2023
■仕事と趣味と情と作風
++++
「薫君お疲れさまっす!」
「おーす壮馬、悪いな時間合わせてもらって」
「薫君の仕事量は半端ないっすからね! 俺の方がまだ融通利くっす」
仕事、配信、趣味、人付き合い。忙しすぎて1日が120時間くらいになるか自分が5人くらいにならないかなとは日々思っている。だけど、暇なよりは忙しい方が圧倒的にいいから、スケジュールが白紙の日があれば積極的に埋めに行くようにしている。
さて、今日は人付き合いのパートだ。仕事が終わってから、壮馬と飯を食いに行く約束をしていた。壮馬とは少しばかり話すことがある。例えば、年末の音楽祭について。それから、壮馬の本業の調子も聞いておきたい。コイツには簡単に会えなくなる方がいいだろう。
「この間もらった詞に曲を付けてみたんですけどね? めっちゃいいっすよ!」
「お、そうか。アーカイブで聞くのが楽しみだ」
「薫君仕事っつってたっすもんね。つか年末まで仕事して大変っすね」
「他人事みたいに言うけど、お前だって本来は仕事って言うかライブやってるくらいがいいんじゃないか? 内輪の小さいのじゃなくて、年越しのフェスだとか」
「ま、まあ……そ、そのうちっす!」
「この間幸音が言ってたぞ、壮馬が落ち着きなく動き回っててどこで何してるかわからないって」
「ユキがそんなこと言ってたっすか」
「知楽は俺が悪影響を与えてるだろっつってたな」
「アイツシメときますね」
「いや、知楽の用心深いところは俺も見習わないと。俺は会社員やりつつ趣味で配信やら物書きやらをしてるだろ。いつ寝てるんだ的なことはよく言われるけど、お前がそれを真似してるんじゃないかっつって心配してた風ではあった。メンバーとゆっくり話す時間も取った方がいいぞ」
トリプルメソッドのメンバーは壮馬から紹介されていて、何度か会ったことがあるし連絡先も交換している。新しい曲が出ると感想を送ったり、時間が合えば話しながら飯を食ったり。ベースの松浦幸音は温厚なバンドのまとめ役、ドラムの壱岐知楽は少し口が悪いが好奇心が強くて話してて面白い。
バンド自体は星港を中心とした活動の中で着実に人気と知名度が上がっているようで、地元テレビ局の番組のテーマ曲になったり、CDショップでも少し大きく展開してもらえるようになっている。だけど、全国的なネクストブレイク筆頭と言われるようになるにはもう少しという段階だろうか。
「つかユキと知楽となんていつ話してたんすか」
「塩見さん主催のすき焼きの裏だな」
「マジすか! つか薫君すき焼き何で来なかったんすか!?」
「仕事してたんだっつーの」
「ホント安定っすね~……おいしかったのに」
「塩見さん主催の会ってだけで凄まじいことは分かるけどな」
「そう! それで聞いて下さい薫君!」
「ん?」
「そのすき焼きの会で俺は! 運命の出会いを果たしたんす!」
「話は聞こう。運命の出会い?」
どうにもこうにも、「運命の出会い」とかそれっぽい響きの言葉には用心せざるを得なくなっている。俺がどうしたってワケじゃないけど、ロクでもないことに巻き込まれそうな気がすると言うか。ミッツの顔が過ぎるんだよな。目が合った女に惚れて付き纏った結果、その女だけじゃなくて周囲の人間に迷惑をかけ散らかすというようなイメージが。
「塩見さんの会社に勤めてる事務の子で、さくらちゃんて云うんすけどめっ……ちゃくちゃいい子で!」
「おー」
「すごっ、あからさまに興味ないっすね!」
「全く興味ないことはないけど、え、そのさくらちゃんとやらに惚れたのか?」
「好きになったかはこれからっすけど、とにかくそれっきりで終わりたくなかったんで、拓馬さんつてに年明けにやるライブのチケットを渡したっす」
「えっ、年明けって、ホールでのワンマンじゃなかったか?」
「そうっす」
「なかなか思い切ったことをしたな」
「やっぱ本業がカッコよくてナンボじゃないっすか」
「それはそうだけど、バンドマンは付き合うべきじゃない3Bの職業なんて言われたりも」
「重々承知っす! つかその理屈で言ったら拳悟君はどーなるんすか! 美容師っすけど立派に彼女居ますよ!? つか美容師でバンドマンでもってバスケットマンなんだから1人で3Bコンプリートじゃないすか!」
「いや、そもそもアイツは今の彼女と高校の頃から付き合ってるって話だろ。つかもうひとつのBはバーテンダーだ」
「――にしてもっすよ!」
「まあ、運命の出会いやらに現を抜かし過ぎて周りに迷惑だけはかけるなよ」
「わかってるっす」
俺の持論としては、ガチで向き合う活動の前に中途半端な恋愛感情や友情は邪魔になるんだよな。作風のブレであったり、躊躇であったり。作品の完成度に悪影響を与える要因になりかねないと言うか。だから、仕事や書き物と向き合う時には公私混同は極力しないようにしている。
ただ、作詞の時には身の回りの事柄をテーマにすることはある。それでも言葉の選び方で人格や生活を滲ませない努力は必要だ。身バレを避けるという意味合いもあるし、今じゃ3分から4分程度の曲が一度に触れられる文学の限界ともチラリと聞いたことがある。ショートサイズの文学としての詞表現に対する挑戦に妥協したくない。
壮馬のその辺りの考え方は聞いたことがないけど、これまでトリプルメソッドの曲にはあからさまなラブソングなんかはなかった。この運命とやらをきっかけとしてそういうのが増えると少し複雑な気持ちになる。それを言うと押しつけのようになるから言わないけど。
「しかしまあ、運命の出会いねえ。大石にどんな子か聞いてみようかな」
「マジすか! それはそれでちょっとハズいんすけど! てか薫君そーゆーの興味ないんじゃないんすか!?」
「いや、興味ないことはないし、こういう話を渡すとよりいい創作物にして上げてくれる同士がいてだな」
「ちょっ、話をどこに売ろうとしてるんすか!」
end.
++++
そりゃあ恋愛話を上手く調理してくれる同士っつったら雨宮先生一択よなあ
(phase3)
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「薫君お疲れさまっす!」
「おーす壮馬、悪いな時間合わせてもらって」
「薫君の仕事量は半端ないっすからね! 俺の方がまだ融通利くっす」
仕事、配信、趣味、人付き合い。忙しすぎて1日が120時間くらいになるか自分が5人くらいにならないかなとは日々思っている。だけど、暇なよりは忙しい方が圧倒的にいいから、スケジュールが白紙の日があれば積極的に埋めに行くようにしている。
さて、今日は人付き合いのパートだ。仕事が終わってから、壮馬と飯を食いに行く約束をしていた。壮馬とは少しばかり話すことがある。例えば、年末の音楽祭について。それから、壮馬の本業の調子も聞いておきたい。コイツには簡単に会えなくなる方がいいだろう。
「この間もらった詞に曲を付けてみたんですけどね? めっちゃいいっすよ!」
「お、そうか。アーカイブで聞くのが楽しみだ」
「薫君仕事っつってたっすもんね。つか年末まで仕事して大変っすね」
「他人事みたいに言うけど、お前だって本来は仕事って言うかライブやってるくらいがいいんじゃないか? 内輪の小さいのじゃなくて、年越しのフェスだとか」
「ま、まあ……そ、そのうちっす!」
「この間幸音が言ってたぞ、壮馬が落ち着きなく動き回っててどこで何してるかわからないって」
「ユキがそんなこと言ってたっすか」
「知楽は俺が悪影響を与えてるだろっつってたな」
「アイツシメときますね」
「いや、知楽の用心深いところは俺も見習わないと。俺は会社員やりつつ趣味で配信やら物書きやらをしてるだろ。いつ寝てるんだ的なことはよく言われるけど、お前がそれを真似してるんじゃないかっつって心配してた風ではあった。メンバーとゆっくり話す時間も取った方がいいぞ」
トリプルメソッドのメンバーは壮馬から紹介されていて、何度か会ったことがあるし連絡先も交換している。新しい曲が出ると感想を送ったり、時間が合えば話しながら飯を食ったり。ベースの松浦幸音は温厚なバンドのまとめ役、ドラムの壱岐知楽は少し口が悪いが好奇心が強くて話してて面白い。
バンド自体は星港を中心とした活動の中で着実に人気と知名度が上がっているようで、地元テレビ局の番組のテーマ曲になったり、CDショップでも少し大きく展開してもらえるようになっている。だけど、全国的なネクストブレイク筆頭と言われるようになるにはもう少しという段階だろうか。
「つかユキと知楽となんていつ話してたんすか」
「塩見さん主催のすき焼きの裏だな」
「マジすか! つか薫君すき焼き何で来なかったんすか!?」
「仕事してたんだっつーの」
「ホント安定っすね~……おいしかったのに」
「塩見さん主催の会ってだけで凄まじいことは分かるけどな」
「そう! それで聞いて下さい薫君!」
「ん?」
「そのすき焼きの会で俺は! 運命の出会いを果たしたんす!」
「話は聞こう。運命の出会い?」
どうにもこうにも、「運命の出会い」とかそれっぽい響きの言葉には用心せざるを得なくなっている。俺がどうしたってワケじゃないけど、ロクでもないことに巻き込まれそうな気がすると言うか。ミッツの顔が過ぎるんだよな。目が合った女に惚れて付き纏った結果、その女だけじゃなくて周囲の人間に迷惑をかけ散らかすというようなイメージが。
「塩見さんの会社に勤めてる事務の子で、さくらちゃんて云うんすけどめっ……ちゃくちゃいい子で!」
「おー」
「すごっ、あからさまに興味ないっすね!」
「全く興味ないことはないけど、え、そのさくらちゃんとやらに惚れたのか?」
「好きになったかはこれからっすけど、とにかくそれっきりで終わりたくなかったんで、拓馬さんつてに年明けにやるライブのチケットを渡したっす」
「えっ、年明けって、ホールでのワンマンじゃなかったか?」
「そうっす」
「なかなか思い切ったことをしたな」
「やっぱ本業がカッコよくてナンボじゃないっすか」
「それはそうだけど、バンドマンは付き合うべきじゃない3Bの職業なんて言われたりも」
「重々承知っす! つかその理屈で言ったら拳悟君はどーなるんすか! 美容師っすけど立派に彼女居ますよ!? つか美容師でバンドマンでもってバスケットマンなんだから1人で3Bコンプリートじゃないすか!」
「いや、そもそもアイツは今の彼女と高校の頃から付き合ってるって話だろ。つかもうひとつのBはバーテンダーだ」
「――にしてもっすよ!」
「まあ、運命の出会いやらに現を抜かし過ぎて周りに迷惑だけはかけるなよ」
「わかってるっす」
俺の持論としては、ガチで向き合う活動の前に中途半端な恋愛感情や友情は邪魔になるんだよな。作風のブレであったり、躊躇であったり。作品の完成度に悪影響を与える要因になりかねないと言うか。だから、仕事や書き物と向き合う時には公私混同は極力しないようにしている。
ただ、作詞の時には身の回りの事柄をテーマにすることはある。それでも言葉の選び方で人格や生活を滲ませない努力は必要だ。身バレを避けるという意味合いもあるし、今じゃ3分から4分程度の曲が一度に触れられる文学の限界ともチラリと聞いたことがある。ショートサイズの文学としての詞表現に対する挑戦に妥協したくない。
壮馬のその辺りの考え方は聞いたことがないけど、これまでトリプルメソッドの曲にはあからさまなラブソングなんかはなかった。この運命とやらをきっかけとしてそういうのが増えると少し複雑な気持ちになる。それを言うと押しつけのようになるから言わないけど。
「しかしまあ、運命の出会いねえ。大石にどんな子か聞いてみようかな」
「マジすか! それはそれでちょっとハズいんすけど! てか薫君そーゆーの興味ないんじゃないんすか!?」
「いや、興味ないことはないし、こういう話を渡すとよりいい創作物にして上げてくれる同士がいてだな」
「ちょっ、話をどこに売ろうとしてるんすか!」
end.
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そりゃあ恋愛話を上手く調理してくれる同士っつったら雨宮先生一択よなあ
(phase3)
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