2023(02)
■ジンジャー・トレイン
++++
「美弥子さんいらっしゃい」
「ふー、相変わらずの検問と言うか検疫と言うか」
「春ですからね」
「春だからね。覚悟はしてたけど我が弟ながら本当によくやるわ」
誰であろうと家に入る前には玄関で徹底的に花粉を落としてもらって、部屋の中には一切持ち込ませないというのが春の伊東家。空気清浄機もずーっと稼働してるから春は光熱費のために働くんだとは旦那様談。冬の高崎クンみたいなこと言ってるよね。
お義姉さんとなった美弥子さんはちょくちょくうちに遊びにやってくる。花粉症でカズがダウンしがちな春はちょっとした差し入れなんかも持って来てくれて。いろいろ積もる話もありますからね。カズがいないときなんかは普通に女子会だし。
「美弥子さんホワイトデーはいいもの貰いました?」
「もーう、最高でした。って言うかカズさ、行事の度に料理教室やってるような感じじゃん」
「今回はなかなか異様な光景でしたけど、これはこれで面白かったですよ傍から見てる分には」
バレンタインのときには美弥子さんと春風ちゃんがカズに習ってお菓子を作ってたんだけど、ホワイトデーにはその彼氏ズがカズに習ってお返しのお菓子を作りに来てたんですよね。って言うかその日にカズがちゃんと機能しててよかった。サークルの後輩でちょっと知ってるてっちゃんはともかく真宙さん相手に粗相があっちゃ失礼だからね。
「作ってるところはどんな感じだったの?」
「うちが言うのも難ですけど、真宙さんは結構たどたどしい感じでしたねー」
「普段から料理はあまりしないとは言ってたからね」
「それを加味した上でのレシピにしてあったみたいですけどね」
「ホントに我が弟ながらよくやる」
「ですよね。我が旦那ながらよくやりますよ」
「徹平くんと一緒にやってたっていう話だけど」
「てっちゃんは器用だし飲み込みも早いってカズが褒めてましたね。ほら、春風ちゃんが宇宙好きじゃないですか」
「そうだね、かなりガチ勢の」
「だから今回は宇宙をイメージしたお菓子だったんですけど、飾り付けも適当に金箔やアラザンをばら撒くんじゃなくてちゃんと方位や星の大きさを揃えないとって眉間にシワ寄せてました」
「真面目だなー」
でも出来上がったケーキはすっごく綺麗だったからうちもカズも写真を撮らせてもらったよね。もう食べるのがもったいないくらいのアートなんだもん。これがいつ、どこの空を描いたのかっていう話になると難しくなるからそこは敢えて聞かなかったけど。本人たちが分かればいいんですよ。
「あと、ここだけの話をすればうちは真宙さんのクッキーの味見役をやってたんですよ」
「それ、真宙さんのクッキーに限った話じゃなくない? アタシと春風ちゃんのも味見と言いつつつまみ食いしてたよね」
「いやいやいや、美弥子さんほど食に尖った人もそうそういないですからね。そこはちゃんと美弥子さんのことを知ってる弟と後輩が、この程度だったらまだ美弥子さんは満足しないぞと煽りに煽っていくという大事な役割が」
今回真宙さんが挑戦したのはジンジャーシナモンクッキー。薬味狂の美弥子さんに宛てたお菓子なら、やっぱりジンジャー……ショウガをふんだんに使って行くのがいいと思うとはカズからのアドバイス。それにはうちも全力で同意しました。
ただ、一般的なジンジャークッキーのレシピ程度のジンジャーみで美弥子さんが満足するかと言えば……。という問題があったから、どれっくらいまでジンジャーみを強くすればいいかっていうのを見てたんだよね。だから女子の回はつまみ食いだったかもしれないけど男子の回はちゃんとテイスティングという仕事でした!
「あー、だからショウガの風味がガツンと来てたのか。アタシお菓子作り不慣れな真宙さんにしては結構攻めたなと思ってたんだけど、慧梨夏ちゃんが一枚噛んでるなら納得だわ」
「実際味はどうでした?」
「すっごい美味しかった」
「ですよね! うちら2人して「もっと攻めていいもっともっと!」って真宙さん煽りに煽った結果ですよ。まあてっちゃんは使ってる薬味量に引いてたけど」
てっちゃんによれば「春風が「最近兄さんが料理に薬味をよく使うようになったような気がする」って言ってたんですよ」とのこと。思い当たる節しかありませんね。多分順調に洗脳されてる。これは5月にはネギパーティー、それから夏になったら伊東家のそうめん大会にも招待する流れかな?
「美弥子さん、真宙さんとの将来のこととか考えたりします?」
「将来ねえ。ほら、今はまだ付き合い始めでどんなことしてても盛り上がるときだからこのままこの先も、とは思いはするよ。問題はしばらく経ってからそれがどういうテンションになるかじゃない?」
「あー、わかります」
「わかりますって、慧梨夏ちゃん結構最短で行く特急に乗ってった感じじゃん」
「それも否定しませんけど」
「まあ、それはそうとして真宙さんカズとバイクの話とかするの楽しいみたいだし、楽しそうにしてるの見てるとアタシも嬉しいからね。多分これからもちょこちょこ2人のお世話になると思うけど」
「うちらは基本的にいつでも大歓迎なので」
てっちゃんがいないところでの真宙さんの様子とかを見てると、案外美弥子さんは特急通り越して新幹線に乗ってく可能性もあるような気がするんだけどなー。どうだろ。うちのオンナのカン、的なアレなんだけど。
「そう言えば真宙さんて、美弥子さんの彼氏としては珍しく年上ですよね?」
「そーね」
「オトナの魅力的なヤツもバッシバシですか?」
「でも言ってそこまで歳の差あるワケじゃないからね」
「そっかー」
「ホント慧梨夏ちゃんてその手の話好きだよね」
「大好きですよ! って言うか人の話は生きた資料なので!」
end.
++++
人の話を生きた資料にした結果就職したのに同人活動のペースが上がる慧梨夏である
彼氏ズの料理教室の様子もいつか見たい。アラザンの位置をこだわるすがやんなど
(phase3)
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「美弥子さんいらっしゃい」
「ふー、相変わらずの検問と言うか検疫と言うか」
「春ですからね」
「春だからね。覚悟はしてたけど我が弟ながら本当によくやるわ」
誰であろうと家に入る前には玄関で徹底的に花粉を落としてもらって、部屋の中には一切持ち込ませないというのが春の伊東家。空気清浄機もずーっと稼働してるから春は光熱費のために働くんだとは旦那様談。冬の高崎クンみたいなこと言ってるよね。
お義姉さんとなった美弥子さんはちょくちょくうちに遊びにやってくる。花粉症でカズがダウンしがちな春はちょっとした差し入れなんかも持って来てくれて。いろいろ積もる話もありますからね。カズがいないときなんかは普通に女子会だし。
「美弥子さんホワイトデーはいいもの貰いました?」
「もーう、最高でした。って言うかカズさ、行事の度に料理教室やってるような感じじゃん」
「今回はなかなか異様な光景でしたけど、これはこれで面白かったですよ傍から見てる分には」
バレンタインのときには美弥子さんと春風ちゃんがカズに習ってお菓子を作ってたんだけど、ホワイトデーにはその彼氏ズがカズに習ってお返しのお菓子を作りに来てたんですよね。って言うかその日にカズがちゃんと機能しててよかった。サークルの後輩でちょっと知ってるてっちゃんはともかく真宙さん相手に粗相があっちゃ失礼だからね。
「作ってるところはどんな感じだったの?」
「うちが言うのも難ですけど、真宙さんは結構たどたどしい感じでしたねー」
「普段から料理はあまりしないとは言ってたからね」
「それを加味した上でのレシピにしてあったみたいですけどね」
「ホントに我が弟ながらよくやる」
「ですよね。我が旦那ながらよくやりますよ」
「徹平くんと一緒にやってたっていう話だけど」
「てっちゃんは器用だし飲み込みも早いってカズが褒めてましたね。ほら、春風ちゃんが宇宙好きじゃないですか」
「そうだね、かなりガチ勢の」
「だから今回は宇宙をイメージしたお菓子だったんですけど、飾り付けも適当に金箔やアラザンをばら撒くんじゃなくてちゃんと方位や星の大きさを揃えないとって眉間にシワ寄せてました」
「真面目だなー」
でも出来上がったケーキはすっごく綺麗だったからうちもカズも写真を撮らせてもらったよね。もう食べるのがもったいないくらいのアートなんだもん。これがいつ、どこの空を描いたのかっていう話になると難しくなるからそこは敢えて聞かなかったけど。本人たちが分かればいいんですよ。
「あと、ここだけの話をすればうちは真宙さんのクッキーの味見役をやってたんですよ」
「それ、真宙さんのクッキーに限った話じゃなくない? アタシと春風ちゃんのも味見と言いつつつまみ食いしてたよね」
「いやいやいや、美弥子さんほど食に尖った人もそうそういないですからね。そこはちゃんと美弥子さんのことを知ってる弟と後輩が、この程度だったらまだ美弥子さんは満足しないぞと煽りに煽っていくという大事な役割が」
今回真宙さんが挑戦したのはジンジャーシナモンクッキー。薬味狂の美弥子さんに宛てたお菓子なら、やっぱりジンジャー……ショウガをふんだんに使って行くのがいいと思うとはカズからのアドバイス。それにはうちも全力で同意しました。
ただ、一般的なジンジャークッキーのレシピ程度のジンジャーみで美弥子さんが満足するかと言えば……。という問題があったから、どれっくらいまでジンジャーみを強くすればいいかっていうのを見てたんだよね。だから女子の回はつまみ食いだったかもしれないけど男子の回はちゃんとテイスティングという仕事でした!
「あー、だからショウガの風味がガツンと来てたのか。アタシお菓子作り不慣れな真宙さんにしては結構攻めたなと思ってたんだけど、慧梨夏ちゃんが一枚噛んでるなら納得だわ」
「実際味はどうでした?」
「すっごい美味しかった」
「ですよね! うちら2人して「もっと攻めていいもっともっと!」って真宙さん煽りに煽った結果ですよ。まあてっちゃんは使ってる薬味量に引いてたけど」
てっちゃんによれば「春風が「最近兄さんが料理に薬味をよく使うようになったような気がする」って言ってたんですよ」とのこと。思い当たる節しかありませんね。多分順調に洗脳されてる。これは5月にはネギパーティー、それから夏になったら伊東家のそうめん大会にも招待する流れかな?
「美弥子さん、真宙さんとの将来のこととか考えたりします?」
「将来ねえ。ほら、今はまだ付き合い始めでどんなことしてても盛り上がるときだからこのままこの先も、とは思いはするよ。問題はしばらく経ってからそれがどういうテンションになるかじゃない?」
「あー、わかります」
「わかりますって、慧梨夏ちゃん結構最短で行く特急に乗ってった感じじゃん」
「それも否定しませんけど」
「まあ、それはそうとして真宙さんカズとバイクの話とかするの楽しいみたいだし、楽しそうにしてるの見てるとアタシも嬉しいからね。多分これからもちょこちょこ2人のお世話になると思うけど」
「うちらは基本的にいつでも大歓迎なので」
てっちゃんがいないところでの真宙さんの様子とかを見てると、案外美弥子さんは特急通り越して新幹線に乗ってく可能性もあるような気がするんだけどなー。どうだろ。うちのオンナのカン、的なアレなんだけど。
「そう言えば真宙さんて、美弥子さんの彼氏としては珍しく年上ですよね?」
「そーね」
「オトナの魅力的なヤツもバッシバシですか?」
「でも言ってそこまで歳の差あるワケじゃないからね」
「そっかー」
「ホント慧梨夏ちゃんてその手の話好きだよね」
「大好きですよ! って言うか人の話は生きた資料なので!」
end.
++++
人の話を生きた資料にした結果就職したのに同人活動のペースが上がる慧梨夏である
彼氏ズの料理教室の様子もいつか見たい。アラザンの位置をこだわるすがやんなど
(phase3)
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