2024

■なんか馬が合う

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「自分らホンマこのクソ暑い中元気やなあ、ちまいんに」
「はー!? 一言多いんですけどぉ~、多いんですけどですけどぉ~?」
「ですけどですけどー」
「あー、もーウルサイウルサイなあ! ウルサイんですけどぉお~」
「自分が先にケンカ売ってきたんですけどですけどぉ~?」
「ですけどー」

 班編成の時点ではイキリ隠キャのお喋り袋、うっしーが俺の班の賑やかし枠になるのかなと思っていたら、その上を行く存在がいた。対策委員で班編成をしたときにはそんな情報全く入ってこなかったので完全にノーマークだった。
 俺の班は副班長にレナ、あとは1年生が4人だ。1年生はそれぞれうっしーこと向島の牛山翔太、星ヶ丘の高野将門、星大の野々市すず、青女の双葉ゆめ。各大学の対策委員からの一言評価としては、うっしーはお喋り袋、将門は冷静、すずはいい子、ゆめは小さくてかわいい頑張りや。

「やあ、今日も元気だなあ」
「当麻、達観してるね」
「と言うか、うっしーとすずゆめはよく毎回飽きもせず同じ件をやりますね」
「ここまでの流れ全体が挨拶、的な感じなんじゃない?」
「長いですよ」

 対策委員からの評価と現状に多少のズレがあったからと言ってどうこう、ということはないんだけど、ゆめはともかくすずの情報が曖昧過ぎやしないかと今になって思ってきた。星大。……七海か。七海はすずのポテンシャルを過小評価してるんじゃないか。
 現状、俺の班はお喋り袋のうっしーが賑やかしに放つ言葉にすずゆめがだる絡みをして、うっしーが怒りながらツッコむ。それを一歩引いて見ている俺とレナと将門、という図が出来上がっている。なんならうっしーよりすずゆめの方が賑やかなお喋り袋だ。

「星ヶ丘の放送部で8月上旬に丸の池公園でステージやるんですけど」
「あ、そうだよね。くららも忙しそうにしてるよ」
「源班の中でも、モリ子ときぬがクソ暑い中で大きな声を出して飛び跳ねながら駆け回ってるわけですよ。余計暑くなるだろうにと思いながら見てるんですけど、案の定暑い~って言って水をがぶ飲みして、きぬに至ってはそれで腹を壊すっていう」
「冷たいものを一気に飲むのは良くないよね。ずっと外にいるならともかく、屋内は結構ガンガンに冷房かかってるからそれで体がバカになるって言うか」

 大学の自分の班でも元気な女子2人を見ているから、インターフェイスでも本当に元気な連中はよくやるなあ、という感じで見ているようだ。おなかを壊した子はアナウンサーなので、ステージ前に同じことはしてくれるなよと説教はしたとのこと。将門も大変だ。

「レナはどうしてるの、その辺の調整は」
「常温の水を買うか、暑いところにいる時間が長いなら、冷えたペットボトルの水を買って、手で持って体を冷やしつつ水をあっためてる」
「手のひらの、AVAでしたっけ」
「そうそう。そこから体の熱を逃がしつつ、水を体が冷えすぎない適温にしてあげる感じ。てかウチの大学の情報棟って冷え過ぎるんだよね。大学では白湯が美味しいのなんのって」
「レナ先輩が白湯飲んでたらそれはもうモデルのモーニングルーティンなんよ」
「レナ先輩きれーだし頭もいーしやさしーし、白湯を飲めばレナ先輩みたいになれる可能性が…?」
「背も高くなるかも!」
「ないわ! 白湯飲んだくらいでなったら人類みんな飲んどるっつーの! あと背はもう絶望的やろお前ら」
「あ~、うっしーがまぁ~たすずにケンカ売りましたぁ~」
「お前らって言ったー、ゆめにも売りましたー」
「何でや! 男はともかく女は身長伸びるん止まるんも早いやろ! 背伸ばしたいんなら白湯じゃなくて牛乳を飲め!」
「また始まった」

 レナが白湯を飲んでいる図はモデルのモーニングルーティンのようだといううっしーの表現自体には特に異論はない。程良く日光の入る明るい部屋で、朝のゆったりした空気の中でゆっくりと白湯を飲み、イメージを加えるならそのままヨガをやってるような感じ。
 ただ、白湯に身長を伸ばす効果は期待できないと思う。白湯を飲むという習慣をきっちり守ることで生活リズムを整えるとか、体を温めることによるちょっとした健康効果とか。特に女性は冷えから不調に繋がることが多いそうだ。

「こんな調子でうっしーとゆめの番組大丈夫なのかな」
「大丈夫将門、それは心配してないよ」
「え、そうなんですか」
「書いてる段階のゆめのキューシートを見せてもらってるけど、打ち合わせ自体はそれはもう真面目にやってるっぽい」
「あ、そうなんですか」
「多分ゆめすずがここまで賑やかなのって、ゆめすず2人の馬が合ったからで、大学ではまだちょっと様子見してたんじゃないかな。1人の時はここまでじゃないと言うか。あと、うっしーみたく無遠慮にだる絡みしてもいい存在があるかないかとか。環境の影響的な」
「馬には乗ってみよ、人には添うてみよとも言うしね」
「うーん、そう考えると、うっしーも絡みやすいタイプの人間という評価になるのかなあ」

 普段のうっしーとすずゆめの掛け合いと、キューシートとの間にあるギャップに将門は首を傾げている。うしゆめペアの打ち合わせの様子をこの目で見たわけじゃないけど、すずがいるとき程ではないにせよ、ある程度軽妙な掛け合いをしながら番組計画を立ててるのかなとは俺の想像だ。

「将門はカタブツやからなあ」
「誰が堅物だ」
「お前やお前。似たよーなんがウチにもおるわ」
「将門はカタブツかもー、豆腐の角じゃ死なないね、馬に蹴られても多分死なない」
「馬耳東風ばじとーふーとーふぅ~! ふぅ~ふぅ~っ!」
「豆腐だけにか」
「はーい残念うっしー浅い、馬にもかかってま~す、周りの話もちゃんと聞いてないと~」
「ウマいこと言ったつもりか!」
「自分が? ウマだけに」
「ちゃうわ!」

 馬にかかってるからって別に深くはないと将門が呟くも、2人の耳には届いていないようだ。

「あー、湯豆腐食べたい」
「どうしたレナ、急に」
「いや、今の件見てたらね。この季節だからこその湯豆腐だよ。体の中があったまるよ」
「じゃあ俺は馬肉を推します」
「それもいいね。美味しそう」
「馬肉を甘くどく似た物を乗せた肉うどんてご存じですか? うどんの麺も食感や小麦の香りが強いので美味しいんですよ」
「へえ、美味しそう」
「うどんと聞いて! 将門それどこで食えるんや! 頼む、教えてくれ!」


end.


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水族館のオタリアから生まれた小さくてかわいいコンビ。ゆめすずはフェーズ3を代表するコンビになれるか
すずは星大でも何年かに1人現れる変人枠(坂井さん、兄さん、蒼希の枠)のような気がしてきた
星大3人組構想より先に書いた話なのですずのキャラがちょいブレ。でもキャラ誕生初年度はみんなそんなモン。

(phase3)

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