2024
■番組の内容以前に
++++
「鵠沼君!」
「はい?」
「君ぃ、評判だよ!」
バーベキューの幹事をやれと言われる以外でこんな風にヒゲさんから声をかけられることはほとんどなかったから、正直ちょっと引いている。こういうときに声をかけられるのは大体高木で、それを俺や安曇野がまーた疫病神がなんか引き寄せてるじゃん、と引いて見るのがデフォ。
「えーと、何がっすかね」
「君が担当してる火曜日の番組だよ! 体育学部の教授からも実にいい番組だと何人にも声をかけられてねえ。ウチの学生を出したいとかね。今後もこの調子で頼むよ!」
「はあ」
悪い話ではなかったのでひとまず安心した。自分がゼミのラジオブースで受け持っている火曜日のスポーツ番組は、試行錯誤を繰り返しながら何度かの放送を終えた。三浦の人脈を頼りにゲストを何人か紹介してもらって、番組前にはその人との打ち合わせをして構成している。
番組をやるに当たっては、実質専属ミキサーになってもらっている高木からのアドバイスも大いに参考にさせてもらっている。音に関してはアイツが聞きやすくしてくれるから、俺はしっかり聞ける、ちゃんとした内容にしようとは心掛けていることだ。
「ふーっ、何もなくてよかったじゃん?」
「ヒゲさんから話振られてめんどくさいことになんのは高木絡みの時だけってのが証明されたし」
「それな」
「え、2人ともヒドくない?」
「アタシらは事実を言ってるだけだし」
大体「高木君」と振られた話が俺たちに広がると、めんどくさいことに巻き込まれるというのはパターンでわかってきた。逆に、俺や安曇野が個別にヒゲさんから話を振られて周りがめんどくさいことになるパターンはあまりないので、やはり高木が何かを引き寄せているのだろう。
「果林先輩からも今期のラジオは火曜日が群を抜いて良いって言われたし、やっぱりいい番組になってるんだよ鵠さん」
「ボロクソ言われるよりは嬉しいけど、そこまでいろんな人に言われたら本当かよって疑い始める自分もいる」
「誉められてるんだから素直に受け取っとけし。木曜は木曜でオタクとの戦いよ? 信条が違えばもう戦争だし」
「ああ……まあ、木曜はいろんな意味で大変そうじゃん?」
安曇野が主に担当しているのは木曜日のサブカル番組だ。サブカルは佐藤ゼミ的にも大事な文化ということで、一番力の入った曜日と言っていいかもしれない。安曇野はあまりマイクの前で喋りたくないそうだけど、ヒゲさんからの指名なので渋々やっているという感じ。
実際木曜日の番組は大学にも一定数いるオタク連中がよくブースの前に来て聞いているが、安曇野の言うようにオタクやサブカルと一言で言っても人によって考え方はまちまち。元々万人受けするテーマではないと割り切って始まった番組らしいが取り巻く環境は厳しい。
「こういう話を聞くと、番組の内容にあまり関与しない自分が出来ることって何かなあとは思うなあ」
「いや、俺の番組なんかはお前のアドバイスと音質調整があってのことじゃん?」
「それはあるわ。アンタご丁寧にも自分の番組終わったらミキサーの設定元に戻してるっしょ? なーんで聞きやすかった設定をわざわざ崩してゼミの基準値に戻すかね」
「聞きやすさは実際その日の天気とか、環境にも左右されることだから毎回一緒ではないでしょ。俺は様子を見ながらその時一番聞きやすいだろうなって設定にしてるだけだからね。ゼミの基準値が悪いってわけではないんだけどね、俺の好みではないからね」
「自分の好みじゃないからって理由で好き勝手するって、よくよく考えたら相当横暴だし」
「まあ、終わった後に戻せば良くない? っていう考えだよね。MBCCのミキサーなんだからそれっくらいは出来ないと」
結局高木の強みと言ったらこれになるんだよな。同じMBCCのササやシノ、それから千葉ちゃんが思う高木の強みは番組構成であったりアドリブ対応力になるんだろうけど、構成がガチガチに決まりきった昼休みのゼミラジオでその強みはあまり生きない。
それでも俺が高木を専属ミキサーに付けてくれと思ったのは、機材の扱い方をきちんと理解した上で聞きやすい音にしてくれるからだ。学内を歩きながらとか、テイクアウト丼を売りながらゼミラジオを聞いていても、音が割れてたり籠もってたりして何を言ってんのかさっぱりわかんねーじゃん、と思ったことは数知れず。
俺の番組内容がどうこうの前に、まずは何を話しているのかをちゃんと聞き取れる番組である必要があると思っただけのことだ。その上で、どうしたら機材を通した言葉が物理的に聞きやすくなるのかという助言を高木に求めたのであって、番組作りの根本を見直しただけだ。
「つかアンタその設定の仕方アタシにも教えろし」
「いいよ。言ってくれればいつでも教えるよ」
「はー、ったく、アタシはラジオやるんならミキサーの方がいいのに何で喋んなきゃいけないのか意味わかんないし!」
「樽中みたく喋りたくてもあんま機会のない奴もいるしなあ」
「果林先輩みたく実力は圧倒的でも枠が少なかった人もいるからね、そればっかりは先生のみぞ知るなんだよやっぱり」
そもそもがこのラジオブースとその番組は、ヒゲさんの見栄のための物であって、華々しく見えるその裏にはいろいろあるんだ。実際、体育会系とかオタクとか、何の記号もない普通のヤツがここで番組を持つにはいかなる手段を使ってもヒゲさんに気に入られなきゃいけない。
ヒゲに媚びてまでここで番組をやりたくねーわっつってブチ切れてたのが千葉ちゃんで、圧倒的実力の割に少なかった番組の枠もMBCCの活動を優先するという建前の裏にあったのはアンチヒゲさんの思想だ。ただ、オープンキャンパスなど見栄を張りたい場面ではしっかり酷使されていたが。
「やりたくてもやれない奴がいる以上、何でアイツが番組を持ててるんだって言われないようにはしたいじゃん。ちゃんとやんないと」
「だね。俺も機材を触りたい人の枠を1つ無条件で潰してるワケだし。ちゃんとやらないと」
「や、アンタが機材触んなかったらただの疫病神だし」
「それじゃん?」
「えっ」
「アンタの存在価値は機材を触ること、それは最初から計算されてるし! 鵠沼の番組が良かったのなんかヒゲさん的には誤算だし!」
「それじゃんな。見た目が体育会系ってだけの理由でムチャ振りされた結果だぞ。三浦がいなかったらどうなってたか」
まだまだ今年度は序盤戦だ。このまま11月の代替わりまで番組を持つことになるのなら三浦頼みの人脈戦もやりにくくなるだろうし、考えなければならないことは多い。それでもどうせやるのなら、ちゃんとしなければと思うんだ。佐藤ゼミのラジオは大したことない。そんな声はもう聞き飽きている。
end.
++++
タカ鵠ってのはいいコンビなんすよ、というのを今年度はやりたいという意思表明。
そしてあずみん久し振り。これからはもっと暴れてもらいたい。
(phase3)
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「鵠沼君!」
「はい?」
「君ぃ、評判だよ!」
バーベキューの幹事をやれと言われる以外でこんな風にヒゲさんから声をかけられることはほとんどなかったから、正直ちょっと引いている。こういうときに声をかけられるのは大体高木で、それを俺や安曇野がまーた疫病神がなんか引き寄せてるじゃん、と引いて見るのがデフォ。
「えーと、何がっすかね」
「君が担当してる火曜日の番組だよ! 体育学部の教授からも実にいい番組だと何人にも声をかけられてねえ。ウチの学生を出したいとかね。今後もこの調子で頼むよ!」
「はあ」
悪い話ではなかったのでひとまず安心した。自分がゼミのラジオブースで受け持っている火曜日のスポーツ番組は、試行錯誤を繰り返しながら何度かの放送を終えた。三浦の人脈を頼りにゲストを何人か紹介してもらって、番組前にはその人との打ち合わせをして構成している。
番組をやるに当たっては、実質専属ミキサーになってもらっている高木からのアドバイスも大いに参考にさせてもらっている。音に関してはアイツが聞きやすくしてくれるから、俺はしっかり聞ける、ちゃんとした内容にしようとは心掛けていることだ。
「ふーっ、何もなくてよかったじゃん?」
「ヒゲさんから話振られてめんどくさいことになんのは高木絡みの時だけってのが証明されたし」
「それな」
「え、2人ともヒドくない?」
「アタシらは事実を言ってるだけだし」
大体「高木君」と振られた話が俺たちに広がると、めんどくさいことに巻き込まれるというのはパターンでわかってきた。逆に、俺や安曇野が個別にヒゲさんから話を振られて周りがめんどくさいことになるパターンはあまりないので、やはり高木が何かを引き寄せているのだろう。
「果林先輩からも今期のラジオは火曜日が群を抜いて良いって言われたし、やっぱりいい番組になってるんだよ鵠さん」
「ボロクソ言われるよりは嬉しいけど、そこまでいろんな人に言われたら本当かよって疑い始める自分もいる」
「誉められてるんだから素直に受け取っとけし。木曜は木曜でオタクとの戦いよ? 信条が違えばもう戦争だし」
「ああ……まあ、木曜はいろんな意味で大変そうじゃん?」
安曇野が主に担当しているのは木曜日のサブカル番組だ。サブカルは佐藤ゼミ的にも大事な文化ということで、一番力の入った曜日と言っていいかもしれない。安曇野はあまりマイクの前で喋りたくないそうだけど、ヒゲさんからの指名なので渋々やっているという感じ。
実際木曜日の番組は大学にも一定数いるオタク連中がよくブースの前に来て聞いているが、安曇野の言うようにオタクやサブカルと一言で言っても人によって考え方はまちまち。元々万人受けするテーマではないと割り切って始まった番組らしいが取り巻く環境は厳しい。
「こういう話を聞くと、番組の内容にあまり関与しない自分が出来ることって何かなあとは思うなあ」
「いや、俺の番組なんかはお前のアドバイスと音質調整があってのことじゃん?」
「それはあるわ。アンタご丁寧にも自分の番組終わったらミキサーの設定元に戻してるっしょ? なーんで聞きやすかった設定をわざわざ崩してゼミの基準値に戻すかね」
「聞きやすさは実際その日の天気とか、環境にも左右されることだから毎回一緒ではないでしょ。俺は様子を見ながらその時一番聞きやすいだろうなって設定にしてるだけだからね。ゼミの基準値が悪いってわけではないんだけどね、俺の好みではないからね」
「自分の好みじゃないからって理由で好き勝手するって、よくよく考えたら相当横暴だし」
「まあ、終わった後に戻せば良くない? っていう考えだよね。MBCCのミキサーなんだからそれっくらいは出来ないと」
結局高木の強みと言ったらこれになるんだよな。同じMBCCのササやシノ、それから千葉ちゃんが思う高木の強みは番組構成であったりアドリブ対応力になるんだろうけど、構成がガチガチに決まりきった昼休みのゼミラジオでその強みはあまり生きない。
それでも俺が高木を専属ミキサーに付けてくれと思ったのは、機材の扱い方をきちんと理解した上で聞きやすい音にしてくれるからだ。学内を歩きながらとか、テイクアウト丼を売りながらゼミラジオを聞いていても、音が割れてたり籠もってたりして何を言ってんのかさっぱりわかんねーじゃん、と思ったことは数知れず。
俺の番組内容がどうこうの前に、まずは何を話しているのかをちゃんと聞き取れる番組である必要があると思っただけのことだ。その上で、どうしたら機材を通した言葉が物理的に聞きやすくなるのかという助言を高木に求めたのであって、番組作りの根本を見直しただけだ。
「つかアンタその設定の仕方アタシにも教えろし」
「いいよ。言ってくれればいつでも教えるよ」
「はー、ったく、アタシはラジオやるんならミキサーの方がいいのに何で喋んなきゃいけないのか意味わかんないし!」
「樽中みたく喋りたくてもあんま機会のない奴もいるしなあ」
「果林先輩みたく実力は圧倒的でも枠が少なかった人もいるからね、そればっかりは先生のみぞ知るなんだよやっぱり」
そもそもがこのラジオブースとその番組は、ヒゲさんの見栄のための物であって、華々しく見えるその裏にはいろいろあるんだ。実際、体育会系とかオタクとか、何の記号もない普通のヤツがここで番組を持つにはいかなる手段を使ってもヒゲさんに気に入られなきゃいけない。
ヒゲに媚びてまでここで番組をやりたくねーわっつってブチ切れてたのが千葉ちゃんで、圧倒的実力の割に少なかった番組の枠もMBCCの活動を優先するという建前の裏にあったのはアンチヒゲさんの思想だ。ただ、オープンキャンパスなど見栄を張りたい場面ではしっかり酷使されていたが。
「やりたくてもやれない奴がいる以上、何でアイツが番組を持ててるんだって言われないようにはしたいじゃん。ちゃんとやんないと」
「だね。俺も機材を触りたい人の枠を1つ無条件で潰してるワケだし。ちゃんとやらないと」
「や、アンタが機材触んなかったらただの疫病神だし」
「それじゃん?」
「えっ」
「アンタの存在価値は機材を触ること、それは最初から計算されてるし! 鵠沼の番組が良かったのなんかヒゲさん的には誤算だし!」
「それじゃんな。見た目が体育会系ってだけの理由でムチャ振りされた結果だぞ。三浦がいなかったらどうなってたか」
まだまだ今年度は序盤戦だ。このまま11月の代替わりまで番組を持つことになるのなら三浦頼みの人脈戦もやりにくくなるだろうし、考えなければならないことは多い。それでもどうせやるのなら、ちゃんとしなければと思うんだ。佐藤ゼミのラジオは大したことない。そんな声はもう聞き飽きている。
end.
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タカ鵠ってのはいいコンビなんすよ、というのを今年度はやりたいという意思表明。
そしてあずみん久し振り。これからはもっと暴れてもらいたい。
(phase3)
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