2024
■嵐の狸ヶ原
(phase1)
++++
「ぽんぽんぽんぽこぽんぽんぽぽんのぽんっ」
「おい」
「ぽんぽんぽんぽこぽんぽんぽぽんのぽん~っとくらァ」
「おい、その珍妙な歌をいい加減にやめんか」
「ンだよォ、せっかく人が気分よく歌ってたっつーのによー」
春山さんが一昨日からこの調子だ。よくわからん歌を歌い続けている。しかしやたら耳に残るメロディーで、気付けば頭の中にぐるぐる回り始めるから困る。自分でもこの歌に対抗しようと別の曲を頭の中に鳴らしてはみるものの、気付けば侵食されている。迷惑極まりない。
「大体何なんです、その歌は」
「北辰エリア創星市が誇る狸ヶ原 商店街の歌だろうがよ、知らねーのか」
「生粋の向島エリア西海市民が何故知っていると思う」
「ぽんぽこアベニューは恋の路~、まみまみま~みがはら~、しょぉてぇ~ん~がぁい~」
何だそれはと思ってその辺のマシンで狸ヶ原商店街の歌を調べてみると、動画共有サイトなんかで聞けてしまうらしい。これを今ここで流すと面倒極まりないことになるだろう。止めておくのが得策だ。しかし、ホームページを見ていると、この狸ヶ原商店街というのはなかなか大きな商店街らしく、観光の際に足を延ばす場所でもあるようだ。
狸ヶ原商店街が大きな商店街で、商店街としては新しい物好き……と言うか、新しい技術などを積極的に取り入れるタイプの商店街であるということはわかった。歴史もそこそこに深いらしく、150年ほどが経つそうだ。そんな中で商店街の歌やキャラクターもいくつか作られたそうだが、現在では春山さんの歌っているこの曲が覇権を握ったらしい。ウィキペディアによれば。
「それはいいが、いい加減にやめんか。最早災害だ」
「あァん? 何が災害なんだよ」
「昨日から川北がその歌を中途半端に覚えて歌い始めた」
「おー! いいことじゃねーか! 次川北と一緒になるのは来週か。ぜひともこの芹さんがチェックしてやらねーとなァ!」
「やめんかと言っている」
「実際問題北辰には川北好みの建築物も多いはずだからな、唆せばもっとどっぷり洗脳できるぞ」
「その点で言えばアイツはチョロいですからね」
「北辰大学のミュージアムなんかは好きだろうよ。昔のまんまの建物を使ってるからな」
「それはオレも興味があります。建物ではなく展示内容にですが」
「あのミュージアムのカフェでビールを飲むのがまたいいんだよ」
「……仮にも大学の博物館だろう」
「普通に売ってんだぞ、北辰限定の美味いヤツが。お前も好きなクセしてカタブツぶるなよ」
「まあ、酒に興味がないことはないが」
「夏の創星なんか、その辺歩けばフツーにビールが売ってんだよ。ビールを飲みながら、その辺で演ってるストリートミュージシャンを見て、ビール飲んで、とうきびをかじる。これなんだよ」
「星港ではなかなか考えられんが、北の文化か」
「そーな。ソフトクリームだってちょっと歩けば売りまくってんぞ」
「興味深いですね」
如何せん北辰は観光地としては強すぎる。誘惑も多い。口に入る物がいいというのは大前提として、ジャズバーがそこらじゅうにあって路上にサックス吹きが溢れているとも。春山さんの話では音楽イベントも多いようなので、そういった点での興味もある。北辰大学の博物館にも行ってみたい。
「いや、しかしそれとアンタが商店街の歌を歌っていることとは関係なかろう」
「こないだよ、須賀さんが北辰でライブだったんだよ」
「サックス奏者の須賀誠司ですか」
「そーだよ。須賀さんがライブで狸ヶ原商店街の歌をカバーしたって聞いて、うわめっちゃ聞きてー! ってなってよ」
「前々からアンタの話を聞く度に思っていたのだが、須賀誠司は何をやっているんだ」
「いや、須賀さんは音楽の気配に敏感なんだよ。噂では、その辺でやってるストリートミュージシャンの演奏に飛び入りで割り込んで、満足したらじゃーねって去っていくとか」
「やっている側からすれば迷惑極まりない」
「自分も音楽やってるからSNSアカウント教えてとか、曲聞けるところある? っつってガンガン質問攻めにしてアマチュアバンドの曲だろうがド田舎のローカルCM曲だろうが好きだと思ったらどんどん取り込んでいくんだと」
「災害ではないか。いや、確かさっき調べたページには、狸ヶ原商店街の歌は結構なビッグネームが作曲したとあったな」
「耳に残るんだよ。作曲者を聞いたら「ああ~」ってなるよな」
「それは確かになりました」
「須賀さんがやったって聞いて懐かしくなって動画サイトで聴くだろ。頭に回り始めるだろ。その結果がこうよ」
「だからと言ってアンタまで歌うことはないだろう」
サックス奏者の須賀誠司については寄こされた音源を含め春山さんから布教のように語られていたので存在や曲、演奏などについてはある程度知ってはいる。しかしどうにもこうにも音楽への好奇心が強すぎて言動が最早奇行と言って差し支えないのではないか。いや、春山さんが好きになるアーティストなのだから普通なワケがないと言える。
ただ、地方公演の場合、その土地に根付いた曲を演奏することによって地元客を掴むという効果もあると言えよう。商店街の歌をカバーした須賀誠司の行動が単純に音楽に対する好奇心からなる奇行であったとしても、実際こうして喜ぶ北辰の人間はいたワケなのだから、良かったのだろう。周りはたまったものではないが。
「まあまあ、私がこうして歌ってるのなんか次の映画かライブまでだ。そのうち終わる」
「それがいつなのかという話なのだが」
「ぽんぽんぽんぽこぽんぽんぽぽんのぽん~」
end.
++++
本日はご機嫌な春山さんと音楽の話なのでまあ普通に話を聞くリン様。
春山さんもだけど、フェーズ2でレンレンにも歌えるかどうか聞いてみて欲しい。
誠司さんの言動は内輪では普通に奇行扱い。まーた始まったよ。的な。
(phase1)
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「ぽんぽんぽんぽこぽんぽんぽぽんのぽんっ」
「おい」
「ぽんぽんぽんぽこぽんぽんぽぽんのぽん~っとくらァ」
「おい、その珍妙な歌をいい加減にやめんか」
「ンだよォ、せっかく人が気分よく歌ってたっつーのによー」
春山さんが一昨日からこの調子だ。よくわからん歌を歌い続けている。しかしやたら耳に残るメロディーで、気付けば頭の中にぐるぐる回り始めるから困る。自分でもこの歌に対抗しようと別の曲を頭の中に鳴らしてはみるものの、気付けば侵食されている。迷惑極まりない。
「大体何なんです、その歌は」
「北辰エリア創星市が誇る
「生粋の向島エリア西海市民が何故知っていると思う」
「ぽんぽこアベニューは恋の路~、まみまみま~みがはら~、しょぉてぇ~ん~がぁい~」
何だそれはと思ってその辺のマシンで狸ヶ原商店街の歌を調べてみると、動画共有サイトなんかで聞けてしまうらしい。これを今ここで流すと面倒極まりないことになるだろう。止めておくのが得策だ。しかし、ホームページを見ていると、この狸ヶ原商店街というのはなかなか大きな商店街らしく、観光の際に足を延ばす場所でもあるようだ。
狸ヶ原商店街が大きな商店街で、商店街としては新しい物好き……と言うか、新しい技術などを積極的に取り入れるタイプの商店街であるということはわかった。歴史もそこそこに深いらしく、150年ほどが経つそうだ。そんな中で商店街の歌やキャラクターもいくつか作られたそうだが、現在では春山さんの歌っているこの曲が覇権を握ったらしい。ウィキペディアによれば。
「それはいいが、いい加減にやめんか。最早災害だ」
「あァん? 何が災害なんだよ」
「昨日から川北がその歌を中途半端に覚えて歌い始めた」
「おー! いいことじゃねーか! 次川北と一緒になるのは来週か。ぜひともこの芹さんがチェックしてやらねーとなァ!」
「やめんかと言っている」
「実際問題北辰には川北好みの建築物も多いはずだからな、唆せばもっとどっぷり洗脳できるぞ」
「その点で言えばアイツはチョロいですからね」
「北辰大学のミュージアムなんかは好きだろうよ。昔のまんまの建物を使ってるからな」
「それはオレも興味があります。建物ではなく展示内容にですが」
「あのミュージアムのカフェでビールを飲むのがまたいいんだよ」
「……仮にも大学の博物館だろう」
「普通に売ってんだぞ、北辰限定の美味いヤツが。お前も好きなクセしてカタブツぶるなよ」
「まあ、酒に興味がないことはないが」
「夏の創星なんか、その辺歩けばフツーにビールが売ってんだよ。ビールを飲みながら、その辺で演ってるストリートミュージシャンを見て、ビール飲んで、とうきびをかじる。これなんだよ」
「星港ではなかなか考えられんが、北の文化か」
「そーな。ソフトクリームだってちょっと歩けば売りまくってんぞ」
「興味深いですね」
如何せん北辰は観光地としては強すぎる。誘惑も多い。口に入る物がいいというのは大前提として、ジャズバーがそこらじゅうにあって路上にサックス吹きが溢れているとも。春山さんの話では音楽イベントも多いようなので、そういった点での興味もある。北辰大学の博物館にも行ってみたい。
「いや、しかしそれとアンタが商店街の歌を歌っていることとは関係なかろう」
「こないだよ、須賀さんが北辰でライブだったんだよ」
「サックス奏者の須賀誠司ですか」
「そーだよ。須賀さんがライブで狸ヶ原商店街の歌をカバーしたって聞いて、うわめっちゃ聞きてー! ってなってよ」
「前々からアンタの話を聞く度に思っていたのだが、須賀誠司は何をやっているんだ」
「いや、須賀さんは音楽の気配に敏感なんだよ。噂では、その辺でやってるストリートミュージシャンの演奏に飛び入りで割り込んで、満足したらじゃーねって去っていくとか」
「やっている側からすれば迷惑極まりない」
「自分も音楽やってるからSNSアカウント教えてとか、曲聞けるところある? っつってガンガン質問攻めにしてアマチュアバンドの曲だろうがド田舎のローカルCM曲だろうが好きだと思ったらどんどん取り込んでいくんだと」
「災害ではないか。いや、確かさっき調べたページには、狸ヶ原商店街の歌は結構なビッグネームが作曲したとあったな」
「耳に残るんだよ。作曲者を聞いたら「ああ~」ってなるよな」
「それは確かになりました」
「須賀さんがやったって聞いて懐かしくなって動画サイトで聴くだろ。頭に回り始めるだろ。その結果がこうよ」
「だからと言ってアンタまで歌うことはないだろう」
サックス奏者の須賀誠司については寄こされた音源を含め春山さんから布教のように語られていたので存在や曲、演奏などについてはある程度知ってはいる。しかしどうにもこうにも音楽への好奇心が強すぎて言動が最早奇行と言って差し支えないのではないか。いや、春山さんが好きになるアーティストなのだから普通なワケがないと言える。
ただ、地方公演の場合、その土地に根付いた曲を演奏することによって地元客を掴むという効果もあると言えよう。商店街の歌をカバーした須賀誠司の行動が単純に音楽に対する好奇心からなる奇行であったとしても、実際こうして喜ぶ北辰の人間はいたワケなのだから、良かったのだろう。周りはたまったものではないが。
「まあまあ、私がこうして歌ってるのなんか次の映画かライブまでだ。そのうち終わる」
「それがいつなのかという話なのだが」
「ぽんぽんぽんぽこぽんぽんぽぽんのぽん~」
end.
++++
本日はご機嫌な春山さんと音楽の話なのでまあ普通に話を聞くリン様。
春山さんもだけど、フェーズ2でレンレンにも歌えるかどうか聞いてみて欲しい。
誠司さんの言動は内輪では普通に奇行扱い。まーた始まったよ。的な。
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