2024
■空の上でも土の下でも
(phase4)
++++
「春風ー、何かお前ン家の敷地で工事始まったっぽいけど、あれ何の工事?」
「奏多の家まで音が聞こえてる? だとしたらごめんなさい」
「あー、まあ聞こえるっちゃ聞こえるけど工事してんならそんなモンかなって感じ? 納屋でも建てんのか?」
「いえ、兄さんが結婚をするから、離れのような形で夫婦の家を建てることになったのよ。ほら、同居だといろいろ気を使うけれど、離れすぎていてもということで。敷地ならあるし、小さめの家を建てようかという話になって」
「はあ!? 結婚!? 真宙君が!? い、いや、つかいつの間に」
奏多が驚くのも無理はありません。去年の今頃はとてもではありませんが兄さんにそんな雰囲気は無く、そもそもが女っ気という物と無縁の人であるように思っていました。暇さえあれば車やバイクを触っている人ですから。作業着が私服のようになっていますし。
ただ、昨年末、塩見さんから誘われたすき焼きの会で美弥子さんと出会い、1週間かそこらで付き合い始めてからの展開も非常に早かったようです。一般的な恋愛の段階などどこ吹く風、運命の歯車が噛み合ってしまったのでしょう。あれよあれよと話が進みました。
兄さんからはしばらく黙っておくように言われていたのですが、家の工事が始まったのでもういいかなと思いました。如何せん奏多とは家が歩いてすぐの距離なので、いつまでも隠し通せるはずもありませんしね。悪い話でもないのでいいでしょう。
「婚姻届自体は付き合って半年の記念日になる28日に出しに行くという話で、結婚式はもうちょっと涼しい時がいいと話し合っているらしいけど。秋頃じゃないかしら」
「付き合って半年!? はあ!?」
「私も少し早いとは思うけど、世の中には交際0日婚なども存在するし。社会人の感覚で考えれば案外普通なのかもしれないわよね」
「いやいや、社会人の感覚でも十分早いだろうよ。つか、真宙君てお前とすがやんのことを散々ボロクソに言ってたよな、知り合ってから付き合うまでが早すぎるだの何だの」
「ええ、そうね」
「お前が半年で結婚してやがるじゃねーかよ」
「私と徹平くんは出会って2週間で付き合い始めたけれど、兄さんは出会って1週間でお付き合いを始めたそうね」
「カーッ! お前が言うなだな! つか、お前ら揃いに揃って運命感じすぎじゃね!?」
「どうして私に飛び火するのよ」
奏多は兄さんに怯えるようなポーズを取ることもありますが、基本的には兄さんがおかしいと思えばそのように筋を通して真正面から言える人ではあります。だからこそ兄さんは奏多を信用して、年下ではありますが対等な友人として付き合っているのだと思います。
出会ってから交際に至るまでのスピードに関しては私は人のことを言えませんが、兄さんと美弥子さんの様子を見ていると、付き合い始めのテンションであるとか、そういう物だけではなくいろいろな価値観が合っているのだと傍目にもわかります。本人たちが納得したのであればいいのかと。
「え、つか相手は?」
「この間のバーベキューにも来てたわよ」
「マジか」
「延々とネギを焼いていた人のことは覚えてる?」
「ああ。緑ヶ丘OBのカズさんの姉貴だっつーあの激烈な美人だろ。は!? まさかあの人か!?」
「そうよ」
「は~…! 真宙君も隅に置けねえなァ~! で、お前的に義理の姉貴さんはどーゆー印象よ」
「とても素敵な人だと思うわよ。活発で、利発で、気の回る人だし。一徳さんによれば少し気が強いそうだけど、兄さんにはそういう人が合っていると思うし」
「それは何となく分かる。真宙君は嫁さんの尻に敷かれるくらいが多分ちょうどいい。ケンカはするけど絶妙に勝てない相手な」
「それはちょっとイメージできる。絶妙に勝てないというところが」
「だろ」
婚姻届の証人のうち1人目は塩見さんにお願いしたそうです。2人の出会いのきっかけとなったすき焼きの会の主催でしたし、そもそもが共通の知り合いだそうなので。2人目は美弥子さんの弟の一徳さんです。親を選ぶなら双方の親を選ばないと不公平であるという理由と、距離感がちょうどいいという理由です。
結婚をして、公的な書類であったり各種手続きをして、一緒に住み始めるとより実感が沸くのでしょうか。そういう支度は兄さんたちも忙しそうにやっているのを見ています。いつかは自分も結婚をするでしょうから、この様子を見て勉強しておくのがいいかなとは。……結婚。いつになるでしょうか。さすがに大学を出てからでしょうけど。
「いざ実際に結婚となると、考えることもきっと多いわよね」
「っつってもお前の場合、すがやんの家族はクリア済みだしすがやんも真宙君をクリアしてんだから世の一般的なカップルよりはハードルが低くなってんぜ、多分」
「それこそ学生のノリでいつかはこの人と、と考えなくはないのだけど、社会情勢や就職先にも左右されることでしょう?」
「それを踏まえた上で一緒にいる覚悟をすんだよ。海の向こうだろうが、空の上だろうが土の下だろうが」
「そうね。と言うか、土の下と言うとお墓を連想するのだけど」
「いいじゃねーか。結婚するんならいずれは墓のことも考えることになるだろうよ。一緒の墓に入るとか、樹木葬とか宇宙葬とか古墳とかピラミッドとか」
「後ろの方のは徹平くんの専攻なのよ」
「ま、何遍も言ってきてるがお前にアイツ以上の男はいない。精々愛想尽かされないようにするんだな」
それは本当にそうだから、彼にとっても良いパートナーでありたいと思うのです。彼はよく私に愛情表現をしてくれますが、それを同じだけ私は表現できているのだろうかとか、考えることはあります。この先も一緒にいるのであれば、どうするのがいいのだろうかと。
大学3年生で、進路のことも考えないといけません。プラネタリウムに携わりたい、そのための方法についても。仕事だけでなく、生活のことも。現時点で立てる人生の計画がその通りに行くとは思わないけれど、備えておくことは大事だから。
「ところで奏多、自分はどうなの。結婚とか、いい人がいるとか」
「ねーよ。いつも言ってんだろ、俺くらいのいい男になると女の方が近寄りにくいって」
「はいはい」
「ま、俺もお前らみたくいつかビビッと来るのを待ちますわ」
end.
++++
真宙さんと姉ちゃんは結構なスピードで進展してったらしい。
鳥居家は工場もあるし土地と言うか敷地はまあまあ持ってそうだなというイメージ
(phase4)
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「春風ー、何かお前ン家の敷地で工事始まったっぽいけど、あれ何の工事?」
「奏多の家まで音が聞こえてる? だとしたらごめんなさい」
「あー、まあ聞こえるっちゃ聞こえるけど工事してんならそんなモンかなって感じ? 納屋でも建てんのか?」
「いえ、兄さんが結婚をするから、離れのような形で夫婦の家を建てることになったのよ。ほら、同居だといろいろ気を使うけれど、離れすぎていてもということで。敷地ならあるし、小さめの家を建てようかという話になって」
「はあ!? 結婚!? 真宙君が!? い、いや、つかいつの間に」
奏多が驚くのも無理はありません。去年の今頃はとてもではありませんが兄さんにそんな雰囲気は無く、そもそもが女っ気という物と無縁の人であるように思っていました。暇さえあれば車やバイクを触っている人ですから。作業着が私服のようになっていますし。
ただ、昨年末、塩見さんから誘われたすき焼きの会で美弥子さんと出会い、1週間かそこらで付き合い始めてからの展開も非常に早かったようです。一般的な恋愛の段階などどこ吹く風、運命の歯車が噛み合ってしまったのでしょう。あれよあれよと話が進みました。
兄さんからはしばらく黙っておくように言われていたのですが、家の工事が始まったのでもういいかなと思いました。如何せん奏多とは家が歩いてすぐの距離なので、いつまでも隠し通せるはずもありませんしね。悪い話でもないのでいいでしょう。
「婚姻届自体は付き合って半年の記念日になる28日に出しに行くという話で、結婚式はもうちょっと涼しい時がいいと話し合っているらしいけど。秋頃じゃないかしら」
「付き合って半年!? はあ!?」
「私も少し早いとは思うけど、世の中には交際0日婚なども存在するし。社会人の感覚で考えれば案外普通なのかもしれないわよね」
「いやいや、社会人の感覚でも十分早いだろうよ。つか、真宙君てお前とすがやんのことを散々ボロクソに言ってたよな、知り合ってから付き合うまでが早すぎるだの何だの」
「ええ、そうね」
「お前が半年で結婚してやがるじゃねーかよ」
「私と徹平くんは出会って2週間で付き合い始めたけれど、兄さんは出会って1週間でお付き合いを始めたそうね」
「カーッ! お前が言うなだな! つか、お前ら揃いに揃って運命感じすぎじゃね!?」
「どうして私に飛び火するのよ」
奏多は兄さんに怯えるようなポーズを取ることもありますが、基本的には兄さんがおかしいと思えばそのように筋を通して真正面から言える人ではあります。だからこそ兄さんは奏多を信用して、年下ではありますが対等な友人として付き合っているのだと思います。
出会ってから交際に至るまでのスピードに関しては私は人のことを言えませんが、兄さんと美弥子さんの様子を見ていると、付き合い始めのテンションであるとか、そういう物だけではなくいろいろな価値観が合っているのだと傍目にもわかります。本人たちが納得したのであればいいのかと。
「え、つか相手は?」
「この間のバーベキューにも来てたわよ」
「マジか」
「延々とネギを焼いていた人のことは覚えてる?」
「ああ。緑ヶ丘OBのカズさんの姉貴だっつーあの激烈な美人だろ。は!? まさかあの人か!?」
「そうよ」
「は~…! 真宙君も隅に置けねえなァ~! で、お前的に義理の姉貴さんはどーゆー印象よ」
「とても素敵な人だと思うわよ。活発で、利発で、気の回る人だし。一徳さんによれば少し気が強いそうだけど、兄さんにはそういう人が合っていると思うし」
「それは何となく分かる。真宙君は嫁さんの尻に敷かれるくらいが多分ちょうどいい。ケンカはするけど絶妙に勝てない相手な」
「それはちょっとイメージできる。絶妙に勝てないというところが」
「だろ」
婚姻届の証人のうち1人目は塩見さんにお願いしたそうです。2人の出会いのきっかけとなったすき焼きの会の主催でしたし、そもそもが共通の知り合いだそうなので。2人目は美弥子さんの弟の一徳さんです。親を選ぶなら双方の親を選ばないと不公平であるという理由と、距離感がちょうどいいという理由です。
結婚をして、公的な書類であったり各種手続きをして、一緒に住み始めるとより実感が沸くのでしょうか。そういう支度は兄さんたちも忙しそうにやっているのを見ています。いつかは自分も結婚をするでしょうから、この様子を見て勉強しておくのがいいかなとは。……結婚。いつになるでしょうか。さすがに大学を出てからでしょうけど。
「いざ実際に結婚となると、考えることもきっと多いわよね」
「っつってもお前の場合、すがやんの家族はクリア済みだしすがやんも真宙君をクリアしてんだから世の一般的なカップルよりはハードルが低くなってんぜ、多分」
「それこそ学生のノリでいつかはこの人と、と考えなくはないのだけど、社会情勢や就職先にも左右されることでしょう?」
「それを踏まえた上で一緒にいる覚悟をすんだよ。海の向こうだろうが、空の上だろうが土の下だろうが」
「そうね。と言うか、土の下と言うとお墓を連想するのだけど」
「いいじゃねーか。結婚するんならいずれは墓のことも考えることになるだろうよ。一緒の墓に入るとか、樹木葬とか宇宙葬とか古墳とかピラミッドとか」
「後ろの方のは徹平くんの専攻なのよ」
「ま、何遍も言ってきてるがお前にアイツ以上の男はいない。精々愛想尽かされないようにするんだな」
それは本当にそうだから、彼にとっても良いパートナーでありたいと思うのです。彼はよく私に愛情表現をしてくれますが、それを同じだけ私は表現できているのだろうかとか、考えることはあります。この先も一緒にいるのであれば、どうするのがいいのだろうかと。
大学3年生で、進路のことも考えないといけません。プラネタリウムに携わりたい、そのための方法についても。仕事だけでなく、生活のことも。現時点で立てる人生の計画がその通りに行くとは思わないけれど、備えておくことは大事だから。
「ところで奏多、自分はどうなの。結婚とか、いい人がいるとか」
「ねーよ。いつも言ってんだろ、俺くらいのいい男になると女の方が近寄りにくいって」
「はいはい」
「ま、俺もお前らみたくいつかビビッと来るのを待ちますわ」
end.
++++
真宙さんと姉ちゃんは結構なスピードで進展してったらしい。
鳥居家は工場もあるし土地と言うか敷地はまあまあ持ってそうだなというイメージ
(phase4)
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