2024

■タダ飯の容量

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 佐藤ゼミのバーベキューは2年生から4年生までのゼミ生が揃う数少ない機会で、学年の垣根を越えた交流自体はそこまで多くないけど、こんな人がいるんだなあと眺めるだけでも面白かったりする。基本的にキャラの濃い人が採用される傾向にあるからね。
 3年生の網は例によって鵠さんが幹事という名の網奉行に先生直々に指名された。ゼミ生は卒業するまでに1人1回は何かしらの幹事を担当するという制度はあってないような物だ。だけど、鵠さんの網奉行姿がそれらし過ぎたという理由にはちょっと納得した自分もいる。

「高木君、まだお腹入る?」
「入る入る。米福君、何焼いてくれてるの?」
「焼おにぎりだよ」
「いいね~。やっぱご飯も食べたいよね。肉も美味しいけど肉の量なんか高が知れてるし」

 ――という発言には我ながらMBCCに染まってしまったなあと思いつつも、今回のバーベキューの費用はゼミ費から出ているので実質的にタダ飯。食べられるだけ食べないと損だという考えから、スタートダッシュなどはせずに細く長く最後まで確実に食べていく作戦だ。
 今回、網奉行の鵠さんが助手として採用したのはお米同好会の米福君。去年の大学祭でも美味しい炊き込みご飯を監修してくれたし、バーベキューの炭火でご飯を炊くのもお手の物。焼き肉にはご飯という、定番でありながらもバーベキューではなかなかない組み合わせが今年も実現。

「このおにぎりって、具とかって中に入ってるの?」
「ううん、具はなしで、外にネギ味噌を塗って焼いてるよ」
「香ばしそうだねえ」
「実際それ狙いだね。でもご飯炊けるのに時間掛かってるから結構みんなお腹いっぱいっぽいし、どうしようねえって」
「だったら4年生の先輩に差し入れたらいいんじゃない? 確実に消費してもらえるでしょ」
「ああ、千葉先輩ね。お米同好会的には“黄色の悪魔”」
「うん。あと、平田先輩と小田先輩も食べてくれると思うけどなあ」

 ちなみに果林先輩に付いている“黄色の悪魔”という異名は、お米同好会が大学祭で出しているご飯の食べ比べブースでいくつもある炊飯器の中身をすっからかんにされそうになった恐怖からだそうだ。あの黄色のジャージが通った後にはぺんぺん草1本残らない、と。身内としてその恐怖は否定しません。

「そしたら高木君、このおにぎり4年生の先輩たちに持って行ってくれる?」
「わかったよ」
「あ、そうだ。高木お前、学食でよく揚げ鶏丼食ってるじゃんな」
「そうだね」
「残りの飯、敢えておにぎりにしないで紙皿に盛って、その上にネギ味噌塗って焼いた鶏肉乗せたら丼になるじゃん?」
「あ! それ! それで食べたい! で、ビールも飲む!」
「じゃあネギ味噌の鶏肉も焼こうか」
「お願いします! あっ、でも俺もおにぎりは食べるからね米福君!」
「アイツ、地味にめちゃ食うじゃん?」
「食べてもらえて助かってるよ」

 そりゃあ貴重なタダ飯の機会ですから。
 焼きたてのおにぎりを手に4年生の網にお邪魔する。ここでは果林先輩と平田先輩がずーっとひたすらに食事を続けていて、安定ですよねーって感じだ。

「果林先輩平田先輩、お疲れさまです」
「おー、弟ー! よく来たなあー!」
「えっと、3年生からの差し入れです。去年と同じで申し訳ないですけど」
「来た! 焼おにぎり! 同じとかそんなの気にしなくていいって、美味しいんだから」
「んだんだ。ヨネケンの焼おにぎりは絶品やでなあ」
「あれっ、小田先輩は?」
「小田ちゃん今トイレ行っとるわ」
「そうだったんですね。そしたらこれは小田先輩の分ということで。えっと、小田先輩もまだお食事中ですよね?」
「俺ら3人はずーっと食っとる」
「ですよねー」

 話によれば、俺たちだけじゃなくて2年生も食べられなくなった物を果林先輩に食べてもらっているそうだ。2年生にはササとシノがいるから、困ったらとりあえず果林先輩だ、的な発想になるのはわかる。今年の2年生はとにかくオシャレなバーベキューだったんだけど、お酒にお金がかけられない分、食材が余りがちなんだよね。

「みんなもったいないよね、せっかくのバーベキューなのにすぐごはんやめちゃって。タカちゃんは食べてる?」
「はい。俺はこのおつかいが終わったら、ネギ味噌で焼いた鶏肉を白米の上に乗せて食べる予約をしてます。もちろんおにぎりも食べますし」
「えー! タカちゃんその丼はちょっとズルい! アタシも食べたいんですけど!」
「千葉ちゃんばっかりズルいやろそれは! 俺も食いたいわそんなん絶対美味い!」
「ネギ味噌を鶏肉に塗って焼いてご飯に乗せるアイディアを出したのは鵠さんですね」
「やっぱ3年生天才だよね! ネギ味噌のアレンジがただただ強い! ねえタカちゃん、余りそうだったらでいいから、アタシたちの分あるかどうか聞いてもらっていい?」
「いいですよ。それでは失礼します」

 まあ、俺が食べたいって思うってことは4年生の先輩たちにも刺さるワケで。俺がまだ食べられるってことは、4年生の先輩たちなんかまだまだ余裕なワケで。このまま行ったら2年生が大量に余らせてる食材も全部食べちゃうんじゃないかなあ、割と現実的に。

「行ってきたよー」
「ありがとう。もうすぐ丼の準備が出来るよ」
「あのさあ、その丼の話を向こうでしたら、案の定先輩たちが食いついちゃって。余りそうだったらでいいから食べたいって言ってるんだよね」
「あ、大丈夫だよ。俺と康平が食べてもまだ余るし、先輩たちにも食べてもらって大丈夫」
「良かったー。これでダメでしたって言った時の反応が怖かったから」
「そしたら先輩たちの分も盛るし、出来たら高木君また持って行ってもらっていい?」
「わかったよ」

 ネギ味噌で焼いた鶏肉がまた香ばしくていい匂いで、ビールを開けたいなって思っちゃうんですよねー。やっぱり、財源がどこから出てるかっていう話なんです? 自腹を切らない食事の機会だから食べますよ、そりゃ。


end.


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ネギ味噌を焼いたヤツがおいしい! タダ飯最高! なだけのTKGの話。
注文の度にお金がかかるなら奴はセーブするけど、タダ飯なので本来の腹の容量だけちゃんと食べる。

(phase3)

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