2024
■後進育成の方法
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「それじゃあ今日はここまで。くれぐれも、来週までにテキストを用意するように」
木曜3限、2年生のゼミが終わり、入れ替わりで始まるのは3年生のゼミだ。佐藤ゼミにはMBCCの後輩たちも何人かが入っていて、その関係もあっていろいろ話を聞かれることも多かったけど、本格的な勉強が始まってくると先輩は用済みだろう。
俺は4年生になり、いよいよ本格的に卒論に取りかかっていくことになる。単位も少し足りないので、その辺のやりくりもしつつ。4年生のゼミは火曜4限だから、今日は完全に自分の作業をやっている感じ。いつもなら授業がBGMだと眠くなるけど、ヘッドホンをしているので問題なし。
「あっ、ササ先輩」
「おはようちむりー」
「ササ先輩に聞きたいことがあって~」
「どうした? 俺でよければ聞くよ」
ちむりーは学科指折りの優等生らしく、面談シーズンの頃には先生がすごく興奮していたのをよく覚えている。担当学生が優秀だと教授の手柄になるんだろうとは果林先輩談。特筆する趣味が無いにも関わらず、MBCCのミキサーという特権が無くても余裕で採用されるレベルだから凄い。
一方、元祖MBCC発優等生のササは相変わらずの優秀っぷり。この間の卒論発表合宿でも質疑応答がキレッキレだったので、果林先輩は「自分の時に当てるな」と思っていたそうだ。MBCC的にはササが果林先輩を怒らせてまた軍曹式アナウンサートレーニングをしてくれれば良かったのに。
「来週までにテキストを用意することになってるんですけど~」
「2年生のテキストだったら『幻影の時代』?」
「そうです~」
「その他にも、社会学を勉強しようと思ったら、どんな本を読めばいいんだろう~って思って」
「社会学と一言で言っても本当にいろいろあるからなあ」
「それで困ってるんです~」
……とまあ、そんな2人なので学業の話になると完全にこっちが置いてけぼりになりますよねー。如何せん俺は超実技特化型の人間なので、今更先生も俺の学業云々には期待してないでしょう。卒論を書くので手一杯だよね。お前は遅筆だからさっさと始めろとは各方面から言われてます。
「高木先輩」
「あ、シノ。おはよう」
「ササとちむりーの会話が異次元過ぎて逃げてきました。先輩は作品制作か何かっすか?」
「俺は卒論だね。遅筆だからちまちまやってるよ」
「卒論すかー。何か俺も焦るっす」
「でも、シノは今のところ研究テーマが一貫してるでしょ? だったら積み上げ出来てるわけだしそこまで焦ることなくない?」
「や、テストとかテーマが全員統一されてるレポートならともかく、個人研究は個人研究なんで、自分で何とかしないといけないじゃないすか。ササを頼れない分、自力で何とかしねーとって」
「言って2年生の時から割とずっとシノは「自分で何とかしないと」って思って、そのように頑張ってるでしょ? 問題ないと思うけどねえ」
「何だかんだ俺のコト見てくれてんのって高木先輩っすよね、あざっす。勉強はそのように頑張ります」
「ミキサーとしては?」
「倍以上やります」
「勉強の倍で足りるかな」
俺と同じタイプとしてゼミに特例で入れてもらっているシノだけど、何だかんだ勉強もちゃんと頑張っているので最近では先生に「シノキ君も頑張ってるのにねえ!」と嫌味を言われるようになった。とは言えそんなお小言を気にする俺じゃないので、自分のスタンスは変わらず。
先生は大学の行事の目立つところで佐藤ゼミの威厳を見せつけたいので、ラジオブースで機材をしっかり扱うことが出来れば俺の役割は果たされると考えている。現状このゼミで機材に一番強いのは多分俺だし、そっちの勉強と練習はサークルを引退した今でも欠かしていない。
「ああ、そうだ。社会学の名著をざっと紹介してる本と、大学4年間の社会学をざっと学べるっていう本があるよ。それ、貸してあげるからじっくり読んで、どういうことを学びたいのか考えたらいいよ。で、本当に読みたい本を選んだらいいと思う」
「本当ですか~? ありがとうございます~」
「明日のサークルの時でいい?」
「はい。よろしくお願いします~」
社会学の名著をざっと紹介してる本だとか、大学4年間の社会学をざっと学べる本って何だよ。で、何でササは当たり前のようにそういう本を持ってるんだよ。多分俺とシノはそういう顔をしてたんだろうね。こっちに先生が近付いてくる。嫌な予感しかしない。
「君たちぃ」
「じゃ、俺は作業に戻りまーす」
「高木君、勉強の話を察知して逃げるんじゃないよ」
「先生、もう4限始まりますよ」
「追い返そうとしない。シノキ君は最近ちょっと良くなってるとは言え、それでもまだ下の上から中の下なんだから、君も千村君と一緒に佐々木君から社会学のいろはを教わりなさい」
「うへー」
「でだよ、高木君」
「今更俺は良くないですか?」
「君の問題点は学業全般と生活習慣、それから、機材を扱う技術が突出し過ぎて機材を触りたいと思っている一般の子たちが諦めてしまうこと」
「最初の2つはともかく最後のは俺の所為じゃないですよ」
「君も4年生になったんだし、サークルだけじゃなくてゼミの後進育成も頼むよ」
「それをやったら演習や卒論の成績に加味されますかね」
「卒論には加味しないけど演習にはちょーっとだけ、色を付けてあげることも吝かじゃないねえ」
「眉唾な話にも聞こえますけど」
「自分で振ったんじゃないの君が。ああそう、ボーナスが要らないんならそれでいいけどねえ。せっかく佐藤ゼミ一の問題児に救済策を提示してあげたのに」
「えっ、俺ってそこまでの問題児なんです? ゼミの行事にしっかり出てミキサーとしてあれだけ働いてるのに!?」
「佐藤ゼミの本分は学業! どれだけ言えば理解するんだね君は」
「わかってて聞いてまーす」
「私も今更君の学業には期待してないよ。私の担当している実技系科目のS評価がなかったら地獄絵図だよ地獄絵図。それより君の持ってるミキサーの技術を下の子たちに継承しなさい。いいね」
「まあ、聞きに来てもらえば教えはしますけど」
「そういうことだからシノキ君、このロクでもない先輩にしっかりとしがみつきなさい。千村君と百崎君も引き連れてね」
「はーい」
「じゃ、3年生の授業を始めるよ。シノキ君も席について」
俺は軍曹と呼ばれるほど激しいトレーニングは出来ないけど、ミキサーとしては自分もまだまだ現役のつもりだから下の子たちに負けるつもりはない。聞きに来てもらえる分には教えることも出来るけどね。来てくれればの話だけど。
って言うか先生が俺の学業には期待してないって言ったんだし、これからもずっと機材に触ってても誰にも何も言われないってことだよね、やったあ。何なら機材の扱いを極め続けることが俺の仕事と言っても過言じゃないからね。機材で成績に色が付きますように。
end.
++++
フェーズ3がベース扱いになり、所謂+1年の時間軸。TKGパイセンもとうとう4年生だけど相変わらず。
ササとちむりーの優等生コンビが学業についての話をしてるのをやりたかったが、やはりこうなる
(phase4)
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「それじゃあ今日はここまで。くれぐれも、来週までにテキストを用意するように」
木曜3限、2年生のゼミが終わり、入れ替わりで始まるのは3年生のゼミだ。佐藤ゼミにはMBCCの後輩たちも何人かが入っていて、その関係もあっていろいろ話を聞かれることも多かったけど、本格的な勉強が始まってくると先輩は用済みだろう。
俺は4年生になり、いよいよ本格的に卒論に取りかかっていくことになる。単位も少し足りないので、その辺のやりくりもしつつ。4年生のゼミは火曜4限だから、今日は完全に自分の作業をやっている感じ。いつもなら授業がBGMだと眠くなるけど、ヘッドホンをしているので問題なし。
「あっ、ササ先輩」
「おはようちむりー」
「ササ先輩に聞きたいことがあって~」
「どうした? 俺でよければ聞くよ」
ちむりーは学科指折りの優等生らしく、面談シーズンの頃には先生がすごく興奮していたのをよく覚えている。担当学生が優秀だと教授の手柄になるんだろうとは果林先輩談。特筆する趣味が無いにも関わらず、MBCCのミキサーという特権が無くても余裕で採用されるレベルだから凄い。
一方、元祖MBCC発優等生のササは相変わらずの優秀っぷり。この間の卒論発表合宿でも質疑応答がキレッキレだったので、果林先輩は「自分の時に当てるな」と思っていたそうだ。MBCC的にはササが果林先輩を怒らせてまた軍曹式アナウンサートレーニングをしてくれれば良かったのに。
「来週までにテキストを用意することになってるんですけど~」
「2年生のテキストだったら『幻影の時代』?」
「そうです~」
「その他にも、社会学を勉強しようと思ったら、どんな本を読めばいいんだろう~って思って」
「社会学と一言で言っても本当にいろいろあるからなあ」
「それで困ってるんです~」
……とまあ、そんな2人なので学業の話になると完全にこっちが置いてけぼりになりますよねー。如何せん俺は超実技特化型の人間なので、今更先生も俺の学業云々には期待してないでしょう。卒論を書くので手一杯だよね。お前は遅筆だからさっさと始めろとは各方面から言われてます。
「高木先輩」
「あ、シノ。おはよう」
「ササとちむりーの会話が異次元過ぎて逃げてきました。先輩は作品制作か何かっすか?」
「俺は卒論だね。遅筆だからちまちまやってるよ」
「卒論すかー。何か俺も焦るっす」
「でも、シノは今のところ研究テーマが一貫してるでしょ? だったら積み上げ出来てるわけだしそこまで焦ることなくない?」
「や、テストとかテーマが全員統一されてるレポートならともかく、個人研究は個人研究なんで、自分で何とかしないといけないじゃないすか。ササを頼れない分、自力で何とかしねーとって」
「言って2年生の時から割とずっとシノは「自分で何とかしないと」って思って、そのように頑張ってるでしょ? 問題ないと思うけどねえ」
「何だかんだ俺のコト見てくれてんのって高木先輩っすよね、あざっす。勉強はそのように頑張ります」
「ミキサーとしては?」
「倍以上やります」
「勉強の倍で足りるかな」
俺と同じタイプとしてゼミに特例で入れてもらっているシノだけど、何だかんだ勉強もちゃんと頑張っているので最近では先生に「シノキ君も頑張ってるのにねえ!」と嫌味を言われるようになった。とは言えそんなお小言を気にする俺じゃないので、自分のスタンスは変わらず。
先生は大学の行事の目立つところで佐藤ゼミの威厳を見せつけたいので、ラジオブースで機材をしっかり扱うことが出来れば俺の役割は果たされると考えている。現状このゼミで機材に一番強いのは多分俺だし、そっちの勉強と練習はサークルを引退した今でも欠かしていない。
「ああ、そうだ。社会学の名著をざっと紹介してる本と、大学4年間の社会学をざっと学べるっていう本があるよ。それ、貸してあげるからじっくり読んで、どういうことを学びたいのか考えたらいいよ。で、本当に読みたい本を選んだらいいと思う」
「本当ですか~? ありがとうございます~」
「明日のサークルの時でいい?」
「はい。よろしくお願いします~」
社会学の名著をざっと紹介してる本だとか、大学4年間の社会学をざっと学べる本って何だよ。で、何でササは当たり前のようにそういう本を持ってるんだよ。多分俺とシノはそういう顔をしてたんだろうね。こっちに先生が近付いてくる。嫌な予感しかしない。
「君たちぃ」
「じゃ、俺は作業に戻りまーす」
「高木君、勉強の話を察知して逃げるんじゃないよ」
「先生、もう4限始まりますよ」
「追い返そうとしない。シノキ君は最近ちょっと良くなってるとは言え、それでもまだ下の上から中の下なんだから、君も千村君と一緒に佐々木君から社会学のいろはを教わりなさい」
「うへー」
「でだよ、高木君」
「今更俺は良くないですか?」
「君の問題点は学業全般と生活習慣、それから、機材を扱う技術が突出し過ぎて機材を触りたいと思っている一般の子たちが諦めてしまうこと」
「最初の2つはともかく最後のは俺の所為じゃないですよ」
「君も4年生になったんだし、サークルだけじゃなくてゼミの後進育成も頼むよ」
「それをやったら演習や卒論の成績に加味されますかね」
「卒論には加味しないけど演習にはちょーっとだけ、色を付けてあげることも吝かじゃないねえ」
「眉唾な話にも聞こえますけど」
「自分で振ったんじゃないの君が。ああそう、ボーナスが要らないんならそれでいいけどねえ。せっかく佐藤ゼミ一の問題児に救済策を提示してあげたのに」
「えっ、俺ってそこまでの問題児なんです? ゼミの行事にしっかり出てミキサーとしてあれだけ働いてるのに!?」
「佐藤ゼミの本分は学業! どれだけ言えば理解するんだね君は」
「わかってて聞いてまーす」
「私も今更君の学業には期待してないよ。私の担当している実技系科目のS評価がなかったら地獄絵図だよ地獄絵図。それより君の持ってるミキサーの技術を下の子たちに継承しなさい。いいね」
「まあ、聞きに来てもらえば教えはしますけど」
「そういうことだからシノキ君、このロクでもない先輩にしっかりとしがみつきなさい。千村君と百崎君も引き連れてね」
「はーい」
「じゃ、3年生の授業を始めるよ。シノキ君も席について」
俺は軍曹と呼ばれるほど激しいトレーニングは出来ないけど、ミキサーとしては自分もまだまだ現役のつもりだから下の子たちに負けるつもりはない。聞きに来てもらえる分には教えることも出来るけどね。来てくれればの話だけど。
って言うか先生が俺の学業には期待してないって言ったんだし、これからもずっと機材に触ってても誰にも何も言われないってことだよね、やったあ。何なら機材の扱いを極め続けることが俺の仕事と言っても過言じゃないからね。機材で成績に色が付きますように。
end.
++++
フェーズ3がベース扱いになり、所謂+1年の時間軸。TKGパイセンもとうとう4年生だけど相変わらず。
ササとちむりーの優等生コンビが学業についての話をしてるのをやりたかったが、やはりこうなる
(phase4)
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