2023
■生活の重点項目
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「よう。悪い、遅くなった」
「いや、大丈夫だ。じゃあ行くか」
夏以来何故かよく会うようになった高崎と、今日も飯を食いに行く約束をしていたので落ち合う。伊東さんの考察によると、俺も高崎も基本的に手の届く範囲の少し先を見ている人間だから話のスタンスが合いやすいのだろうとのこと。確かに奴は昔話をする印象がない。
「もうちょっとお前の方に寄って待ってりゃ良かったか。歩くのまだちょっと不自由なんだろ」
「まあ、普通より時間はかかるけど歩けるには歩けるから。遅くなったのは普通に雑務処理です」
この間、仕事中に階段から足を滑らせて思いっきり足首を捻った。それで伊東さんに担ぎ込まれたのが高崎の実家の整形外科クリニックだった。俺の足を診てくれたコイツの兄貴から、友達が来たとかそんな風な連絡が行ったそうだ。
一身上の理由で実家とは距離を置いているという話は正月に聞いていた。だけど兄貴先生があまりにも人の良さそうな感じでついうっかり聞かれたこと以上に話を広げてしまったんだ。家を出た一番下の弟のことを家族として案じているいい兄貴だという印象を持った。
ただ、高崎本人からはしっかりと苦情をもらってしまったので、少々のうっかりを反省。俺も弟とは仲がいいとはお世辞にも言えないから、事情は人それぞれだなと。つーか、高崎はコンプレックスを拗らせた対象の双子の兄貴に突っかかったりしてない分いいなあと思う。
「忙しいときは忙しいとは聞いてたけど、ごたついてたのか」
「と言うか、相方が今日は何としても映画を見なければならないのです、って休み取ってたんだけど、細々とした仕事を引き継いでくれまして。誰でも出来るような簡単な仕事をまあたくさん持ってたワケですよ」
「宮ちゃんが映画か。あんまりイメージにはねえな」
「原点にして頂点で聖典である作品の劇場版で、復活上映だからこれを逃すともうスクリーンで見る機会がないからって」
「ああ。大方の事情は察した」
「映画の話だし、それならわかった行ってくれって言って快く送り出したものの、だよ」
「宮ちゃんがやってた仕事量がとんでもなかったと」
「そういうことです」
朝の回と夜の回どっちも見なきゃ! ととても楽しそうに、それでいて、これで最後なんだ……と悲しそうにしていたので、感情がぶっ壊れてないといいけど。いくらDVDやBlu-rayとして手元に持ってても、やっぱスクリーンの迫力に勝る物はないからな。
「やっぱ家じゃ映画館の迫力には敵わないっつーのはこの間お前にわからされたしな。見たいモンは金払ってでも見に行く必要があるっつーのはまあわかる」
「そうだろ! でも、最近じゃアトモス対応のサウンドバーも値段が下がりつつあって、3万円台のが出てたりするらしいんだ」
「そういうのをつけようと思ったらいくらぐらいを見るんだ、大体は」
「5万くらいからかなあ」
「3万か。メーカーとか性能にもよるけど、どうなんだろうな」
「YAMAHAからも出てるって」
「マジか! 後でゆっくり調べるか」
そう言って高崎はサウンドバーを調べる、とメモを取る。どうやらコイツはYAMAHAへの信頼が突き抜けているらしい。バイクもドラムもYAMAHAで統一しているそうだ。そういうメーカーをひとつ持っておくといいのかもしれない。ファンと言うか。
俺は趣味柄、集合知を使いやすい。何か検討する事柄が出てくると、配信でちょっと質問してみて、返ってきた答えに関してまた自分で調べて結論を出していく。サウンドバーが安くなってきているという話もそこで聞いた話だ。
「あー、時間が足りない」
「そこまで忙しいのか」
「やりたいことが多すぎて何から手を付けていいかわからない。5人に分裂するか1日60時間になれマジで」
「1日60時間あっても俺はその分睡眠に回すだけだし変わりねえな」
「そういやお前の寝室って寝ることだけに特化した環境なんだろ」
「当然だ。何なら部屋選びの時にベッドだけがちょうど収まりよく置ける部屋があるっつって惚れた家だぞ。テレビだのパソコンだの、余計な光や音は持ち込ませないようにしつつも、空気の流れや湿度も高すぎず低すぎずを上手いこと保ってより快適に眠ることに集中できる最高の空間を作る必要があってだな。もちろん寝具そのものの質が一番大事だ。定期的なメンテナンスは必須で、布団掃除機と布団乾燥機は家でのメンテにマストだ」
「お前の台詞としては文字数が多いな!?」
「あ? 好きなことの話をして何が悪い」
「悪いとは言ってねーしむしろしてくれ! ん? そういや俺、その辺はあんま気にしたことないな。床で仮眠レベルの雑魚寝の日もまあまああるし」
「え…? 自分の部屋の話だよな? 誰かの家とかじゃなくて」
「自分の家」
「自分の部屋で雑魚寝とかありえねえ……起きたらダルいだろ」
「まあ、そのダルいのが普通だからなあ」
「あーマジでねえ! ありえねえ! 人間じゃねえ!」
「そこまで言うか!?」
「安全な場所を確保した上で横になって寝具を使って寝る、これこそが人間らしい文化的な生活の第一歩だろうが。こんな奴がいるということがゾッとする。信じられねえ」
「俺だって全く寝ないワケじゃねーぞ。学生の時だって、越谷さんに物理的にベッドに放り込まれて無理矢理寝かしつけられたりしたし」
「寝かしつけられなきゃ寝ないのがまずおかしい。大体、お前みたいなクリエイティブな仕事をしてる奴ほど睡眠をちゃんと取らなきゃいけないんじゃねえのか。あー気持ち悪りぃ」
「じゃあ今日飯の後ウチで泥酔するまで飲むか。そうすりゃ寝れるし」
「誰が行くか。つか泥酔状態での寝落ちは寝た内に入らねえ」
ロクでもない物を見る目で蔑まれているような気もするが、コイツが大事にする物がちょっとわかってきたような気がする。公務員として忙しくしていても最低6時間半は睡眠時間を確保しているというのだから、その点は見習うべきだし尊敬はするけど俺はその時間を趣味に充てたい。
「つーかお前普通にケガしてんだから回復力を高めるためにも寝ろっつー話になんねえのか」
「その発想はなかった。そうか、寝ると回復力が高まるのか。そう言われたらそんな気がしてきた」
end.
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リハビリ。しょーもない話をやりたい。
(phase3)
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「よう。悪い、遅くなった」
「いや、大丈夫だ。じゃあ行くか」
夏以来何故かよく会うようになった高崎と、今日も飯を食いに行く約束をしていたので落ち合う。伊東さんの考察によると、俺も高崎も基本的に手の届く範囲の少し先を見ている人間だから話のスタンスが合いやすいのだろうとのこと。確かに奴は昔話をする印象がない。
「もうちょっとお前の方に寄って待ってりゃ良かったか。歩くのまだちょっと不自由なんだろ」
「まあ、普通より時間はかかるけど歩けるには歩けるから。遅くなったのは普通に雑務処理です」
この間、仕事中に階段から足を滑らせて思いっきり足首を捻った。それで伊東さんに担ぎ込まれたのが高崎の実家の整形外科クリニックだった。俺の足を診てくれたコイツの兄貴から、友達が来たとかそんな風な連絡が行ったそうだ。
一身上の理由で実家とは距離を置いているという話は正月に聞いていた。だけど兄貴先生があまりにも人の良さそうな感じでついうっかり聞かれたこと以上に話を広げてしまったんだ。家を出た一番下の弟のことを家族として案じているいい兄貴だという印象を持った。
ただ、高崎本人からはしっかりと苦情をもらってしまったので、少々のうっかりを反省。俺も弟とは仲がいいとはお世辞にも言えないから、事情は人それぞれだなと。つーか、高崎はコンプレックスを拗らせた対象の双子の兄貴に突っかかったりしてない分いいなあと思う。
「忙しいときは忙しいとは聞いてたけど、ごたついてたのか」
「と言うか、相方が今日は何としても映画を見なければならないのです、って休み取ってたんだけど、細々とした仕事を引き継いでくれまして。誰でも出来るような簡単な仕事をまあたくさん持ってたワケですよ」
「宮ちゃんが映画か。あんまりイメージにはねえな」
「原点にして頂点で聖典である作品の劇場版で、復活上映だからこれを逃すともうスクリーンで見る機会がないからって」
「ああ。大方の事情は察した」
「映画の話だし、それならわかった行ってくれって言って快く送り出したものの、だよ」
「宮ちゃんがやってた仕事量がとんでもなかったと」
「そういうことです」
朝の回と夜の回どっちも見なきゃ! ととても楽しそうに、それでいて、これで最後なんだ……と悲しそうにしていたので、感情がぶっ壊れてないといいけど。いくらDVDやBlu-rayとして手元に持ってても、やっぱスクリーンの迫力に勝る物はないからな。
「やっぱ家じゃ映画館の迫力には敵わないっつーのはこの間お前にわからされたしな。見たいモンは金払ってでも見に行く必要があるっつーのはまあわかる」
「そうだろ! でも、最近じゃアトモス対応のサウンドバーも値段が下がりつつあって、3万円台のが出てたりするらしいんだ」
「そういうのをつけようと思ったらいくらぐらいを見るんだ、大体は」
「5万くらいからかなあ」
「3万か。メーカーとか性能にもよるけど、どうなんだろうな」
「YAMAHAからも出てるって」
「マジか! 後でゆっくり調べるか」
そう言って高崎はサウンドバーを調べる、とメモを取る。どうやらコイツはYAMAHAへの信頼が突き抜けているらしい。バイクもドラムもYAMAHAで統一しているそうだ。そういうメーカーをひとつ持っておくといいのかもしれない。ファンと言うか。
俺は趣味柄、集合知を使いやすい。何か検討する事柄が出てくると、配信でちょっと質問してみて、返ってきた答えに関してまた自分で調べて結論を出していく。サウンドバーが安くなってきているという話もそこで聞いた話だ。
「あー、時間が足りない」
「そこまで忙しいのか」
「やりたいことが多すぎて何から手を付けていいかわからない。5人に分裂するか1日60時間になれマジで」
「1日60時間あっても俺はその分睡眠に回すだけだし変わりねえな」
「そういやお前の寝室って寝ることだけに特化した環境なんだろ」
「当然だ。何なら部屋選びの時にベッドだけがちょうど収まりよく置ける部屋があるっつって惚れた家だぞ。テレビだのパソコンだの、余計な光や音は持ち込ませないようにしつつも、空気の流れや湿度も高すぎず低すぎずを上手いこと保ってより快適に眠ることに集中できる最高の空間を作る必要があってだな。もちろん寝具そのものの質が一番大事だ。定期的なメンテナンスは必須で、布団掃除機と布団乾燥機は家でのメンテにマストだ」
「お前の台詞としては文字数が多いな!?」
「あ? 好きなことの話をして何が悪い」
「悪いとは言ってねーしむしろしてくれ! ん? そういや俺、その辺はあんま気にしたことないな。床で仮眠レベルの雑魚寝の日もまあまああるし」
「え…? 自分の部屋の話だよな? 誰かの家とかじゃなくて」
「自分の家」
「自分の部屋で雑魚寝とかありえねえ……起きたらダルいだろ」
「まあ、そのダルいのが普通だからなあ」
「あーマジでねえ! ありえねえ! 人間じゃねえ!」
「そこまで言うか!?」
「安全な場所を確保した上で横になって寝具を使って寝る、これこそが人間らしい文化的な生活の第一歩だろうが。こんな奴がいるということがゾッとする。信じられねえ」
「俺だって全く寝ないワケじゃねーぞ。学生の時だって、越谷さんに物理的にベッドに放り込まれて無理矢理寝かしつけられたりしたし」
「寝かしつけられなきゃ寝ないのがまずおかしい。大体、お前みたいなクリエイティブな仕事をしてる奴ほど睡眠をちゃんと取らなきゃいけないんじゃねえのか。あー気持ち悪りぃ」
「じゃあ今日飯の後ウチで泥酔するまで飲むか。そうすりゃ寝れるし」
「誰が行くか。つか泥酔状態での寝落ちは寝た内に入らねえ」
ロクでもない物を見る目で蔑まれているような気もするが、コイツが大事にする物がちょっとわかってきたような気がする。公務員として忙しくしていても最低6時間半は睡眠時間を確保しているというのだから、その点は見習うべきだし尊敬はするけど俺はその時間を趣味に充てたい。
「つーかお前普通にケガしてんだから回復力を高めるためにも寝ろっつー話になんねえのか」
「その発想はなかった。そうか、寝ると回復力が高まるのか。そう言われたらそんな気がしてきた」
end.
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リハビリ。しょーもない話をやりたい。
(phase3)
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