2024
■実戦の前段階
++++
「何か箱に入れる製品が微妙に揃いきらないな」
「あー、多分ウッチーが回ってるヤツじゃないかな」
「またか」
「そしたら、今出来てる分だけでももらってくるよ」
「頼むわー」
入社してすぐの間はどんな職種で採用された奴も現場で働くことになっている。向西倉庫に今年入った社員は6人だけど、うち1人は入社1週間で、あと1人はそのさらに1週間後に「仕事内容にギャップがあった」とかで辞めていった。
つーか辞めてった奴らは去年夏のインターンとは名ばかりの短期バイトにもいたんだから辞めるならその時点で辞退しとけよと思わないこともなかったけど、会社側もこうなることを見越して少し多めに人員を確保していたらしい。結局残ったのは俺と大石、長岡、それから内山だ。
だけどこの内山が、見ていて本当に大丈夫なのかと不安を覚えると言うか。5キロあるかないかの荷物を抱えるだけでふらふらして転びそうになるわ、体力がないのか毎日毎日しんどそうにしてるわ。事務での採用だから多少はご愛敬なんだろうけど、何だかなあ。
今も出荷作業の真っ只中。広いA棟を歩き回って端末に表示された製品をピッキングしてきて、それをまた指定されたケースに詰めて検品、梱包、出荷という流れになる。だけど内山の作業が遅いにも遅いにも。それで全体の作業が止まる度に大石がヘルプに飛んでの繰り返しだ。
「1枚箱なくなりそうだし作っとこう」
「じゃ俺A-5C」
こうしたちょっとした待ち時間の間に少なくなったケースを作ったりするということも覚えた。長岡はすぐに使えるようにしてあるカートンケースの在庫が少なくなると不安を覚えるのか、率先してこの作業をしているように思う。
「越野、長岡」
「あっ、塩見さん」
「お疲れさまです。新倉庫目途付いたんですか」
「俺がこっちに加わる必要性を確認しに来たんだけど、どういう状況だこれ」
「あー、えーと、恐らくですけど、内山待ちっす。で、大石が現状出来てるモンをもらいに行ってる、的な」
「ああ、そういうことか」
「事務だからいいんでしょうけど、アイツの体力のなさ、見てて大丈夫かなって思っちまいます」
「事務職を選ぶ高卒の女子ならそんなモンだろ。お前らみたく何かしらのスポーツをやってるってワケでもなさそうだし。作業が遅いのはともかく、仕事の上では現状目立ったミスはねえし、端末も正しく扱えてる。長い目で見ていい奴だと思うけどな」
圭佑君から聞いたことがあるんだけど、塩見さんの人を見る目は結構確からしくて、人材派遣の人の取捨選択をほぼ外さないんだそうだ。人の潜在能力がグラフになって見えてるんじゃないかという風に事務所で言われているのも聞いたと。
「確かに、ウッチーって伝票や端末を都度指さし確認するんですよね。ミスの少なさってそういうところなのかなあ」
「細かい確認は慣れてくると怠りがちだからな。そもそもアイツは今年の新卒唯一の高卒で、同期とすら歳が離れてんだ。環境に適応するところからだろ」
「確かにそうかもですねー」
「おーい、誰かー! これ引っ張ってくれー」
「立ち話だけも難だし、パレットでも引っ張るか」
そう言って塩見さんはハンドリフトを手に吹き抜けから上がってきたパレットを所定の場所まで引っ張って行った。途中で物が無くなると、補充しながらの作業になる。そのときにどうやって端末上でピッキングする物をスキップするかということもこの間教えてもらった。
簡易的に入庫をして戻ってきた塩見さんは、現状梱包まで出来ているケースをパレットに積み始めるようだ。下をフォークリフトで走っている畠山さんにパレットの補充を頼み、運送会社別に分けて積んでいく。俺はまだこの積み方の規則性を教えてもらっていない。
「長岡!」
「はい! ……え、何だろ。怖っ」
「いってら」
俺はと言えば、粗方箱を補充し終えてしまったので、今度はその辺に散らばった空箱の整理をする。どうやら長岡は塩見さんから荷物の積み方のレクチャーを受けている様子だ。ゆくゆくは現場に入ってもらうって話だから、こういうときに少しずつ教わることになるんだろう。
「お待たせー」
「おっ、やっと来たか!」
「すみません遅くなりました」
大石と内山が引っ張ってきた台車を見ると、見事に重いモンばっかが載っている。しかも無駄に高く積み上げられてるヤツだとか奥の方に押し込められてるのとか、めんどくせーモンも多い。こりゃ内山じゃなくても時間かかるわ。俺だったら物を探しながらブチ切れてたかもしれない。
「内山お前汗だくだぞ。大丈夫かよ」
「大丈夫です」
「水飲んで来いよ、暑さに慣れる前が一番危ないって言うし」
「ありがとうございます」
「あっ、塩分もとれよ! 冷蔵庫の中にタブレットあるから!」
「はーい」
確かに、スポーツでも高卒くらいだとこれから体を作って~みたいに言うこともあるよなと思い出した。仕事に精神論を持ち出しても仕方ないけど、内山は一瞬で辞めてった連中よりもよっぽど根性あるよな。まず俺がどの目線で言ってんだって感じだけど。自分もちゃんとしないと。
「って言うか越野、冷蔵庫の中の塩タブレットって長岡君の私物だよね? 会社で塩飴とか用意してくれるにはまだ早かったと思うけど」
「前途ある若者の健やかな体づくりへの投資だ」
「うーん、そういうものなのかなあ」
end.
++++
本当にこっしーは一体どこから目線なのか
へろへろなウッチーの話をやりたかったけど本人全然いないし
(phase3)
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「何か箱に入れる製品が微妙に揃いきらないな」
「あー、多分ウッチーが回ってるヤツじゃないかな」
「またか」
「そしたら、今出来てる分だけでももらってくるよ」
「頼むわー」
入社してすぐの間はどんな職種で採用された奴も現場で働くことになっている。向西倉庫に今年入った社員は6人だけど、うち1人は入社1週間で、あと1人はそのさらに1週間後に「仕事内容にギャップがあった」とかで辞めていった。
つーか辞めてった奴らは去年夏のインターンとは名ばかりの短期バイトにもいたんだから辞めるならその時点で辞退しとけよと思わないこともなかったけど、会社側もこうなることを見越して少し多めに人員を確保していたらしい。結局残ったのは俺と大石、長岡、それから内山だ。
だけどこの内山が、見ていて本当に大丈夫なのかと不安を覚えると言うか。5キロあるかないかの荷物を抱えるだけでふらふらして転びそうになるわ、体力がないのか毎日毎日しんどそうにしてるわ。事務での採用だから多少はご愛敬なんだろうけど、何だかなあ。
今も出荷作業の真っ只中。広いA棟を歩き回って端末に表示された製品をピッキングしてきて、それをまた指定されたケースに詰めて検品、梱包、出荷という流れになる。だけど内山の作業が遅いにも遅いにも。それで全体の作業が止まる度に大石がヘルプに飛んでの繰り返しだ。
「1枚箱なくなりそうだし作っとこう」
「じゃ俺A-5C」
こうしたちょっとした待ち時間の間に少なくなったケースを作ったりするということも覚えた。長岡はすぐに使えるようにしてあるカートンケースの在庫が少なくなると不安を覚えるのか、率先してこの作業をしているように思う。
「越野、長岡」
「あっ、塩見さん」
「お疲れさまです。新倉庫目途付いたんですか」
「俺がこっちに加わる必要性を確認しに来たんだけど、どういう状況だこれ」
「あー、えーと、恐らくですけど、内山待ちっす。で、大石が現状出来てるモンをもらいに行ってる、的な」
「ああ、そういうことか」
「事務だからいいんでしょうけど、アイツの体力のなさ、見てて大丈夫かなって思っちまいます」
「事務職を選ぶ高卒の女子ならそんなモンだろ。お前らみたく何かしらのスポーツをやってるってワケでもなさそうだし。作業が遅いのはともかく、仕事の上では現状目立ったミスはねえし、端末も正しく扱えてる。長い目で見ていい奴だと思うけどな」
圭佑君から聞いたことがあるんだけど、塩見さんの人を見る目は結構確からしくて、人材派遣の人の取捨選択をほぼ外さないんだそうだ。人の潜在能力がグラフになって見えてるんじゃないかという風に事務所で言われているのも聞いたと。
「確かに、ウッチーって伝票や端末を都度指さし確認するんですよね。ミスの少なさってそういうところなのかなあ」
「細かい確認は慣れてくると怠りがちだからな。そもそもアイツは今年の新卒唯一の高卒で、同期とすら歳が離れてんだ。環境に適応するところからだろ」
「確かにそうかもですねー」
「おーい、誰かー! これ引っ張ってくれー」
「立ち話だけも難だし、パレットでも引っ張るか」
そう言って塩見さんはハンドリフトを手に吹き抜けから上がってきたパレットを所定の場所まで引っ張って行った。途中で物が無くなると、補充しながらの作業になる。そのときにどうやって端末上でピッキングする物をスキップするかということもこの間教えてもらった。
簡易的に入庫をして戻ってきた塩見さんは、現状梱包まで出来ているケースをパレットに積み始めるようだ。下をフォークリフトで走っている畠山さんにパレットの補充を頼み、運送会社別に分けて積んでいく。俺はまだこの積み方の規則性を教えてもらっていない。
「長岡!」
「はい! ……え、何だろ。怖っ」
「いってら」
俺はと言えば、粗方箱を補充し終えてしまったので、今度はその辺に散らばった空箱の整理をする。どうやら長岡は塩見さんから荷物の積み方のレクチャーを受けている様子だ。ゆくゆくは現場に入ってもらうって話だから、こういうときに少しずつ教わることになるんだろう。
「お待たせー」
「おっ、やっと来たか!」
「すみません遅くなりました」
大石と内山が引っ張ってきた台車を見ると、見事に重いモンばっかが載っている。しかも無駄に高く積み上げられてるヤツだとか奥の方に押し込められてるのとか、めんどくせーモンも多い。こりゃ内山じゃなくても時間かかるわ。俺だったら物を探しながらブチ切れてたかもしれない。
「内山お前汗だくだぞ。大丈夫かよ」
「大丈夫です」
「水飲んで来いよ、暑さに慣れる前が一番危ないって言うし」
「ありがとうございます」
「あっ、塩分もとれよ! 冷蔵庫の中にタブレットあるから!」
「はーい」
確かに、スポーツでも高卒くらいだとこれから体を作って~みたいに言うこともあるよなと思い出した。仕事に精神論を持ち出しても仕方ないけど、内山は一瞬で辞めてった連中よりもよっぽど根性あるよな。まず俺がどの目線で言ってんだって感じだけど。自分もちゃんとしないと。
「って言うか越野、冷蔵庫の中の塩タブレットって長岡君の私物だよね? 会社で塩飴とか用意してくれるにはまだ早かったと思うけど」
「前途ある若者の健やかな体づくりへの投資だ」
「うーん、そういうものなのかなあ」
end.
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本当にこっしーは一体どこから目線なのか
へろへろなウッチーの話をやりたかったけど本人全然いないし
(phase3)
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