2024
■そうやって繋がっていく
++++
「源部長! 失礼します!」
「はーい」
いつものように談話室を練習仕様にセットしていると、あまり見たことがないような子が俺を訪ねて来た。知らないってことは多分1年生なんだと思うけど、俺が1年生の時はあまりよく知らない3年生の先輩になんてとても声を掛けられるような雰囲気じゃなかったし人見知りしない子なんだなあって感心する。部の雰囲気が変わったのかもしれないけど。
「えっと、どうしたのかな。まずは名前を教えてもらっていい?」
「あっ、そうですよねすみませんっ。私は守谷みずきっていいます。この間のファンフェスで部長のミキサーを見て、部長の班でミキサーを教えてもらいたいなって思って」
「えーっ!?」
どうやら、まだこの班を選んで来る1年生はそうそういないだろうと思っていた自分がいたみたいだ。戸田班だった時点で今の2年生3人がこの班を選んで来てくれて、あれからは部の雰囲気もガラッと変わったんだから慣れていかなきゃいけないとは理解してたんだけど、やっぱり頭が微妙に追いつききってないかも。
今年は放送部でちゃんと公的な行事としてファンフェスでのステージをやってみた。如何せん新年度になったばかりで忙しい人もいるだろうから参加するのは希望者だけっていう形で募って、既存の班とは別の形でやってみたんだね。その中で俺たち源班は散り散りバラバラになってそれぞれの場所で各々の仕事をしていた。
例えば、彩人だったらキーボードを生かしてバンドスタイルでやってる今村班のメンバー主体の班でやってもらったり、みちるは監査としての仕事が忙しいレオの補佐としてディレクターの仕事をバリバリやってもらったり。海月は専業でやってる先輩のアナウンサーとも一緒にやってみてもらいたいよね、とか。
「ミキサーだったら俺の他にもいたと思うけど」
「部長に教えてもらいたいんです! 部長の班に入れてください!」
「えっとー……今度、1年生を対象にした班の見学ツアーをやることになってるけど、それを見ていろんな班の中から考えてみたりとか」
「だから部長に教えてもらいたいんですってば」
「あーうん、わかった、話はわかったから」
“流刑地”って呼ばれてた頃は、こんな風に1年生が訪ねて来てくれることを前提にしていなかったから、初心者講習会で変わり者っぽそうな子を一本釣りするっていうのが基本だったみたいだ。実際俺もそうやってつばめ先輩から朝霞班にスカウトされた。去年の3人は班の見学ツアーの後に見に来てくれたけど、この子はその前に来てるから、年々早くなってるな~って。
「おざーっす」
「あ、おはよう彩人」
「おはようございます!」
「ゴローさん、1年生すか?」
「そうなんだよ。何かミキサーとして源班に入りたいって言ってくれてるみたいなんだけど」
「守谷みずきです! ファンフェスでの部長のミキサーに感銘を受けて、ぜひ部長の下でお世話になりたいと思って来ました」
「へー。いいんじゃないすか? ミキサーだったら今いる2年とはダブりませんし、後継者問題的な意味でも。班員確保は最初が肝心! っすよゴローさん」
「そうは言うけど彩人、自分のことも考えないと」
部活でもインターフェイスでも、今いる人は大丈夫な彩人だけど、学年が上がって人間が入れ替わって、またいつダメなタイプの女の人が来るかもわからない。去年の事件のトラウマはそう簡単に消えてなくなるものでもないんだから。まあ、この子に関しては動機面から見ても大丈夫だと思いたいんだけど。
「や、この時期にゴローさんの弟子になりたいっつって源班を訪ねて来る奴はガチっしょ。なー」
「ねー」
「金目当てに男を漁るケっバいくっさい女がわざわざ源班に来るかっつーの」
「そんな不届き者じゃないですよ! あっすいません、そう言えば先輩の名前まだ聞いてないです」
「悪い悪い。自分は2年のプロデューサーで、谷本彩人。彩人って呼んで」
「ほら部長ー、彩人さんは歓迎ムードっぽいですよ」
「俺も歓迎しないとは一言も言ってないよ。来るのが早過ぎて戸惑ってるだけだから」
「ゴローさん、でもホントに班に入ってくれるなら呼び名を何とかしないとっすよ。“みずき”は既に海月がいますし、アイツと区別出来て、かつインターフェイスに出てもすぐに使えるようないい名前を……じゃあ今からモリ子な!」
「あー、テキトーに付けましたね!」
「しょーがねーだろ。じゃあ他に何かあんのかよ、現役で使われてる名前とか、呼んでほしい名前の案とか」
「ないですけど」
「ないんならモリ子だ」
「彩人さんセンスな。よくそれでプロデューサーやってますね」
「うっせ! 無ぁを強調すんな、こちとら鬼の山積み課題で修行してんだよ」
何か、先輩風吹かせてる彩人が微笑ましい。でもこの感じならモリ子に対する女性恐怖の心配は現状しなくて大丈夫かな。何て言うか、仲のいい兄妹っぽくも見えるし、一応は先輩に対してこういう軽口を叩いてる後輩の図が、朝霞班の頃のつばめ先輩を思い出すな。果たして彩人は鬼の山積み課題で名プロデューサーに近付けるかな。
「部長ぉー、彩人さんの名付けセンスどー思いますぅー?」
「いいんじゃないかな」
「えー!?」
「ほらぁ!」
「インターフェイスについての説明はこの間したと思うし、源班でやっていくつもりなら初心者講習会にはぜひ出てもらいたいんだけど、インターフェイスの活動ではDJネームっていうのを使う機会が多いから、本名とは違う呼び名はあるに越したことはないんだよ。俺ならゲンゴローだし、3年生のプロデューサーはマリンっていうよ」
「ゲンゴローって部長の名前にかけてですよね?」
「そうだね。源の読み方を変えてって感じ」
「3年生の先輩はちょっとオシャレなのにモリ子はダサいわー」
「まあまあ。そのうち馴染んで来るから」
「そうだぞモリ子」
「どの口が言うんですかー! この恨みは絶対忘れませんからね!」
end.
++++
フェーズ3を詰めて行くにはとにもかくにも1年生の整備が急務!
星ヶ丘の1年生たちは名前と簡単な外殻は既にあるのでまずは動かすところから。
学年上がって彩人がちょっとイキッてる感。
(phase3)
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「源部長! 失礼します!」
「はーい」
いつものように談話室を練習仕様にセットしていると、あまり見たことがないような子が俺を訪ねて来た。知らないってことは多分1年生なんだと思うけど、俺が1年生の時はあまりよく知らない3年生の先輩になんてとても声を掛けられるような雰囲気じゃなかったし人見知りしない子なんだなあって感心する。部の雰囲気が変わったのかもしれないけど。
「えっと、どうしたのかな。まずは名前を教えてもらっていい?」
「あっ、そうですよねすみませんっ。私は守谷みずきっていいます。この間のファンフェスで部長のミキサーを見て、部長の班でミキサーを教えてもらいたいなって思って」
「えーっ!?」
どうやら、まだこの班を選んで来る1年生はそうそういないだろうと思っていた自分がいたみたいだ。戸田班だった時点で今の2年生3人がこの班を選んで来てくれて、あれからは部の雰囲気もガラッと変わったんだから慣れていかなきゃいけないとは理解してたんだけど、やっぱり頭が微妙に追いつききってないかも。
今年は放送部でちゃんと公的な行事としてファンフェスでのステージをやってみた。如何せん新年度になったばかりで忙しい人もいるだろうから参加するのは希望者だけっていう形で募って、既存の班とは別の形でやってみたんだね。その中で俺たち源班は散り散りバラバラになってそれぞれの場所で各々の仕事をしていた。
例えば、彩人だったらキーボードを生かしてバンドスタイルでやってる今村班のメンバー主体の班でやってもらったり、みちるは監査としての仕事が忙しいレオの補佐としてディレクターの仕事をバリバリやってもらったり。海月は専業でやってる先輩のアナウンサーとも一緒にやってみてもらいたいよね、とか。
「ミキサーだったら俺の他にもいたと思うけど」
「部長に教えてもらいたいんです! 部長の班に入れてください!」
「えっとー……今度、1年生を対象にした班の見学ツアーをやることになってるけど、それを見ていろんな班の中から考えてみたりとか」
「だから部長に教えてもらいたいんですってば」
「あーうん、わかった、話はわかったから」
“流刑地”って呼ばれてた頃は、こんな風に1年生が訪ねて来てくれることを前提にしていなかったから、初心者講習会で変わり者っぽそうな子を一本釣りするっていうのが基本だったみたいだ。実際俺もそうやってつばめ先輩から朝霞班にスカウトされた。去年の3人は班の見学ツアーの後に見に来てくれたけど、この子はその前に来てるから、年々早くなってるな~って。
「おざーっす」
「あ、おはよう彩人」
「おはようございます!」
「ゴローさん、1年生すか?」
「そうなんだよ。何かミキサーとして源班に入りたいって言ってくれてるみたいなんだけど」
「守谷みずきです! ファンフェスでの部長のミキサーに感銘を受けて、ぜひ部長の下でお世話になりたいと思って来ました」
「へー。いいんじゃないすか? ミキサーだったら今いる2年とはダブりませんし、後継者問題的な意味でも。班員確保は最初が肝心! っすよゴローさん」
「そうは言うけど彩人、自分のことも考えないと」
部活でもインターフェイスでも、今いる人は大丈夫な彩人だけど、学年が上がって人間が入れ替わって、またいつダメなタイプの女の人が来るかもわからない。去年の事件のトラウマはそう簡単に消えてなくなるものでもないんだから。まあ、この子に関しては動機面から見ても大丈夫だと思いたいんだけど。
「や、この時期にゴローさんの弟子になりたいっつって源班を訪ねて来る奴はガチっしょ。なー」
「ねー」
「金目当てに男を漁るケっバいくっさい女がわざわざ源班に来るかっつーの」
「そんな不届き者じゃないですよ! あっすいません、そう言えば先輩の名前まだ聞いてないです」
「悪い悪い。自分は2年のプロデューサーで、谷本彩人。彩人って呼んで」
「ほら部長ー、彩人さんは歓迎ムードっぽいですよ」
「俺も歓迎しないとは一言も言ってないよ。来るのが早過ぎて戸惑ってるだけだから」
「ゴローさん、でもホントに班に入ってくれるなら呼び名を何とかしないとっすよ。“みずき”は既に海月がいますし、アイツと区別出来て、かつインターフェイスに出てもすぐに使えるようないい名前を……じゃあ今からモリ子な!」
「あー、テキトーに付けましたね!」
「しょーがねーだろ。じゃあ他に何かあんのかよ、現役で使われてる名前とか、呼んでほしい名前の案とか」
「ないですけど」
「ないんならモリ子だ」
「彩人さんセンスな。よくそれでプロデューサーやってますね」
「うっせ! 無ぁを強調すんな、こちとら鬼の山積み課題で修行してんだよ」
何か、先輩風吹かせてる彩人が微笑ましい。でもこの感じならモリ子に対する女性恐怖の心配は現状しなくて大丈夫かな。何て言うか、仲のいい兄妹っぽくも見えるし、一応は先輩に対してこういう軽口を叩いてる後輩の図が、朝霞班の頃のつばめ先輩を思い出すな。果たして彩人は鬼の山積み課題で名プロデューサーに近付けるかな。
「部長ぉー、彩人さんの名付けセンスどー思いますぅー?」
「いいんじゃないかな」
「えー!?」
「ほらぁ!」
「インターフェイスについての説明はこの間したと思うし、源班でやっていくつもりなら初心者講習会にはぜひ出てもらいたいんだけど、インターフェイスの活動ではDJネームっていうのを使う機会が多いから、本名とは違う呼び名はあるに越したことはないんだよ。俺ならゲンゴローだし、3年生のプロデューサーはマリンっていうよ」
「ゲンゴローって部長の名前にかけてですよね?」
「そうだね。源の読み方を変えてって感じ」
「3年生の先輩はちょっとオシャレなのにモリ子はダサいわー」
「まあまあ。そのうち馴染んで来るから」
「そうだぞモリ子」
「どの口が言うんですかー! この恨みは絶対忘れませんからね!」
end.
++++
フェーズ3を詰めて行くにはとにもかくにも1年生の整備が急務!
星ヶ丘の1年生たちは名前と簡単な外殻は既にあるのでまずは動かすところから。
学年上がって彩人がちょっとイキッてる感。
(phase3)
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