2024

■従うべき流刑地の郷

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 幹部なんざクソ喰らえだ。いつか必ずぶっ潰す。役職を持ってるってだけで何がそんなに偉いんだか。プロデューサーは偉くてディレクターは低い身分だとか、誰が決めた。つーか、ディレクターの仕事をナメてんのかコイツら。だとするなら辞めちまえ。

「――というワケで、鷹羽班から移って来た戸田だ。パートはディレクター」
「移って来た? 正しく言いなよ、幹部に反抗して島流しにされて来たって」
「まあ、そういうことだから、今日からウチの班はこの4人でやっていくことになる」

 ディレクターナメてんじゃねーぞ的なことで幹部に殴り込みに行ったアタシに言い渡されたのは、“流刑地”って呼ばれてる越谷班への異動だった。どーゆー班かは詳しくはわかんないけど、とにかくヤバい連中の集まりみたいに言われてる。部の方針に反してるとか、幹部にとって都合の悪い人間の掃き溜めらしい。
 この放送部には暗黙のヒエラルキーとかカースト制みたいなモンがあるらしい。プロデューサーが一番偉くて、次にアナウンサー、ミキサーと続いて最下層にディレクター。だから好き好んでディレクターになる人間はそうそういないそうだ。いやいや、ふざけんなよと。ディレクターが仕事をしてるから他のパートの連中が滞りなく動けるんじゃねーのかって話だよ。
 元々いた鷹羽班も、幹部なんざクソ喰らえってスタンスの班だった。だから幹部連中は根拠もないのに偉そうにしやがって的な話はよく聞いてたし、実際その通りだなって思った。で、ディレクターのクセに生意気だとか、鷹羽班のクセに長々と機材を使うなとか邪魔だとか言われると、まあ黙っていられなかったよね。

「戸田、お前はどう幹部に反抗して越谷班に流されて来たんだ?」
「要約すればディレクターは奴隷か何かかふざけんなって言っただけ。まあ、少なからず幹部にケンカは売ったけど何か?」
「そうか。この班は見ての通り頭数が他の班に比べて少ないから、どのパートだろうと出来る仕事は各々がやらなきゃいけないし、PだからPの仕事しかしません、DだからDの仕事しかしませんって班じゃない」
「いやいやいや、それとアタシが幹部にどう反抗してきたかって話とが繋がらないんだけど」
「越谷班に流されて来た経緯は割とどうでもいいんだ。聞きたいのは、お前がここでステージをやる気があるのかどうかだ。不貞腐れてステージがいい加減になるなら問題だけど、ステージをやる意思があるなら経緯はどうあれ歓迎する」
「やってやんよ」
「そういうことなら、今日からよろしくな」

 この班の班長、越谷サンはミキサーで、ディレクターの仕事もある程度は出来るので必要があればアタシに対する指導も行うって話だ。話の通り、人数が少ないが故に複数パートの仕事が出来るようになるとかは当たり前なんだろう。アタシもディレクターの仕事を一通り覚えたらミキサーに触ってもらうって話だ。

「これがプロデューサーで2年の朝霞と」
「朝霞薫だ」
「アナウンサーでこっちも2年の山口だ」
「ステージスターの山口洋平だよ~。よろしくね~」
「チャラい野郎だな」
「ん~、これがデフォだし~、つばちゃんには慣れてもらう方向でよろしく~」
「きっしょ! 変な呼び方すんなよ!」
「慣れてもらう方向で~」
「まあ、洋平はこれがデフォだから気色悪くても慣れてくれ。悪い奴ではないから」
「やだわ~」
「ん? 朝霞、どうした」
「班が4人になったなら、そのように台本を書き換えるだけです。そういうことなんで、しばらく話しかけないでください」
「ジャ、俺はレッドブルでも買い足して来てあげよ~かな~」
「山口、後払いで」
「了解で~す。行って来ま~す」

 挨拶もそこそこに、プロデューサーは紙の束をバサッと広げて作業に入った。班の人数が変われば台本は確かにある程度は変わるだろうけど、それでも新しく来た人間がどういう奴かを確認するとかしねーのかよこの人。しかもしばらく話しかけるなって。

「や、何だこの人!?」
「ちなみに朝霞は暇さえあれば台本を書いている。作業してる時は邪魔するとキレられるから気を付けろ」
「いや、そーじゃなくてさ。エナドリ飲み過ぎだしそもそも名乗っただけじゃんね? もーちょっと何かないの?」
「何かって何だ」
「おー、珍し。朝霞が作業途中で手止めるとか」
「何かって何だ」
「や、ほら、よろしくとか? ディレクターとしてどれだけやってるんだとか、アタシがこの班で暴れたらどうなるかわかってるなって脅すとか、あるじゃん」
「ディレクターとしての力量は俺の本への対応を見て判断するし、現段階での自己申告は必要ない。お前が暴れようがステージさえ真面目にやるならそれでいい。ここまで見た時点でのお前の性格なら物怖じせずにこっちへの要求をしてくるだろうから、お前自身もそれなりの仕事が出来ることを前提に置く。これで満足か」
「ああ、まあ」
「ああ、そうだ。言い忘れた」
「ナニ」
「越谷班でステージをやる以上、幹部をぶっ潰すだの部内での立場がどうだの、その程度の雑念を抱いてる暇はないと思え。俺はステージに対して妥協をする気はないし、班員にも一切の妥協はさせない。お前もそのつもりでいろ」

 えっらそうなプロデューサーだなーとは思ったけど、ディレクターを下に見てるとかそういうワケではなさそうだとは思った。ステージさえ真面目にやればいいってのと、権利を主張するならお前もやるべきことをちゃんとやれってのがアタシへの要求か。幹部野郎なんかよりよっぽど筋が通ってんね。まあ、態度はアレだけど。

「って言うかこっしー」
「ん? 俺のことか」
「そうだよ。他にどこにこっしーがいんのさ」
「まあいいけど。何だ」
「この人、暇さえあれば台本書いてるって、遅筆なの?」
「いや、逆だ。手は部内トップクラスで速い。が、言われて来ただろ、越谷班は“流刑地”だって」
「そーだね」
「かつて幹部に逆らった俺の名を冠した班の台本を、幹部が素直に通すか、という話だ」
「マジでそーゆーのがあんのかよ。つかこっしーも幹部に逆らったんだ」
「そんな事情があって他の班や幹部との話なんかも俺じゃなくて朝霞が代表で出ていくこともある。で、台本が1本弾かれても次の弾、それがダメでもまた次の弾、という風に、朝霞は1つのステージで4本5本は台本を書いている」
「ヤバっ」
「コイツは先輩も後輩もパートも何も関係なく、班員には見ている人が楽しめる最高のステージを作り上げることだけを要求する。で、とうとう“ステージの鬼”なんて呼ばれ始めた。お前くらい胆力がある奴の方が、コイツの相手は適任だ。ディレクターとしての指導は俺に任せてくれ。これから、よろしく頼む」

 ステージの鬼ってよりステージバカじゃねーかと思ったけど、今はこの班でやっていくしかないんだ。幹部連中のことを許す気はないしぶっ潰してやるとは思ってる。それを雑念って言われるのもアンタにアタシの何がわかるんだってまあムカつきはするんだけどさ。こっしーと洋平の反応を見るに、これがこの班のデフォなんだろう。この班の郷にはちょっとだけ従ってやるか。口出ししたけりゃ相応の実力を付けてから。


end.


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唐突に見たくなった1年生当時の荒くれつばちゃん。ついでにPさんも尖ってるくらいがちょうどいい。
現役時のこっしーさんも初めてだけど、この時間軸でもいい先輩なんだろうね。
朝霞班の時はつばちゃんがやってたレッドブルの買い出しはこの時点ではやまよ担当。

(phase-1)

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