2024

■ちょっと寄り道

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「あ。サキー、ちょっとドラッグストア寄っていい? 買い物しないとだった」
「わかったよ」

 サークル後、今日はすがやんの車に乗って一緒に帰っている。同期6人はみんな家の方角がバラバラだけど、俺とすがやんは途中まで一緒だからたまにこうやって一緒に帰る日があったりする。一緒に帰る時は夕飯を食べて行くこともある。
 道中、すがやんが何かを思い出したようにドラッグストアへと車を滑らせる。俺はそれに頷く。店内に入り、すがやんはカゴを提げる。俺は特に急ぎの買い物があるということでもないので一緒に回るだけ。

「すがやん、何買うの」
「汗拭きシートと車用の消臭剤、あー、と、何だったっけ」
「スマホにメモしてるんだ」
「うん。思い出したときにちょこちょこ。サキはメモしねーの?」
「するよ」
「するよなー」
「買い物メモと言えば、高木先輩とエージ先輩って買い物のメモを共有してるらしいね。高木先輩の部屋の消耗品や食料品のストックが少なくなったらメモをして、2人ともが使う物だったらどっちかが買い物に行ったときに買って来る、的なことをしてるんでしょ」
「その話、聞いたことあるけどやってることがルームシェアしてる人らなんだよな完全に」
「高木先輩の部屋の掃除道具は9割がエージ先輩が持ち込んだ物とも言われてるね」
「9割はヤベーけどエージ先輩だったらある話なんだよな。あ、掃除で思い出した。風呂の洗剤買って来てって言われてたんだ」

 先輩たちの買い物メモの話には、ササが憧れを抱いてるみたいだった。彩人の部屋でやりたいのかなと思ったら、シノと一緒にやりたいって。ササはシノの部屋には結構遊びに行ってるみたいだし、引っ越し祝いの米だって自分が食べることを前提に置いて行っているとはレナが言っていた。ただ、シノは現状まだ生活を頑張ってるようだし、どうかな。

「汗拭きシートー、車のヤツー、風呂の洗剤ー、季節が季節だからスポンジも買ってくかー」
「すがやん、カゴ間借りさせて。目薬買うから」
「いいぜー。じゃ、こっちがサキのコーナーな」
「ありがと」
「この目薬いい?」
「差し心地としては、刺激が少ないのがいいね」
「キター! って感じではないんだな」
「そうだね」

 あと何だったっけ、と買い物メモが書かれたスマホを見ながら角を曲がったときのことだ。出会い頭にバタバタと走って来た3人の子供とぶつかりそうになる。寸前のところで子供が急ブレーキをかけたからぶつかりはしなかったけど。見たところ未就学児っていう感じ。たまにいるよね、まだ場所の見境も付かずに走り回ったり叫んだりする子供って。

「こんにちは!」

 2番目の子供が大きな声で発する。周りに知り合いでもいるのかなと思って俺は知らん顔で次の角を曲がろうとする。

「はーい、こんにちはー」

 すがやんがその子供に挨拶を返すと、またバタバタと店内を猛ダッシュで駆け回り始めた。周りに知り合いっぽい人がいるような感じではなかったから、子供の挨拶はこっちに向かっていたのかもしれない。って言うか保護者はどこにいったの。あれを放置してるとするなら結構な問題だと思うんだけど。

「あの子供、知り合い?」
「いや、全然」
「誰に挨拶してるのかと思ったよ。危ない」
「まあ、複雑だよな。人に挨拶をするのはいいことだけど、知らない人についてっちゃいけませんっていうのも外に出始めた子供に教える基本ではあるだろうし。まあでも、俺はああいう挨拶は結構歓迎のスタンスだよ」
「ふーん」
「まずかったかな」
「別にいいんじゃない」

 この角を曲がるとお菓子コーナーだ。ドライフルーツもいくらかあるようだったので、レモンとオレンジの袋をカゴに追加する。店に入る前は買うものがなかったはずなのに、少しずつ買い物が増えていっているような気がする。すがやんはコアラのマーチをカゴに入れた。

「すがやん、コアラのマーチ好きなの」
「コアラのマーチ、今、人の名前が書かれててさ。友達のが出ると嬉しくてたまに買っちまうんだよ」
「ふーん。俺の知ってる人は誰か出た?」
「“れな”と“ともや”は出たし、“しの”も出たかな」
「“しの”と“ともや”は同一人物じゃない」
「同一人物ではあるんだけど、俺の友達に“しの”は篠木智也の他にもいてさ。その子はホントに紫乃って名前なんだよ」
「ふーん。一石二鳥だね」
「下の名前の他に名字コアラもいて、“ささき”もいるらしいぜー」
「“すがや”は?」
「いない。“てっぺい”はいるけどどうせ出すなら自分より友達だなー」
「MBCCの人はどれくらいいるの」
「同期はくるみ以外全員何かしらの形でいる。だからサークル室では開けないようにしてるんだけど」
「ああ……反応がイメージ出来るなあ」
「そろそろ“だいき”出したいなー」

 こういうときでも友達のことを考えているのがすがやんらしいなあと思いつつ、次の角を曲がる。そしてもうひとつ角を曲がって冷蔵庫の並ぶ列に入ると、これを飲みながら帰ろうという物をカゴに入れる。見た感じ、俺の会計は1200円くらいになりそうだ。

「ふー。サキ、寄り道に付き合ってくれてありがとなー」
「ううん。俺も目薬買わなきゃいけなかったの思い出したし」
「じゃ、帰ろーかー。お腹も空いたし。何か食べてく?」
「いいよ。食べてこっか」
「あっ、それともコアラのマーチ食べながら行く? “だいき”出そうぜ」
「ええ……いいよ。お菓子食べたらご飯入らなくなるし」
「そっか。そしたら何食べるかなー」
「何がいいかなあ」


end.


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本当は知らない子供に挨拶されたときのリアクションの違いをやりたかったのに
すがやんはコアラのマーチで友達の名前を探して楽しんでそうだなと思いました

(phase3)

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