2023

■持ちつ持たれつ

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「そう言えば、お前は塩見さんのすき焼きに参加してなかったんだな」
「ああ……チラッと聞いたけど普通に残業してた。年末の週末だぞ」
「お勤めご苦労様です」

 元日。実家に帰るでもなく俺の部屋でぐだぐだと過ごすだけの、何もしない贅沢な時間だ。昨日あった年末の音楽祭のアーカイブを見ながら高崎とバニラアイスを食む。こたつにバニラアイスは強い。アイスを差し入れてくれた奴のセンスが光る。
 すき焼きの話になったのは、壮馬の映像の後だ。暮れの頃に、塩見さん主催で向西倉庫社員メインのすき焼き大会が開かれた。今回は社員だけじゃなくて他の人もいるからと俺にもチラッと声がかかったけど、俺も普通に仕事をしてたから参加出来なかった。

「塩見さんのすき焼きとか、想像するだけでも怖い。絶対肉鍋だよな」
「拓馬さんのすき焼きに他の具が入る余地があるとは思えねえ。実際ネギと肉しか入ってねえらしいし。宮ちゃんによればGREENs風……いや、正確には魯山人風のすき焼きっていう、言い方を変えれば高尚なモンになるそうだ」
「へえ、魯山人風なんだ。すげーな」
「お前、魯山人知ってるのか」
「ちゃんと知ってるってワケじゃないけど、軽くな」
「へえ、さすがだな。ちなみにどういう奴なんだ?」
「カタカナで言えばハイパーマルチクリエイター、的な? 何でもやりますみたいな」
「カタカナで言うと急に胡散臭く感じるな」
「何でだろうな」

 魯山人風のすき焼きを調べてみると、本当にネギと肉だけだったので、これをしこたま食べるのかと考えると……。ちなみに大石によれば奴は温情で白飯を食ってもいいと言われていたそうなので、塩見さん主催の会としては優しいなあと俺と高崎の目が死んでいく。
 塩見さんはとにかく量を食う人で、塩見さん主催の食事ではそれを周りも強いられる。食わない奴はどんどん淘汰されて行くし、人権なんかあったモンじゃない。ただ食うだけならともかく、間にいろいろ挟むことを否定されるんだよな。肉なら肉だけ食え、的な。
 USDXで飯を食うことになっても、メンバー比で量を食わない菅野がよく怒られている。俺は食うのが遅いだけで最終的には結構食ってるからお叱りはあまり受けない。むしろそれだけよく噛んでゆっくり食ってるのによく満腹にならねえな、と興味を示される。恐らく大石との対比だろう。

「そう言えば、お前今日以外に年始の休みはあるのか」
「一応年末に出てるからその分どっかで取っていいことにはなってる」
「宮ちゃんとの兼ね合いな」
「伊東さんがどのイベントに照準合わせてるかは聞いてるし、俺もそこ狙って原稿は用意してるんだ。彼女がイベントに行く以上、俺は絶対現地に行けないから」
「ああ、そういうのがあるのか」
「ありがたいことに俺も実況者としてのイベントなんかをやることになってるんだけど、そこはさすがに有給取るから仕事は伊東さんにお願いすることになるだろ」
「そうだな」
「そしたら、イベントの現地参戦はおろかオンラインですらリアタイで見れないのかってすっごい詰め寄られて。グッズにサイン入れれば許すって言われたけど、さすがにちょっと申し訳なかった」
「お前も同じコトしてんだろうがって感じだけどな。持ちつ持たれつの間柄なんだろお前ら」
「一応そういうことにはなってるけど」

 ――という話をカミツレでの収録前にチラッと話したら、例によってカンヂさんには「相方に足向けて寝れんなあ」と茶化された。で、相方を驚かせたろーぜと誰かが言い出して、試作品で世には出回らないグッズに全員分のサインを入れようということになった。

「でも、今ってライブ会場から配信があって、そのチケットを買うっていうシステムも一般化されてきてるよな。一定期間ならアーカイブも見れるとかって」
「そうだな。映画館でのライブビューイングとかもあるし」
「ライブ会場……現地に勝る物はねえと思うが、ほんのちょっとだけ気になる程度だったらそういうのから入ってもいいのかもしれねえとは。行くより割安ってのもあるし」
「そう言えば、同じ映像でも配信で見るのとBlu-rayとかを買って見るのとでも気分って全然変わるよな」
「それは画質とか出した金額、あと気合いの違いじゃねえか」
「気合いか。なるほど。ほら、こないだ伊東さんがアニメ映画の円盤がとうとう出ますって言って販売される全バージョン即ポチって「全部買っても安~い! ってかタダ!」って感激してたし」
「まあ、宮ちゃんのやることだし驚きはしねえが」

 俺はさすがに中身が同じだとわかっている物をたくさん買うということをあまりしないから伊東さんの行動には最初引いたけど、訓練されているカズや高崎にとっては珍しくもないことなのだろう。でも、こういうオタクの人がいてくれることを想定してグッズ展開なんかを考えたりもするし……何だかんだ世の中が回ってるんだなあ。

「つかお前ン家、さすが、映画見るだけあってテレビ周りの音響もしっかりしてるよな」
「少しでも映画館のあの感じに近付けたかった。ドルビーで映画見たことあるかお前」
「そもそも映画自体あんま見ねえ」
「あ、そうなのか。音が立体的に来るんだよ。普通のと聞き比べたら一発でわかるんだけど。あっ、そうだ! お前が休みの間に1本映画見に行こうぜ、もちろんいい音響でだ!」
「そう都合良く見たいのがあるとは限らねえだろ」
「そこを見たくなるようにプレゼンするのが俺の腕だ。ああ、話ちょっと戻るけど、俺のテレビ周りは映画だけじゃなくてライブ映像なんかも結構いい感じに見れる環境だとは」
「マジか。あー、だったらお前の映画に付き合う代わりにここでライブ映像見させてもらうかな。うちで見るより絶対いい空気になるだろ」
「よし、ギブ&テイクだ」
「持ちつ持たれつだな」


end.


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何だかんだ仲良し。多分コイツら映画見た後ご飯食べるなりケーキ食べるなりする。

(phase3)

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