2023

■Experience in hard work

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「お前ら、俺とジャックに何か言うことあるよなあ?」

 食堂で、うっしーから詰められているのは俺、殿、パロ、ツッツの4人だ。心当たりは正直ある。この間、同期6人で遊びに行こうという話になっていた。いろいろ巡って、食事もして、という風に1日かけて遊ぶプランを練っていたのだけど、結局それは実行されずじまいだ。
 それというのも向島エリア、そして豊葦を襲った寒波だ。雪が降り、交通網は乱れに乱れた。待ち合わせ場所に指定されていた大学に辿り着くまでにも苦労する天候だった。俺はそれとは別に前日までの作業による寝不足がたたってすっぽかしてしまったんだけど。

「本当に、すまない」
「殿はええわ、連絡も早かったし。まあでも今度うま~いうどん食わしてもらわんとなあ」
「わかった。作ろう」

 殿はその日も早朝からバイトをしていて、そこで流れているラジオからの情報で豊葦に行くのは厳しそうだとジャックに連絡を入れていたそうだ。うどんで許してしまうのはうっしーのチョロさか、殿の罪が他のメンバーに比べて軽いからか。……まあ、後者か。

「でも、雪が降ってたら時間には多少遅れちゃうかなって。ねえツッツ」
「そ、そうだね……」
「それが向島の人間の理屈か。そーか、俺が少数派な」
「ちなみにだけどジャック、雪国の人はこういうときはどうするんだ? 集合時間を遅らせたり、そもそも予定自体を延期にしたりするのか?」
「雪を見越して早く動き出すのが基本かな。雪かきの時間とか、道路は混むだろうなとか。それを逆算して起きるんだよ。雪が理由の遅刻なんか学校でもよっぽどじゃねーと認められねーぞ」

 ジャックは雪の多い青尋エリアの出身で、今回豊葦に積もった5センチ程度の積雪なんかは完全に慣れっこだ。たまにニュースで青尋で雪による車の立ち往生が、というのも見る。そういうエリアで生まれ育っていれば、雪が降ったらどう動くかというのがインプットされていて、今回も早起きして時間ぴったりには俺たちを待ってくれていたらしい。

「うっしーは豊葦だからこれくらいの雪は慣れてる的な?」
「最近はテレビとかでも天気危ない時は不要不急の外出は避けろって言うやん?」
「言うな」
「安全なうちに会社に留まっとけば外がどんだけ危なくても滞りなく仕事は回るっつー、ブラック企業あるあるや。おまけにずっと会社にはおるワケやからいくらタイムカード切っとろーがタダで働かせ放題! 荒天サマサマっちゅーな」
「うわあ……」
「ツッツ! お前のドン引きはドン引いてますってのが分かり過ぎて気まずいんや! ここは笑うトコやぞ」
「ええ……笑えないよ」

 要はそんなような経験があったので、どんなに天気が悪かろうと今回の会が決行されると思っていたうっしーは前日のうちからジャックの家に泊まっていたらしい。たまにぶっこまれるうっしーのブラック企業あるあるは笑えと言われても全く笑えないんだよなあ。ツッツの反応の方が絶対正しい。

「でも、雪どうこう以前の奴が1人おるからなあ」
「……ジュン。相当疲れているのではないか」
「本当にすみませんでした」

 ちなみにこの日の俺は、9時キャンで作ることになったマラソン用練習着のデザインをしていて、メンバーそれぞれのモチーフを考えたり、普段使いも出来るようにしたいなとか、いろいろ考えながら絵を描いているうちにデスクに向かったまま寝落ちしていた。起きたときには大遅刻。慌ててジャックに連絡をすると、うっしー以外全員遅れるかキャンセルだと聞かされた。
 言ってしまえば俺だけが雪に関係のないドタキャンという形になっているので、他のメンバーより罪が重い。しかも、原因が作業中の寝落ち。年末特番の頃からみんなには適度に休憩しろとか寝ろとか食事を抜くなとか、とにかくいろいろ言われている。俺にだって良心という物はあるから、多少は胸が痛む。

「おン前はぁー! ちゃんと寝えゆーたやろ! デスクでちゃうぞ! ふ・と・ん・で! 寝えゆーとんのや!」
「はい、すみません」
「あのクールなカタブツはどこいった! ホンマしょーもない。ええか、壊れた体とメンタルはいくら回復してもぶっ壊れる前の状態には戻らんのやぞ。楽しい時とか、集中しとる時ほど油断すんな」
「はい」
「ちゃんと聞ーとんのか人の話をー! お前はー!」
「はい、本当にすみませんでした」
「ジュンがすみませんbotになってる……」
「うっしーの迫力が凄いからね」
「だが、うっしーの言うことは、概ね正しいと、俺は思う」

 うっしーの社会人としての経験が、いくら趣味の上とは言えハードワークを止めない俺を許せないんだろう。そうやって親身になって叱ってくれるのはありがたいと思いつつも、楽しくて集中してるとなかなか食事や休憩に意識が行かない。必要な物だとはもちろんわかっている。だけど、こんな風に約束のドタキャンとかが続くようなら社会的な信用も無くすし問題だ。

「そう言えば、うっしーって1年間ブラックな感じのところで働いてたんでしょ」
「そーやな」
「よく体も心も壊れなかったね」
「うっしーが、特別強いんじゃないかな……」
「俺が特別強いんちゃうぞ。無能のクソ大卒とアホ上司に対する殺意だけでやっとったわ。俺は次は絶対俺が俺らしくきちんと働けるトコに就職するんや。もちろん雪や台風やゆーて会社に泊まることが前提になってないのが大前提な! っつーワケで、こないだの埋め合わせに殿がうまいうどんを食わしてくれる会を開催したいんやけども、ジュ~ン~」
「は、はい」
「お前だけただの寝落ちのドタキャンなんやから材料費ちょっと多く持てや、なあ」
「はい、出させていただきます、それで許されるのであれば」


end.


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うっしーの説教はあのモグラの人を彷彿とする。
MMPの人たちは時間にルーズという何となくの雰囲気は現代にも残していきたい。

(phase3)

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