2024
■More than vague justice
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「あー、ゴミ箱そこにあんのにペットボトルポイ捨てすんなよー」
そう言って希くんは、捨てられていたペットボトルを拾い上げて、ゴミ箱に入れています。希くんはまっすぐな性格ではありますが、ゴミのポイ捨てにも厳しいのだなと、新たな一面を見たような気がします。
大学の講義棟からサークル棟までは徒歩15分かかります。それもまあまあな上り坂で、徒歩の場合は山の中に山道のように整備された通路を行くことになります。細い丸太のような木材で枠組みされた階段が作られているのですが、本当に山の中を行くのです。
雨が降ったりすると、水が激しく流れ込んできます。流されてきた落ち葉やゴミに水がせき止められ、流れが変わって通路が水浸しになるということも珍しくありません。ゴミを路上にポイ捨てする人は、やはり一定数はいてしまうのだなあと感じていたのですが。
「かっすーはエラいなあ。ポイ捨てすんなよとは思ってもなかなか拾って捨てるトコまではいかねーよ」
「その通りです」
「や、授業でマイクロプラスチックの話やったばっかだったから意識にあったってだけで、普段はそうでもない」
「へー、環境ってそういう授業もあんのな。って環境だもんな、当たり前か」
希くんは環境科学部に在籍しています。プログラムなども扱うそうですが、やはり履修科目には環境を題材にした物が多いとのことです。MMPではOBの圭斗先輩が環境科学部だったそうで、大学のパンフレットに圭斗先輩のインタビューが載っているので見ておくようにとは野坂先輩から言いつけられています。
「マイクロプラスチック? って、確かペットボトルの水とか流氷からも検出されたとかでちょっと前にわーわー言ってたよな」
「最近ちょっと騒ぎがちなんだよな。ほら、プラスチックって自然の物ではないし大体は自然に分解もされないから」
「石油製品と言うのが適しているのでしょうか」
「ジャンルで言えばそうなんのかなあ」
「プラスチックを海の生物が飲み込んで、体内凝縮された物が最終的には人間に、という話ですよね確か」
「そーそー。そんでプラスチック全般が社会の敵! みたいになってストローが紙になったりしてな」
「紙ストローマジで馴染めない。会議とか長引いたらふにゃふにゃになるし」
「そーゆーヤツは金属ストローとかシリコンストローを買いなさいよっつー商業チャンスにもなるワケだ」
自然や環境に優しい暮らし方は出来るに越したことはないのですが、やろうと思ってすぐに出来ることでもないような気がします。無理のない範囲で環境に配慮した生活が出来ればと改めて思います。手近なところでは、ゴミの分別を正しく行うなどでしょうか。
環境への配慮という点で、家畜の育成にも厳しい目が向けられているという話も聞いたことがあるようなないような。とは言えお肉は美味しいので、食べるのはやめられません。昆虫食にはまだ挑戦したことはありませんが、コオロギは甲殻類に近い味がして美味しいそうです。
「そう、そんでさ、今日の授業で聞いたんだけど、マイクロプラスチックが地中深くの遺跡だとか、発掘物を汚染してたって話もあるんだよ。何か、遺跡とかで発掘した物って、元あった場所に戻して保管することもあるらしいんだけど、マイクロプラスチックに汚染されるケースも出てきたことで保存方法がまた変わるかもとか、歴史的遺物の価値が下がったり、研究データが正しく取れなくなるかもーみたいなあーだこーだ? ゴメン、あんま詳しくないからあやふやだけど」
「プラスチックはともかく遺跡云々の話はガチ勢の顔が浮かんでるしなあ、俺も春風も。聞きたくなったらそっちに聞くわ」
「そうですね。ただ、話を聞こうとするとそれなりの時間がかかることは覚悟した方がいいかと」
「うん。俺も授業聞きながら、こんな話すがやんはとっくの昔に知ってるんだろうなーって思ってた」
やはり、遺跡や発掘と言えば考古学専攻の徹平くんの顔が浮かびます。希くんが今聞かせてくれたような話も、もちろん知識だけではなく当事者としての問題意識などを持っているのではないかと思いますが、彼にこの話を聞こうとすると恐らく長くなりますね。
「すがやんで思い出したけどさ、すがやんがこっちに留学して来てた頃、環境の授業で聞いた何万年前の氷から出てきた空気の話とかチラッとしたんだけど、それにすげー食いついて来てて」
「実際好きそうな話ではありますよ、何万年前の氷ですし」
「まあ、環境っつーのも大きな枠で見りゃ地球の変化の一端みたいなモンだし、アイツみたいな連中にはたまんねーんじゃねーのか?」
「そっかー、そうなんだなー。今度定例会で遺跡のマイクロプラスチックの話、長くなるの覚悟で聞いてみるかあ」
「希くん、徹平くんは普通の人にはあまり専門的な話を突っ込んで行くべきでないと理解していますし、手短にと前置きをすればそのように調整してくれるかと」
「鳥ちゃんを信じます」
「でもさ、ワンチャンな? テストとかレポートとかでちょうど遺跡とマイクロプラスチックについての問題が取り上げられるとするだろ? 考古学ガチ勢の話を聞いとくってのは成績を上げるデカいチャンスだよなァかっすー」
「なるほどなー! 悩む~!」
「奏多、いい加減な事を言わないの」
「考古学と環境学の意見交換で知見を深めると解釈してもらいたいね。逆にかっすーの話がすがやんにとってのブレークスルーのきっかけになるかもしんねーんだ」
確かに、別分野の話を聞いて知見を深めると言えば聞こえはいいのだけど。奏多が言うとどうも胡散臭く聞こえてしまうと言うか。
「でも、マイクロプラスチックの話は確かに気になってきましたね。私も長く美味しいお魚を食べ続けたいですから」
「出た出た、春風の食い意地が」
「綺麗事とか曖昧な正義よりも、そういう動機の方がちゃんと気をつけようってなると思うけどなー。あー、そんな話してたら寿司食べたくなってきたなー」
「いいですね。回転寿司など」
「行きたいなー」
end.
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遺跡を汚染云々の記事の見出しを見て、カノやんの顔が浮かんだため。
(phase3)
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「あー、ゴミ箱そこにあんのにペットボトルポイ捨てすんなよー」
そう言って希くんは、捨てられていたペットボトルを拾い上げて、ゴミ箱に入れています。希くんはまっすぐな性格ではありますが、ゴミのポイ捨てにも厳しいのだなと、新たな一面を見たような気がします。
大学の講義棟からサークル棟までは徒歩15分かかります。それもまあまあな上り坂で、徒歩の場合は山の中に山道のように整備された通路を行くことになります。細い丸太のような木材で枠組みされた階段が作られているのですが、本当に山の中を行くのです。
雨が降ったりすると、水が激しく流れ込んできます。流されてきた落ち葉やゴミに水がせき止められ、流れが変わって通路が水浸しになるということも珍しくありません。ゴミを路上にポイ捨てする人は、やはり一定数はいてしまうのだなあと感じていたのですが。
「かっすーはエラいなあ。ポイ捨てすんなよとは思ってもなかなか拾って捨てるトコまではいかねーよ」
「その通りです」
「や、授業でマイクロプラスチックの話やったばっかだったから意識にあったってだけで、普段はそうでもない」
「へー、環境ってそういう授業もあんのな。って環境だもんな、当たり前か」
希くんは環境科学部に在籍しています。プログラムなども扱うそうですが、やはり履修科目には環境を題材にした物が多いとのことです。MMPではOBの圭斗先輩が環境科学部だったそうで、大学のパンフレットに圭斗先輩のインタビューが載っているので見ておくようにとは野坂先輩から言いつけられています。
「マイクロプラスチック? って、確かペットボトルの水とか流氷からも検出されたとかでちょっと前にわーわー言ってたよな」
「最近ちょっと騒ぎがちなんだよな。ほら、プラスチックって自然の物ではないし大体は自然に分解もされないから」
「石油製品と言うのが適しているのでしょうか」
「ジャンルで言えばそうなんのかなあ」
「プラスチックを海の生物が飲み込んで、体内凝縮された物が最終的には人間に、という話ですよね確か」
「そーそー。そんでプラスチック全般が社会の敵! みたいになってストローが紙になったりしてな」
「紙ストローマジで馴染めない。会議とか長引いたらふにゃふにゃになるし」
「そーゆーヤツは金属ストローとかシリコンストローを買いなさいよっつー商業チャンスにもなるワケだ」
自然や環境に優しい暮らし方は出来るに越したことはないのですが、やろうと思ってすぐに出来ることでもないような気がします。無理のない範囲で環境に配慮した生活が出来ればと改めて思います。手近なところでは、ゴミの分別を正しく行うなどでしょうか。
環境への配慮という点で、家畜の育成にも厳しい目が向けられているという話も聞いたことがあるようなないような。とは言えお肉は美味しいので、食べるのはやめられません。昆虫食にはまだ挑戦したことはありませんが、コオロギは甲殻類に近い味がして美味しいそうです。
「そう、そんでさ、今日の授業で聞いたんだけど、マイクロプラスチックが地中深くの遺跡だとか、発掘物を汚染してたって話もあるんだよ。何か、遺跡とかで発掘した物って、元あった場所に戻して保管することもあるらしいんだけど、マイクロプラスチックに汚染されるケースも出てきたことで保存方法がまた変わるかもとか、歴史的遺物の価値が下がったり、研究データが正しく取れなくなるかもーみたいなあーだこーだ? ゴメン、あんま詳しくないからあやふやだけど」
「プラスチックはともかく遺跡云々の話はガチ勢の顔が浮かんでるしなあ、俺も春風も。聞きたくなったらそっちに聞くわ」
「そうですね。ただ、話を聞こうとするとそれなりの時間がかかることは覚悟した方がいいかと」
「うん。俺も授業聞きながら、こんな話すがやんはとっくの昔に知ってるんだろうなーって思ってた」
やはり、遺跡や発掘と言えば考古学専攻の徹平くんの顔が浮かびます。希くんが今聞かせてくれたような話も、もちろん知識だけではなく当事者としての問題意識などを持っているのではないかと思いますが、彼にこの話を聞こうとすると恐らく長くなりますね。
「すがやんで思い出したけどさ、すがやんがこっちに留学して来てた頃、環境の授業で聞いた何万年前の氷から出てきた空気の話とかチラッとしたんだけど、それにすげー食いついて来てて」
「実際好きそうな話ではありますよ、何万年前の氷ですし」
「まあ、環境っつーのも大きな枠で見りゃ地球の変化の一端みたいなモンだし、アイツみたいな連中にはたまんねーんじゃねーのか?」
「そっかー、そうなんだなー。今度定例会で遺跡のマイクロプラスチックの話、長くなるの覚悟で聞いてみるかあ」
「希くん、徹平くんは普通の人にはあまり専門的な話を突っ込んで行くべきでないと理解していますし、手短にと前置きをすればそのように調整してくれるかと」
「鳥ちゃんを信じます」
「でもさ、ワンチャンな? テストとかレポートとかでちょうど遺跡とマイクロプラスチックについての問題が取り上げられるとするだろ? 考古学ガチ勢の話を聞いとくってのは成績を上げるデカいチャンスだよなァかっすー」
「なるほどなー! 悩む~!」
「奏多、いい加減な事を言わないの」
「考古学と環境学の意見交換で知見を深めると解釈してもらいたいね。逆にかっすーの話がすがやんにとってのブレークスルーのきっかけになるかもしんねーんだ」
確かに、別分野の話を聞いて知見を深めると言えば聞こえはいいのだけど。奏多が言うとどうも胡散臭く聞こえてしまうと言うか。
「でも、マイクロプラスチックの話は確かに気になってきましたね。私も長く美味しいお魚を食べ続けたいですから」
「出た出た、春風の食い意地が」
「綺麗事とか曖昧な正義よりも、そういう動機の方がちゃんと気をつけようってなると思うけどなー。あー、そんな話してたら寿司食べたくなってきたなー」
「いいですね。回転寿司など」
「行きたいなー」
end.
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遺跡を汚染云々の記事の見出しを見て、カノやんの顔が浮かんだため。
(phase3)
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