2024

■ペアルックの心の友たち

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「何やってんだお前ら」
「音楽とステージと酒がある場所だぞ!? 俺らはそこに行っていろいろ学ぶべきコトがあったワケよ。なあ朝霞!」
「まあ、単純に飲んで楽しんでただけだけどな」

 USDXメンバーでの集まりで、久々にオフで全員集合。するとカンと朝霞が同じTシャツを着ていたので、お前ら何がどうなってそうなったんだと残る4人が奇異の目を向ける。2人が着ているのは星港のオクトーバーフェストでやっているスタンプラリーの景品だそうだ。

「そのスタンプラリー? 全部集めるのってそれなりに大変でしょ?」
「全部で13店舗分な。でも気分が上がってるから結構早く集まんだよ」
「2人で飲んだにしても、どれだけのペースで飲んだんだという話だぞ。カンノはともかく、朝霞がそれだけ飲もうとすれば酩酊状態になるだろう」
「実際1回結構めんどくさいことにはなった」
「やはりな」
「つか朝霞って意外にデケーから絡まれたら振りほどけねーし力も意外に強えーし、家に連れてったら連れてったで人に抱きついたまま爆睡するわでどーしろっつー話でだな」
「その悪癖を今まで知らなかったのか」
「噂に聞いた程度だった。何が悲しくて何時間も男に抱きつかれ続けなきゃいけないんだ」
「だとすればお前の無知が招いた結果ではないか。泥酔状態の朝霞からはいかに距離を取るかというのが基本だ」
「やっぱ朝霞の酒癖を知ってたらそうなんのか」
「当然だろう」

 リン君はUSDXになる前から朝霞の酷い酒癖の被害に何度か遭っているので、それなりに対策を打っているようだ。そもそも、朝霞は弱いなりに酒が好きなので、メンバーで飲んでいてもガンガン行きたがる。危ないと思った時に朝霞を止めるのも大体リン君かソルさんだ。
 前に洋平に聞いた話では、部活の班単位で飲んでいた時は中途半端に意識がある方が面倒なので、好きなだけ飲ませて潰れたところを越谷さんが担ぎ上げて部屋のベッドに放り込むという力業で解決していたそうだ。カンとはパワーが違いすぎるので何の参考にもならないだろう。

「なあチータ」
「うんにゃ?」
「結局俺はオクトーバーフェストには行けてねえんだが、肉もそれなりにあるだろ。フードのクオリティはどうだ」
「ポテトとかはまあその辺のイモだけど、ウインナーは美味い。お前が認めるクオリティかどうかは知んねーけど、少なくとも雰囲気代込みの値段としては出せる」
「ふーん、ならやってる間に1回食いに行くか」
「月末までだから油断してるとすぐ終わるぞ」
「拓馬はお肉に落ち着くし。美味しいのが食べたいなら言ってくれれば取り寄せるのに」
「お前のその何でも金で強引に解決しようとする姿勢は好きじゃねえ。こういうのは自分の足で稼ぐことに意味があるんだよ」
「えー、ヒドいよねえコンちゃん」
「え、俺に振りますか」
「コンちゃんはどっちかって言うと俺の価値観に近くない? 取り寄せられる物は取り寄せて、おうちでゆっくり味わう的な」
「それも否定はしませんけど、現地に行くのも嫌いじゃないですよ俺は」
「そこは俺に賛同するところ! 拓馬チータレイ君がアクティブな方なんだから1人くらい俺の味方がいてもいいでしょ!?」
「と言うか、自分もそれなりにアクティブじゃないとカンの相手は出来ませんって」
「それは確かに。コンちゃんいつもチータのお守り役ご苦労様です」
「テメー! お守りって何だ!」

 イベント会場で感じた熱気みたいな物はこれからUSDXでの活動に存分に生かすんだからただ飲み歩いていたワケじゃないんだとカンは鼻息を荒くしている。ただ飲み歩くことが別に罪ってワケでもないんだけどなあ。確かに、2人でペアルックが出来るくらいに飲んでしまっているのには呆れているんだけども。
 現地に行って場の雰囲気や食べ物を楽しむか、家から配信で楽しんだり通販でお取り寄せするか。何をどう楽しむかにも個々人の色が見えて面白いなあと思う。カンや朝霞は論外として、ソルさんは意外と言ったら失礼かもだけど、しっかりと自分の足で現場に赴く人なんだもんなあ。自分の目で見た物が真実、みたいな考え方だとは聞いたことがあるけど。
 一方プロさんは雰囲気のつまみ食いでもそれなりに楽しめるとか、雰囲気を掴んで理解出来る人なんだろう。あるいはプロさんほど忙しい人だとガッツリ現地で物事を楽しむだけの時間がないのかもしれない。お金はあるから買える物は買って確かめることはするようだ。

「それで、スタンプラリーはもう全部集めたんでしょ? チータとレイ君のオクトーバーフェストはもう終わり?」
「いやいや、まだまだ終わるつもりはないぜ! なあ朝霞!」
「まあ、最終日は行きたいかなーって感がある。初日の感じを見てると最終日も特殊ステージがありそうだし興味は」
「カーッ、お前は結局それに落ち着くんだな!」
「お前だって音楽に落ち着いてるだろ! こないだなんかバンドステージん時に客が盛り上がってんのに感動してボロボロ泣いてたじゃねーか! スガ~、音楽ステージが最高だ~! っつってよ!」
「他には? もっとチータの恥ずかしい話何かないのレイ君」
「うっ、うるせー! ねーよ!」
「って言うか俺呼ばれた?」
「ちょこちょこ呼ばれてるぞ。ドラム来ーい! とか何とか。ステージ見てると自分のバンド欲が抑えられなくなるらしい」
「はあ」
「いや、何でお前そんなドライな反応なんだよ! さてはお前オクトーバーフェストのステージをナメてんな!? すっげー楽しいんだぞ!」
「それは知ってるよ。学生の時、お前に引きずられてヤスと3人で行っただろ」
「スガ、お前それは古い。アップデートをしろ!? 音楽のある場所に敏感になれ!? 仮にもあの家の婿になるんならよ」
「それは今言わなくてもいいことだろ」


end.


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オクトーバーフェストの思い出話。ペアルックの心の友たちが見たいだけ。

(phase3)
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