2024
■趣味は育てるもの
++++
「おーすレン、お待たせー」
「お疲れさまです。それで、これが例のジャガイモなんですけど、本当に引き取ってもらうので大丈夫ですか?」
「うん、助かるよ。ありがとー」
「いえ、こちらこそ助かります。個人で2ケースも持って行ってもらって、徹平君には感謝しかありません」
亮真つてに知り合った星大のレンとは時々亮真を含めて釣りに行くようになっていた。その中で、テディベア作りが趣味であったり、自分で着る服を縫っているという話を聞いてすげーなーと感心していた。俺もデニム加工程度の簡単な手芸くらいはするから。
で、そのレンと今日は2人で会うことに。レンからはバイト先を埋め尽くしているジャガイモのケースを少しでいいので引き取ってもらえないかと沈痛な面持ちで頼まれたので、2ケースほどもらうことに。何か今ジャガイモって高いらしいし、母さんがぜひもらってくれと言ったから。
「てか去年、向島大学でラジオのサークルやってる友達がさ、学祭の食品ブースでフライドポテト出すのに星大から大量のジャガイモを譲ってもらってとにかく元手がかかんないようにするんだーって言ってたけど、もしかしてこーゆーこと?」
「そうですね。あの時は大量にもらっていただいて本当に助かりましたが、夏は夏でそれなりの量が襲ってくるみたいで……」
「何で大学のパソコン自習室にジャガイモが襲ってくるのか意味わかんないんだけど」
「僕と入れ違いで卒業していった先輩の、親戚の人だったかが各地で芋農園をやっているそうで……その先輩というのがなかなかエキセントリックな方で、その血縁筋に常識など求めるな、とは川北さんの前のバイトリーダーの先輩が言っていました」
「はえー。俺もいろんな知り合いがいて面白い話はいろいろ聞いてきたつもりだったけど、やっぱりまだまだ世界は広いなー」
「情報センターは本当に退屈しませんよ、いろいろな人がいて。最初は少し怖いですけどね」
確かに向島に留学していたときもりっちゃん先輩が「星大の情報センターは奇人変人の巣窟」みたいに言っていたような気がする。言っちゃ何だけどレンもなかなか趣味っつーかセンスが尖ってるし、アオ先輩も結構な人だと思う。星ヶ丘の深青の双子の姉ちゃんもいるって話だ。で、ミドリ先輩がそんな中にいるのが凄いなって。
「それで、今日は手芸用品店などを回るんですよね」
「そうそう。俺ら針仕事はするけど微妙にジャンルは違うじゃん、いろいろアイディアを交換したり出来たらなって思って。つか俺がいろいろ相談したくて」
「そういうことならさっそく行きましょうか。でも、徹平君は多趣味ですから、僕のようにいつも針仕事をしているというわけではないですよね。次は何をするとか、計画はあるんですか?」
「あのなー、それなんだけどさー。レザーに手ぇ出したいんだよ」
「レザーですか」
「うん。レザーをさ、育てて、手入れして、長ーく使って歴史を刻んでいく感じがすっごい好きで」
「手をかけた分、確実に応えてくれますもんね。時間の概念が出てくると、徹平君のらしさという感じがしますよ」
「よく言われるー。だからデニムも好きなんだけどさ」
「でも、ヴィンテージ物は高いでしょう」
「だから、ヴィンテージっぽく加工したデニムを扱ってる店のSNSとかフォローして、いいなー、貯金していつか行きたいなーって目ぇ付けてるんだよ」
「目標があるのはいいことですよ。僕は憧れていたテディベアミュージアムに連れて行ってもらえましたし、今度は自分で行けるようになりたいと思って車の運転を練習しているところなんです」
「へー、いいじゃん! だったら今日もレンに運転してもらえばよかったかなー」
「いえ、まだまだ人は乗せられませんよ。星港は怖いですし」
レンは最近中古の軽四を買ったそうだ。大きな買い物を出来るようになったし、行動範囲を広げるために専ら運転の練習中。助手席にはミドリ先輩に乗ってもらって、大学で駐車の練習をしたり、公道でない場所をぐるぐる回ってハンドルを握ることに慣れている段階だとか。免許自体は地元で取ってたらしいけど、ペーパードライバーになるとブランクがしんどいって。
「それで、レザーの服を作るんですか? ジャケットなど」
「いやいやいや、それはさすがにハードルが高すぎる! でもまずは小物とかかなーとは思ってるんだよ」
「小物ですか。キーケースや財布など?」
「まあそうなるかなとは」
「いいと思いますよ」
「そんでいろいろ調べてはみてるんだけど、どーやって縫おうと思って。ミシンでやるならレザー用のを買わなきゃだし」
「しばらくは小物で攻めるんでしたら、手縫いがいいと思いますよ。ミシンは縫い跡が付きますから、気になる人は気になるそうですし」
「あー、縫い跡かー。確かに気にするかもなー」
「しばらく小さい物で練習して、大きな物を縫いたいと思ったときにミシンの購入を検討し始める感じでも遅くはないというのが僕の見解です」
「そっか、ありがと」
問題は手縫いできっちり縫うことが出来るかという話だけど、それを含めた練習が必要ということで落ち着いた。こういうのは練習の過程も楽しいしな。さすがに人に見せるのはちゃんと出来るようになってからの方がいいけど。
「あとさ、柄物とかってどうしようかな的なアレがあるじゃん」
「柄物ですか。一般的な布地の場合はそれなりに種類がありますけど、レザーとなるとやや少なくなりそうですよね」
「上手く作れるようになったらさ、いつかは彼女にも何か作ってあげられたらなって思うワケだよ。宇宙柄レザーってあると思う?」
「宇宙柄ですか。柄としては一応、一定の需要はあるので探す価値はあると思いますが、値は張るでしょうね」
「だよなー。ならいっそ染めるか!?」
「染めるのであれば、練習に付き合いますよ」
「マジで!? あざっす!」
「徹平君的にお気に召さなかった生地も、僕が使える可能性がありますしね。その辺りのクラフトというのにも興味はあるので」
「じゃちょっと今日はその路線の買い物をするかなー。先生、よろしくお願いします」
「あの、僕もレザーを扱った経験はありませんよ?」
「じゃあレンも次のベアにレザー着せよう」
「それはアリですね。俄然楽しみになってきました」
end.
++++
情報センターではちょっとおどおどしてる系男子のレンレン、すがやんとは趣味の友達なので口数は多め。
今の情報センターはまだ詰まりきってないのでご無沙汰だけど、あの頃のエキセントリックな感じではなさそう。
(phase3)
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「おーすレン、お待たせー」
「お疲れさまです。それで、これが例のジャガイモなんですけど、本当に引き取ってもらうので大丈夫ですか?」
「うん、助かるよ。ありがとー」
「いえ、こちらこそ助かります。個人で2ケースも持って行ってもらって、徹平君には感謝しかありません」
亮真つてに知り合った星大のレンとは時々亮真を含めて釣りに行くようになっていた。その中で、テディベア作りが趣味であったり、自分で着る服を縫っているという話を聞いてすげーなーと感心していた。俺もデニム加工程度の簡単な手芸くらいはするから。
で、そのレンと今日は2人で会うことに。レンからはバイト先を埋め尽くしているジャガイモのケースを少しでいいので引き取ってもらえないかと沈痛な面持ちで頼まれたので、2ケースほどもらうことに。何か今ジャガイモって高いらしいし、母さんがぜひもらってくれと言ったから。
「てか去年、向島大学でラジオのサークルやってる友達がさ、学祭の食品ブースでフライドポテト出すのに星大から大量のジャガイモを譲ってもらってとにかく元手がかかんないようにするんだーって言ってたけど、もしかしてこーゆーこと?」
「そうですね。あの時は大量にもらっていただいて本当に助かりましたが、夏は夏でそれなりの量が襲ってくるみたいで……」
「何で大学のパソコン自習室にジャガイモが襲ってくるのか意味わかんないんだけど」
「僕と入れ違いで卒業していった先輩の、親戚の人だったかが各地で芋農園をやっているそうで……その先輩というのがなかなかエキセントリックな方で、その血縁筋に常識など求めるな、とは川北さんの前のバイトリーダーの先輩が言っていました」
「はえー。俺もいろんな知り合いがいて面白い話はいろいろ聞いてきたつもりだったけど、やっぱりまだまだ世界は広いなー」
「情報センターは本当に退屈しませんよ、いろいろな人がいて。最初は少し怖いですけどね」
確かに向島に留学していたときもりっちゃん先輩が「星大の情報センターは奇人変人の巣窟」みたいに言っていたような気がする。言っちゃ何だけどレンもなかなか趣味っつーかセンスが尖ってるし、アオ先輩も結構な人だと思う。星ヶ丘の深青の双子の姉ちゃんもいるって話だ。で、ミドリ先輩がそんな中にいるのが凄いなって。
「それで、今日は手芸用品店などを回るんですよね」
「そうそう。俺ら針仕事はするけど微妙にジャンルは違うじゃん、いろいろアイディアを交換したり出来たらなって思って。つか俺がいろいろ相談したくて」
「そういうことならさっそく行きましょうか。でも、徹平君は多趣味ですから、僕のようにいつも針仕事をしているというわけではないですよね。次は何をするとか、計画はあるんですか?」
「あのなー、それなんだけどさー。レザーに手ぇ出したいんだよ」
「レザーですか」
「うん。レザーをさ、育てて、手入れして、長ーく使って歴史を刻んでいく感じがすっごい好きで」
「手をかけた分、確実に応えてくれますもんね。時間の概念が出てくると、徹平君のらしさという感じがしますよ」
「よく言われるー。だからデニムも好きなんだけどさ」
「でも、ヴィンテージ物は高いでしょう」
「だから、ヴィンテージっぽく加工したデニムを扱ってる店のSNSとかフォローして、いいなー、貯金していつか行きたいなーって目ぇ付けてるんだよ」
「目標があるのはいいことですよ。僕は憧れていたテディベアミュージアムに連れて行ってもらえましたし、今度は自分で行けるようになりたいと思って車の運転を練習しているところなんです」
「へー、いいじゃん! だったら今日もレンに運転してもらえばよかったかなー」
「いえ、まだまだ人は乗せられませんよ。星港は怖いですし」
レンは最近中古の軽四を買ったそうだ。大きな買い物を出来るようになったし、行動範囲を広げるために専ら運転の練習中。助手席にはミドリ先輩に乗ってもらって、大学で駐車の練習をしたり、公道でない場所をぐるぐる回ってハンドルを握ることに慣れている段階だとか。免許自体は地元で取ってたらしいけど、ペーパードライバーになるとブランクがしんどいって。
「それで、レザーの服を作るんですか? ジャケットなど」
「いやいやいや、それはさすがにハードルが高すぎる! でもまずは小物とかかなーとは思ってるんだよ」
「小物ですか。キーケースや財布など?」
「まあそうなるかなとは」
「いいと思いますよ」
「そんでいろいろ調べてはみてるんだけど、どーやって縫おうと思って。ミシンでやるならレザー用のを買わなきゃだし」
「しばらくは小物で攻めるんでしたら、手縫いがいいと思いますよ。ミシンは縫い跡が付きますから、気になる人は気になるそうですし」
「あー、縫い跡かー。確かに気にするかもなー」
「しばらく小さい物で練習して、大きな物を縫いたいと思ったときにミシンの購入を検討し始める感じでも遅くはないというのが僕の見解です」
「そっか、ありがと」
問題は手縫いできっちり縫うことが出来るかという話だけど、それを含めた練習が必要ということで落ち着いた。こういうのは練習の過程も楽しいしな。さすがに人に見せるのはちゃんと出来るようになってからの方がいいけど。
「あとさ、柄物とかってどうしようかな的なアレがあるじゃん」
「柄物ですか。一般的な布地の場合はそれなりに種類がありますけど、レザーとなるとやや少なくなりそうですよね」
「上手く作れるようになったらさ、いつかは彼女にも何か作ってあげられたらなって思うワケだよ。宇宙柄レザーってあると思う?」
「宇宙柄ですか。柄としては一応、一定の需要はあるので探す価値はあると思いますが、値は張るでしょうね」
「だよなー。ならいっそ染めるか!?」
「染めるのであれば、練習に付き合いますよ」
「マジで!? あざっす!」
「徹平君的にお気に召さなかった生地も、僕が使える可能性がありますしね。その辺りのクラフトというのにも興味はあるので」
「じゃちょっと今日はその路線の買い物をするかなー。先生、よろしくお願いします」
「あの、僕もレザーを扱った経験はありませんよ?」
「じゃあレンも次のベアにレザー着せよう」
「それはアリですね。俄然楽しみになってきました」
end.
++++
情報センターではちょっとおどおどしてる系男子のレンレン、すがやんとは趣味の友達なので口数は多め。
今の情報センターはまだ詰まりきってないのでご無沙汰だけど、あの頃のエキセントリックな感じではなさそう。
(phase3)
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