2023(02)

■Let me worry about you

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 いろいろ話しておきたいことがあるんでお茶でもしません?
 そんな風に松兄から連絡が入って、うちはそれにわかったよと返事をする。その「いろいろ」っていうのは卒業式とか来期のサークルのこともあるんだろうけど、ちょっと前から問題になってた三井先輩の件なのかな、とうっすら思ったりもする。

「奈々さんどーも。お待ちしてました」
「ごめんね松兄、遅くなって」
「いえいえお気になさらず。ささ、どーぞどーぞ」

 適当に飲むものを頼んで、少しの間。
 実はおハナから聞いてたんだよね、松兄が三井先輩のことを調べてるって。正直サークル室に三井先輩が来てやっていったことは何か想像出来ると言うか全然驚きがなかったんだけど、代替わり後とは言え一応はうちがその時のMMPの最高学年だから何をしてくれちゃってんのって気持ちもまあまああって。
 松兄は去年卒業していった先輩たちのことをあんまりよく知らないから、自分たちがどうするべきかっていうのを考えるために情報を集めてたんだと思う。だけど「あんまり話を大きくしないで欲しい」みたいにも言ってたみたいなんだよね? 結局インターフェイス全体を巻き込む話になっちゃったっぽいんだけど。

「えっと、話しておきたいことって?」
「まず辛気臭い方の話からしときましょうか。クソOBの件、定例会の現場で一応軟着陸はしたんでそのご報告を」
「軟着陸」
「そ。軟着陸。でも、その場で採り得る妥協案としてはこれが一番丸く収まんのかな。結果としては、今後アイツがインターフェイスやFMにしうみにいちゃもんを付けることをしない旨の誓約書っつーのを中村さんが書かせました」
「中村さんってフィネスタの中村さん?」
「そうっす。で、あれでも一応ウチのOBではあるんでMMPの活動に対する制限はかけなかったそうなんすけど、今後もああいうことが起これば中村さんがウチのOBとして対処してくれるそうです」
「そっかそっか。松兄、今回の件で、みんな本当に大丈夫だった?」
「うーん、どうですかね。ま、1年連中なら6人でわちゃわちゃやってりゃそのうちあんな奴の事なんか忘れますよ」
「だといいけど」
「強いて言えばうっしーがちょい怪しいですけど、アイツのあれは別に、社会人時代からのモンですし急に治るモンでもないでしょ。それよか俺はこの件でジュンがちゃんと吹っ切れたのと、ツッツの成長みたいなモンが見えたんで悪いことばっかでもなかったと思うんす」

 例の事件の経過報告であったり、1年生たちの様子を教えてくれる松兄の様子を見ていると、本当にしっかりしてるなあって思うんだよね。年相応と言えばそうなのかもしれないけど。だけど、前に野坂先輩からこそっと教えてもらったことがうちにはちょっと引っかかる。
 三井先輩がどうしたこうしたって話は松兄からは本当にちょっとした報告くらいしか受けてなくって、自分らで何とかしますんでアンタの手は煩わせませんよみたいな感じだったんだよね。でも野坂先輩によれば、松兄はカノンやとりぃも置いてけぼりにして、自分だけが水面下で動いて手を打とうとしている風だったって。
 前々から野坂先輩が感じていたことらしいんだけど、松兄は“兄貴分”を背負い過ぎているんじゃないかって。言われてみればそういう風には見える気がするし、おハナの話とも合ってる気がする。同期のはずの2年生に対しても先輩みたいな立ち位置にはなってきちゃうから、飄々として調子のいいイケメンじゃない元々の生真面目な性格と合わさって、う~んって。

「ねえ松兄」
「何です?」
「松兄は大丈夫?」
「俺が? 別に、普通ですけど何か」
「三井先輩の件だけじゃなくて、普段からさ、自分がああしなきゃこうしなきゃみたいに思い過ぎてない? 聞いてるんだからね」
「誰から、何を」
「おハナから松兄が三井先輩の情報を集めてたって。あとミドリからも定例会の役職人事について松兄から確認があったーって」
「ハナさんはともかくあの人こんなにおしゃべりでよく定例会議長が務まってましたね」
「とりぃだって、松兄は外面はふざけてるけど誰にも知られないようにすっごい勉強したりしてるって」
「春風の言うことなんか聞き流しときゃいーんすよ」
「松兄が何でも出来てアタマも良くって、すんごいスペックなのは本当なんだけど、それで周りが見え過ぎちゃってやることを抱え過ぎたりみんなのことが心配になっちゃってないかっていうのがうちは心配だよ」
「はー……そうですかー……」

 大きく息を吐きながら、背もたれに寄り掛かって仰け反った松兄の反応が、ちょっと今までは見たことがない種類のリアクションだ。松兄と言えば飄々としてるとか軽いとか。実は真面目みたいな部分もまあ見たことはあるかなって感じだけど、そのどれとも違う。

「アンタに心配されんのは俺の本意じゃないですねえ。対アンタの俺は、年相応のまあまあいい感じの奴としてやってきたはずなんすけど」
「確かに松兄がいてくれることですごく助かったけどさ、松兄だって後輩なんだからねッ! みんなの兄貴分だし心配されるのなんてイヤだろうけど」
「いやー、アンタには敵いませんね」
「そんなことひとつも思ってないクセに」
「いやいや、100思ってますし前々からアンタを好きだって言ってるでしょ?」
「言ってるね、軽い感じで」
「そ。人としてのライク、フェイブ、あるいはリスペクト。そういう人に、あんなしょーもない、つまんねーコトに労力割いてもらうのももったいねーと思ったんすけどね。裏目裏目ですよ」
「たまには気にかけさせてよ」
「俺なんかより他の連中を気にかけてやって下さい」
「他の子たちも気にかけるけど、みんな平等だよ。って言うか実は一番手がかかるのが松兄だったり?」
「はあ!? そりゃねーだろ」
「かわいいかわいい」
「はいはい。精々好きに先輩やっててください。アンタの気の済むまで可愛がられてやりますよ。デキる後輩なんでね」

 そう。実際にデキる人だしそれを当たり前ですって感じでスマートにやっちゃうから凄さが分かりにくいんだよね。だけど全然当たり前なんかじゃないし、新歓の時期に一緒に1年生待ちしてた時に松兄言ってたもんね、褒められるのは嬉しいって。褒めるには、見ないといけない。

「まあ、実際まだ奈々さんの経験に頼る場面は出て来ると思うんで、サークル運営の点でもよろしくお願いします。極力自分らでやっていきますけどね」
「うん、MMPをよろしくね。くれぐれも、2年生4人で協力だよッ! 松兄、カノンの突っ走りとか報告がないことを心配してるって言うけどそういう点じゃ松兄だって同じだからねッ!」
「あーはいはい、ご忠告痛み入ります。つか、次の話に移っていいです? このままだとアンタに叱られて終わっちまいますんで」


end.


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たまにやりたい奈々と奏多のデコボコ先輩後輩コンビ。
前に奈々を戒めることが出来るのは年長者の奏多だと言っている話があったけど、逆も然り。
年長者の奏多を戒められるのは先輩の奈々だったりする。

(phase3)

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