2024

■正解はアナウンス部長

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「おはざいまぁーす」
「おはようございます~」
「おはよう。1年生の社学組って3人ともメディ文でしょ? 凛斗は一緒じゃないの?」
「アイツは微妙~に履修が違うんすよ。俺とちむりーは大体一緒なんすけどね~」
「そうなんだ。凛斗は現社か福祉に寄せてるのかな」
「あー、多分俺らが現社にちょっと寄ってんだと思います」
「ですね~」

 1年生の今時だとまだ学科固有の専門的な授業はあんまり入ってこないけど、それでも数少ない学科固有の授業の中から自分なりの色を付けていくことになる。MBCCには現在5人の1年生が入っていて、うち3人は俺と同じ社会学部のメディア文化学科だ。
 今一緒にやってきたのは家が占い家業の中、それからおっとり系のちむりー。2人ともミキサーなので、学科が同じということもあって話す機会は1年生の中でも多い方かな。ただ、ちむりーから授業に関する細かいことを聞かれた時にはササに押しつ……任せるしかなかったよね。

「うおっ! キャップどっか行った! ボトル閉めれねーじゃんかよー」
「中は落ち着きがないから」
「うるせーよ。野球ばっか追ってて目の前の相手に無頓着な奴に言われたくねーぜ」

 中は落ち着きがないと言ったのは、2番目にサークルに入ってきた周。周は情報科学部で、パートはアナウンサー。特徴としては野球フリークというのがあるだろう。プロアマ問わず常に何かしらの情報を追っているという話だからすごいなあとは。
 ただ、中が言った「野球ばっか追ってて目の前の相手に無頓着」というのも確かに周に見受けられる特徴だ。隅っこでノートを読みながらでもみんなの話を聞いていたサキとは違って、周は話自体聞いていないことも少なくない。

「どこ行ったんだよキャップ~。あっ高木先輩、そっちら辺に転がってってません?」
「この辺にはないなあ」
「この棚の下にあるんじゃない~?」
「マジかよ! こんなトコ腕入んねーぞ」
「日頃から人を欺こうとしてるから天罰が下ったんじゃない」
「適当言うな! 周りに興味なさ過ぎるお前に比べりゃ言葉の選び方はどうあれ俺の方がよ~っぽど! 目の前の相手に真摯だと思うけどな!」

 中は将来的に自分も占い師として食べていくつもりでいるそうだけど、MBCCに入ったのも刺さる語彙力と話術を身につけるため。結果としては話術よりは独学で学びにくい放送機材の扱い方を学びたいと言ってミキサーになっているのだけど、基本的に対人スキルを磨きたいようだ。
 一方周は、ラジオで野球中継を聞いていて、その場の状況を映像で事細かにイメージさせる実況技術が気になってMBCCを訪ねてきてくれた。一応アナウンサーではあるのだけど基本的には自分の世界が中心なので、周りの人の様子にはあまり気を配ってなさそうに見える。
 一般的に言われるアナウンサーとミキサーのイメージは、アナウンサーは人当たりが良くてコミュニケーションが得意。ミキサーは引っ込み思案で対人が苦手、みたいな物とは真逆の2人だ。周は多分歴代の一歩引いてたポジションである俺やサキとも違うタイプだろうからなあ。

「どーすんだよ、こんなトコ絶対何年物の埃に塗れて悲惨なことになってるパターンじゃんかよ~、直接触りたくね~」
「何か、棒のような物があればいいんだけど~」
「大丈夫、中なら直接いけるいける」
「あーもう周の言うことは無視! ちむちむ、一緒に棚の下に突っ込める棒を探してくれ」
「わかったわ~」

 長さとしては50センチくらいあれば確実に奥まで届きそうだ。だけど見つかる棒は絶妙に短いんだよね。コロコロは棚の奥には入らないし、プラスチックの定規は20センチだし。

「あっ。中~、これなんかどう~?」
「おっ、ちょうどいいサイズ感! さぁっすがちむりー! そしたらコイツで……うわ~、こえ~」
「そしたら、私は埃が出てきたときに備えて、コロコロを持っておくわね~」

 どこかへ行ってしまったペットボトルのキャップを探すため、中がどこからか出てきた細い棒を手に棚の下を浚う。棒が床に触れて擦れる音が高いなあとか、俺は他人事のように思いながらその様子を見守る。何回か浚っていると、見えるところにそれらしい物が移動してきたらしい。

「おっ、見えた見えた」
「中~、あともう少し~」
「よぉーし! 思ったよりキレイだ!」
「ちむりーの出番はなし?」
「大丈夫そうね~」
「マジかよ、こんな棚の下に埃がないとかありえねーだろ逆に!」

 スマホのライトで照らしながら棚の下をまじまじとチェックする中を後目に、最初からそうやってキャップを探せば良かったのにとは周。それは確かにそうだけど、こういうときって逆にそういう方法が思い付かなかったりするからね。

「嘘だろ!? 全っ然埃がねー!」
「うそ~」
「マジだよ、ンなコトでテキトー言ってどーすんだよ。いや、どっちにしたってキャップは1回洗うけど、何かがおかしい」
「それはさすがに中が適当言ってなきゃおかしい」
「だからお前には言われたくねーっつーの」

 ここで俺はあることに気付く。ちむりーが持っている棒だ。これと同じ物を俺はどこかで……ああ、そうだ、確かあれは俺の家で見たんだ。トイレの天井や洗濯機の裏の隙間まで掃除をするんだと言って持ち込まれたフローリングワイパーの柄と同じ物のように見える。

「ちむりー、その辺に、フローリングワイパーの下の部分って言うか、シートを取り付ける部分ってない?」
「えーっと、これですか? 洗って干してあるように見えますけど~」
「これは多分エイジがやってるね。この間までそんなのなかったと思うんだけど、多分コロコロだけじゃ満足出来なくなったと見た」
「ああ~……」

 俺のたどり着いた結論には1年生たちも納得してくれたみたいだ。周りのことにあまり関心のない周ですらあの人がやってるなら納得だと理解を示すのだから、エイジのアレは相当なレベルにまで達してるということなんだろう。

「ちなみに、今の4年生のL先輩の代になった時に1回棚ごと部屋から出して大掃除してるから、この部屋の埃は溜まってても1年ちょっとってトコだね。あと、エイジがああいう人だからそろそろサークル公式で掃除の時間が設けられる気がする」
「掃除自体は、悪いことではないけれど~」
「エージ先輩の潔癖性が過ぎるのも大変ですね」
「あ、一応言っとくけどエイジは潔癖性ではないよ」
「え、あれでですか?」
「周が他人の性質を認識してるとか相当っすよ!? なのに潔癖性じゃないんすか」


end.


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仕事中に棚の下からウン年物の埃がこんもり出てきて思った。MBCCでは少なそうだと。
ついでにMBCC1年生のキャラ付けなんかもちょっとづつやりながら。周は基本ずっとスマホ見てる感じで返事が適当なのかな?
あとエイジはエイジしてるのでサークル室に自費で掃除用品を持ち込んでます

(phase3)

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