2024

■背から覗く力関係

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「それじゃあ、ファンフェスの班を決めていこっかー」

 今日の定例会の議題は、ファンフェスの班決め。
 毎年5月第2くらいの土日に花栄の中心にある公園でファンタジックフェスタというイベントがあって、向島インターフェイス放送委員会でもここにラジオDJブースを出展することになっている。インターフェイスで一般の人に向けて番組をやる重要な機会だ。
 ファンフェスの班は大体アナウンサー2人とミキサーが1人か2人で編成されることが多くて、ラジオへの慣れだとかそもそもの実力、それから人間関係なんかを見ながら組んでいくんだけど、いろいろ破綻しないように決めるのが大変なんだそうだ。

「一応今日までに参加しますって言ってくれた人の名札を用意してるから、これを動かしながら考えようか」

 そう言って定例会議長のミドリ先輩がホワイトボードの上に広げたのはみんなの名前が書かれた名札。よく見ると4色くらいに色分けされていて、学年やパートで区別されているらしい。無条件で班長になる定例会の3年生を先頭に、あとはどうしようねと考えていく。

「映像チームを差し引いてこの人数だったら8班編成くらいになるのかな」
「8だったら班長の人数がまず足りないね、定例会は7人だし」
「対策委員経験者とかから誰か頼めない?」
「定例会のパワーバランス的にミキサーの子に頼めればいいんだろうけど、タカティはミソラの班に入ることになってるから頼めないしなあ」
「うちは定例会兼務だからこっちカウントだし」
「この際班長のパートは関係なく頼むですよ。緑ヶ丘ですしエージなんかどうです?」
「いいんじゃない? エージにはハナから連絡入れとくよ」
「お願いしまーす」

 班編成とは言うけど実際名札を動かすのは3年生の先輩たちで、俺たち2年は後ろでそれを見ているだけだ。まあ、それはそれで楽しいから見ていられるんだけど。先輩たちがどういうことを考えているのかや、俺たちの知らないインターフェイスの裏話なんかも聞けそうだ。

「たまにミキサーが1人の班が出来そうだけど、さすがにそういうところは3年生の子に頼んだ方がいいよねえ」
「それでいいと思うよッ、うちは覚悟出来てるし」
「さすが奈々、機材王国の看板を1人で背負っただけありますですよ」
「あっでもねえミキサーが1人になるところにはさすがにラジオ慣れしたアナウンサーを1人は入れてもらえると助かるかな~って気はしてる」
「1人ミキサーをお願いするのは奈々を含めて4人なのかな。そもそも3年生のミキサーが4人しかいないから全員なんだね。あやめ、普段ラジオやってないけど大丈夫?」
「んー、普通の構成でやるんなら何とかなるんじゃない? ああいうのじゃなければ」

 ああいうの。普通に対するああいうの、というのはウチの高木先輩が得意とする基本形をぶっ壊した独特の構成のことを言うんだろう。インターフェイス的な“普通”の構成であればラジオ慣れしていない大学の人でも練習すれば対応出来るけど、高木先輩式になると……。
 だけど、今回はインターフェイス復帰となる桜貝大学のミソラ先輩が「普通とはちょっと違う構成でやりたい」と希望を出して高木先輩を持って行ったという事情がある。普通ではない番組が1つは出来るので、みんなちょっと身構えているような感じだ。

「とりあえず、単独ミキサーのところには緑ヶ丘の2年生を突っ込んでおけばどうにかなるっていう風潮があるよね? そういうことだからすがやん、よろしくね」
「えっ!? あ、そーなってくるんすか」
「すがやん、言って去年の夏合宿でもウチの子はそういう役割だったでしょ」
「まさか2年になっても適用されるとは思ってなかったっす」
「ラジオの活動なんだから油断大敵。しょぼんだよ」
「すんません」

 ――というワケで、俺はゲンゴロー先輩がミキサーを勤めることになるユキ先輩の班に配置されることになった。ゲンゴロー先輩ってどういう感じの人なんだろうか。インターフェイスでのイメージだと、のんびりほわほわっていう感じだけど。

「ゲンゴロー、単独ミキになったことにまた騒がないよね? マリン、大丈夫そう?」
「大丈夫ですよミドリ、捻じ伏せますです」
「ハナ先輩、ゲンゴロー先輩って接し方を気をつけなきゃいけないタイプの人なんすか?」
「ああ、違う違う。去年の夏合宿の班決めで「自分はラジオに不慣れな星ヶ丘枠だから」的なことを言ってたらしいんだよ。班編成の序盤でラジオに強い人が2人入った班は不慣れな子を引き取ってくれーって件になったときにね」
「そうそう、円卓でそういう話になったんだよね」

 去年の夏、ゲンゴロー先輩が率いる班にハナ先輩とサキの2人が組み込まれ、緑ヶ丘が2人いるなら次は青敬とかの慣れてない子を、と振られた時の答えがそれだったらしい。これに男子会メンバーは大ブーイング。高木先輩も怒ってたそうだから、相当だったんだろう。
 そもそもゲンゴロー先輩は1年生の時から班で英才(スパルタ)教育を受けたそうだし、夏合宿でもなっち先輩と高木先輩が遊んで伝説になった番組を立派にこなしたそうだ。練習量なら部内一。実力も確か。なのに“不慣れ”は甘えだ。……というのが男子会メンバーの言い分らしい。

「確かにラジオは普段やらないですけど戸田班時代は普通にどっちの練習もしてましたし今もしてますし、何なら屋外のライブっていう意味じゃウチが一番強くあるべきなんだからやらせるですよ。部長だろうがステージとのダブルブッキングだろうが出来ますよ、自分がどっちもやりたくて捻じ込んだ枠なんですから責任は取らせるです」
「おおー……」

 マリン先輩の発言には同じ源班の彩人もちょっと驚いていたので、今後星ヶ丘の部での歩き方がちょっと見えた瞬間かもしれない。部長だろうが何だろうが、同じ班で頑張る仲間は対等って感じかな。パッと見マリン先輩の方が強そうだけど(女子の方が強いのは3年生全般に言える)。

「まあ、ゲンゴローの問題発言に関してはちゃんとその夏のうちにバチは当たってるし、不問じゃない? 3年生のミキサーは少ないんだし、きちんと説明すればやってくれるよゲンゴローなら」
「ですね」

 ゲンゴロー先輩に当たったバチってのはきっとあの件なんだろうなあ。同じ班だったサキとエマが見合わせて頷いているところから察する。何ならその年の班長で一番ヒドい目に遭った説まであるしなあ。うん、俺も日頃の発言には気をつけよう。

「すがやん、3年生だけじゃ2年生の人間関係とかまでは網羅できないし、そういう面で破綻がないか、NGがないかは見といてよね。実はめっちゃ仲悪い子を同じ班にしたとかだったらしょぼんだから」
「了解っす」


end.


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ゲンゴローの問題発言に対するマリンの件がやりたかった。
あの時の円卓メンバーのわちゃわちゃが楽しかったのでまたそのうち集めたい。

(phase3)

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