株上げるトコだぜ?」
「それはマジで申し訳ない。奈々さんすみません」
「いーのいーのッ、うちが放さなかったんだし」
「まあ、2年で荷物持ちとしても一番優秀なのは俺だし? 俺がついてくべきだったな~。いーすか奈々さん、アンタはいい加減人を頼ることを覚えてくださいよ。どーせアナウンサーは人数も多いし差し入れなんかあり過ぎて困らないからあれもこれもって当初の予定より買いまくったんでしょ」
「すっご松兄。奈々の行動パターン分かり切ってる」
「可愛い可愛い先輩なんでね、見守らせてもらってますわ。1コ上の余裕ってヤツっす」
「ホント、松兄のそういう優しいトコに甘えっぱなんだよサークル代表なのに」
「どんだけでも甘えろよ。俺の味方はアンタだけっすマジで。奈々さんマジ女神。他の連中を見てくださいよ、こんなに優秀でイケてる俺を捕まえてボロクソに言いたい放題」
「はーっ……よく言う」
「それが俺の商売スタイルなんでね。サキちーも何とぞご贔屓に」
end.
++++
後悔も反省もしていないシリーズ。
(phase3)
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