2024
■いつもの組み合わせ
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対策委員の会議は花栄のカフェでやってるんだけど、緑ヶ丘大学からだとどう短く見積もっても45分はかかるんだよね。豊葦から星港の中心まで行くとなると、電車に乗るにしても地上の星鉄から乗り換えなしで地下鉄に入りたいなーとか、考えなきゃいけないことも多い。
対策委員の会議に限らず星港市内での会議の場合、星港市内にある大学の子より豊葦の子の方がみんなより一足先に着いて待ってるっていうパターンが多くなりがち。そうやって、少し早くみんなを待つあたしととりぃっていう図が出来上がりつつあるみたい。
一応あたしにはシノ、とりぃにはカノンっていう同じ大学から出てる対策委員の子がいるけど、必ずしも一緒に行動してるワケじゃないから合流するのはここになることの方が多いかな。学科が違ったりするし、シノは原付の都合もあるしね。
「くるみは今日はチーズケーキですか?」
「うん! 今日は定番を押さえておきたい気分だった」
みんなよりちょっと早く来て待っている間、あたしは大体ケーキを食べている。とりぃは最初飲み物だけを頼んでたんだけど、案外みんなを待つ時間が長いとわかるとフードも頼むようになった。会議は普通に夕方だからおなかが空いちゃうんだよね。
「とりぃはミルクレープなんだね? って言うか、とりぃが何か食べるときってケーキじゃなくてサンドの印象だったからちょっと驚いたよ。いつもよりおなか空いてないような感じ?」
「いえ、お腹は普通に、これを食べた上で夕飯を食べられる程度には空いているのですが、ミルクレープを食べたかったのです」
「よく見たらドリンクもいつもはカフェラテとかの印象だけど、今日はホットの紅茶だねえ、味はレモンで。シロップはなし。ミルクレープと無糖のレモンティーかー。ミルクレープとレモ……あっ! すがやんの組み合わせだ!」
「やはりくるみには気付かれてしまいましたか」
「どーしたの? とりぃもミルクレープを重ねる時間のロマンを感じたくなったの?」
ミルクレープを重ねる時間のロマン、というのはすがやんのよく言ういわゆる迷言ってヤツ。スイーツの断面フェチのあたしにとってはちゃんと名言なんだけどね。すがやんは地層フェチで、ケーキにしてもこういう物にときめきを覚えるみたいなんだよね。で、先の言葉と。
「笑わないで聞いて欲しいのですが」
「聞くよ! 聞く聞く!」
「徹平くんと一緒に出かけたときなど、こうしてお茶をすることがあるのですが、まさにくるみの言う通り、これは徹平くんお決まりの組み合わせなのです。どういう食べ合わせなのかなと興味はあったのですが、一緒にいるときはお揃いにしにくいなという心理が働いてしまい」
「なるほどぉ。すがやんのことをもっと知りたいっていうとりぃの心理が働いた注文だったワケですね?」
「そう言われると少し恥ずかしいのですが、そのようなことですね」
「かわいい~! あーもーすがやんホントにいい子と付き合ったよね! さすが友達多いだけあって人を見る目が鍛えられてる!」
そもそも、知り合ってからもまだ2ヶ月くらいだもんね。全然知らないこともいっぱいあるから、お互いのことを知りたいっていう段階だよね。ミルクレープを重ねる時間のロマンからってことなのかなあ。あたしは地層はさっぱりだけどミルクレープのことはちょっとわかるもんね。
「それはそうとして、このミルクレープはクリームの部分がちょっと甘いから、紅茶に砂糖を入れないのは多分すがやんのこだわりだね。いつも飲んでる午後ティーは砂糖入ってるヤツだけど、こういう、入れる入れないを自分で調節出来るときは無糖の方が多い気がする。元々あっさり系が好きだからね」
「では、ケーキを一口食べてみますね。……うん、確かに甘いですね」
「でしょ?」
多分すがやんがミルクレープを好きなのは、味じゃなくて見た目と作る工程が一番の要素っぽい。前に果林先輩が夜勤の仕込みで凍ったミルクレープのホールケーキに包丁を入れるときの話をしてくれてたのにもすっごい食いついてたっけ。あたしも食いついたけど。
とりぃが食べてるケーキの断面をジッと見る。うん、ほぼ等間隔。ミルクレープはフォークを入れてる時にトトトトトッてクレープが切れる感覚が手に伝わってくるんだよね! ミシン目を切ってる時みたいな気持ちよさがあるって言うか。熱弁してもあんまりわかってもらえないけど。
「こうしてミルクレープの層を見ていると、確かに結構な数の層であるとわかりますね。さすがに手で作っているワケではありませんよね?」
「わかんないけど、お店の数も多いからさすがに機械じゃないかな?」
「だとすると、これを最初に機械で作ろうとしたときの試行錯誤が思い浮かびますね。どのようにクリームを塗り広げるかや、力加減などが難しいでしょうから。どのように機械が動くかは実に興味深いです」
「あー、えーと、そこまでいくとレナの話になっちゃうかなあ」
「そうですよね」
「でもその発想はなかったよ! スイーツを作る機械かー、夢の機械だよね! 次のサークルの時にレナに話してみよーっと」
「そんなことを話している間にいい時間になりそうですね。早く食べてしまわないと」
「もったいないなあ。ミルクレープは食べるだけじゃなくて眺めるのも楽しいのに」
「徹平くんもそういう楽しみ方をするのですが、さすがに今は会議前なので食べてしまった方がいいかと」
そう言ってケーキをパクパク食べちゃうとりぃを見てると真面目だなあって思っちゃうよね。あたしは別に平気。シノと青敬勢、あとちとせちゃんに甘えちゃってる感じはあるけど。さすがのあたしも最初は証拠隠滅してたけど、もう気にしなくなっちゃったよね。
「あたしも今度ミルクレープにしてみよーかなー」
「いいと思いますよ。美味しいですし」
「ミルクレープはフォークを入れたときの感触も楽しいんだよ」
「感触ですか。そこまでは気が回りませんでしたね……。スイーツは奥が深いです」
end.
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今の時代、午後ティーにも無糖レモンが存在するのですがやんはどれを選ぶのか。
無糖があってもいつものストレートを選ぶのはTKGパイセン。
(phase3)
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対策委員の会議は花栄のカフェでやってるんだけど、緑ヶ丘大学からだとどう短く見積もっても45分はかかるんだよね。豊葦から星港の中心まで行くとなると、電車に乗るにしても地上の星鉄から乗り換えなしで地下鉄に入りたいなーとか、考えなきゃいけないことも多い。
対策委員の会議に限らず星港市内での会議の場合、星港市内にある大学の子より豊葦の子の方がみんなより一足先に着いて待ってるっていうパターンが多くなりがち。そうやって、少し早くみんなを待つあたしととりぃっていう図が出来上がりつつあるみたい。
一応あたしにはシノ、とりぃにはカノンっていう同じ大学から出てる対策委員の子がいるけど、必ずしも一緒に行動してるワケじゃないから合流するのはここになることの方が多いかな。学科が違ったりするし、シノは原付の都合もあるしね。
「くるみは今日はチーズケーキですか?」
「うん! 今日は定番を押さえておきたい気分だった」
みんなよりちょっと早く来て待っている間、あたしは大体ケーキを食べている。とりぃは最初飲み物だけを頼んでたんだけど、案外みんなを待つ時間が長いとわかるとフードも頼むようになった。会議は普通に夕方だからおなかが空いちゃうんだよね。
「とりぃはミルクレープなんだね? って言うか、とりぃが何か食べるときってケーキじゃなくてサンドの印象だったからちょっと驚いたよ。いつもよりおなか空いてないような感じ?」
「いえ、お腹は普通に、これを食べた上で夕飯を食べられる程度には空いているのですが、ミルクレープを食べたかったのです」
「よく見たらドリンクもいつもはカフェラテとかの印象だけど、今日はホットの紅茶だねえ、味はレモンで。シロップはなし。ミルクレープと無糖のレモンティーかー。ミルクレープとレモ……あっ! すがやんの組み合わせだ!」
「やはりくるみには気付かれてしまいましたか」
「どーしたの? とりぃもミルクレープを重ねる時間のロマンを感じたくなったの?」
ミルクレープを重ねる時間のロマン、というのはすがやんのよく言ういわゆる迷言ってヤツ。スイーツの断面フェチのあたしにとってはちゃんと名言なんだけどね。すがやんは地層フェチで、ケーキにしてもこういう物にときめきを覚えるみたいなんだよね。で、先の言葉と。
「笑わないで聞いて欲しいのですが」
「聞くよ! 聞く聞く!」
「徹平くんと一緒に出かけたときなど、こうしてお茶をすることがあるのですが、まさにくるみの言う通り、これは徹平くんお決まりの組み合わせなのです。どういう食べ合わせなのかなと興味はあったのですが、一緒にいるときはお揃いにしにくいなという心理が働いてしまい」
「なるほどぉ。すがやんのことをもっと知りたいっていうとりぃの心理が働いた注文だったワケですね?」
「そう言われると少し恥ずかしいのですが、そのようなことですね」
「かわいい~! あーもーすがやんホントにいい子と付き合ったよね! さすが友達多いだけあって人を見る目が鍛えられてる!」
そもそも、知り合ってからもまだ2ヶ月くらいだもんね。全然知らないこともいっぱいあるから、お互いのことを知りたいっていう段階だよね。ミルクレープを重ねる時間のロマンからってことなのかなあ。あたしは地層はさっぱりだけどミルクレープのことはちょっとわかるもんね。
「それはそうとして、このミルクレープはクリームの部分がちょっと甘いから、紅茶に砂糖を入れないのは多分すがやんのこだわりだね。いつも飲んでる午後ティーは砂糖入ってるヤツだけど、こういう、入れる入れないを自分で調節出来るときは無糖の方が多い気がする。元々あっさり系が好きだからね」
「では、ケーキを一口食べてみますね。……うん、確かに甘いですね」
「でしょ?」
多分すがやんがミルクレープを好きなのは、味じゃなくて見た目と作る工程が一番の要素っぽい。前に果林先輩が夜勤の仕込みで凍ったミルクレープのホールケーキに包丁を入れるときの話をしてくれてたのにもすっごい食いついてたっけ。あたしも食いついたけど。
とりぃが食べてるケーキの断面をジッと見る。うん、ほぼ等間隔。ミルクレープはフォークを入れてる時にトトトトトッてクレープが切れる感覚が手に伝わってくるんだよね! ミシン目を切ってる時みたいな気持ちよさがあるって言うか。熱弁してもあんまりわかってもらえないけど。
「こうしてミルクレープの層を見ていると、確かに結構な数の層であるとわかりますね。さすがに手で作っているワケではありませんよね?」
「わかんないけど、お店の数も多いからさすがに機械じゃないかな?」
「だとすると、これを最初に機械で作ろうとしたときの試行錯誤が思い浮かびますね。どのようにクリームを塗り広げるかや、力加減などが難しいでしょうから。どのように機械が動くかは実に興味深いです」
「あー、えーと、そこまでいくとレナの話になっちゃうかなあ」
「そうですよね」
「でもその発想はなかったよ! スイーツを作る機械かー、夢の機械だよね! 次のサークルの時にレナに話してみよーっと」
「そんなことを話している間にいい時間になりそうですね。早く食べてしまわないと」
「もったいないなあ。ミルクレープは食べるだけじゃなくて眺めるのも楽しいのに」
「徹平くんもそういう楽しみ方をするのですが、さすがに今は会議前なので食べてしまった方がいいかと」
そう言ってケーキをパクパク食べちゃうとりぃを見てると真面目だなあって思っちゃうよね。あたしは別に平気。シノと青敬勢、あとちとせちゃんに甘えちゃってる感じはあるけど。さすがのあたしも最初は証拠隠滅してたけど、もう気にしなくなっちゃったよね。
「あたしも今度ミルクレープにしてみよーかなー」
「いいと思いますよ。美味しいですし」
「ミルクレープはフォークを入れたときの感触も楽しいんだよ」
「感触ですか。そこまでは気が回りませんでしたね……。スイーツは奥が深いです」
end.
++++
今の時代、午後ティーにも無糖レモンが存在するのですがやんはどれを選ぶのか。
無糖があってもいつものストレートを選ぶのはTKGパイセン。
(phase3)
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