2018
■祭りと喧嘩は何の華
++++
「宇部さん、あれは何をやっているですか?」
「あれは菅野 班ね」
ゴールデンウィークの連休だとかそんなことは関係なく、星ヶ丘大学放送部はステージに向けた準備に追われていた。私、浦和茉莉奈は部の監査を務めている宇部さんのお世話になるべく、班に見習いとして入れてもらっている。
監査として部の仕事でも忙しいのに、プロデューサーとして班のステージにもしっかりと目を向けている。そんな宇部さんがキリッとしててカッコよくて。大学に入って初めて見つけた本当の憧れ。
「菅野班はステージにライブ音楽を盛り込むスタイルなのよ」
「へー、そうなんだです」
宇部さんの後をついて歩いていると、楽器を使った賑やかな音がしていたから何かなーと思って。放送部にはいろんな班がある。班ごとのカラーもいろいろ。今紹介された菅野班は音楽が強みの班だそうだ。
「祭り囃ではないけれど、楽しい場所には楽しい音が少なからずあると思うわ」
「ぴーひゃらぱっぱって感じです?」
「それも間違いではないわね。特に、丸の池公園のステージは実際にアマチュアバンドがライブをやっていたりするから、音楽を用いて人を集めるというのは悪い戦法ではないと私は思うわ」
すると、菅野班の人がこっちに気付いたのか顔を上げる。えっと、スネアドラムっていうんだっけ。それを叩いていた背の高い眼鏡の人が。
「宇部、どうした。見回りか?」
「ええ。班の進捗を確かめているの。何か困ったことはないかしら。あれば出来る範囲で対処するわ」
「今は大丈夫かな」
「そう。ならいいの」
「後ろにいるのは? 監査が目をかけてるってことは期待の新人ってトコか」
「プロデューサー候補生として宇部班で預かることになった1年生よ。浦和さんというの」
「浦和茉莉奈です。期待の新人になれるよう頑張りますです」
「菅野班班長、放送部書記でプロデューサーの菅野泰稚 です」
「菅野は奥でキーボードを弾いている菅野 とバンドを組んでいるのよ」
奥に目をやると、鍵盤の上を踊るように指が動いている。パーマがかかってゆるくうねる茶髪に、くりっとした目のしょうゆ顔。菅野さんと比べると背はちっさい。カレッジセーターの上にループタイが揺れている。
「おーいスガー! 何やってんだー!」
「もうちょい待っててくれ」
「待てるか!」
待てるかという声と同時にこっちに駆けてきたかと思えば、菅野さんめがけたラリアット。身長差が結構あるからちゃんとかかってる感じはないけど。
「あっ、宇部か」
「菅野 、体力が有り余ってるようね」
「いやー、見た目より削れてる、スガはムチャ振りばっかしてくるし。まあ、やるけど」
「ああ、浦和さん。これが菅野班ディレクターの菅野 太一。専ら、Dとしてよりはキーボーディストとしての側面の方が大きいかも」
「菅野 でーす。ってかスガ、このちびっ子誰?」
「自分もチビのクセして人にちびっ子言うなですよ! こう見えて宇部班の見習いプロデューサーですよ!」
「ンだと! 誰がチビだ!」
「お前ですよ!」
「こら、浦和さん。先輩にお前はないでしょう」
「カン、お前も初対面の子に何を言うんだ」
腹立つ~! 初対面なのに失礼な男! 確かに私だって大きくはないですよ! でも、明らかに170ないだろうお前が言うなって感じですよコロスですよ! まあ、ここは宇部さんの顔を汚すわけにも行きませんから引きますけど!
菅野さんがカンがごめんねって謝ってくれてるけど、お前は自分が謝る前にナニ菅野さんに謝らせてんだって感じですよ! あーもうこのなんちゃってD、絶対許さない。まあ? 今後喋ることもないだろうけどですよ!
「菅野 、ごめんなさいね班の練習中だったのに」
「いや。宇部、こっちも悪かった」
「スガ、お前が謝ることじゃねーだろ」
「そうですよ、宇部さんが謝ることじゃないですよ何も悪くないのに」
すると、宇部さんと菅野さんの声が揃う。「班員の不始末は班長の責任」と。それぞれの班長にひと睨みされると、当事者たちはたじたじになるしかない。そして渋々目の前に相手に頭を下げる。ごめんなさーいと。
そしてまた次の班の様子を見に行くのにその場を離れると、背中の方からは楽しそうな音楽が鳴り始める。ピアノは本当に上手いんだろうけど、弾いてるのがアイツだと思うとやっぱ腹立つ。
「浦和さん、不機嫌そうね」
「カンノが腹立つですよ」
「菅野 と菅野 は大らかな方だけど、今後はあまり誰彼構わず喧嘩を売らないでちょうだいね。あまり酷いと私も庇いきれないわ」
「ごめんなさいです」
end.
++++
宇部Pの後をついて歩いている雛鳥のマリンである。この時点で誰の世話になるか決めてるのも何気に凄い話である
前々から思ってたけど、スガPとカンDを同時に登場させるとまあめんどい……特に宇部Pとか朝霞Pとか、漢字の雰囲気のまま呼ぶキャラと一緒だと。
班員の不始末は班長の責任、かあ。星ヶ丘の部活もなかなか面倒なしきたりが残っているようです。それでは班長の不始末は…?
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「宇部さん、あれは何をやっているですか?」
「あれは
ゴールデンウィークの連休だとかそんなことは関係なく、星ヶ丘大学放送部はステージに向けた準備に追われていた。私、浦和茉莉奈は部の監査を務めている宇部さんのお世話になるべく、班に見習いとして入れてもらっている。
監査として部の仕事でも忙しいのに、プロデューサーとして班のステージにもしっかりと目を向けている。そんな宇部さんがキリッとしててカッコよくて。大学に入って初めて見つけた本当の憧れ。
「菅野班はステージにライブ音楽を盛り込むスタイルなのよ」
「へー、そうなんだです」
宇部さんの後をついて歩いていると、楽器を使った賑やかな音がしていたから何かなーと思って。放送部にはいろんな班がある。班ごとのカラーもいろいろ。今紹介された菅野班は音楽が強みの班だそうだ。
「祭り囃ではないけれど、楽しい場所には楽しい音が少なからずあると思うわ」
「ぴーひゃらぱっぱって感じです?」
「それも間違いではないわね。特に、丸の池公園のステージは実際にアマチュアバンドがライブをやっていたりするから、音楽を用いて人を集めるというのは悪い戦法ではないと私は思うわ」
すると、菅野班の人がこっちに気付いたのか顔を上げる。えっと、スネアドラムっていうんだっけ。それを叩いていた背の高い眼鏡の人が。
「宇部、どうした。見回りか?」
「ええ。班の進捗を確かめているの。何か困ったことはないかしら。あれば出来る範囲で対処するわ」
「今は大丈夫かな」
「そう。ならいいの」
「後ろにいるのは? 監査が目をかけてるってことは期待の新人ってトコか」
「プロデューサー候補生として宇部班で預かることになった1年生よ。浦和さんというの」
「浦和茉莉奈です。期待の新人になれるよう頑張りますです」
「菅野班班長、放送部書記でプロデューサーの
「菅野は奥でキーボードを弾いている
奥に目をやると、鍵盤の上を踊るように指が動いている。パーマがかかってゆるくうねる茶髪に、くりっとした目のしょうゆ顔。菅野さんと比べると背はちっさい。カレッジセーターの上にループタイが揺れている。
「おーいスガー! 何やってんだー!」
「もうちょい待っててくれ」
「待てるか!」
待てるかという声と同時にこっちに駆けてきたかと思えば、菅野さんめがけたラリアット。身長差が結構あるからちゃんとかかってる感じはないけど。
「あっ、宇部か」
「
「いやー、見た目より削れてる、スガはムチャ振りばっかしてくるし。まあ、やるけど」
「ああ、浦和さん。これが菅野班ディレクターの
「
「自分もチビのクセして人にちびっ子言うなですよ! こう見えて宇部班の見習いプロデューサーですよ!」
「ンだと! 誰がチビだ!」
「お前ですよ!」
「こら、浦和さん。先輩にお前はないでしょう」
「カン、お前も初対面の子に何を言うんだ」
腹立つ~! 初対面なのに失礼な男! 確かに私だって大きくはないですよ! でも、明らかに170ないだろうお前が言うなって感じですよコロスですよ! まあ、ここは宇部さんの顔を汚すわけにも行きませんから引きますけど!
菅野さんがカンがごめんねって謝ってくれてるけど、お前は自分が謝る前にナニ菅野さんに謝らせてんだって感じですよ! あーもうこのなんちゃってD、絶対許さない。まあ? 今後喋ることもないだろうけどですよ!
「
「いや。宇部、こっちも悪かった」
「スガ、お前が謝ることじゃねーだろ」
「そうですよ、宇部さんが謝ることじゃないですよ何も悪くないのに」
すると、宇部さんと菅野さんの声が揃う。「班員の不始末は班長の責任」と。それぞれの班長にひと睨みされると、当事者たちはたじたじになるしかない。そして渋々目の前に相手に頭を下げる。ごめんなさーいと。
そしてまた次の班の様子を見に行くのにその場を離れると、背中の方からは楽しそうな音楽が鳴り始める。ピアノは本当に上手いんだろうけど、弾いてるのがアイツだと思うとやっぱ腹立つ。
「浦和さん、不機嫌そうね」
「カンノが腹立つですよ」
「
「ごめんなさいです」
end.
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宇部Pの後をついて歩いている雛鳥のマリンである。この時点で誰の世話になるか決めてるのも何気に凄い話である
前々から思ってたけど、スガPとカンDを同時に登場させるとまあめんどい……特に宇部Pとか朝霞Pとか、漢字の雰囲気のまま呼ぶキャラと一緒だと。
班員の不始末は班長の責任、かあ。星ヶ丘の部活もなかなか面倒なしきたりが残っているようです。それでは班長の不始末は…?
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