2024
■虎視眈々と生きていく
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私立緑ヶ丘大学も新年度を迎え、学年が上がった俺たちが最初に考えることはサークルの新入生勧誘活動についてだ。ゼミの方で社会学部の新入生ガイダンスにも駆り出されているけど、そっちは流す程度でいい。ゼミの先生がサークルの顧問(名義貸し)なのをいいことに、ガイダンスの資料にサークルのビラを混ぜたり、しれっとポスターを1枚多く掲示したりはしている。
放送サークルMBCCは、第1学食での昼放送を主軸に、ラジオを中心とした放送に関する活動を行っている。他校の人と一緒にやることもあるし、最近では映像作品にも挑戦してみようかという話も進行中。でもこれはちゃんとやるんならもうちょっとしっかり話を詰めないといけないかな。まだまだ構想段階。
「おざーす」
「おはようエイジ。さすがに3年になると授業は少ない感じ?」
「そうだな。そーいや高木、お前佐藤ゼミの方で暗躍してたべ? 手応えはどーよ」
「それはもうしばらくしないとわからないなあ。まあ、見学にはこの1週間でちょこちょこ来てくれたし、この感じで続くといいねえ」
「それな。最低でも抜けてった分くらいは入ってもらってだな」
「向島さんの様子を他人事みたいに見てたけど、いつ自分たちがそうなるかわからないもんね」
入学式から1週間、これまで4人の1年生が見学に来てくれていて、2人がサークルに入ってくれることになった。1人目が社会学部の一ノ瀬凛斗くん、2人目が情報科学部の十河周くん。2人ともアナウンサー志望ということで今はアナウンス部長のエイジが主に面倒を見ている感じだけど、機材部長としてはミキサー志望の子にも来てほしいなあとは。
他校の話として、最近まで同じラジオメインの活動をしている向島大学さんがサークル存亡の危機に陥っていたんだ。3年生と2年生がそれぞれ1人しか残らないって話だったけど、春休みの間に2年生が2人増えて4人でスタートを切ることになった。向島さんは結構存在感のある大学だと思っているけど、そんなところでもそうなっちゃうから、自分たちも油断大敵だ。
「こんちわーす」
そんな風に話していると、この部屋では見たことのない顔がやってくる。背はまあまあ高いけどササまではいかなそうだ。色の付いたメガネは、オシャレなのか目の異常なのかがわからない(MBCCには先天性の目の異常を持った先輩がいた)。まあ、4月にはよくあることで、まずここに来た目的を訊ねるんだ。
「えっと、サークルの見学ですか?」
「そうっすね」
「そしたら、とりあえずそこに座ってもらって。荷物はそっちの棚に置いてもらって大丈夫です」
「はーい」
「ここは放送サークルMBCCです。サークル見学に来てもらった人にはまず簡単な質問をさせてもらってるんだけど大丈夫かな? 名前とか学部とか、簡単なことだけなんだけど」
「あ、大丈夫っすよ。えーと、社会学部メディア文化学科の百崎中、でー」
「ひゃくさき。初めて聞く名前だなあ。どういう字を書くの?」
「フツーに百と、崎っす。山崎とかの、よくあるヤツっす」
「はいはい。百、崎。名前のあたるはどういう字を書くの?」
「大中小の中っす」
「えーと、メディ文ってことは元々こういうラジオみたいなことに興味があるっていう感じなのかな?」
社会学部のメディア文化学科。俺も在籍している学科だけど、ここでは名前の通りメディアについて勉強する科目が多いし、ゼミが大学のセンタービルに構えているガラス張りのラジオブースを前面に押し出している。そんな事情もありありでゆくゆくは佐藤ゼミに入りたいメディ文の子がまずはMBCCを訪れる、という構図がまあ見られる。
「そーゆーワケでもないんすけど、ラジオって少なからず喋るじゃないすか」
「そうだね」
「キャッチーな喋りの技術を身に付けたいなーと思って」
「キャッチーな。それは、人の耳に留まる、っていう意味合いでいいのかな?」
「そーゆー感じになるんすかね? 一言で言えば“刺さる”ワードをぶっ込めるようになりたいんすよ」
「じゃあアナウンサー志望になるのかな」
「やー、でも機材にも興味ないワケじゃないんでそれを見に来たって感じっす」
「そっか。それじゃあゆっくりしていってよ。俺は3年で機材部長の高木隆志っていいます。ちなみに俺もメディ文だよ。で、こっちがアナウンス部長の」
「中津川栄治っていう」
「へー、よろしくでーす」
「お前、キャッチーな喋りの技術を付けたいって言うけど、具体的にそれをどっかで使う予定はあんのか? いや、普通に日常のコミュニケーション能力を高めたいとかでもいいんだけど」
「自分、家が占い稼業なんすよ」
「占い」
思わずエイジと声が揃ってしまったんだけど、家が占い稼業ということは、多分親とか身近な人が占いで生計を立てているということなんだろう。俺はあんまり意識しないけど、テレビや新聞、雑誌なんかにも占いコーナーはあるし、ある意味で日常に深く根付いていると言えるのかもしれない。
「で、自分も将来は占いで飯を食ってくつもりなんすけど、結局占いが何を売ってるのかっつったら言葉なんすよ。他者からの承認だの共感だの、あるいは後押し。そーゆー言葉にインパクトを持たせるための語彙が必要なんす。見る星……ああ、自分がやってんのは占星術なんすけど、見る星はどの占い師も一緒なんで、どう差を付けるかって考えたときの生存戦略ってヤツっす」
「なるほどな。それでMBCCに来たと」
「そーゆーコトっす。占い同好会みたいなところも一瞬覗いたんすけど、あーりゃダメっす。雑誌の占い結果を見て恋バナしてるだけだったんでね」
「まあ、目的もはっきりしてるし、前向きなのがいいね。とりあえず、活動自体はもうちょっと人が来てから本格的に始めるし、しばらくはゆっくりしてて」
「はーい。あっ、機材も教えてもらっていいすか?」
「うん、いいけど、アナウンサー志望だよね? ウチって一応アナウンサーとミキサーの2パートに分かれてて、アナさんが機材に触る機会は少ないけど」
「ワンチャン占い系配信者になった時に機材使えると強いかなって思ったんすけど、うーん、そういう感じだったら自分はミキサー? になろうかな。機材の方が独学でやんの難しそうだし」
何かウチの子としてはクセが強い子が来たなあと思ったけど、将来のことをガッツリ考えた上でサークルを選んでるっていう点では結構真面目なのかもしれない。何にせよ待ち侘びたミキサー志望の子だし、期待に沿えるように教えられるといいんだけど。
end.
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フェーズ3も3年目に入るし、そろそろMBCC側の1年生のキャラも詰めるべき。
(phase3)
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私立緑ヶ丘大学も新年度を迎え、学年が上がった俺たちが最初に考えることはサークルの新入生勧誘活動についてだ。ゼミの方で社会学部の新入生ガイダンスにも駆り出されているけど、そっちは流す程度でいい。ゼミの先生がサークルの顧問(名義貸し)なのをいいことに、ガイダンスの資料にサークルのビラを混ぜたり、しれっとポスターを1枚多く掲示したりはしている。
放送サークルMBCCは、第1学食での昼放送を主軸に、ラジオを中心とした放送に関する活動を行っている。他校の人と一緒にやることもあるし、最近では映像作品にも挑戦してみようかという話も進行中。でもこれはちゃんとやるんならもうちょっとしっかり話を詰めないといけないかな。まだまだ構想段階。
「おざーす」
「おはようエイジ。さすがに3年になると授業は少ない感じ?」
「そうだな。そーいや高木、お前佐藤ゼミの方で暗躍してたべ? 手応えはどーよ」
「それはもうしばらくしないとわからないなあ。まあ、見学にはこの1週間でちょこちょこ来てくれたし、この感じで続くといいねえ」
「それな。最低でも抜けてった分くらいは入ってもらってだな」
「向島さんの様子を他人事みたいに見てたけど、いつ自分たちがそうなるかわからないもんね」
入学式から1週間、これまで4人の1年生が見学に来てくれていて、2人がサークルに入ってくれることになった。1人目が社会学部の一ノ瀬凛斗くん、2人目が情報科学部の十河周くん。2人ともアナウンサー志望ということで今はアナウンス部長のエイジが主に面倒を見ている感じだけど、機材部長としてはミキサー志望の子にも来てほしいなあとは。
他校の話として、最近まで同じラジオメインの活動をしている向島大学さんがサークル存亡の危機に陥っていたんだ。3年生と2年生がそれぞれ1人しか残らないって話だったけど、春休みの間に2年生が2人増えて4人でスタートを切ることになった。向島さんは結構存在感のある大学だと思っているけど、そんなところでもそうなっちゃうから、自分たちも油断大敵だ。
「こんちわーす」
そんな風に話していると、この部屋では見たことのない顔がやってくる。背はまあまあ高いけどササまではいかなそうだ。色の付いたメガネは、オシャレなのか目の異常なのかがわからない(MBCCには先天性の目の異常を持った先輩がいた)。まあ、4月にはよくあることで、まずここに来た目的を訊ねるんだ。
「えっと、サークルの見学ですか?」
「そうっすね」
「そしたら、とりあえずそこに座ってもらって。荷物はそっちの棚に置いてもらって大丈夫です」
「はーい」
「ここは放送サークルMBCCです。サークル見学に来てもらった人にはまず簡単な質問をさせてもらってるんだけど大丈夫かな? 名前とか学部とか、簡単なことだけなんだけど」
「あ、大丈夫っすよ。えーと、社会学部メディア文化学科の百崎中、でー」
「ひゃくさき。初めて聞く名前だなあ。どういう字を書くの?」
「フツーに百と、崎っす。山崎とかの、よくあるヤツっす」
「はいはい。百、崎。名前のあたるはどういう字を書くの?」
「大中小の中っす」
「えーと、メディ文ってことは元々こういうラジオみたいなことに興味があるっていう感じなのかな?」
社会学部のメディア文化学科。俺も在籍している学科だけど、ここでは名前の通りメディアについて勉強する科目が多いし、ゼミが大学のセンタービルに構えているガラス張りのラジオブースを前面に押し出している。そんな事情もありありでゆくゆくは佐藤ゼミに入りたいメディ文の子がまずはMBCCを訪れる、という構図がまあ見られる。
「そーゆーワケでもないんすけど、ラジオって少なからず喋るじゃないすか」
「そうだね」
「キャッチーな喋りの技術を身に付けたいなーと思って」
「キャッチーな。それは、人の耳に留まる、っていう意味合いでいいのかな?」
「そーゆー感じになるんすかね? 一言で言えば“刺さる”ワードをぶっ込めるようになりたいんすよ」
「じゃあアナウンサー志望になるのかな」
「やー、でも機材にも興味ないワケじゃないんでそれを見に来たって感じっす」
「そっか。それじゃあゆっくりしていってよ。俺は3年で機材部長の高木隆志っていいます。ちなみに俺もメディ文だよ。で、こっちがアナウンス部長の」
「中津川栄治っていう」
「へー、よろしくでーす」
「お前、キャッチーな喋りの技術を付けたいって言うけど、具体的にそれをどっかで使う予定はあんのか? いや、普通に日常のコミュニケーション能力を高めたいとかでもいいんだけど」
「自分、家が占い稼業なんすよ」
「占い」
思わずエイジと声が揃ってしまったんだけど、家が占い稼業ということは、多分親とか身近な人が占いで生計を立てているということなんだろう。俺はあんまり意識しないけど、テレビや新聞、雑誌なんかにも占いコーナーはあるし、ある意味で日常に深く根付いていると言えるのかもしれない。
「で、自分も将来は占いで飯を食ってくつもりなんすけど、結局占いが何を売ってるのかっつったら言葉なんすよ。他者からの承認だの共感だの、あるいは後押し。そーゆー言葉にインパクトを持たせるための語彙が必要なんす。見る星……ああ、自分がやってんのは占星術なんすけど、見る星はどの占い師も一緒なんで、どう差を付けるかって考えたときの生存戦略ってヤツっす」
「なるほどな。それでMBCCに来たと」
「そーゆーコトっす。占い同好会みたいなところも一瞬覗いたんすけど、あーりゃダメっす。雑誌の占い結果を見て恋バナしてるだけだったんでね」
「まあ、目的もはっきりしてるし、前向きなのがいいね。とりあえず、活動自体はもうちょっと人が来てから本格的に始めるし、しばらくはゆっくりしてて」
「はーい。あっ、機材も教えてもらっていいすか?」
「うん、いいけど、アナウンサー志望だよね? ウチって一応アナウンサーとミキサーの2パートに分かれてて、アナさんが機材に触る機会は少ないけど」
「ワンチャン占い系配信者になった時に機材使えると強いかなって思ったんすけど、うーん、そういう感じだったら自分はミキサー? になろうかな。機材の方が独学でやんの難しそうだし」
何かウチの子としてはクセが強い子が来たなあと思ったけど、将来のことをガッツリ考えた上でサークルを選んでるっていう点では結構真面目なのかもしれない。何にせよ待ち侘びたミキサー志望の子だし、期待に沿えるように教えられるといいんだけど。
end.
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フェーズ3も3年目に入るし、そろそろMBCC側の1年生のキャラも詰めるべき。
(phase3)
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