2024
■成果に裏はなし
(phase1)
++++
情報センターというのは大学内の学習支援施設であって、決してスーパーや八百屋の在庫置き場ではない。しかし、事務所には所狭しとジャガイモの箱が積まれていて、ここにこれを投棄した張本人も自分は被害者だの一点張り。こんな物をどうしろというのだ。
無数に積まれたジャガイモの箱。こんなことをするのは春山さん以外にないのだが、春山さん曰く、自分の血縁筋は総じて面白いかおかしな人間しかいないのだという。この話になる度アンタが言うなと返すのだが、自分はまだ常識的かつ大人しい方なのだと。理解に苦しむ。
南極に行っただのピラミッド探検をしただのという人の話はよく聞くし、音楽的な方面での人脈がすごい人もいるのだという。それらは面白い方の人間だと思うが、南北各地でイモ農園をやっているという人はおかしな方の人間に違いない。
「して、これらをどうするか」
箱の前で立ち尽くしたとてどうにかなるものでもない。少し湯を沸かせる程度のセンター事務所ではどうにもならんので、これを捌けさせて処理しなければならんのだが、人脈と手段に決め手を欠いている。何が問題かと言えば、これは序の口、南の物で、本番は秋の北辰産だ。
「おはよーございまーす」
「ああ、川北か」
「やっぱり減ってませんよねー」
「まあ、1ケース2ケース減ったとて見た目にはわからんな」
川北は長篠から出てきていて現在一人暮らしをしている。当面の食料として少し持って行ったが焼け石に水。やはりこれを置いていった張本人がどうこうすべきだろう。しかしあの人の厄介なところはバイトリーダーという権力を用いて人を脅してくるところだ。
「ういーす。相変わらずシケたツラしてんなァ、リン」
「いい加減にこれを何とかしろ」
「私に言うなよ。私だって被害者なんだぞ」
「送り返すなり何なり、手段はあるだろう」
「送り返したところで品種が気に入らなかったんだなって言って違う芋が返ってくるだけだぞ」
「意味が分からん」
「でだ! 私なりの誠意がこれだ」
「アンタと誠意など、不釣り合いな言葉ですね」
誠意と言って春山さんが机の上に置いたのは巨大なタッパーとクーラーボックスだ。そして紙皿や割り箸など、これからここで食卓でも囲むのかと疑いたくなる準備を始めた。いや、確かに事務所は飲食禁止ではないし、休憩の際には軽食を摘むことはあるが。
「春山さーん、何が始まるんですかー?」
「ちょうど小腹が空く頃合いだろ、芹サン特製のうめーヤツをお前らに振る舞ってやろうと思ってなー」
「わーっ、春山さん特製の美味しいものですかー? 楽しみですー」
「それはいいが、受付から丸見えだぞ」
「それはお前、パーテーションを引っ張ってくるなりしろよ。私はテーブル周りの支度で忙しいんだぞ」
「何故オレがそんなことを」
とは言え日頃自習室で飲食禁止だの何だのと注意をして回っているスタッフが事務所でそんなことをしていては苦情が入っても一切反論出来ない。ここは仕方なくパーテーションを持ってくることに。そうこうしている間にも机の上は仕上がっていく。
「じゃーん!」
「わーっ、何ですかー?」
「芹サン特製いももちだ!」
「ほう。アンタから話には聞いていましたが、実在するんですね」
「当たり前だろ。北辰ナメんな」
「北辰をナメてはいない。アンタを信用していないだけです」
「これって、どうやって作るんですか?」
「芋を蒸かして、つぶして、粉と混ぜて、後はテキトーに。揚げて焼くとか焼くだけとか流派はあるけど、今日は焼いただけだ。で、たれをかける。ま、何でもいいからさっさと食え」
「食ったことで後々不利益を被ったりなど」
「ねーよ。純粋な芋の消費だ」
「ではいただきます」
これは北辰のソウルフードというものらしい。こっちでは自分で作らないと食べられないのが面倒であるというような話は何度か聞いていたが、作れるのであればいいのではないかとは思う。それでなくても春山さんはそれなりに料理が上手いのだ。
食えと言われたので食ってみると、程良く粘度があり、甘くどいたれがまたいい味を出している。チーズを入れるなどのアレンジも出来るそうだがオレはこの基本形が好みだ。タッパーにある分は食べていいとのことなので、遠慮なくおかわりをする。
「わー、おいしいですねー」
「そうだろォー、ここに芋を生やした責任をとってとりあえず1ケース消費したぞー」
「えっ、1ケース分のジャガイモを丸々使っていももちを作ったんですか!?」
「そうだぞ」
「え、だって、皮を剥いたり蒸かした芋を潰したりって結構な重労働じゃないですか?」
「そりゃァーお前、私だって1人ではやってねーぞ。一応手伝わせる当てくらいはある。一発ヌいてやるから働けっつってなー。ヌいてやったら調子に乗りやがったから対価としてさらに手伝わせた結果大量の冷凍保存食にもなったから、川北、お前これ持って帰れ。チンすればおいしくいただけるぞ。たれは市販のみたらしとかでもいいから」
「え、あ、はい、いただきますー」
「春山さん。川北が引いているぞ」
「国宝級パオン、その程度で引くなよ。宝の持ち腐れか? パオンがしょぼんなら私にくれよ、リンのプリケツで使用感試してェー…!」
「はい?」
「意味がわからんならその方がいいぞ」
「サービスと引き替えに対価を奪うなんざよくあることだろ」
「えっとー……字面だけ聞けば普通みたいですけどー」
「やっていることは完全に性営業だからな」
「愛憎渦巻く恋愛よりも健全だろ。あとめんどくせーけど適度に供給しねーと後々ロクでもない目に遭うからな」
大量のいももちが出来た過程についてはともかく、モノ自体は美味いので普通に食い続けることが出来る。冷凍の保存用いももちとやらもレンジで温めれば食えるそうなので、ゼミ室の冷凍庫に置いておくことにした。加工されていれば食うのにも億劫にならずに済むのだが。
「つかリンお前この短時間でどんだけ食ったよ!?」
「わーっ、タッパーが見るからに空きましたねー」
「蒸かしただけの芋よりは食いやすいですからね、何枚食ったかなど数えてはおらん。同様に、いももち何枚が芋1個換算になるのかも知らん」
「なるほど、こうやって消費させりゃいいのか」
end.
++++
情報センターにいももちが降ってきた結果まあこうなる。
まあやっぱり情報センターはナノスパ内でもエキセントリック寄りだなあと思います。懐かしいぜ!
(phase1)
.
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情報センターというのは大学内の学習支援施設であって、決してスーパーや八百屋の在庫置き場ではない。しかし、事務所には所狭しとジャガイモの箱が積まれていて、ここにこれを投棄した張本人も自分は被害者だの一点張り。こんな物をどうしろというのだ。
無数に積まれたジャガイモの箱。こんなことをするのは春山さん以外にないのだが、春山さん曰く、自分の血縁筋は総じて面白いかおかしな人間しかいないのだという。この話になる度アンタが言うなと返すのだが、自分はまだ常識的かつ大人しい方なのだと。理解に苦しむ。
南極に行っただのピラミッド探検をしただのという人の話はよく聞くし、音楽的な方面での人脈がすごい人もいるのだという。それらは面白い方の人間だと思うが、南北各地でイモ農園をやっているという人はおかしな方の人間に違いない。
「して、これらをどうするか」
箱の前で立ち尽くしたとてどうにかなるものでもない。少し湯を沸かせる程度のセンター事務所ではどうにもならんので、これを捌けさせて処理しなければならんのだが、人脈と手段に決め手を欠いている。何が問題かと言えば、これは序の口、南の物で、本番は秋の北辰産だ。
「おはよーございまーす」
「ああ、川北か」
「やっぱり減ってませんよねー」
「まあ、1ケース2ケース減ったとて見た目にはわからんな」
川北は長篠から出てきていて現在一人暮らしをしている。当面の食料として少し持って行ったが焼け石に水。やはりこれを置いていった張本人がどうこうすべきだろう。しかしあの人の厄介なところはバイトリーダーという権力を用いて人を脅してくるところだ。
「ういーす。相変わらずシケたツラしてんなァ、リン」
「いい加減にこれを何とかしろ」
「私に言うなよ。私だって被害者なんだぞ」
「送り返すなり何なり、手段はあるだろう」
「送り返したところで品種が気に入らなかったんだなって言って違う芋が返ってくるだけだぞ」
「意味が分からん」
「でだ! 私なりの誠意がこれだ」
「アンタと誠意など、不釣り合いな言葉ですね」
誠意と言って春山さんが机の上に置いたのは巨大なタッパーとクーラーボックスだ。そして紙皿や割り箸など、これからここで食卓でも囲むのかと疑いたくなる準備を始めた。いや、確かに事務所は飲食禁止ではないし、休憩の際には軽食を摘むことはあるが。
「春山さーん、何が始まるんですかー?」
「ちょうど小腹が空く頃合いだろ、芹サン特製のうめーヤツをお前らに振る舞ってやろうと思ってなー」
「わーっ、春山さん特製の美味しいものですかー? 楽しみですー」
「それはいいが、受付から丸見えだぞ」
「それはお前、パーテーションを引っ張ってくるなりしろよ。私はテーブル周りの支度で忙しいんだぞ」
「何故オレがそんなことを」
とは言え日頃自習室で飲食禁止だの何だのと注意をして回っているスタッフが事務所でそんなことをしていては苦情が入っても一切反論出来ない。ここは仕方なくパーテーションを持ってくることに。そうこうしている間にも机の上は仕上がっていく。
「じゃーん!」
「わーっ、何ですかー?」
「芹サン特製いももちだ!」
「ほう。アンタから話には聞いていましたが、実在するんですね」
「当たり前だろ。北辰ナメんな」
「北辰をナメてはいない。アンタを信用していないだけです」
「これって、どうやって作るんですか?」
「芋を蒸かして、つぶして、粉と混ぜて、後はテキトーに。揚げて焼くとか焼くだけとか流派はあるけど、今日は焼いただけだ。で、たれをかける。ま、何でもいいからさっさと食え」
「食ったことで後々不利益を被ったりなど」
「ねーよ。純粋な芋の消費だ」
「ではいただきます」
これは北辰のソウルフードというものらしい。こっちでは自分で作らないと食べられないのが面倒であるというような話は何度か聞いていたが、作れるのであればいいのではないかとは思う。それでなくても春山さんはそれなりに料理が上手いのだ。
食えと言われたので食ってみると、程良く粘度があり、甘くどいたれがまたいい味を出している。チーズを入れるなどのアレンジも出来るそうだがオレはこの基本形が好みだ。タッパーにある分は食べていいとのことなので、遠慮なくおかわりをする。
「わー、おいしいですねー」
「そうだろォー、ここに芋を生やした責任をとってとりあえず1ケース消費したぞー」
「えっ、1ケース分のジャガイモを丸々使っていももちを作ったんですか!?」
「そうだぞ」
「え、だって、皮を剥いたり蒸かした芋を潰したりって結構な重労働じゃないですか?」
「そりゃァーお前、私だって1人ではやってねーぞ。一応手伝わせる当てくらいはある。一発ヌいてやるから働けっつってなー。ヌいてやったら調子に乗りやがったから対価としてさらに手伝わせた結果大量の冷凍保存食にもなったから、川北、お前これ持って帰れ。チンすればおいしくいただけるぞ。たれは市販のみたらしとかでもいいから」
「え、あ、はい、いただきますー」
「春山さん。川北が引いているぞ」
「国宝級パオン、その程度で引くなよ。宝の持ち腐れか? パオンがしょぼんなら私にくれよ、リンのプリケツで使用感試してェー…!」
「はい?」
「意味がわからんならその方がいいぞ」
「サービスと引き替えに対価を奪うなんざよくあることだろ」
「えっとー……字面だけ聞けば普通みたいですけどー」
「やっていることは完全に性営業だからな」
「愛憎渦巻く恋愛よりも健全だろ。あとめんどくせーけど適度に供給しねーと後々ロクでもない目に遭うからな」
大量のいももちが出来た過程についてはともかく、モノ自体は美味いので普通に食い続けることが出来る。冷凍の保存用いももちとやらもレンジで温めれば食えるそうなので、ゼミ室の冷凍庫に置いておくことにした。加工されていれば食うのにも億劫にならずに済むのだが。
「つかリンお前この短時間でどんだけ食ったよ!?」
「わーっ、タッパーが見るからに空きましたねー」
「蒸かしただけの芋よりは食いやすいですからね、何枚食ったかなど数えてはおらん。同様に、いももち何枚が芋1個換算になるのかも知らん」
「なるほど、こうやって消費させりゃいいのか」
end.
++++
情報センターにいももちが降ってきた結果まあこうなる。
まあやっぱり情報センターはナノスパ内でもエキセントリック寄りだなあと思います。懐かしいぜ!
(phase1)
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