2018
■大盛りの追加料金
＋＋＋＋
「はー……」
「アオキちゃん、お疲れだねー」
「……本当に。本当ですよ」
「あれっ、「“あ”にイントネーションを置いてください」っていういつものが来ないね？」
「今の依頼者に対する殺意を青山さんに擦り替えてもいいですけど？」
「すみませんでした」
ここは星港市某所にある写真屋。カメラ用具が売っていたり、写真の現像・プリント、VHSテープをDVDや映像ファイルに変換したり、記念写真の撮影などなど、写真に関する業務を行っている店だ。
一件の仕事を終え、机に突っ伏しているのが大学入学と同時にここで働き始めた星大１年生の高山蒼希さん。性格はちょっとキツめだけど腕はすごい。でも子供には泣かれるから専ら機材担当みたいなところがある。
そしてそんな高山さんを労っているのが高山さんと同じく星大の４年生、青山和泉さん。いつもにこにこしてるし優しい。子供には泣かれないしそれよりも子供のお母さんに人気があるタイプの人だ。軽音サークルでドラムをやっている。
そんな２人を、今からシフトに入る俺は何事だと眺めていた。いつもしゃんとしている高山さんがここまでぐたっとなっていることなんてそうそうない。青山さんも、アオキちゃんは責任を持たなくていいからねと宥めている。
「青山さん、高山さん何かありました？」
「あ、たいっちゃんおはよー。ううん、就活用の写真の加工が大変だったっていうね」
「ああ、なるほど。履歴書用の」
「菅野さん聞いてくださいよ。言われた通りに加工したら原型がなくなって。原型がなくなってますけどって言ったらそもそも自分はこんなに不細工じゃないって言い出して。そんなに盛りたいならスマホで撮った写真をアプリで盛って履歴書用にプリントすればいいじゃないですか」
高山さんは荒れていた。そして、それだけ荒れた高山さんがお客さんにナチュラルに暴言の嵐を浴びせることがなくてよかったと青山さんは胸を撫で下ろしている。高山さんは素で言葉の選び方が少しキツいから。
写真周りの仕事ということは、履歴書に貼る写真なども取り扱っているということ。そして、撮影した写真をフォトショップなどのソフトで加工してプリント、などもよくあること。
どのパーツをどう加工すればいくら、などというオプションだ。店的には盛っていただければ盛っていただくだけお金が入るし、その写真を使うことでどんな不利益が生じようと店の責任にはならないからどうでもいい。
ただ、そういう事案をこれまでにいくつも見てきた俺や青山さんはともかく、高山さんはこの仕事を始めて日が浅い。まだそういうところをドライに割り切れないのかもしれない。自分たちは言われた通りにやってお金をいただけばいいのだ。
「でも、目を大きくするのが400円じゃないですか」
「そうだね」
「１回やってこうじゃないって言われてリテイクしたらもう400円もらうべきじゃないですか？」
「１回だけの微修正なら許容範囲だけど、言ってることが変わってまったく違うことが始まったら欲しいよね」
「そういうのがやりたいならデジタルメイクに強い店に行けって感じもしますけど」
「菅野さん、デジタルメイクとは」
「それらしく言い換えただけで、やってることはただの加工だね。ホクロやシミを消したり、ウエストのくびれを作ったり脚を細くしたり」
「依頼者の言う通りに仕上げると最終的にUMAが出来上がることもあるんだよね」
「UMAって。青山さん、UMAって」
「え、だって目なんて完全にグレイだし、胸がスイカでウエストが砂時計。脚も爪楊枝で正直気持ち悪いっしょ。捕まえたら億単位のお金もらえそう」
青山さんはその辺無慈悲な人だと思う。無慈悲というか、何事にも興味がないと言うか。それでいて、言われた通りにやっただけだけどと言ってもらうものだけもらって何事もなかったかのように振る舞う。
「まだ素材のままの方が食べられたのに加工することで可食部をなくしてるよね」などと言いながら笑顔で作業をする様は恐怖すら覚えるのだ。仕事は仕事だからという割り切りと言われればそれまでだけど。
「まあ、そういうことだからアオキちゃん、もうしばらくこんなことがあるかもしれないいけど、１クリいくらだと思って頑張ろうね」
「……という話を聞いていると、私がもし就活用に写真を撮っても過度な加工はしたくなくなりますね」
「アオキちゃんは加工しなくても全然問題ないよ。ねえたいっちゃん」
「まあ」
end.
＋＋＋＋
写真屋のお話。写真屋にまだ名前がないので適当につけたいところ。これが秋学期になると括りがヴィ・ラ・タントンになるんだけど。
就活写真関連のお話などは、いつもやりたいやりたいとネタ帳にあっため続けられているのですが、珍しく蒼希がくにゃっとしている様子。
青山さんてニコニコしてるけど言うことが結構アレだったらいいなあ。芹ちゃんにしか興味ないんやろなあｗ スガＰの恐怖レーダーは精密かもしれん
.
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「はー……」
「アオキちゃん、お疲れだねー」
「……本当に。本当ですよ」
「あれっ、「“あ”にイントネーションを置いてください」っていういつものが来ないね？」
「今の依頼者に対する殺意を青山さんに擦り替えてもいいですけど？」
「すみませんでした」
ここは星港市某所にある写真屋。カメラ用具が売っていたり、写真の現像・プリント、VHSテープをDVDや映像ファイルに変換したり、記念写真の撮影などなど、写真に関する業務を行っている店だ。
一件の仕事を終え、机に突っ伏しているのが大学入学と同時にここで働き始めた星大１年生の高山蒼希さん。性格はちょっとキツめだけど腕はすごい。でも子供には泣かれるから専ら機材担当みたいなところがある。
そしてそんな高山さんを労っているのが高山さんと同じく星大の４年生、青山和泉さん。いつもにこにこしてるし優しい。子供には泣かれないしそれよりも子供のお母さんに人気があるタイプの人だ。軽音サークルでドラムをやっている。
そんな２人を、今からシフトに入る俺は何事だと眺めていた。いつもしゃんとしている高山さんがここまでぐたっとなっていることなんてそうそうない。青山さんも、アオキちゃんは責任を持たなくていいからねと宥めている。
「青山さん、高山さん何かありました？」
「あ、たいっちゃんおはよー。ううん、就活用の写真の加工が大変だったっていうね」
「ああ、なるほど。履歴書用の」
「菅野さん聞いてくださいよ。言われた通りに加工したら原型がなくなって。原型がなくなってますけどって言ったらそもそも自分はこんなに不細工じゃないって言い出して。そんなに盛りたいならスマホで撮った写真をアプリで盛って履歴書用にプリントすればいいじゃないですか」
高山さんは荒れていた。そして、それだけ荒れた高山さんがお客さんにナチュラルに暴言の嵐を浴びせることがなくてよかったと青山さんは胸を撫で下ろしている。高山さんは素で言葉の選び方が少しキツいから。
写真周りの仕事ということは、履歴書に貼る写真なども取り扱っているということ。そして、撮影した写真をフォトショップなどのソフトで加工してプリント、などもよくあること。
どのパーツをどう加工すればいくら、などというオプションだ。店的には盛っていただければ盛っていただくだけお金が入るし、その写真を使うことでどんな不利益が生じようと店の責任にはならないからどうでもいい。
ただ、そういう事案をこれまでにいくつも見てきた俺や青山さんはともかく、高山さんはこの仕事を始めて日が浅い。まだそういうところをドライに割り切れないのかもしれない。自分たちは言われた通りにやってお金をいただけばいいのだ。
「でも、目を大きくするのが400円じゃないですか」
「そうだね」
「１回やってこうじゃないって言われてリテイクしたらもう400円もらうべきじゃないですか？」
「１回だけの微修正なら許容範囲だけど、言ってることが変わってまったく違うことが始まったら欲しいよね」
「そういうのがやりたいならデジタルメイクに強い店に行けって感じもしますけど」
「菅野さん、デジタルメイクとは」
「それらしく言い換えただけで、やってることはただの加工だね。ホクロやシミを消したり、ウエストのくびれを作ったり脚を細くしたり」
「依頼者の言う通りに仕上げると最終的にUMAが出来上がることもあるんだよね」
「UMAって。青山さん、UMAって」
「え、だって目なんて完全にグレイだし、胸がスイカでウエストが砂時計。脚も爪楊枝で正直気持ち悪いっしょ。捕まえたら億単位のお金もらえそう」
青山さんはその辺無慈悲な人だと思う。無慈悲というか、何事にも興味がないと言うか。それでいて、言われた通りにやっただけだけどと言ってもらうものだけもらって何事もなかったかのように振る舞う。
「まだ素材のままの方が食べられたのに加工することで可食部をなくしてるよね」などと言いながら笑顔で作業をする様は恐怖すら覚えるのだ。仕事は仕事だからという割り切りと言われればそれまでだけど。
「まあ、そういうことだからアオキちゃん、もうしばらくこんなことがあるかもしれないいけど、１クリいくらだと思って頑張ろうね」
「……という話を聞いていると、私がもし就活用に写真を撮っても過度な加工はしたくなくなりますね」
「アオキちゃんは加工しなくても全然問題ないよ。ねえたいっちゃん」
「まあ」
end.
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写真屋のお話。写真屋にまだ名前がないので適当につけたいところ。これが秋学期になると括りがヴィ・ラ・タントンになるんだけど。
就活写真関連のお話などは、いつもやりたいやりたいとネタ帳にあっため続けられているのですが、珍しく蒼希がくにゃっとしている様子。
青山さんてニコニコしてるけど言うことが結構アレだったらいいなあ。芹ちゃんにしか興味ないんやろなあｗ スガＰの恐怖レーダーは精密かもしれん
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